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悪役令嬢の父の愛と日常  作者:
第一部

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11/191

ザリガニ

 領地視察の日の朝が来た。

 食堂へ向かう廊下の途中で、てててててっと、可愛らしい足音が近付いてきた。



「パパー」



 やはり娘だ! 振り返ると愛らしい笑顔でミルシェラが俺に近寄って来るので、抱き上げてやる。



「どうした?」

「ミルもいっしょにいくー」

「ミルシェラもお外に行きたいのか?」

「うん!」



「うん、ではなく、はい、でしょう、ミルシェラ」



 突如廊下の曲がり角から現れた妻のツッコミが降臨した。



「はぁい」

「まぁ、たまにはお日様に当たるほうが健康に育つし、今日は私も見てるから連れて行ってやることにしようか」



 妻の前でそう宣言する俺。多少は夫を立ててくれるだろ? と、信じて。



「やったぁ!」

「ミルシェラ、レディはそんな平民みたいな言葉を出さずに、嬉しいですわと言うの」



 妻は幼女相手でも手厳しい……。

 でもこれも令嬢教育……ここでまだ小さいからいいじゃないか。などと止めると、将来この子が恥をかくのです! と怒られる未来が見える。

 


「うれしーでしゅわ……」

「まぁ、いいでしょう」



 やや舌っ足らずだが、妻のお許しが出た。



「では、今日は私がミルシェラを連れて行くからな」

「仕方ありませんね、ミルシェラ、帰ったら文字を書く練習をするのですよ」

「はぁい……」



 ◆ ◆ ◆


「念の為、汚れても良い服を着させてくれ、平民に見えるくらいのでいい」


 出かける前に着替えをさせる為、俺はそう、メイドに言いつけた。


「と、急におっしゃられても……」

「エプロンドレス的なものはないのか?」

 


 いわゆる、確かピナキュアとかいうやつだ。

 エプロンにワンピースの組み合わせ。

 昔の外国のドラマで子供が着てる感じのやつ。


 俺も今日は白いシャツに茶色のパンツというラフな平民風コーデで街に溶け込もうとしている。



「あの、恐れながら……娘用に縫っていたものでよければ……ないこともないのですが」



 おっ! 子持ちらしきメイドがそっと手を上げてくれた。



「それを買い上げよう、そしてこれで娘に服を買うといい」



 俺は服を譲ってくれるメイドに銀貨を七枚あげた。今日はちゃんと小銭を多めに持ち歩く予定である。



「あ、ありがとうございます!」




 メイドはおそらく節約の為に自分で娘の服を休憩時間にでもちまちま縫っていたのだろう。

 嬉しそうに銀貨を両手で包んだ。

 


 そしてミルシェラに白いエプロンの付いたワンピを着せて、お出かけだ。


 護衛騎士を10人もつければなんとかなるやろ。と、俺は領地査察に出た。


 ミルシェラは馬車の移動中も、窓から外の景色を興味深そうに、見てる。


 正直馬車は揺れるし危ないから、俺はミルシェラの腰に手を回して、ドアなどにぶつけないようにしている。


 この馬車にはチャイルドシートがないからな……。


 町並みを眺めつつ、暮らしぶりを眺める。

 表通りはさすがに綺麗で、西洋ヨーロッパ系のオシャレな雰囲気で治安もそう悪くは無さそうに見えるが、裏路地等は油断はできない。


 途中でパン屋を見つけ、ミルシェラを抱えて馬車から降り、焼きたてパンを買いこんだ。


 焼きたてパンの香りは本当にいい香りだ。




「少し街から離れて田舎っぽいところにも向かってくれ、小川とかあるところ」



 俺は馬車酔い防止のためにもたまに降りて見ては御者に声をかける。


「かしこまりました」



 ちなみに護衛騎士達は馬に乗ってついてきている。


 しばらく馬車を走らせ、のんびりとした雰囲気で川のある景色のよい田園地帯に来た。


 大きな木の下にピクニックシートでも敷けば、いいピクニックになるだろうな。キルト系の敷き布なら魔法の袋に入れて来たから、それで代用できる。


 俺は川辺にてまた馬車から降り、ミルシェラが川に落ちないようにしっかり見ていてくれと、護衛騎士に言いつけた。



「かしこまりました」

「お嬢様、失礼いたします」



 一人のイケメン護衛騎士がミルシェラを抱き上げた。急に走りだすと怖いからいっそ抱き上げるという選択肢か。ミルシェラはおとなしく抱っこされてるし、ま、いいだろう。 


 イケメン騎士に慣れてくれるなら、それはそれで助かる、将来的に。


  

「さて、枝を探すか……」 



 俺はそう一人呟き、手頃な枝を拾った。



「閣下、薪ですか?」

「焚き火をなさるので?」



 護衛騎士達が俺に声をかけてきた。

おもむろに枝を探して拾う俺に戸惑っているのだろう。



「いや、これはザリガニ釣りの竿になる」



 俺はどや顔でそう言った。

  


「ザリガニを……今から釣られるのですか?」



 原作漫画で傭兵がザリガニを釣って食ってるシーンがあったから、ザリガニはいるはずだ。



「そうだ、実は視察に見せかけた息抜きなんだ、妻には内緒だぞ。この布を木の下に敷いて、ミルシェラには先ほどのパンなどを与えて、ピクニックをさせてくれ、ジュースもある」

「は、はあ」



 戸惑う騎士にミルシェラを頼んで、俺は竿となる枝に太めの糸を結び、先っぽのエサにはイカの干物をハサミで切って括り付けた。

 先日海街の魚市場で購入しといたやつだ。


 俺は川辺で釣り人用の小さな椅子を出して座ると、ザリガニ釣りを開始した。ソシテしばらくすると、


「……釣れた!!」



 かなりあっさり釣れたザリガニをバケツ代わりの桶に放り込む。

 この辺の川は綺麗で科学物質もないし、ほんとに食えそうな気はした。どこかの国にではザリガニは高級食材とも聞いたことがある。


 ザリガニは俺の用意したイカの干物で沢山釣れてガチで楽しい!!


 ミルシェラはしばらく大きな木の下で焼きたてパンに夢中になっていたが、食べ終えてから、俺の隣に来た。



「いっぱい〜」

  


 桶を覗きこみ、わさわさ入ってるザリガニを眺めるミルシェラ。

 もちろん安全の為に護衛騎士がぴったりついてる。



「ミルシェラ、ザリガニはハサミがあって危ないから、絶対に触ろうとするんじゃないぞ、挟まれるとめちゃくちゃ痛いぞ!」


「はぁい」

「ま、このくらいでいいか」

 


 20匹くらい釣って桶いっぱいになったザリガニを見て、俺は満足した。



「わー、凄い!」



 通りすがりの地元の少年が近寄ってきて、俺の釣ったザリガニを覗きこんだ。瞳がキラキラしてる。服装からして平民の子だ。


 10歳くらいかな?



「食べたいなら貰っていくか? 捨てるなら他の者に譲る」

「いいの!? 食べる食べる!」

「おい、お前言葉遣いが」



 護衛騎士が少年の言葉遣いをたしなめようとするが、こんなとこにザリガニ釣りしてる公爵がいるなど、誰も思いもしないだろうからと、やめろと手で制止する。



「ああ、桶ごと持って行くといい」

「やったーーっ!!」



 このザリガニを馬車に乗せて持ち帰るのは、ちと、難易度が高い。蓋もついてないし。

何より妻にバレたら、やばい。

 視察と言いつつ、ザリガニ釣ってたとか。


 少年は思いがけず、ただ食材にありついて大喜びで桶を貰って、どこぞに帰って行った。


 俺は沢山釣れただけでも満足だよ。

 そのあと、娘と騎士達と一緒に木の下でパンを食べたりジュースを飲んだりして、一息ついた。



 パン屋で買ったパンにナイフで切れ目を入れ、レタスとチーズやハムを挟んだり、しれっと持って来たいちごジャムを塗ったりして、美味しくいただいたのだ!



 楽しいピクニックだった!

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― 新着の感想 ―
確かスウェーデンでは、ザリガニパーティーというのがあってザリガニを食べているようです。お酒と一緒にひたすら山盛りのザリガニを食べるという、パーティー、、日本ではなかなか食べる機会ないですね。因みにアメ…
騎士に囲まれて枝でザリガニ釣りをするオッサンの判別か〜 ・・・体格次第だけど平民上がりの隊長格か、線が細いと平民上がりの文官系? まぁ一番大穴が公爵(貴族)だがw
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