167話「夏の公爵邸」
「それにしてもアレンシアはどこに行ったのか」
俺は金色っぽい毛並みの愛らしい猫を抱いたまま、アレンシアを探すことにした。この猫は腕の中で大人しく、暴れる様子もないので助かる。
「ではお父様、私が浴室と図書室の方を探してみます」
「じゃあ私は庭園の方に行ってみる。木陰で涼んでるかもしれない」
そんな流れで俺はミルシェラと手分けしてアレンシアを探すことにした。
庭園に行くと、この身に真夏の昼の日差しが降り注ぐ。
それでも木陰に入るとかなり涼しい。
そこが日本とは違うところだ。
しばらく猫を抱いたまま庭園内をうろつくと行き交う騎士達が複数人、頬を赤くしてる。装備的に暑いのかもな。後で冷えたレモネードでも差し入れするか。
騎士が俺の姿を見ると、一瞬慌てた様子を見せたが、すぐに軽く頭を下げてまた巡回警備の為に歩きだす。
しばらくただっ広い庭園内の水場を目指して歩いていたら、パシャパシャと水音がする。
敷地内の池で水鳥が遊んでいるのか?
森の中の小道のような場所を通り抜けると、
「きゃっ!!」
「あっ!」
「公爵様!」
「旦那様!」
なんと、数人のメイドが半裸で水浴びをしていた!
腰に布を1枚巻いただけの姿で!!
「うわっ! 何をしているんだ!? こんなところで!」
俺は慌ててすぐに後ろを向いた。
「も! 申し訳ありません!!」
メイドの謝罪の声が聞こえたが、俺はすぐさまそこから離れることにした。
「はぁっ、はぁっ!」
ダッシュしてると息が荒くなり、そしてまた巡回中の騎士と顔を合わせた。
「あ、公爵様」
「おい、なんだあのメイド達は!? まさかうちのメイド達は邸宅の使用人用の風呂を使わせて貰えてないのか!?」
「いいえ、そんなことはないはずです」
「じゃあなんであんな外で水浴びをしているんだ!」
「落ち着いてください、閣下。平民は夏などは水場で涼みます」
「え? あれは風呂ではなく?」
「川を風呂代わりにする平民は確かにいますが、池や湖などでは、涼んでいるのだと思います」
「じゃあ、誰かの意地悪で邸宅の風呂を使わせて貰えていないのではなく、あれは夏のレジャーの一種か?」
「ええその、周囲には木々、美しい百合なども咲いており景色がいいのと、夏なので外でも寒くありませんし、非番の者が遊んでいるんですよ」
「男の騎士達が庭園内も巡回してるのに!?」
「それもある意味安心材料ですね、仮に騎士ならば見られたとて、襲いかかっては来ないので」
「はぁ? み、見られてもいいってことか?」
「逆に体に自信の有る者は誘惑してくるくらいです」
!!
「……じゃあ、当家に風呂を使わせて貰えない可哀想なメイド達がいる訳ではないんだな?」
「はい!」
「……はぁ、びっくりした」
ただのラッキースケベスポットだった。
エルシードの公爵邸ってかなり自由なんだな。
広すぎるからこんな森の中の泉のようなスポットで遊び出すやつもいるのか。
それとも夏の貴族の庭ってこんなもんなのか?
それかうちは自粛中で社交のお客様も来ない時だから……。
まぁ、風呂が使えなくて仕方なくって事ではないなら良かった。
「てゆーか、私の事も止めろよ! 水場で女達があられもない姿でいるのを知っていたなら!」
「まさか! この公爵邸の敷地内で公爵様の行く手をさえぎることなど出来ませんよ、奥様でもなければ」
あっ!! そ、それはそうか。
「あーその、アレンシアを探しているんだが、見なかったか?」
「いいえ、しかしお出かけの予定はなかったと思われますから、邸宅内におられると思います」
「ニャア……」
その時、腕の中の猫が小さく鳴いた。
「可愛らしい猫ですね」
すると騎士が猫を見て柔らかく微笑んだ。
「そうだろう? アレンシアの部屋にいたんだが、そなたはこの猫についてなにか知らないか?」
「はて? 最近誰かが奥様に猫を贈ったなどの話は聞いておりませんが……」
「騎士は誰も知らんのか、侍女に聞いたほうがいいか」
「そうですね」
俺はアレンシアのことに詳しいはずの侍女か執事長を探すことにした。




