172話「色々と裏で準備する」
────話は少し遡る。
公爵邸の隠し部屋にて。
本日は秘密の部屋でアニメ鑑賞しつつ、アレンシアの日本語の勉強回となった。
「では、お母様、今日は私が日本語の先生ですよ」
「そう、私が習うのはニホンゴというのね」
テーブルセットにノートと、シャープペンシルと消しゴムをセットし、準備万端だ。
椅子は三つあるが、俺はあえて座っていない。
「今日はミルシェラがはりきってくれるみたいだし、俺は買い物に行ってくるよ」
「なんでですか! 一緒にここにいて見守り作業をしないんですか?」
ミルシェラが空いている椅子を指さしてここに座れ的な圧をかけてくる。
「アレンシアは大人だぞ? 小さな子じゃあるまいし、授業参観はまた今度な」
「そんな事言ってリョウパパだけ日本に行ってケーネストお父様と遊ぶつもりではないでしょうね!?」
ジト目でミルシェラが睨んでくる。疑いの眼差しだ。
「違うって、ちゃんとこの世界の店に行くだけ。それと日本にはダンジョンの壁に手を突っ込んで貢ぎ物付きの手紙という名の買い物リストを届けるだけだ」
「……勝手にあちらに遊びに行ったまま、また戻らないのは無しですよ!?」
「ああ。じゃあな、しっかり勉強をしておいてくれ」
「あなたとミルシェラだけで分からない話をされるのが癪なので新しい言語の勉強をやりますけれど、早めにお帰りくださいね」
「ああ」
アレンシアにも釘を刺された。
しかし最近まで俺を避けてたのは君の方だぞ?
ま、いいけど。
俺は隠し部屋から出て、アレンシアの侍女を自室に呼び出した。
「旦那様、お呼びですか?」
「ああ、頼みがあるんだが、アレンシアの指輪をどれでもいいから、1つ持ってきてくれないか?」
「奥さまの指輪を? 何故ですか?」
侍女は俺の行動を訝しむような目をした。
「何故だと? 指輪のサイズを知りたいに決まってるだろ」
侍女が何を危惧してるかうっすら分かった。
アレンシアへの忠誠心の高さゆえだろうから、怒りはしない。
「ああ、サイズが知りたいのでございますか。旦那様は以前、奥様のお古の、着なくなったドレスをお金にしようとされておりましたからてっきり……失礼致しました」
そこだけ聞くとまるで金のないクズ亭主である。
「あれは貴重な物を手に入れるための、外貨の代わりの交換の品というか……仕方なくだな」
「そのような理由なら、返して頂けるのですね」
「当然だ、宝飾店で同じサイズの指輪をくれって言うだけだから、買ったら返すさ」
「では、すぐに持ってまいります」
「ああ」
───考えてみれば、かつてアレンシアに求婚したのは、真ケーネストであり、俺自身ではないから、俺から新たに指輪を贈ってみようと思ったのだ。
そして侍女から借りた指輪を手に、俺は馬車で宝飾店に向かった。
アレンシアへ贈る宝石はなにがいいかなぁ? などと考えながら。
◆ ◆ ◆
俺は宝飾店で指輪を選び、ついでに色を合わせたイヤリングやペンダントも買った。
その帰りに市場でベーコンやチーズやワインなどを買い込んで魔法の布に収納した。
そしてまた馬車に乗り込む。
「例の特殊ダンジョンへ向かう、しかしすぐ戻るので、帰りは時短でスクロールを使う予定だ」
「はっ」
例の特殊ダンジョンと言うだけで、うちの御者には伝わる。
再び、馬車に乗り込み、その窓から景色をカメラで撮影しつつ、領地の視察もついでに行う。
「あ、途中、街の商業ギルドに寄ってくれ」
「かしこまりました」
途中の街中の商業ギルドにより、仕事の依頼をあらかじめ出しておく。
ギルドの受け付けに行くと、受け付け嬢が俺の姿に驚いて、慌ててギルド長を呼んだ。
「エルシードの公爵様! これはこれは、この度はいかがなさいましたか?」
「実は、空飛ぶランタン、紙の扱いに手仕事の出来る者を探していてな、材料は全てこちらで用意するので、ひとまず職人というか、手仕事を受けてくれる人材の確保を頼みたい」
「はあ、しかし空飛ぶランタンとは?」
「映像で見せた方が早いな」
俺はタブレットを魔法の布から取りだし、ランタンの画像と実際にランタンが空を飛ぶ映像を見せた。
「おお、これは……不思議な板ですな、こんなにも鮮やかな風景や物を写しだすとは。魔道具ですか?」
先にタブレットに反応してしまった。が、これは仕方ないな。
「ああ、そのようなものだ、で、このランタンだ」
「そして空飛ぶランタンとは、とても幻想的で美しいものですね! そしてこのランタンを紙で作られると」
「ああ、この空飛ぶランタンの祭りを開催しようと思ってな。ほとんどは実際の火を使うので、安全策に飛ばす当日は風をコントロールできる魔法使いに仕事をさせる」
「つまりこの公爵領地内でこの祭りを開催されると?」
「ああ、本当は妻に見せたいだけなんだが、せっかくだから領地民も楽しめるようにしようかと」
どうせいっぱいランタンを飛ばすから。綺麗な景色は他の人も見たいだろうし。
「おお、公爵様は愛妻家でいらっしゃいますね! 以前より随分と柔らかい雰囲気になっておられますし。ともかく領地もさぞ盛り上がり、経済効果も見込めます!」
柔らかい雰囲気か、それは中の人が違うからな!
「ははは……せっかくだから経済効果もあるといいな」
俺の方は乾いた笑いで誤魔化した。
「かしこまりました、応募の紙を張り出しておきます、人数はいかほど募集されますか?」
「ひとつの街の夜空を埋めつくすほど美しく彩るには、最低で5000個のランタンは欲しいところだろうな。1個につき30分程度はかかると予測し、1人1日8個平均で、約20〜30人ってとこか? 」
「ふむふむ」
ギルド長の補佐が隣でメモをとっている。
「内職として領民の主婦や職人予備軍を雇えればと思う。あー、あとは祭りの日に出店も募集する、祭りの開催地は人の多く集まれる中央広場を予定していて、材料が集まったらまた連絡する」
俺はじゃらりと銀貨と金貨の入った袋を出した。
ギルド長が中身を確認した。中身はずっしりと重い。
「これだけ予算が潤沢にあれば内職も出店もどうにでもなるでしょう、むしろ祭りとあれば出店したい者は多いと思われます」
「では、よろしく頼む」




