163話「娘が、勝手に」
ケーネストがダンジョンの魔獣退治に行ってる間に風呂のお湯を貯めつつ、ネットショッピングで化粧品をポチったり、ミルシェラが着てきたワンピを洗濯機に入れて洗濯したりする。
そしてお風呂のお湯が溜まった頃、こっちの風呂の使い方をミルシェラに教えた。男親だから、俺は一緒に入れない。
「困ったことがあったり、なにか分かんなかったら大声で呼びなさい」
「はい、リョウパパ。でもお風呂の中に既にお湯があるし大丈夫です。この白く四角いのが石鹸、こっちの青いボトルのがシャンプーで、紫がコンディショナーで合ってますよね?」
「そうだ、生存確認に派手にお湯浴びてざぱーとかやったり歌ってくれてかまわんぞ」
「じゃあ歌います」
◆ ◆ ◆
ミルシェラがアニソンを歌いながらお風呂に入ってる間にコーラを飲みつつ祭り動画の編集作業もした。
「お風呂上がりましたー」
無事に戻ってきてえらい!
そんで相変わらず俺のお古のTシャツを貸してる。今度は白いやつ。
「よし、ドライヤーで髪を乾かしてやろう、そこの椅子に座りなさい」
「はぁい」
俺はミルシェラにブラッシングしつつ、ドライヤーで髪を乾かした。
俺に世話をやかれて機嫌がいいのか、鼻歌まじりだ。可愛い。
そうこうしてる間に洗濯も終わり、着てきた白いワンピにアイロンをかけて、あちらの世界にミルシェラを戻す準備をする。
「私は泊まって行ったらダメなんですかー?」
ワンピにアイロンをかける父の背中を眺めていた娘がそう言った。
「あんまり遅いとアレンシアが心配するだろ」
「もう夜遅いから、寝た方が」
壁の時計を見ると確かに既に夜9時40分だ。
あちらの世界だとおそらく真っ暗だ。ネオンなんかないし。
アイロンがげする俺を見ていたミルシェラは畳の上でゴロンとなって座布団を枕にして横たわった。
おいおい、そのまま寝るつもりか? させんぞ。
「エルシードの騎士が寝てしまったお前でも抱えて馬車に運んでくれるだろう」
「今頃慌てて帰ってもお母様ももう寝てるから帰宅でバタバタすると逆に迷惑かも! あの世界には娯楽が少ないので!」
「確かにもう夜ではあるが」
「あっ! 寝る前だし歯を磨いてきまーす!」
ミルシェラは起き上がって洗面所に走り去った。
誰の歯ブラシを使うつもりだ? 予備は棚の中にあるとは思うが。見つけられるかな?
「棚の中に未使用の歯ブラシがあるからな!」
俺は洗面所の方向に向かって大声で叫んだ。
「はーい! ストックありました!」
「好きなの使え!」
「はい!」
──そして、静かになった。
洗面所から戻って来るのがやけに遅い。
そんなに丁寧に磨いてるのか? 子共が自主的に20分以上も?
子どもの歯磨きなど、せいぜい5分から15分くらいだと思うのだが。
俺は心配になって洗面所へ向かうといない!
慌てて寝室というか、俺の部屋を開けると、いた!
俺のベッドで寝てる!!
しっかりタオルケットも使って寝てる!!
今夜は帰りたくないアピールが凄いな。
俺はため息をついて、またリビングに戻り、騎士に渡すメモを書いた。
「ミルシェラが勝手に寝てしまったので、明日の朝食後にそちらに送り返す」
と。
そして蔵へ行き、例の鏡からにょきっと顔を出すと、
「閣下!」
壁画ゲート前に待機していた騎士が俺を見つけて声を上げた。
「すまない、ミルシェラが寝てしまったから明日の朝食後に送り出す。それと、今言ったことと同じことが書いてあるメモを一応渡しておく」
「はっ!」
騎士が俺からメモを受け取ってくれた。
絵面が壁から顔と手だけだす妖怪みたいになってしまってるが、まぁいい。
俺はメモを騎士に託して母屋に戻り、俺のベッドで寝てるミルシェラの姿を確認してからシャワーを浴び、歯を磨いてまた動画編集作業に戻った。
「よし、終わった。でもまず前回の海動画を先にアップロードするか」
上げるとすぐに再生数が増えて行くし、コメント欄にも反応が出てくる。
【️海動画だー!】
【️筋肉! イケメンの筋肉!】
【️わっしょい! わっしょい!】
【️ガーディアンさん、かっこいい!】
【️ハンターさん! しゅき! 結婚して!】
【️イケメンの海動画で寿命が延びます! ありがとうこざいます!】
【️海の家のラーメン! 飯テロだ!】
【️二人ともかき氷食べてる! 可愛い!】
【️夕陽きれー!】
【️焼肉だ! 美味そう!】
【️くそ! また飯テロだ!】
【️男二人のドライブデートにも誰か突っ込んでよ!】
【️海の家のラーメンより効く飯テロが焼肉とビール!】
などと、コメントも続々増えていく。
チラリと壁の時計を見るともう深夜一時。
ケーネストから応援要請があるかもと、一応俺は起きてはいるが、知らせがないなら、とくに問題なくやってるのかな?




