168話「大捜索と羞恥心」
~ アレンシア視点 ~
「侍女や執事長に聞いてもアレンシアは自室にいるはずだという証言だった……」
今、私はあなたの腕の中にいます、猫の姿で。
「図書室にも浴室にもお母様はいませんでした」
娘も搜索後に報告に来てくれました。
「一体アレンシアはどこに行ったんだ? まさか誘拐? それともどこかに拗ねて隠れているうちにそこに人が居ることを知らない者がドアにカギをかけたり何らかの要因で出られなくなってるのか?」
いいえ! ここにおります!
「ニャア……」
私が小声で一声鳴いた後、ミルシェラは急にハッとした顔でリョウの腕を引き、かがんでもらい、彼の耳のそばで小声になって、
「私の為の鍛錬用の隠し部屋にもおられませんでした」と、報告しました。秘密の部屋のことなので使用人にも聞かれないように小声のようです。
「ああ、じゃあもう、屋敷内の者に告げる! 警備と手の空いている者は アレンシアを探せ!」
「「はっ!!」」
この夫の言葉で使用人達は散り散りになって私の捜索へ向かいました。大捜索になってしまいました。
ここに居るのに……。
「お父様……」
「少し大事になってしまったが、アレンシアがどこかで動けなくなって心細くなっていては可哀想だから、私ももう一度探す」
「はい!」
……リョウは屋敷内をグルグル歩きまわり、真剣な顔で私を探してくれています……。
宝物庫の中まで入って私を探しました。
少し胸が痛くなりました。
散々無視してごめんなさい……。
しばらくしてリョウは廊下を歩きつつ、柱の裏まで覗きこみ、周囲を探す家令を見つけました。
「家令! まだ見つからないのか! せめてなにか有力証言は!?」
「いいえ! まだです、申し訳ありません!」
「では家令、アレンシアの部屋付きのメイドをここに呼べ」
今私達は宝物庫の近くの廊下にいます。
「かしこまりました」
ややして部屋付きのメイドが小走りでやって来ました。
額には汗をかき、本当に走り回って探してくれているようです。
メイドはなんとか息を整え、リョウに向かって話し始めました。
「そ、それが、居なくなる直前まで奥様が着ておられたドレスや下着がベッドの脇に隠すように落ちておりました、靴も」
「まさか、マッパ……貴族の婦人が全裸でどこかに行くなど、風呂以外ありえんではないか」
「お風呂にはおられません、何度も見ました」
「仕方ない、行方不明直前までアレンシアが身につけていた靴下を持て!」
「は? 靴下でございますか?」
メイドを追って私達の近くに来た侍女が今の発言を聞きとがめ、困惑した顔でリョウに尋ねます。靴下など、本当に何に使うのかしら!?
「それと当家にいる猟犬の一番優秀なのを連れて来い! アレンシアの匂いを覚えさせて捜索させる!」
「ああ! なるほど犬に……し、しかし、靴下はちょっと」
恥ずかしい!! 下着や靴下は止めてください!
侍女、そのままリョウを止めて!!
「行方不明者の捜索にはなるべく匂いの強く残るものを使うものだ」
とはいえ!! それはあまりにも恥ずかしいわ!!
「ど、ドレスではいけませんか?」
「そんなことを言ってる場合か!? 嗅ぐのは人間ではなく犬だし、屋敷内で公爵夫人が行方不明なのだぞ!」
侍女! 頑張って!!
「じ、じゃあ、せめて靴にできませんか?」
侍女がおずおずといった雰囲気でそう申し出てくれました。
靴下なんか下着の一部なので、本当に人前で犬とはいえ嗅がせるのは止めて欲しいのです! そしてまあ、私も靴なら許容範囲です。
「靴下がダメで靴ならいいと? 変わったやつだな……では靴でいいから持って来てくれ」
「はい!」
メイドが走って行きました。
良かった、これでギリギリ私の尊厳が守られると思います。
リョウも必死になってくれるのはありがたいのですが、もう少しデリカシーを学んで欲しいです。
そして猟犬を連れた騎士が現れました。
この犬は狩りに使う犬です。
右手で猫の私を抱いたまま、私の靴の片方を左手に持ったリョウが、犬の鼻先に靴を持っていきます。
「この匂いの主を探せ、公爵夫人のアレンシアだ」
犬はしばらく靴の匂いを素直に嗅ぎ、それから猫になった私の方を見て、
「ワン!」
と、一声高く鳴きました。この犬は優秀ですね!
「わかったか? じゃあ行け!」
リョウはそう言いましたが、犬は私の方を凝視してます。
「アレンシアを探しに行くんだよ!」
リョウがまた犬に声をかけましたが、犬は少し困ったように「クゥン」と、鳴き、立って私の方に手を伸ばしました。
「こらっ! 猫ちゃんが怯えるだろう! 猫と遊ぶのではなく、アレンシアを探すんだよ!」
リョウは慌てて犬の前脚が届かぬよう、私を肩の上に乗せました。
「閣下」
「どうした? 魔法使い」
公爵家の魔法使いが現れました。
「少しお話をよろしいですか?」
「アレンシアについて何かわかったのか?」
「ええまあ、とりあえず、犬を下がらせてください」
「わかった、犬! ここではなく、他を探せ!」
「ワフ……」
犬は仕方なく度々こちらを振り返ってから、床の匂いを嗅ぎ、どこかに行きました。
多分私の部屋の方向に。
そして何故か魔法使いは夫の部屋に向かいましょうと、先導し、部屋に入りました。
「どうして私の部屋に?」
「魔力の波動です」
「魔力のはどう?」
「どういう訳か、その猫から奥様と同じ質の魔力を感じます」
「この猫から!?」
リョウは驚いて私を肩から下ろしてまじまじと見ます。公爵家の魔法使いはさすがだと思いました。
「ええ、何者かの手によって、もしや奥様は猫にされたのではと?」
「ええ!? 何故猫に!?」
「それは分かりかねます」
「ね、ネズミや虫よりは助かるが」
確かに!!
虫やネズミだったら絶望します!
そして私も
「ニャーー!!」と鳴きここにいると主張しました。
「それで、もしほんとにこの猫がアレンシアだとして、どうすれば元に戻るのだ?」
「さあ? 時間経過で戻る魔法か、あるいは呪いの類であれば……」
「ば?」
「私にも、現状、分かりかねます、神官を呼ぶくらいしか」
私は魔法使いの言葉に絶望しました。
「そんな……しかし……呪いの類であれば、やはり、手っ取り早くあれを試すか、魔法使いは少し部屋を出ていてくれ」
「にゃあ?」
「俺は王子様じゃなくてほんとに悪いんだけど、ちょっとごめんな……」
!?
リョウが猫の私にキスをしました!!
すると、急に私は人間の姿に戻りました!
「きゃあ!!」
今、私全く、服を着ていません!! 全裸です!
「おわっ! 本当にアレンシアだ!」
「服を!!」
「とりあえず俺のバスローブで!!」
リョウが慌てて手で体を隠す私にベッドの側の椅子の背にかけられていたバスローブを投げてくれました。




