営業マンは悪を打ち倒すべく行動を開始する 前編
キナ臭いお話その2
俺たちは捕えたこの男たちを、冒険者ギルドに突き出す事で一致した。
国の経済に影響力のある豪商が事に関わっている以上、”国が有する公的権力”である騎士団や衛兵に突き出しては、所属する兵が賄賂で買収されてしまう可能性がある。
あるいはすでに買収済みの内通者が、こうしてノコノコ突き出されたメンバーを証拠隠滅に暗殺する危険性も否定できない。
そこで、俺たち冒険者が所属する母体組織にして強力な国際的影響力を持ち、各国行政機関や権力者と相互不干渉の立ち位置にあるギルドに突き出す事にした。
ギルドからしてみれば、組織に属するメンバーへ刺客を送り込まれたわけで、それに対する策を考えなければならないのは当然の責務と言える。
加えて、メインのターゲットになったのが一国の伯爵令嬢という事もある。
この件で対応を誤れば、国とは相互不干渉とはいえ、王国内でのギルドの立ち位置が悪くなるのは否めない。
こうした背景を鑑みれば、ギルドに男ら二人を突き出せば秘密裏に始末されるといった可能性は圧倒的に削れるはずだ。
問題は残る捕虜。
リオという名の俺に送り込まれた刺客の扱いだ。
彼女自身の記憶を見て、彼女が望んでこの立場にいる訳じゃない事は知っている。
他にどうしようもなかった中で、守りたい存在 のために自らを犠牲にしたのだ。
俺の暗殺は未遂となり、罪状としてはおそらく殺人未遂となるんだろうが、彼女の場合は情状酌量の余地はあると思う。
最終的な判断はこの国の司法が決めるとはいえな。
俺たちはリオを部屋に拘束したまま残し、男らを抱えてギルドへの夜道を急ぐ。
月が再び雲の合間から姿を見せているとはいえ、物陰は目視ではほとんど真っ暗なのは変わりない。
もし万が一、見捨てた仲間を後々始末するために別の『影』がいた場合に備え、俺は常に鎌を構えて臨戦態勢を維持しながら歩いた。
かくして、一応は24時間営業であるギルドに無事に辿り着いた俺たちは、この男たちを突き出すべくしかるべき対応をするよう迫る。
ギルド職員は最初は何事かと訝しげに見ていたものの、ミシュリアが貴族としての立場を使ってギルドマスターに取次を頼むよう依頼してくれたおかげで、思っていたよりかは話がスムーズに進んだ。
ギルドマスターのいる部屋に通された俺たちは拘束した男たちも一緒に、ギルドマスターが来るのを待った。
やがて、奥の一室(多分プライベートな部屋だろう)から一人の初老の男が姿を現した。
俺はこの深夜に急に呼び出してしまった事への申し訳なさもあり、席から立って深々と一礼をする。
「結構、さすがに常識外れな時間に人を訪ねたという自覚はあるようだ。冒険者によっては、この程度の礼儀もなってない生意気な者もいるのでね」
「まずは、このような時間に訪ねたことの失礼をお許しください。どうしても早急に耳に入れたほうが良いと思った事がありましたので」
「ふむ、それがそこにいる男たちという訳か……」
ギルドマスターは眼を鋭く細め、強烈な眼光を持って相対する俺たちを射抜く。
なかなかに鋭い眼力で威圧感もあり、少なくとも無能なトップではないことは実感できた。
マスターは席を立ち上がり、未だに俺の毒で事実上の昏睡状態にある男二人を見る。
仮面を取ったり、持っている剣の鞘だったり服装、それらが持つ断片的な情報から、彼は男たちの正体についてすぐに見当をつけたようだ。
「この者たちの狙い、恐らく主軸はミリュリアお嬢様といったところかね?」
「間違いなくそうかと思われます」
「して、君はリーシュの危機を救った鎌使いと、違うかい?」
「そこまで仰られるとむず痒いですが、その噂が指しているのは私のことかと」
「ならば、この者たちを追い払ったのも?」
「ええ。ミシュリア様より手段を選ばない者と情報を頂きましたので、戦闘経験のあるミシュリア様をリサと共に屋根の上へ退避させ、自分が地上で男たちと戦闘をしました。敵の隊長格と思しき男は私が二人を沈めた時点で実力差を悟ったのか、すぐに撤退命令を出して引き下がりました。そのまま男たちを放置した場合、後から送られた者に証拠抹消に殺される可能性もありましたので、国家権力の及びにくいこちらに引き渡しに来た次第です」
「なるほど……」
マスターは眉間に深くシワを寄せ、瞼を閉じてゆっくりと考え込む。
白髪をオールバックにしつつ、品のある佇まいをしたダンディな顔つきの男性。
この人も若い頃はブイブイ言わせてたんだろうなぁと、場違いな感想ながら思う。
マスターは頭の中での考えがまとまったのか、眼を開きこちらを見据え口を開く。
「君は突然だが、何のスキルを持っているんだね」
「は? スキル、ですか?」
「ああ、そうだ。この者たちは見たところ『影』と呼ばれる密偵の一味だ。黒い事を専門にこなす連中で、目的さえこなせるのであれば平気で色々なことをしでかす連中だ。それはミシュリアお嬢様もこの者らの正体を確信した上で君に助言したのだろうし、君自身もそれは分かっているはずだ。だがね」
マスターはここで一度言葉を区切る。
再度鋭い眼光が俺を射抜き、必然的に俺は緊張を強いられる。
その眼には誤魔化しが効かないことを暗に示されているようで、俺は正直に彼の問いに答えるべきか逡巡した。
くどい様だが、俺のチカラは仮に世間に公表すれば間違いなく厄介ごとに巻き込まれる。
それはひとえにチカラの本質が強力すぎるから。
・レベルが上がればウソ発見器よりもずっと確実に人の心を暴ける『鑑定眼』
・どんな毒でも生み出し、拷問するにも何にしても『暗殺者』と併用すれば死ぬ直前で抑えられる『毒使い』
・確実に相手の気配を察知し、人を殺す究極の技を極めた『暗殺者』
・対象がどこにいるのか、周囲はどんな状況なのかという情報を完璧に整理して仕分ける『鷹の眼』
・様々な道具をまるで達人並みに扱えるだけでなく、回復薬などの道具に効果を追加できる『道具使い』
・『道具使い』と併用すれば、資材さえあればどんな物でも治すことのできる『修復師』
・今はまだ初の状態だが、それでも有用性の高い魔法を習得する『大魔術師』
こんな強力なチカラがあれば、下手をすれば国をひっくり返すことだって出来てしまうかもしれない。
『暗殺者』のチカラで気配を消し、忍び込んだところに料理などに毒を盛り、国の根幹を成す王族を全員毒殺するなんてことも、このスキルと覚悟と実力さえあれば恐らくは出来てしまう。
目の前に座るギルドマスターは当然、スキルという物の価値やそれが持っている危険性という物を熟知しているだろう。
これを見せた時、この男はどう感じるのか。
「そもそも『影』というのは、普通の冒険者が戦って勝てるような相手ではないのだよ。卑怯なんて言葉は彼らの頭には無い。自分の目的遂行の為なら何でもやる。君はDランクから冒険者をスタートしたとリーシュのマスターから聞いているが、Dランク冒険者の実力では徒党を組み、殺しに慣れた『影』に勝つことはほぼ不可能と言っても良い。だからこそ聞くのだ。君は一体どういうスキルを有しているのかと。あくまで私の勘に近いものだが、君の眼を見た限り、どうにも『影』の有力な情報を有している様にも見える。男たちを殺さず拘束し、わざわざここまで連れてきたという行動にも君の狙いが見えるのだよ。さあ、答えたまえ」
「っ……」
さすが、荒くれ者が多く集まる冒険者ギルドのマスターを務めるだけはあるらしい。
まさかこの男も『鑑定眼』に近い何かを持っていたりするのか?
そうでなかったとしても、話している俺のちょっとした動作や仕草、眼の動きから推測したのか?
『無能のトップではない』なんて表現じゃ生温い、この人は相手の嘘を絶対に見抜けるタイプの人だ。
俺は横に座る二人を見る。
ミリュリアは俺の迷いを感じたのか、それを断ち切るようにはっきりと一度頷いた。
リサはスキルのことを話すのかどうか不安そうだったが、最終的には俺に任せるつもりの様だ。
彼女から俺の情報を話すつもりは無いらしい。
覚悟を決めて、俺は自分のギルドカードにステータスを表示し、ギルドマスターに見せる。
受け取ったマスターは俺のステータスを見た途端、驚愕に眼を見開く。
やっぱり俺のステータスはバグってるようだ。
しばらくギルドカードを見つめていたマスターだが、ハッと我に帰ると俺にカードを返す。
「いや、正直予想以上の凄まじさだ。これなら『影』と一戦構えて撃退するというのも頷ける。それと、私が推理した『敵の根幹的な情報を有している』という点も、この保有スキルの構成を見るに真実であった様だ」
「……」
「これほどまでの力と、常人には習得しきれない数々のスキル。しかもどれもが強力であり、下手をすれば人との絆を失くすことにも繋がりかねない危険なチカラだ。会ったばかりの私を信用するなんてとても出来ないだろうが、よく君は正直にこれを見せてくれた。君の行動は勇気ある行動だと思う。まずは、私を信じてくれてありがとう」
「いえ……」
「そう怯えることはない。私とて、冒険者を統括するギルドマスターの一人だ。もし所属するメンバーが困っているのなら、我々職員にはメンバーを助ける義務がある」
マスターは変わらずの鋭い眼光を浴びせつつも、柔らかな微笑を浮かべて口を開く。
さながら、顔は笑ってるけど目は笑っていないという状態に近い。
しかしなぜか、信じてもいいと思えるようなオーラも滲み出ている。
これがこの男なりの”信”の示し方と判断するべきか?
「私は君をどうこうするつもりは全くない。君自身も君の態度から察するに、この力が露見した時の危険性と自分の行く末にははっきり気付いているようだ。その上で聞くが、君たちはこの後どうするつもりなのかね?」
「この襲撃を企てたものを捕らえ、彼らの罪を白日のもとに晒そうと考えています」
「ほう?」
再び鋭く細められた眼が、ヤバイくらいに強い威圧感をぶつけてくる。
けれど、ここで臆してちゃダメだ。
この国のこの社会の問題によって、確かに傷ついた人がいる。
それを解決し救う事ができるのなら、この強大な力を喜んで振るおうじゃないか。
弱い人を傷つけるのではなく、強い悪を倒すのにこの力が役に立つのなら。
「すでにスキルの効果により、隊長格の男を始めとする襲撃してきた一団は全員『マーク』しています。今は感知できる範囲の外に敵が離れているため場所はわかりませんが、また私の周囲に接近すれば居場所はすぐに私に伝わります。そして『鑑定眼』の力により、アジトの居場所も既に見当がついています。本人の記憶から覗き見た情報ですので、よほど相手の警戒心が高く、部下ですら知らないような安全策を何重にも張り巡らせていない限り、ほぼこの情報の信憑性は確実なものであると思います」
「こうした切っ掛けによる情報漏洩を防ぐため、盗撮防止に行使される魔法やスキルもこの世には存在する。が……君の『鑑定眼』は既に『極』の状態にある。まだレベルは第一段階とはいえ、『極』という極めて強力なスキルによる干渉を盗撮防止系統のそれらの術が防げるかというと、その答えは極めて不可能に近いとも言える。少なくとも私は聞いた事がない」
「ということは?」
「ああ。君の持つ情報というのは、ほぼ確実な信憑性を持っていると言って良いだろう」
「そうですか。では」
「ただし、まずは君が持つ情報というのをこちらが聞いてからだ。我々も『影』を使って悪さをする連中の存在は知っている。だが先も言ったように、彼らは部隊を組んで動く上に手強い。故に今までは捕らえて罪を償わせることは出来なかった。しかしそれが、言い方は悪いが君の力を上手く利用できれば、この国の裏で甘い蜜を吸っているやつらにも一矢報いることができるというわけだ。そうだろう?」
「恐らくは。いずれにせよ、単独ではもみ消されるほどに国の裏でうごめく奴らの闇が深い以上、公的権力の及びにくい組織による罪状の立件と司法による処罰を行わなければ、いつまでたっても根本的な解決には程遠いでしょう」
俺は、ここで言葉を区切る。
ギルドマスターの眼を見据え、はっきりとした覚悟を問う。
「お尋ねしたいことがあります。貴方は、この国を覆う闇を払う『覚悟』がありますか?」
「もちろんだ。私とてこの国の生まれだ。国を只の食い物にしている奴らに対する怒りを持っている。今まで散々にギルドに所属する冒険者たちに辛酸を味わせてくれたが、それをこの時を持って終わりに出来るなら、やってやろうという気持ちだよ」
信じられないなら私の眼を見ると良い、なんなら『鑑定眼』を使っても良いさと言って、マスターは俺を見返す。
しかし先程までの鋭い眼光は無く、けれども覚悟を持ち合わせた『強い意志』をはっきり見せつけてくれた。
そこまでするなら、俺も貴方を信じようじゃないか。
お互いの意志が一致した瞬間というわけだ。
「ならば、これより情報をお話ししていきます。事は慎重に運ぶ方が良いでしょう。着実に奴らの外堀を埋めていきましょう」
「わかった。こちらも情報を聞き次第、必要な人員等を秘密裏にリストアップしていこう」
こうして俺たちは、ミシュリア襲撃を企てた連中と、ついでにこの国に巣食う闇も払うべく行動する事となった。
今回は一緒にいるはずなのにタカヒトさん以外の女性陣がほぼ空気状態




