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営業マンは宿でスヤァしていたところにイベントが起こったけれどもそれは決して宿屋の店主に『昨夜はお楽しみでしたね』と言われるようなムフフ的イベントじゃなかったり

少しずつキナ臭くなっていく展開です



 パーティー会議が終わった俺たちは互いの部屋に戻り、有料で提供されるタライとお湯とタオルを使って体を拭く。

 時代が時代なだけに、日本のように毎日風呂を沸かすなんてのはこの世界じゃ相当の贅沢である。

 水はそれなりに潤沢にあるとしても、火を使ってお湯を沸かすという事が大変なのだ。

 ガス機器というのはなんて便利な代物だったのか、地球が誇る文明の利器の魅力を再確認した時でもあった。


 ちなみにこの宿屋は隙間風が吹いたりは無いのだが、どうもこの部屋と隣室とを隔てる壁が少々薄いようである。

 なんでそう思ったかというと、隣の部屋にいるウチの女性陣二人の声が聞こえてきたからだ。


 た〜だ体を拭いているだけの筈なんだがな。

 リサのものらしき艶めしい雰囲気の声が聞こえて来る。

 俺が20代だったら即座に聞き耳立てて様子を伺ってた自信があるが、もう30代も折り返しを過ぎたこの歳じゃあな、微笑ましさを感じるというか……。

 枯れてるわけではない、異性の同性にしか見せない振る舞いに性的に興奮するような時代は俺の中では終わってるだけなのだ。


 例えば今のように……


『ふぁっ...だ、だめだよリサぁ...タカヒトに声聞こえちゃぅ...ひゃっ』


『さっきはあれだけ私の体を弄ってくれたから。ミシュリアにも同じ恥ずかしさを体験してもらわないと……ふふふ』


『ば、バカァ…そこは、だめ、だめなのぉ…あっ、あんっ...』


「……はぁ〜」



 一体二人は何を乳繰り合っているんだ……。

 思わず額に手を当ててため息をつく。


 もっかい言うが、俺は断じて枯れているわけではない。

 こんな光景に20代の頃に遭遇してた場合、マチガイなく盗み聞きする位はやってたと思うけど!

 こうやって呆れからため息が出るようになった辺り、そろそろ本当に歳になってきた気はするが。



 自分の体をさっさと拭いて、できる限り体の垢を落とす。

 終わればお湯を宿屋の店員の娘(店主の親父さんの娘らしい)に返し、そのまま親父さんが作る夕食を食べるべく食堂に繰り出す。

 しばらく経ってようやく顔を見せた女性陣は俺の顔を見るなり、なにやらまた不満そうな顔を浮かべる。



「タカヒトタカヒト、なんでもうここにいるのかな」


「夕食を食べるのにここ以外にどうしろと言うのさ」


「私たちの魅惑のシーンに突撃してくるかと思ったんだけど、来なかったからさ」


「会ってまだ一月しか経ってない相手のもとに突撃するほど、俺は性欲に飢えてはいないぞ」


「リサの声を聞いても?」


「あいにく、そうしたアプローチで興奮できるほどもう若くはないんでね」


「へっ?」



 俺の返答を聞いたミシュリアが、間抜けな返事を返して俺を見る。

 初対面の人間からされるリアクションとしてもう慣れたんだが、いちいち説明しなおすのも妙に億劫に感じる時もあるのだ。

 相手からしてみりゃ、そんな俺の個人的な事情は知ったこっちゃねえから説明はするけどさ。



「俺はこう見えてもう36年生きてるんだ。もう若い若いなんて言ってられる歳では無くなってきてるわけよ」


「ぬっふぇ!? そんなに生きてるの!? そんな私と同い歳の、失礼だけどまるで経験無さそうな男に見えるのに!!?」


「人生経験ならお前より10年は多く積んでるからな。お前の言う経験無さそうって、どういう経験が無い事を指してるのかよく分かんねえが、とりあえず何か失礼な事を言われたとだけ認識しておこう」


「いやいやいや!! そんな気にするほどの事じゃないって。と、とにかくっ! 結構お待たせしちゃったみたいだから、リサも座って早く食べよう!!」


「ああ、そうしよう」


「そうですね。これがメニューみたいですけど、何にしますか?」



 俺たちは店のメニューから適当なものをチョイスして、今日の夕食を頂いた。

 結論を言えば、この世界に来てから食べた料理の中ではかなり美味かった。

 調味料があまり出回っていない関係上、さすがに地球で作られた調味料込みの料理と比べると少し味気ないが、その分素材の味をしっかり生かした料理という印象を感じた。

 受付嬢として庶民の生活を送ってきたリサはもちろん、貴族として良質な食事を食べて舌が肥えているだろうミシュリアも高い評価をしていた。


 しっかり腹ごしらえを済まし、また朝食を食べる際にミーティングをしようという事で今日は解散。

 互いの部屋に戻り、それぞれ床についた。



----------



 ふと、何か違和感を感じて目が覚めた。

 周りはまだ真っ暗闇であることから、おそらく眠ってからそこまで時間は経っていないと予測する。

 なんだろうか、どこかから敵意のようなものを感じている気がする。


「な、なんだ? 嫌な予感がするぞ……」


 いつ何が起きてもいいように『鷹の目』スキルを発動したところ、感じているこの違和感の原因が分かった。


 昼間ギルドを訪れた際に俺たちを獲物を狙うか如く見ていた、チンピラらしい冒険者とその仲間数人。

 万一何か仕掛けてきた際にすぐ気付ける様に『マーク』をしていたのだが、これがいよいよもって功を奏したらしい。

 明らかな敵意を持って、この宿屋に向かってきているのが分かった。


 彼らがどういう目的を以ってこちらに来るかまでは分からないにせよ、『鷹の目』の感知に引っかかるって事はどのみちロクでもない事をやるつもりに違いない。

 幸い、マークした男たちがここに来るまではまだ距離もある。

 その間に仲間たちを連れ立って、安全なところに避難させておこう。



 そう思った次の瞬間、部屋の窓から黒い外套を纏った奴が襲いかかってきた!



「っ!?」


「!」



 咄嗟に身の危険から守るため、ストーカー事件以降に用意していた暗器の一つを投げる。

 相手は俺が迎撃してきた事に驚いたのか一瞬動揺するも、すぐに取り直してこちらに武器を向ける。

 いきなり部屋に侵入してきた辺り、ハナから俺の事は殺す前提か、あるいは誘拐するつもりでいるのかもしれない。

 どのみち、話し合いの通じる相手ではない事だけは言えるだろう。


 幸いにして部屋は結構な暗さ。

 今日はかなり月明かりが出ているため、部屋と屋外の明るさにはそれなりの差があるはず。

 相手はこの手のプロだとしても、目がこっちの明るさに慣れるまでは多少有利に事を運べるだろう。

 こちらには『鷹の目』というレーダースキルがあるから、この部屋を赤外線カメラを使ってる感じで鮮明に捉えられている。


 加えて、『鑑定眼』というふざけたバランス崩壊スキルも持っている。

 相手の正体を丸裸にしてやろうじゃないか。



 互いに、得物であるナイフを片手にジリジリと間合いを少しずつ詰める。

 こんな狭いところでは鎌はまるで役に立たない。

 俺自身にナイフを扱うスキルは持ち合わせがないが、これが『暗器』を扱う事に『暗殺者』スキルがカウントしてくれる事を願うしかない。


 そう思いながらも同時に『鑑定眼』を発動し、相手の情報を『鑑定』して調べてゆく。

 現在進行形でプライバシーを侵害してるわけだが、こんな事をされちゃあ情報を得る必要がある。

 自分の、仲間の安全のためにも。



「へぇ? 君の名はリオか、女の子なんだね」


「んなっ!!?」



 いきなり相手の正体を見抜く。

 普通ならどう頑張っても出来やしない事も、俺の持ってるスキルであれば実現可能だ。

 案の定、自身の正体がわけも分からず相手に露見してしまった事に大きく動揺してしまった。


 その隙を突いて『鷹の目』の能力で思考を大幅に加速。

 そのままリオという名の(おそらく)刺客へ駆け、『暗殺者』スキルが覚えているそのままに彼女の肺の辺りを”普通の人間が死なない程度に”思いっきり突いた。

 後ろから抱きとめるようにしてもう片方の腕で抑えたため、衝撃が逃げる事も叶わず。

 彼女は肺の空気を全て無理矢理押し出され、あっという間に行動不能となる。


 その間も万が一があるといけないから、動けない間に猿轡と縄を使って彼女を拘束。

 加えて、首に手刀を落として意識を刈り取る。


 ちなみにこの辺もなぜか『暗殺者』スキルによる恩恵のおかげだ。

 暗殺に失敗した場合に備え、誘拐して適当な場所で殺せるよう、こうした捕縛技術も持っているとか?

 理由は分からないが、ひょんな事でリーシュを旅立つ時にこの事に気付いたので、一応念のためと縄を買っておいたのだが……。

 まさかこんな形で役にたつとは、本当にこの世界はおっそろしい世界ところである。



 もちろんこれまでの一連の動きは全て思考加速してる間に行われたため、今の彼女は気付かぬ内に肺の空気を押し出され、悶えてる間に完全拘束された状況な訳だ。

 自分でやってるとはいえ、これ被害者からしてみると実にわけわからん事態である。



 彼女は俺(のスペック)が自分の到底及ばぬ存在であると認識したらしい。

 理屈で理解できる次元を超えた動きを見せた俺に、恐怖が止まらないのか気を失いながらもなお大きく体を震わせている。



「さて、手荒な真似をしてすまないな。けど、君がこういう穏やかじゃない方法で面会に来るからさ。こっちもそちらの態度による『相応』の応対の仕方ってのを取らせてもらったよ」



 勘違いのないよう説明しておくが、俺は人を痛めつけて喜ぶ男じゃない。

 スキルの誘導に従って俺が彼女にとった行動というのは、俺の感情的にはかなりやり過ぎたという思いもあるんだが、それ以上に”下手に手を抜いたらこっちが死ぬ”という状況において、正直手段を選んでられなかったというのが一番大きい。

 その結果スキルが最適解を見つけああした行動をとったというわけだ。

 確かに肺を一気に叩けば、相手は呼吸するのに精一杯で仲間を呼ぶ余裕がなくなる。

 その間に猿轡をして体を拘束してしまえば、舌を噛み切るなどの自殺をされる心配もなくなる。


『暗殺者』スキルはこういう事態において極めて優秀なスキルであると分かった。



「さて、それじゃあ悪いけど、命の危険に晒されている以上は容赦をするわけにはいかない。君が持ってる情報を出してもらうよ」




 俺は再び『鑑定眼』を発動する。

 人の思考までは今のスキルのレベルでは読み取れないが、彼女が刺客として俺の元に来た理由は分かった。


 同時に、俺はこの『鑑定眼』スキルの能力と重大な危険性を改めて実感する……。

次回はこの刺客がなぜタカヒトさんの元へ来るに至ったのか、そこを掘り下げていきます。

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