実はお土産を用意してた
ユング夫人は無事に魔法の鳥で妹さんに連絡がとれたようだった。
そして大騒ぎのお茶会も終わりかけになって、お土産と言えば! と、俺は思い出したものを慌てて渡すことにした。
「こちらは我々からのお土産です」
俺はあらかじめ用意していたお土産をお茶会主催者のリンドル侯爵夫人に手渡した。
「これは……いちごですわね?」
「はい、飴をからませたいちご飴です。本当は幾つか連なるように串刺しにされて売られるものですが、淑女に串に齧り付けとは言えませんので、一個ずつのをバラで5個入れてます。
レディ達はお忍びで市井のお祭りなんかには行かないでしょうし、せっかくですから当家で作って来ました」
妻は、え? いつの間に!? って顔をしてる。秘密で用意したので、そうなるな。
「まあ、お祭りに出る食べ物ですの?」
夫人は綺麗なガラス容器に詰めてきたツヤツヤのいちご飴を興味深い目で見つめてる。
これを参加者分、魔法の袋に沢山詰めて来たので、俺は空いたテーブルに出して並べながら説明を続ける。
「ええ、昔……遠くの国で見たんです、先に流行ったのはリンゴ飴ですが、いちご飴の方がおそらくは食べやすいので」
「さっそく食べてみてもよろしくて?」
「もちろんどうぞ」
メイド達が夫人達に瓶とフォーク、またはみじかめの串に似たものを配った。
「あら、美味しいですわ!」
「甘さがそこまででもないいちごでも、飴の甘さでカバーができるんですよ」
「気に入りましたわ!」
「わたくしも!」
夫人達にも高評価でよかった。
「うちの領地のお祭りにはないものだと思いますわ」
「特別有名ないちごの産地でもないと考えつかないかもしれませんね」
「うちの領地でも真似して流行らせてもよろしいのでしょうか?」
「もちろんどうぞ」
別に発案は俺じゃないし、快諾した。
俺と妻がお茶会から馬車での帰還途中、
「あなた、お土産を用意するならあらかじめ相談してくださればよかったのに」
「サプライズだ」
「妻にまでサプライズする必要なんかないのです!」
「すまない、今度は相談するよ」
「変なものを出されては困りますからね」
いちご飴は可愛いし、変ではないと思うんだがなぁ。
少し暑くなって来たので馬車の窓を開けて走ってると、ふいに磯の香りがして来た。
「海沿いの街だ!」
「だからなんです?」
「魚市場があるんじゃないか!? 寄りたい!」
「また、酔狂なことを、私はこんな平民だらけで魚臭いところには降りませんよ」
俺は御者に声をかけて、港街市場に寄り、海産物の干物なんかを購入した。
と言っても、妻は臭いとか言って馬車から降りてこなかったので、なるべく急いで美味しそうな物を買った。
公爵家に帰宅した。
「パパ! ママ! お帰りなさい!」
「「ただいま」」
可愛い娘が俺に駆け寄って来たので、思わず抱きしめた。
「パパ、お土産は?」
「え、あー、お魚といちご飴はどちらがいい?」
「いちご? あめ?」
「まぁ、そうなるか」
魚より甘い方が好きだよな。
サロンにてメイドに予備のいちご飴を預けて出してもらった。
「いちごあめ、おいちい」
「それはよかった」
娘に、甘くて美味しい、いちご飴を食べさせていると、魔法の鳥が飛んできた。
幸いカフェイン騒ぎのユング夫人の妹さんのお腹の子供はひとまず無事だし、なんとかなりそうな雰囲気だとか、大事なことを教えてくれたお礼の内容を、改めて伝えて来た。
そして妻はいちごあめを頬張る娘の隣に座る俺に向かって、少し何か言いたげに俺を見つめたが、この世界にいない姉の為にお茶などの事を調べてたとは言えなくて、俺も、もう同じ話題は出さなかった。
その後、俺は風呂に入ってから、書類仕事を少し片付けた後に、翌日は領地視察に出ることにした。
自分の統治する領地のことはこの目で見て調べないとな。




