114話「マールの夢の中」
巨大なマンモス系の魔獣が突撃してきた。
二枚目の結界にも何度も体当たりしてくる魔獣。
俺は胸の前にロッドを構えた手を突き出しつつ、なんとか結界を維持していたが、
またも重い衝突音の後に、ひび割れそうな二枚目の結界。
「くそ! 頼む! 結界よ、もってくれ!!」
俺がそう叫んだ瞬間、ひび割れた結界から光が無数の剣のように飛び出し、その光の剣が魔獣を刺した。
めった刺しである。出掛けにメカクレ神官見習いヒーローから貰った祝福が効いたのかもしれない!!
そして光の刃に襲われたマンモス系のバカでかい魔獣はそのまま砂のように消えた。
しかしホッとするのもつかの間、今度はついに結界が壊れた。
「結界が壊れたな」
よく通る美声が聞こえた。
その声と共に前方にふわりと現れた魔族らしき男が笑う。
男は宙に浮いてる。
そいつはコウモリ系の羽根を持ち、羊のような角を生やして群青色ののロングヘアに不吉で美しい紅い目をしていた。
どう見ても人ならざるその男と目が合ったその時、
『呪いを受けよ、人間ども』
男はそう言った。
すると大地から黒い影がいくつも現れた、仲間達が影に飲み込まれそうになった時、
『止めろ! 仲間達に手を出すなっ!! 』
そう叫んだら、影は一斉に影は俺の方にやってきて、俺を包んだ。
ゲームでいう、ヘイトを買う役割をになったタンクのように、俺は黒い影の呪いを一身に受けたんだと思う。
「閣下!!」
「くそっ!影が閣下を!」
「エルシード公爵様!!」
騎士達が叫んだのが聞こえた。
しかし……そこで俺は一旦意識を失った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
──目覚めると……俺は日本にいた。
しかも隣には別れたはずの元彼女の綾華が寝てる。
二人して自宅のベッドの中にいるのだ。
違和感。
あれ? なんだこの状況? まさか過去に回帰した?
しかも日本に……俺は………俺は、今まで何を……していたんだったか?
「どうしたの? きょとんとした顔をして固まって」
隣で寝ていた彼女が目を覚ました。
「俺は……何をしていたんだっけ?」
「昨夜は私といたして寝てただけでしょ? 朝ごはんくらい作ってあげる、何が食べたい?」
ごく普通の恋人同士の会話だ……。
でもなぜか頭にかすみがかかったような感じがする。
「………卵焼きとチーズを巻いて焼いたベーコン」
とりあえず好物を伝える。
「はいはい、朝からハイカロリーね、まぁ、また運動すればいいか」
「運動……」
「えっちって痩せるんだってさ、今日は休みだし」
そう言っていたずらっぽく彼女が笑う。
小悪魔みたいに。
彼女がベッドから抜けだし、台所に向かったので、俺も起きて居間に向かった。
テレビをつけたら、どうやら日曜日だ。
日曜日の朝にやる子供向けのアニメが放送されてるし。
枕元のテーブルにある、充電ケーブルに繋がれたスマホを手に取って曜日を確認すると、やはり日曜日だ。
「日曜日で仕事が休みで良かった……なんだか頭が働かない」
平和なぬるま湯みたいな場所で、俺は台所から聞こえる朝の支度の音に耳を澄ませた。
◆ ◆ ◆
一方、その頃、あちらの世界のエルシードの護衛騎士達。
「どういう事だ!? 何故閣下は目を覚まさないんだ!?」
「どうやら夢魔の術中にはまっています」
「夢魔!? あのコウモリの羽根の男が夢魔だったのか」
「スタンピードは閣下のおかげでどうにか収まったのに、肝心の閣下が目を覚まさないとは……せっかく奥様も増援部隊を送ってくださったのに」
金髪の騎士が悔しそうな顔をして唇を噛む。
「その増援部隊はちゃんと魔獣を倒しまくってくれたのだから無駄ではなかった」
黒髪の騎士が金髪の騎士の肩を励ますように軽く叩く。
エルシードの護衛騎士達はリカータの領主の邸宅のベッドの中でコンコンと眠り続けるケーネストの側にいて、心配していた。
◆ ◆ ◆
そしてケーネストは意識が戻らないまま王都のにある公爵家のタウンハウスに帰宅した。
護衛騎士に担がれて来たのだ。
そして騎士達から夢魔の襲撃を受けたと知らせを受けたアレンシアはすぐさま司祭を呼んだ。
「司祭様! 夫は、ケーネストはいつ目を冷ますのですか!?」
「どうやらずいぶん深い眠りについてしまわれています」
「どうやったら、目を覚ますのですか!?」
「しばらく祈祷を続けてみるしかありませんが……」
「が!?」
アレンシアは嫌な予感がして身を震わせた。
「夢魔の術中にはまったものは夢の中で幸せな状態であれば、ずっと目を覚まさない場合がございます、この、今の現実よりも幸せであったのなら……」
「………!!」
「お母様……」
緊急時であったので、娘のミルシェラも学園には戻らず、タウンハウスにいた。
「ミルシェラ……どうしましょう」
「な、名前を呼び続けましょう、お父様の。司祭様が祈祷中は邪魔になるといけませんのであれですけど、休憩中とかに……」
「そう、そうよね! 呼んだら起きてくれるわよね! ケーネスト!! あなた!! 誰か、公爵領から息子も連れて来て!! 息子が声をかけたら流石に目を覚ますのではないの!?」
アレンシアはハッとした顔で息子の事を思い出した。
「は、はい、奥様! 坊っちゃまをお連れします!」
壁際に待機していた一人の執事が弾かれたように部屋から飛び出した。




