また視察
自室にて、風呂上がりは寝る前に髪を乾かしながら考えごとをする時間になっているのが、最近の俺だ。
暖炉の前でタオルドライ的なことをしているが、ドライヤーがなくて……。
異世界ファンタジー系漫画や小説でよくみかける魔道具とかでドライヤーに似たものはまだないのか?
公爵家にないなら、やはりないのか?
天才錬金術師を探して依頼するしかないか……。
まぁ、完成したら、金は儲かりそうだよな。
暖炉の前で我慢大会して乾くまで寝れませんとか……結構だるい。
そういや先日妻がミルシェラに言ってたのは……文字を覚える勉強をしなさいだったな……。
できれば楽しみながら色んな言葉を覚えて欲しい……。
カルタでも作ってみるか。
たしか読み札と取る札の二種類いるんだよな。
何度も繰り返し使うものだし、ちょいしっかりした紙で……。
まぁ、こんな時は公爵家の財力あるからなんとかなるよな。
サイズを決めて、どこかの工房に依頼すればいいのかな?
読み札をまず作るか。
子供用のカルタってどんなだったかな?
とりあえず生き残りに特化する内容にするか?
俺は髪が乾くまで、どうせ寝られないので、と、紙とペンを用意して思いつくまま書いてみた。
「あ……相手の目をよく見て本音を探れ」
「い……胃が痛い時は消化にいいものを食え」
「う……嘘をつくと手が冷たくなるらしい」
「え……笑顔の裏を読め」
「お……男は性格で選ぼう」
……内容が殺伐としすぎかな? でもこれ、生き残り特化カルタだしな……。
「か……貝は危ないものが多い」
「き……きのこは危ないものが多い」
「く……臭いけどドクダミは虫除けになる」
「け……けんかするなら勝てる相手にしよう」
「こ……殺されるくらいなら逃げよう……いや、こ……攻撃は最大の防御の方がいいか?」
……こんな感じでいいか?
うっかり全部日本語のひらがなのあいうえお、かきくけこで考えてしまった。まぁ、似たような内容でこちらの言葉で作ればいいか。
先日はザリガニ釣りとかついピクニックで遊んでしまったから、今度はちゃんと果樹餌や畑の視察とかしてみよう。
エルシード公爵領の農作物はどのようなものがあるか、この目で見たい。
ようやく髪が乾いた頃に、カルタの文言メモを鍵付きの机の引き出しにしまって、ベッドに入る。
俺はロン毛ではないからそこまでではないけど、やはり髪の長い女性は乾くのに時間かかるだろうな。
翌日はぶどう園に行くことにして、朝の食堂でその話を妻にすると、
「ぶどう園へ視察ですか? あなた、昼間からワイナリーで飲みたいだけなのではないでしょうね?」
疑いのまなざしで見られてる!!
「断じてちがう、ぶどう園以外にも視察をする予定だし」
「まぁ、いいですけど」
よし、許された!!
「ミルもー」
「ミルシェラ、今日はだめですよ。先日お外に行ったばかりでしょう? お勉強の日です」
「……はぁい」
かわいそうに……まだ小さいのに。
でもこれも躾けだ……。わがまま放題に育てて取り返しのつかないことになるのは確かにやばいし、ここは妻の意見に従う。
ミルシェラのメンタルがヤバそうなタイミングがあれば息抜きに遊んであげよう。そうしよう。
そして俺は護衛騎士を三人ほどつけて、朝食後にぶどう園に視察向かい、ぶどう園でワインとぶどうの葉っぱを沢山貰ってから、更に他の畑に寄った。
「なんか、大根に似た葉っぱが見える、君、これは何の野菜だ?」
俺は畑にいた農夫に声をかけた。
「ラディッシュです」
この葉っぱ、めちゃくちゃ日本の大根に似てるんだがなぁ?
「金を払うから、いくつか引っこ抜いても構わないか?」
「まだたいして育ってませんが、どうぞ」
「ありがとう」
俺は己の着てきた白いシンプルなシャツを腕まくりして、ラディッシュを引き抜いた。
「よっ!! 抜けた!」
……て、大根じゃん!! これ! およそ20センチくらいの長さの大根!!
「これ、正式名称もラディッシュだけか? これ、わりと辛い野菜だよな?」
「アズマホワイト・ラディッシュです。味はそうですね、すり下ろすとやや辛いですが、冬ならとくに煮込むと甘くなってますよ」
……アズマ? よくわかんが、これ日本の大根と同じものだと思う! 味もそれっぽいし!
俺はアズマホワイト・ラディッシュを5本貰って、銀貨五枚を農夫に支払った。
「え、銀貨をこんなに?」
「いや、気にしないで家族に美味いものでも買ってやってくれ」
やはり、やや多すぎたようだが、かまうまい。
だってどう見ても大根で食べたかったんだし!
帰ったら大根の葉も炒め物にして食べて、大根の本体は、肉と煮込んでみよう。
ついでにぶどうの葉っぱを沢山貰って帰ったのにも理由があり、これも料理に使う予定だ。




