173話「空気を読む娘」
「え? マジで?」
前回ケーネストに手紙でスカイランタンの材料を頼んだら、竹の材料調達の為に山を1つ購入したと手紙で報告があったので、ダンジョンの壁画を通った先の蔵の中で驚いた。
俺はほんの少しの間だけ荷物を取りに日本に戻ったのだ。
そして蔵の中には俺の頼んだ物が沢山あったので、魔法の風呂敷内に荷物をせっせと詰め込んでいく。
一息ついてタブレットで編集を終えていた祭り動画の配信を夜の九時台にセットする。
蔵の中は扉を開けるとタブレットやスマホに電波がギリギリ来てるから。
……ミルシェラとここちゃんの可愛い浴衣姿がきっと大反響を貰えることだろう。
そして母屋に行って山購入のことなどをケーネストと話して行きたいが、抜け駆けして日本で遊んでたらミルシェラに怒られるから、すぐに異世界へ帰った。
◆ ◆ ◆
材料の他にもケーネストがランタンの作り方をプリントアウトしてくれていた。助かる!
別邸では日本語で書かれたランタンの作り方のプリントアウトを参考に、説明文をこちらの言葉にしてイラストつきで紙に描いて、ハンドコピーで複製。
そして材料と作り方コピー等を商業ギルドに持っていくように使用人に預けて頼んでおく。
そして時短で転移スクロールで公爵邸まで飛んだ。
今度は俺がアレンシアの日本語教師をする番だろう。
「二人ともお疲れ様ー」
「お帰りなさいませ、あなた」
「ああ、勉強は捗ったかい?」
「そこそこですわ」
妻の答えはクールだった。
「お父様、お帰りなさい。お母様の学習速度はいい感じですよ。きっとアカデミー時代も優秀な生徒だったと思います。そして抜け駆けはしなかったんですね?」
「信用がないな、ちゃんと荷物だけ受け取ってすぐに帰ったよ。ものすごくケーネストと話したいことがあったけども」
「ケーネストお父様がなにか?」
「とある材料の購入を頼んだら、山を購入してた」
「や、山? お高いのでは?」
「ハンターの給料が余程高級なんだろう。そしてお手伝い妖精も召喚したらしい」
「よほど皿洗いが嫌なんですね」
「公爵様だから仕方ない」
「まぁ、あの人が妖精を呼ぶ前は皿洗いなどをしていたのですか?」
アレンシアが俺達の会話を聞いて驚く。
「あちらで俺は庶民だし、メイドも家政婦もいないから仕方ない、あと嫁も」
「……そうですか」
アレンシアは会話を断ち切るように扇子で己を扇いだ。
「今度はお父様の番ですよ」
「そうか、ミルシェラは先生役お疲れ様、ケーネストからの差し入れのアイスがあったよ、蔵に置いてる冷凍庫の中にな。今から食べるか?」
蔵の中にある冷凍庫の扉表面にマグネットでメモがついていて、好きに持って行けとケーネストが書いておいてくれて、中には高級アイスが入っていたのだ。これも素晴らしい気遣いである。
「アイス! 食べます!」
「じゃあ、アレンシアも一緒にアイスを食べるといい、休憩だ」
「ええ」
アレンシアはそう答えてノートや筆記具をテーブルの端に寄せた。
「お父様、何味があるんですか?」
「バニラ、ストロベリー、マカデミアナッツ、ミルク、ラムレーズン、チョコなどだな」
俺は魔法の風呂敷からアイスを取り出すと、ミルシェラが目を輝かせた。
「ミルはストロベリーにします!」
「おすすめはどれですの?」
アレンシアは高級アイスを前にして首を傾げた。
「んん、リッチなミルク味かラムレーズンかな」
「では、ラムレーズンにしますわ」
「いいよ、じゃあ俺は定番のバニラにしよう」
俺はアイスとスプーンを配った。
「冷たくて甘くて美味しー!!」
「……美味しいですわ」
二人の表情からしてほんとに美味しいと思ってるとが見て取れる。
「あー、しかし山を購入したってことはキャンプ場とかも作れそうだなー、動画のネタが作れる」
秘密基地をつくる気分でワクワクしてきた。
「お父様、抜け駆けはだめですよ」
「山改造は力仕事だぞ? 作業はお前がアカデミーに帰ってからにするよ。夏休み終わったら、ミルシェラは引き続き勉強を頑張れよ」
「ぐぬぬ……」
ミルシェラは悔しそうに頬をぷくーと膨らませた。
「土にまみれる作業なんか別にしたくはないだろ? 何を悔しがってるんだ」
「なんか、楽しそうですから……」
「そうか? 山だし、きっと沢山虫もいるぞ」
「む、虫は嫌ですね」
「あちらでは公爵のあの人が山仕事をするのですか?」
「んー、人を雇うかもだけど、まぁ、多少は? 動画のネタになるからな、キャンプ場作りとか」
「私達にお土産を買うためにそんな苦労を?」
「苦労ってほどかなぁ? 配信動画内容は遊んだり食ったりが多いし、あ、トレーニングもあったか」
「他人が人のトレーニング姿なんか見てなんになるんですか?」
アレンシアはアイスを堪能しつつもそんな事を言った。
「アレンシアはアカデミー在学中に騎士クラスの男達の鍛錬を見学して、友達の令嬢達ときゃーきゃー言った記憶はないのか?」
「そ、そんなこと! ありませんけど!?」
アレンシアは一瞬ハッとした顔をした後で顔を赤くした。やっぱあるんじゃん?
俺はくすりと笑った。
学生時代のアレンシアもきっと綺麗で可愛いかったことだろう。
「何を笑っているんですか?」
妻にジト目で睨まれた。
「学生時代の君もきっと可愛かっただろうなと想像しただけだ」
「ふん! 当然ですわ!」
「アイスご馳走様でした! 食べ終わったので、私はお昼寝をしてきます」
ミルシェラがいそいそと秘密の部屋を出る準備をした。イチャイチャの気配を察知して空気を読もうとしてる。
「はい、お疲れー」
「お先でーす」
バイト先の後輩のようなセリフを言ってミルシェラは部屋から出て行った。




