171話「ケーネストとレンタルスペース」
~ ケーネスト視点 ~
朝起きて、顔を洗って歯磨きも終え、さっぱりした。
そして、もしかしたらリョウから何か連絡が来ているかもしれないので、蔵へ向かう。
案の定、鏡の前に手紙と食材入りクーラーボックスが置かれていた。
手紙の宛先が私宛なので、開いて見る。
『スカイランタン100個、LEDとヘリウムガスのやつ。それと本物の火を使うスカイランタン手作り用の材料、出来れば買ってください。
そこそこ多いと助かります。母娘とメイド用に水着。それと注文していた化粧品が届いたら、そっちも蔵の中に置いててくれると助かります。リョウより』
助かりますを2回も書いていて少し笑う。
領地でランタンを飛ばす祭りをやりたいのだと把握した。
手紙とクーラーボックスを母屋に運ぶ。
クーラーボックスの中身は厚切りベーコンやチーズやワイン等。
食材を冷蔵庫などにしまった。
冷蔵庫は大きめのを買ってある。
お店でアイスクリームを入れて販売してるような横長のやつなのは、リョウのくれる異世界の食材が多いからだ。
日本で肉やチーズを買うと高いから、あちらからくれる。
リョウの姉の弁当屋にもおすそ分けする予定だ。
ふと、思い出してお手伝い妖精の召喚を試みることにした。
蔵に引き返して召喚術式を思い出し、魔法陣を床にクレヨンで描く。(クレヨンは蔵にあった。子供時代のリョウか姉のマリが使っていたものと思われる)
召喚呪文を唱えると、きちんと手伝いの妖精が召喚された。
全身青くて透けていて、女性の姿をしたスライムのようだった。
妖精は俺の望む姿に変身できるというので、白髪の60歳くらいの男性の姿になって貰った。日本のご近所さんに恐怖を与えないように、一応年配気味にしておく。
(外で買い物なども頼むかもしれないので)
早速母屋の台所に案内し、家事を頼む。
ベーコンと卵とパンで朝食を作ってもらう。
それと洗濯も頼む。
その隙に自分は日課のトレーニング。
料理ができたと知らせに来たので、ダイニングへ向かうと、香ばしく焼かれたパンやベーコンが皿に盛り付けられていて、食欲が刺激された。
目玉焼きもちゃんとついてる。黄身の色が濃い。
ニュースを流しつつ、妖精の作ってくれた朝食を食べ終えた。
後片付けの洗い物も妖精がやってくれて助かる。
(この作業が一番嫌だった)
もう一度トレーニングをしてからシャワーを浴びてから、スマホからメールボックスの通知が届いていたので、開いてみた。
ミカリンというコスプレイヤーから一緒に映画を見たいという誘いがある。
指定日は3日後だ。
漫画家の先生もいて、チケットのとれなかった大人気のアニメをネトフレなるものでレンタルスペースの大画面のプロジェクターで一緒に見ましょうといったものだ。
アニメには興味がなかったが、リョウのせっかく繋いだ縁であるし、別に若い娘と二人きりにはならないようだし、たまにはよかろうと、了承しておいた。
そのレンタルスペースは四千円くらいで借りられるプランらしい。
ネットで検索してみると色んな雰囲気の部屋がある。
コスプレや推し活や女子会などにも使える場所らしい。
とりあえずリョウの頼みを聞いて色々ネットで注文をした。
メイドや女性水着の方はサイズがよく分からんのでS、M、L、LLまでビキニを注文。最悪サイズが合わない場合、横の紐をどうにかすれば入りそうな気がしたからあえてワンピースよりビキニだ。
アレンシアの分だけパレオつき、ミルシェラには子供らしいフリル付きのものを選んだ。
◆ ◆ ◆
三日後の朝十時半にミカリン指定の場所、レンタルスペースに行った。
「おはよーございます! リョウさん! 今日は来て下さってありがとうございます!」
「おはようございます、今日はよろしくお願いいたします」
ミカリンと漫画家が挨拶をくれたので、私は「ああ」と、簡単に答えたら、ミカリンが「超クール!」と、言って笑った。
そこは笑う所なのか? 別に構わないが、実に楽しそうだ。
今回はメインが映画館の代わりのものであるので、黒を基調にしたシックで落ち着いた雰囲気の部屋だった。
「ほんとにこの映画のチケット即完売しすぎて買えないんですよ! でもネトフレ先行で出てたやつなんで、実は映画館でなくても見れるっていう」
「じゃあなんで家で見ないの?」
漫画家がもっともなツッコミをした。
「えー! だって大画面で見たい作品だったし! 出来れば映画館に似た雰囲気を味わいたくてぇ」
「しかもすでに内容を知っているのか?」
「はい! サブスクでもう三回は見てます!」
「三回もか?」
「一回目では分からないこともあるので!」
「まぁ、オタクとしてはわりとある行動ね。とりま部屋の撮影してもいい? 漫画の背景資料に使えそうだし」
「もちろんオッケーでーす」
「どうぞ」
「ありがとう!」
漫画家がいそいそと室内の撮影を始めた。
「邪魔にならないよう、私は廊下に出ていようか?」
「いいえ、むしろそこのソファに座ってください!」
「はぁ」
言われた通りに私は黒くて光沢のあるソファに座った。
「ミカリンも隣に座って!」
「はいはい」
スマホであるが漫画家が撮影を始めた。
「そーいや、リョウさんて配信者もされてましたネ! この映画上映会も少し撮っておきます? あたし機材持ってきましたよ!」
ミカリンはトートバッグから確かに撮影機材を出している。
「はぁ、しかし映画の中身を写したら怒られるのではなかったか?」
「映画の中身は写しませんよー、大丈夫! レンタルスペースで映画見てる姿を少し映すだけっす!」
撮影するとリョウが喜ぶかもしれない、一応少し撮っておくか。
「じゃあ少しだけ」
「やりぃ! あ! ポップコーンとかチョコとかお菓子も買ってきました!」
ミカリンが持っていたトートバッグから今度はお菓子を取り出した。
「なんかお菓子以外も食べる? 飲み物もセットでケータリング奢ったげる!」
「わーーい!! せんせーありがとー! 」
「ピザとお寿司、どっちがいい?」
「映画といえばピザっしょ! リョウさんもピザでよき!?」
「ああ」
「ああ。しか言わないのまじウケる! 超クール! まるでゴブス〇さん!」
「ああ、あのゴブリンばかり倒す戦士の漫画か」
「あ! 知ってるカンジー?」
「ケントが見せてきたことがある」
「そうそう! あれ、面白いんだよねー」
などと、漫画の話で盛り上がったり、アニメ上映会をしていると、途中でケータリングのピザとドリンクが届いた。
ミカリンがウキウキとした様子でピザの入った紙箱の蓋を開けると、湯気がふわっと立ち上る。
まずは一枚目のピザ。
直径三十センチはありそうな大きめサイズで、ハーフ&ハーフ仕様だ。左半分はクラシックなマルゲリータ。
トマトソースの鮮やかな赤がベースに広がり、美味そうに溶けたモッツァレッラチーズの上に緑のバジルリーフが散らばっている。
チーズの表面はきつね色に焦げ目がつき、香ばしい匂いが部屋中に広がる。
一方、右半分はペパロニ満載。スパイシーなサラミの輪切りがびっしりと並び、赤唐辛子のフレークがアクセントを加え、チーズの下からピリッとした辛味の気配が漂う。
生地はふちが厚めに膨らんでいて、外はカリッと、中はもっちりとしていると見てとれる。
全体から立ち上るガーリックの香りが、食欲を刺激して止まない。ミカリンがカメラをセットし、割り箸を使い、一番に手を伸ばした。
その爪はカラフルで綺麗な色で塗られ、宝石のような装飾までついている。
「とりまあたしはマルゲリータからいくね!!」
ピザは元から切れ目が入ってて食べやすくされていた。ミカリンが一切れを皿に取るとチーズが糸を引いて離れず、彼女の笑顔が弾ける様を眺めつつ、自分はコーラを飲んだ。喉奥で弾ける炭酸の刺激が夏に相応しく心地よい。
「んんー! 熱々でトロトロ! ピザの王道って感じ!」と目を細めた。
漫画家は隣で微笑みながら、ペパロニ側を選ぶ。彼女は割り箸を使い、ひときれ摘み、慎重に口元へ。
自分も割り箸を使い、ひときれ口に入れて噛むと、サラミのジューシーな肉汁がチーズと混ざり、ピリッとした辛さが舌を刺激する。そしてまたコーラを飲んで、一旦口の中をリセット。
次にマルゲリータを食べてみる。
トマトの酸味とチーズのクリーミーさが口いっぱいに広がった。こちらも美味い。
「ふう……ピザって地獄のハイカロリーでも止められない」
そう呟いた漫画家の彼女の声は穏やかで、プロジェクターの光が彼女の眼鏡を優しく反射した。
次もハーフ&ハーフ。左半分はシーフードパラダイス。エビとイカのプリプリした身がトッピングされ、アサリ貝がアクセントのように散らばる。
チーズは軽く溶けて海鮮の新鮮な香りを引き立て、表面にパセリが振りかけられ、全体が黄金の輝きを放つ。
右半分はテリヤキチキン。いかにも美味そうだ。甘辛いテリヤキソースの鶏肉がチーズと絡み、玉ねぎのスライスとピーマンが彩りを加える。
生地は一枚目同様にふちがパリパリで、中の柔らかさが噛むたびに心地よい。
シーフード側も一口。
「ホワイトソースベースにガーリックバターが染み込んでいる。海鮮の弾力がいい。エビの甘さとチーズのまろやかさが調和して、意外と上品だ」
「リョウさん、食レポ上手くてウケるー」
そう言ったミカリンに「ほんとねー」と、漫画家が相槌をうつ。
次にミカリンはテリヤキ側を試し、
「この甘辛いソースがいいよねー! 照り焼きサイコー!」
漫画家は次にシーフードを食べた。
「シーフードはエビがプリっとしてていいわね。 みんなでシェアして正解だわー!」
「撮影もぬかりないよー!」
女性二人はきゃっきゃっとしていて、本当に楽しそうだ。私も食べ物が美味いので何の不満もない。
見終わって漫画家がやおら挙手をした。
「あのぉ、ちょっとだけポーズモデルお願いしたいんですが!」
漫画家が私の方を向いて言う。
「私にか?」
「はい、ミカリンと、その、嫌でなければ膝枕のポーズなどを」
「あたしはよゆーでオッケーでーす!」
「別に……かまわんが」
日本人のリョウは独身だから、特に問題もなかろう。
「やったーーっ! 恩にきます!」
膝枕をしたりされたりの写真を撮られ、しかもそれを通話アプリで共有してくれた。




