闇ギルド
「色々と大変だったみたいね」
「はいぃー、もうダメかと思いましたぁ……」
冒険者ギルドで話をつけた後、クロをユーリのとこに残して帰ってきたんだけど、その後すぐに侵入者が現れたらしい。
そいつらとの戦闘でクロが負傷したと聞いて、急いでユーリのダンジョンに来たって訳。
「クロも良く頑張ったわね。でも無理しちゃダメよ?」
「了解ッス……」
クロは落ち込んでるけど、今回は相手が悪かった。
集団での戦い方からして普通の冒険者ではないのは明らかよ。
「しかしこの者達は何者なのでしょうか? 統一感のある装備品を身に付けてるようですし、ただの冒険者とは思えません」
それよねぇ。
冒険者ギルドには話したから、アイカの言う通り普通の冒険者は来ないはずよ。
デルタファングの恐ろしさは有名みたいで、絶対に戦ってはいけない相手であるという事が昔から引き継がれて残っているらしい。
そして実際にギルマスの前にも姿を現して見せたんだし、既に今頃は冒険者ギルドで話題になってても可笑しくない。
「それでも来たって事でしたんで、捻り潰してやりましたぜ!」
「モフモフも良くやったわ、有難う」
尻尾をブンブンと振り回すモフモフを撫でながら、周りを見渡す。
その光景は夢にまで見そうなくらい悲惨な有り様で、まさに文字通り捻り潰したという表現がピッタリだった。
だがモフモフとしても、全員を仕留めた訳ではなかった。
最後に倒したリーダーと呼ばれていた黒装束には、止めを刺してなかったのだ。
しかし、終わった後に見てみると、既に精気を吸われたミイラのように変貌しており、この者から情報を聞き出すのは不可能であった。
「今気付きやしたが、他の奴等の体も腐ってるようですぜ」
リーダーの黒装束だけでなく、他の黒装束も同じような状態になっていた。
「これは恐らく証拠隠滅ね。正体を隠すため、死んだらミイラになるように予め仕組んであったんだわ」
もれなく黒装束全員が同じ状態なのを見ると、私の考えは多分正解だと思う。
「あのぅ、このまま放って置いても大丈夫なんでしょうか? もしかしたら、報復されちゃったりとか……」
ユーリの懸念はもっともね。
面子に拘る者達ならば、確実に報復に出て来る可能性が高いわ。
「そうねぇ。さすがにこのまま……ってモフモフ、何もない空中を眺めてどうしたの?」
「へぃ、少々面白いもんを発見しやしたんで」
「ふーん? まぁいいわ。とりあえず、もう1度ソルギムの街に行く必要がありそうね。コイツらの亡骸をギルマスに見せてみましょう。何か分かるかもしれないし」
少なくとも普通の冒険者ではないって事は分かるんだけど、それ以上の事が分からない。
冒険者をやってたブラードさんなら何かしら心当りがあるかもしれないっていう微かな希望にすがる形になるんだけども。
「お姉様、あのギルマスに頼る方法もありますが、それよりもあの方に確認するというのはどうですか?」
あの方?
あ、それってもしかして……、
「ミゴルさんの事?」
「はい。わたくしが思うには、黒装束達はダンジョンに関わってる者ではないかという考えなので」
うん、そういう見方もあるか。
それならミゴルさんに確認してみるっていう手もあるわね。
ならさっそくミゴルさんに連絡を……といきたいところだけど、このミイラの写メを添付しておこう。
ちょっと気味悪いけど、仕方ないって思って割りきる。
「ア、アイリちゃん、死体を写メるのはどうかと思うんだけど……」
いや、好きでやってる訳じゃないからね!?
「しょうがないでしょ、証拠画像が無いと分かりにくいんだから! なんならユーリのスマホにも送り付けるわよ!?」
「いいいいい嫌ですよそんなの! だいたいスマホ持ってないですし」
そうだった。
私以外のダンジョンマスターは、スマホなんて持ってるわけないわ。
「まぁ写メの事は置いといて、ユーリにはサポートセンターに連絡してほしいのよ。この添付した写メも一緒にね」
「うぇぇ、嫌だなぁ……」
私だって嫌なのを我慢して写メ撮ったんだから、それくらいやってほしいわ。
「アイリちゃん、とりあえずダンマスサポートセンターには連絡しましたよ。添付画像に関しても、調査に時間がかかる場合が御座いますって言われました」
本当は最優先でやってほしいけど、そうもいかないか。
「まぁしょうがないわね。後は待『マスター、ミゴル氏がお見えになりました』
おっと、ユーリのダンジョンコアによると、ミゴルさんがやって来たらしい。
というかミゴルさん早くない?
仕事が出来る人なのは分かるけど、それにしては早すぎよ。
「夜分に失礼します。わたくし悪魔族のミゴルと申します。添付された画像の件でお伺いしたいのですが……おや? アイリ様もご一緒で御座いましたか」
「こんばんはミゴルさん。あの画像の連中ならそこに居ますよ」
近くに無造作に放置されたままのミイラを指でさした。
「これは……ふむ……」
それにしてもミゴルさんはハイスピードで現れたけど、やっぱり知ってるんだろうか?
「アイリ様、それからユーリ様、実はこの者達の親玉を、我々は探しているのです」
黒装束の親玉……それってやっぱり普通の人間じゃないって事よね?
「お察しの通りです。その親玉はダンジョンマスターで御座いまして、とある事情から我々とは敵対しておりましてな、どうしても所在地が分からないのです」
成る程、訳有りのダンジョンマスターか。
ならそいつをどうにかしない限り、ユーリは危険が付きまとうって事になるわ。
でもそいつの所在地は私達にも分からないわね……。
「心配にゃ及びやせんぜ姉御!」
「ん? モフモフ、何か考えが有るの?」
「へい、先程アッシが睨んでた場所から何者かに見られてる感じがしやしたんで、そこに向かって念話を送っときやしたから、アンジェラなら探知出来ると思いやすぜ!」
さっき睨んでた場所…………あの上の方を見てたわね。
そこから見られてたって言うけど、それはどういう事なんだろ?
「ふむ、黒装束と共に何者かが最初から監視していた可能性が有りますな」
さすがミゴルさん、頭の回転が早いわね。
どっちにしろアンジェラに探知させれば分かるでしょ。
ってな訳で私のダンジョンからアンジェラを引っ張って来た。
「まったく、飯時だというのに……」
晩御飯の前に働かされるのが気に入らないらしいアンジェラから不満の声が漏れるけど、少しは我慢してほしい。
「文句言わないの。終わったら晩御飯はジンギスカンにしてあげるから」
「ジンギスカン……それは肉か? 肉なのか? 肉なんじゃな!? 肉じゃなかったら暴れるぞ!」
「ジンギスカンと言えば羊肉ですね。ですから肉で間違いないですよ」
最近スマホから余計な知識を仕入れてるアイカは物知りね。
「ならば良い! 探知波動」
さぁ、これで黒装束達の親玉を捕まえられれば落ち着きそうね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ルカーネロの反応が消えただと!?」
「はい、間違いありません。ダンジョンコアの入手に向かってから暫し間を置いた後に、部下6人と共に消失いたしました」
部下からの報告を聞いた男は、信じられないという顔をしている。
「だがルカーネロの実力はAランクの冒険者に匹敵するはずだ。そう簡単に死ぬような奴ではないはずだが……」
ルカーネロと呼ばれてた男は、部下を引き連れてユーリのダンジョンを襲った黒装束の事である。
そしてそのルカーネロだが、実際にはAランクの冒険者を凌ぐ実力を持っていたし、更には部下が6人もいた状態だったのだ。
部下達の実力もAランクの冒険者と並ぶ強さであった。
そんな彼等に死を招いた魔物がいる。
そう考えると、とても楽観視出来る状態ではなかった。
「司令、記録石が届きました。御確認を」
突然部屋の中に現れた……正確には司令と呼ばれた男の机に石ころのような物が現れた。
記録石……所持者の記録を紐解く石で、所持者が死んだ場合、自動的に使用者の手元に戻ってくるのである。
「うむ」
司令と呼ばれた男が、記録石と呼ばれる石を手に取る。
すると記録石は光を放ち、何かを映し出した。
その映像は洞窟内を映してるようで、黒装束を着た者達が奥へと進んでる様子を捉えていた。
「どうやら侵入先のダンジョンのようです」
「………………」
黒装束達は魔物や罠を回避しつつ、奥へと進み続け、やがてコアルームらしき小部屋の前に辿り着く。
「あの部屋の前にいるのは……」
「差し詰め、ダンジョンマスターの眷族……といったところでしょう」
眷族らしき狼とはクロの事だ。
そのクロとの戦闘も、負傷者こそ出てるが問題ないレベルに見えたであろう。
そして今まさにクロに対してルカーネロが止めを刺そうとしていたのを見て、思わず首を傾げてしまう。
「あの眷族も問題なかったとなると、一体何が……」
と、思ったその時、ルカーネロ達の背後に黒い影が出現したかと思うと、次の瞬間には2人の黒装束が倒れていた。
「な!? 何が起こった!?」
「……わかりません。ルカーネロ達の反応を見る限り、気配を察知出来なかったようです」
「ルカーネロでも察知出来なかっただと!? そんなバカな事があるか! 奴は気配察知というスキルを持っていたんだぞ!?」
ルカーネロの持つスキルは気配察知と言って、周囲に存在する生命体を認識し、動きを察知するものである。
そのスキルが通用しない者がいるなど、とてもではないが認める訳にはいかない。
だが無情にも映し出されているのは、一方的に殺されている黒装束達の姿だ。
そして最後に残ったルカーネロも、結局は血の海に沈んでいった。
「………………」
あまりにも衝撃的で言葉が出なかった。
自身が抱える精鋭が、手も足も出ずに全滅した。
この事実を理解しなければならない。
しかし、現実はとことん無情であった。
相手はそんな隙すら与えてくれはしなかったのだ。
「し、司令、アレを!」
部下の1人が映像に指をさす。
その先には真っ直ぐにこちらを見据える狼が映されていた。
そしてその狼こそが、衝撃をもたらした原因であった。
「ま、まさか、こちらに気付いたとでもいうのか!?」
「……いえ、そんなはずは……」
狼はさらにこちらを凝視し続け、最後に記録石を通して念話を送ってきた。
『次はお前らだ』
映像はここで終了していた。
「……最後の念話、聴こえたか?」
「……はい、聴こえておりました」
「……間違いなく、次はお前らだ、と言ってました……」
有り得ない。
魔物の強さにしてもそうだが、記録石を通して念話を送ってきた者など聞いた事もない。
一体この狼はなんなのか……そう思考する司令だったが、部下の1人が徐に声をあげた。
「デ、デルタファング、奴はデルタファングです!」
「デルタファング? ジード、何なんだそのデルタファングとやらは?」
どうやら司令はデルタファングを知らなかったようで、ジードという部下に聞き返した。
「Sランクの魔物で、そいつを敵にまわすと生きて帰る事は出来ない。とまで言われています」
「Sランクの魔物……バカな! 何故このようなところにSランクの魔物がいるんだ! ここのダンジョンは、誕生して間もないはずだろうが!」
混乱のあまり、部下達を怒鳴り散らす司令だが、そのような事をしても現実は変わらない。
寧ろ時間を浪費してる分、徐々に地獄がせまっていると言っていいだろう。
「くそっ! 何とか手を打たねば……」
何とか打開策を練ようと試みるが、そんな司令の耳に侵入者を知らせるアラームが聴こえてきた。
既に地獄が始まってるかのように……。
アンジェラ「肉じゃ肉じゃあ!」
アイリ「生肉じゃなくて、焼いたお肉から食べなさいよ……」




