The salesman defeats fucking Great-Evil. Chapter1(訳:営業マンはクソったれな巨悪をぶっ倒す 第1幕)
結局投稿すると宣言した日の翌日未明に投稿となって、本当に申し訳ありません。
これはもう毎日更新からペース落としたほうが良いんじゃないかと思うくらい、全然筆が進まない......。
Salesman defeats fucking Great-Evil ー Chapter1
俺は昨夜忍び込んだ際にファルク国王陛下から命じられたままに、14の刻(14時のこと)に王の部屋を訪れていた。
昨夜去り際に、王が『昼間よりも強力なセキュリティーが働いている』と言っていたのは嘘では無いようで、城で働く者の数こそ多くても、対侵入者用のシステムは俺にとってはザルに等しい程度でしかなかった。
なんでそんな事が出来るのかというのは、ぶっちゃけ俺にも理由はわからん。
ただ、この手のトラップを無事に超えて目標に辿り着く事が出来ているから、恐らくはその手のトラップに対して何らかの抵抗力を『暗殺者』スキル辺りが持っているんじゃなかろうか、と勝手に考えている。
いやだってな、暗殺者っていうのは数多の警護の目をすり抜けて目標を手に掛ける人間の事だろ?
だから王宮のセキュリティーに俺は引っ掛からないか、あるいはセキュリティー自体は稼働しても俺の力で強制的に無力化しているかのどちらかだと思う。
後者の場合は即座に警戒魔法が解除された途端に騎士達が飛んで来るだろうから、恐らくは前者の感知されない効力が発動してるのだと思うけどな。
なんでこんな曖昧な表現で済ませてるのかというと、ギルドカードのステータス欄を調べてもそういった記述が無いために詳細が掴めないのだ。
ちなみに、今頃奇襲の準備をしている冒険者たちには、どうしても必要な下準備があると言って誤魔化して来ている。
ミシュリアからは結構な文句を言われたが、これなくして奇襲の後の展開で我々が勝つ事は無くなるのだから大目に見てもらいたい。
なんてこの場においてどうでも良いこと、れっきとした国王陛下の目の前でも堂々と考えていられる辺り、この世界に来てから俺は本格的に色々と改造されてるんだなぁと思う。
誰が改造したのかは知らねえが、この顔といい身体能力といいスキルといい、だ。
「よく来た。まぁまずはそこに掛けると良い。軽めの茶でもてなそう」
「せっかくのお誘いではありますがこの後もやる事が詰まっておりますゆえ、謹んで辞退させて頂きたく存じます。それで、殿下がこのような時間に私をお呼びになられた理由を、そろそろお話いただきたいのですが」
「……非公式の謁見とは言え普通王族からの直々の茶のもてなしを断る時点で、君は既に命を一つ失っている事を理解しているか?」
「そのような”下らない雑事”で私の首が飛ばされれば、この街の、特に”闇”との因縁がある冒険者の多くは王に対し失望を寄せるでしょう。そうなれば、せっかく整えた騎士団と違って『決して裏切る可能性の無い』貴重な対”闇”との戦力を失う事につながりません。そしてそれは決してこの国に少なくない不利益となる筈です。ここまで言っても、私の首をその権力で刎ねられるおつもりですか?」
「……年若い見た目の癖をして、随分と頭の回る男だな君は」
「私が噂でお聞きした情報が正しいのなら、私は御歳35歳となられる殿下の一つ年上なのですがね……」
「……すまん」
「謝られる前に、とにかく早く理由をお聞かせ頂きたい。こうしてる間にも犠牲者が一人二人と増えてるやもしれないのですから」
「そうだな……。フェリスニア」
「はい、貴方」
王妃殿下の名をファルク王がお呼びになられるとともに、王妃が何やら綺麗な装飾の入った筒を持って俺の前に現れた。
やがて俺にその筒を渡そうとするのだが、その所作が実に洗練された美しいものであり驚いた。
一般庶民の生まれの俺からすると、育ちの環境の違いでここまで立ち居振る舞いに差が出るものだなと思う。
ミシュリアも貴族の中でも伯爵家出身ではあるが、彼女の場合はもともとが『平民』である住民に対しても同等の立場で接するように常に振舞って生きていたせいか、丁寧ではあってもそこまで隔世的に美しいと感じる事はなかったのが本音だ。
それと比べた時の王妃の動きの質はなんというか、さすが王族に嫁入りするに相応しい身分出身なだけはある。
結論、一瞬見惚れた。
もちろん、彼女自身ではなくあくまでも彼女の『振る舞い』にだが。
「これを、お受け取りください」
「は……。殿下、これの中身は一体?」
俺の疑問は当然のものであり、国王陛下も特に大きな反応は見せずに口を開いた。
その内容は大変驚くものであったが。
「その書簡の中に入っているものは私の血を以って書いた、『王家にしか書くことの出来ぬ』最高令状だ」
「血を以って? ということはこれは、血書であると?」
「ただの血書ではない。これは『命誓の血書』という極めて強力な魔法道具だ。これはな、実際に血を使った当人に対して決して破ることの出来ぬ誓いをさせる道具である。誓いを破るような事になれば、血を使ってこれを書いた物はこの血書の効力により死に至る」
王の言った書簡の中身の力に対して驚愕する。
血書自体は俺も知識として知っている。
自分の血で自身に課す誓いを書いた物の事だが、地球に魔法なんて物は当然存在しない。
血書を書くという文化が生きていた頃は、当人が自らの血を使うだけの覚悟を持っている事を周りに示すためと言う意味合いが強かった。
ところが話にあった『命誓の血書』とはその効果をわかりやすく言うなら王は今事実上、死神に人質に囚われてるも同義である。
つまりは、約束を果たせなければ死神が命を刈り取りに来る。
なんというデスノ◯トだよ、本当に。
「な、なんて事をされたのですか! 幾ら何でもそこまでやるだなんて!」
「私は、昨夜1日考えたのだ。君の提案してきた事を跳ね除けた上で、自分の力だけで”闇”を葬る事ができるのかと」
「殿下……?」
俺が王の意思を問うと、王は神妙な顔をしてうつむく。
これからの国を憂う王としてのその顔に、思わず俺は黙るほかなかった。
「君が調べた通り、この国は既にこれ以上無いほどに腐りきっている。私が想像しているよりも遥かに多くの者が、罪なき者を貶める事によって甘い蜜を吸っている。よもやこれほどまでに広がった腐敗を焼き尽くすには、私の代では成しきれないやもしれない。それだけの悲惨な状況を君が持ってきた書類は証明した」
「……」
「君がこの国を救う手助けをしてくれるこのチャンスを、逃した場合この国の未来はどうなるか。
私はいずれ王家の意向を以ってしても”闇”を抑えきれなくなり、堂々と汚職や不正が横行するふざけた国家になる未来も有り得るのだ。もはや誰彼が良いなどと言っていられる段階はとうに過ぎている。借りられる力は全て借りよう、何としてでもこの腐った社会を次の代に残す事だけはあってはならぬ。
私はそう考え、この決意のもとに『命誓の血書』を我が血を使ってしたためた。これが、私の王としての覚悟だ……!」
王は昨夜も見せたとても悔しげな表情を浮かべ、同時に歯を食いしばる。
目もギュッと閉じられ、彼の”闇”に対する思いが通じてくる。
本当にこの男は王として国を救おうと考えている。
いや、先代どころか先先代から存在を知っていながらまともに手を下さなかった、王家にある責任を感じているのか。
どちらにせよ、目の前で本気で悔やむ様子を見せるこの男は間違いなく、王として民を導ける器を持っていると感じた。
そして民を導くために、良い国を作るために、自分の命を懸けてこの血書を書いた。
「……殿下の王としてのご覚悟の証、確かに私が受け取らせて頂きました。では今宵、”闇”への『行動』を実行致します」
「うむ……。どうか、必ずや成功させて欲しい」
「ええ、必ずや。この国で苦しむ弱き民のために、私もこの身を戦いに差し出しましょう。それでは用意がありますので、これにて……」
「良き結果を君の口から聞ける事を、心より祈っている」
「どうかご無事で。ファルク王と共に僭越ながら、私からも祈りを捧げます」
「両殿下のお心遣い、痛み入ります……ではっ」
両陛下のありがたいお言葉を頂戴し、俺は王宮を後にする。
道中は気配を感じさせずとも見られては不味いので隠れながらの移動だったが、やはり俺がどんな動きどんな場所をしても警戒魔法が発動する気配はない。
この王宮、こんなへっぽこセキュリティーで大丈夫なのか??
もしかしなくても俺のスキルが異常すぎるだけという線が濃厚であって欲しいが、奇襲を敢行する前に暗殺者による両陛下暗殺!とかってなったら本気で笑えないぞ。
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「こらぁタカヒト!! 今までどこ行ってたんだよぅ! おかげで私たちだけで必要なものを一から整理しなくちゃならなくなったじゃないかぁ!」
最大限の尾行などの警戒をしながら、奇襲の拠点としているギルドの施設へ向かうと、部屋を開けたとたん涙目のミシュリアが腕をブンブン回してポカポカ殴ってきた。
いやっ、ちょっ、ちょっと! 猫パンチじゃなくて本気の拳で凄え痛いんですけど! ミシュリアさん!?
「痛い!痛い!痛い! なんだ何が起こったんだ。というか、俺が最初奇襲に必要な物品の検品やら管理の主導してた時には半分まで終わってたよな? なんでそれが最初からなんてふざけた展開になってんだ?」
「タカヒトがいなくなった後も必死に頑張って仕事してたんだよぅ! それだけども、だんだん雲行きが怪しくなってきて……」
「その”雲行きが怪しい”のところで具体的に何があったんだ?」
「つまるところ、書類仕事が多すぎてみんなの頭がパンクしたんだよぅ……」
「はぁっ!?!?」
何を言ってやがるんだこの人は。
たかがこれだけの書類と実物の検品をするだけで、すぐに頭がパンク!?
冗談だろ? 確かに20人弱の大人でやってるには少し検品の速度が遅いとは思ったが、まさか頭で少し複雑な計算を出来る奴が殆どいないってことか!?
……いや、冷静になれ。
この世界で学校に行けている奴らはごく少数、読み書きはなぜか『かなカナ文字』の日本語が普及してはいるがそれもあまり複雑な文体は読めない人が多い。
ましてや数学っていうのも、ちょっと難しい計算方法は日常では多分殆ど使わないだろう。
ついつい日本人での感覚で怒鳴ってしまったが、この世界では商人でもなければ『これが普通』なんだ。
なのにそれ以上のレベルを初見で求めるなんてのは、無茶振りもすぎる。
「……みなさん申し訳ありません。少々下準備の関係で気が立っていてつい、怒鳴ってしまいました。とにかく、初めからやり直しというのなら、急いでもう一度初めから検品し直しましょう。今夜はいよいよ決行の日ですから」
「うぅ、あの頭の痛くなる地獄をまた味わうのかぁ」
「良いからやろう。皆でやればすぐに終わらせられるさ」
「あ〜い。うぅ……」
ミシュリアがノロノロとした動きでゆっくりと立ち上がる。
彼女は仮にも以前は領主として書類と格闘していた立場じゃなかったろうか?
そんな疑問が一瞬芽生えるが、とにかく今は必要な物が頼んだ通りに来てるかの検品だ。
この動きの流れが”闇”の一派に気付かれてなければ良いんだがな。
一応はギルドマスターに『近々大規模討伐作戦を実施するための事前準備』だと報告してもらってはいるが、裏でコソコソ嗅ぎ回る連中が嘘だと見破る可能性は極めて高い。
本当に、どうか何事も起きませんように。
そういう風に祈った時って、大抵何かしらのアクシデントが起こるもんなんだが、ハァ怖いなぁ。
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結局、俺が当初終わると仮定していた時刻よりも大幅に遅れて準備が整い、気づけばすでに空は赤く染まっている。
といっても、なんだかんだでトラブルが起きても多少なら巻き返せるよう時間を組んでいたのが幸いし、ほぼ予定通りの時間に俺たちは夕食を食べ、いつでも出られるよう待機している。
とはいえ、いよいよ宿敵というか因縁の仇を討てるという緊張からか、どうにも冒険者たちの顔が硬い。
隣に座っているリサを見ても同じ気持ちのようで、普段は優しいお姉ちゃん的な雰囲気の彼女がカチコチに固まっている。
これじゃあ、いざ怪我人が運ばれてくるとパニックになるかもしれないな。
俺が王都に来たことで巻き込んだ形になり申し訳なさもあるのだが、いざ戦いが始まれば使えない奴は邪魔にしかならない。
ちなみにリサはもともと回復魔法の使い手ということもあって、ナーベラ商会本部の後方で傷ついた仲間を回復するのが仕事だ。
ミシュリアはそのサポート兼護衛役として、魔法剣士の実力をしっかり振るってくれるらしい。
残念なことといえば、今回の戦いで彼女たちの活躍が見れない事だろう。
俺に合った役目と彼女らに合う役目が異なるから仕方ないのだが、それでもやっぱり戦う姿というのは見ておきたいものだ。
特にミシュリアについては、以前の『影』からの奇襲時には俺が立ち回って片付けてしまったため、彼女の戦闘スタイルを見た事がないのである。
魔法剣士とはどのような術で相手と戦うのか、男のロマン心というか大変興味をくすぐられる。
リサもリサで、ヒールのような回復魔法で仲間を癒すところというのを是非この目で見てみたい。
仲間が活躍するところを見てみたいのにそれが出来ない事は、言ってもどうにもならないが本当に残念である。
ただ、リサもさる事ながらミシュリアまで緊張している。
これは二人とも緊張を解してやらないといかんな。
「リサ、時間まで俺の肩を使って休んでくれてもいいよ」
「え?」
「そんなに緊張してると、いざという時に何か仕損じるかもしれない。今のうちに、心だけでも休ませておいた方が良いよ」
「あ、あぅぅ……。じゃ、じゃあ! お言葉に甘えて……(失礼します)」
ボソッと失礼しますと言ったがちゃんと俺の耳には届いている。
かと思うと、トンと栗色の髪が俺の肩に乗っかった。
今までのガチガチな硬い表情ではなく、リラックスした安らかな表情(というか寝顔)になった。
なにこれ、さっきの一瞬の恥じらいによる逡巡からの失礼しますで肩にトン。
この子すごく可愛い。一瞬男としてクラっと来そうになった。
これが男を落とそうとする女の無意識の力という奴なのかもしれない。
戦う前に随分と浮かれてる自覚はあるが、それだけ今のは破壊力が大きかったのだ。
「あれあれ? タカヒトー?」
さっきまで緊張してたはずのミシュリアが、肩でリサの枕をしてる俺の姿を見て急にニヤニヤし出した。
というかこの子も、もう完全に初対面時の清楚で可憐でお嬢様っていう印象は無くなったなぁ。
元来の気質がアクティブで加えてこういう内面が素のものらしいが、おかげで変に遠慮する事なく会話できるようにもなった。
無論こっちとしても壁を感じずに居られるから、とても精神衛生上よろしい関係だ。
見た目は薄紫がかった腰まである銀髪のロングヘア、顔立ちはそんなにアクティブそうには見えないから、だいぶ普段の行いと素の表情でギャップはあるが、そこもまた彼女を形作る魅力の一つだろう。
「ミシュリア様も、私の肩で良ければもう片方お貸ししますよ。どこか羨ましそうな表情をされていましたからね?」
言ってて自分で傷ついた。
自意識過剰も良いところの気持ち悪いセリフを我ながら吐いてしまったよ。
恥ずかしい。
いやな、ちょっとした思春期を脱したばかりの揶揄ってくる乙女を弄ってやろうと思ったんだよ。
でも気付けば口からあんなセリフが出てた。
もうやだよ、恥ずかしい。
でもそんな俺の内心とは裏腹に、ミシュリアは大慌てで否定なされた。
「ななななななななななにを言っているのかなぁ! タカヒト君はぁ! そんな事でお姉さんを誑かそうったって、そうはいかないんだぞぅ!」
「……俺は少なくともお前よりプラス10年は生きてるんだがな」
「だだだだだだだからといってだね!! 乙女の心を弄ぶなんて、その、10年早いんだよぅ!」
「その理屈を俺に当てはめると、適齢期オーバーどころかもう完全に行き遅れなんだけど……」
「あっ……」
「あっ……じゃないよ! まったく。でも、これで少しは緊張は解けたか?」
「ふぇ……?」
なんでそのことをっていう顔をしてる。
ちょっと惚けた感じの表情ってあんまり見ないからな、割と何でも出来ちゃうタイプのミシュリアの中では珍しい表情だ。
やがて、俺に緊張してたことを悟られたのが恥ずかしかったのか、色白の彼女の頰がちょっぴり紅く染まる。
「そ、そんなことを言ったって、完全に緊張が拭える訳じゃないんだぞぅ」
「ああ、それは重々分かってるよ。命をかけた舞台に上がろうとしていて、緊張しないほうが可笑しいんだから。でもな」
「な、なにさタカヒト」
「程よい緊張感ってのはあるんだ。気が変な方向に飛ばず、責任感で押しつぶされずの丁度良い塩梅ってのがな。あんま気負い過ぎても良い結果は得られない。程よい緊張感を保ちながら、いかに自分が最高の動きを発揮できるか。どんな状況でも結局はそこに尽きると思う。なんて、10年人生の先輩からの言葉だけど、どうよ?」
「ふ、ふんだ。そんなこと言われたって、ミシュリアさんはリサちゃんと違って陥落なんてしないんだぞぅ」
「別にそういうつもりで言った訳じゃないさ。けど、押しつぶされそうなほど重い緊張感じゃあなくなっただろ?」
「……うん!」
「じゃあ、もう少しだけゆっくり心を落ち着けると良い。始まったら、今日は当分会えないからな」
「……そだね。うん」
そう言って、彼女は空いているもう片方の俺の肩に頭を乗っける。
うん? 誑かすなんて10年早いとかいっておきながら、結局俺の提案は受け入れてるじゃないか。
こういうツンツンしながらもデレデレしてるのを、最近の若い奴の言葉でなんていうんだっけ?
えーっと、そうだ。
「ツンデレか」
「違う! もう許さないんだぞぅ……」
ミシュリアの頭が俺から離れる。
まあ、彼女の緊張が解れたのなら良しとしよう。
作戦開始まで、あと数時間だな……。
結局今回もブリーフィング回みたいな形に...。
次回こそ、本当に攻撃開始です。多分...。




