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営業マンは旅に出るが人間関係に早速悩み始める

今回からまた通常の毎朝6時投稿に戻していきます。



 旅を始めて二日目。

 王都まではこのペースで行けば明日の昼過ぎには着けるらしい。

 ということは、もう一度野営をする必要があるということだ。


 道中は特に危険な野獣と出会うことはなく、あったとしても野うさぎとかちっこいネズミとか、そんなものだった。

 丈の短い草しか生えておらず、また往来も多くて比較的人の気配が多いためか、生き物たちは人に対してある程度慣れているような印象も受ける。



「タカヒト」


「なんだ?」


「せっかくなんだし、リサのことも名前で呼んであげたら?」


「うん? もう名前で呼んでるじゃないか」


「そうじゃなくて、さん付け丁寧口調をやめてさ」


「私もその方が良いです! そのほうが、タカヒトさんと……そのぅ、あぅ……」


((かわいい))



 何を言おうとして自爆したのか分からないが、リサさん・・・リサの恥ずかしさで悶える姿というのは中々可愛らしい。

 それは隣を歩くミシュリアも同意のようで、ニコニコしながら彼女を見ている。


「分かったよ、リサ。それにしても、恥ずかしがる姿もかーいーなぁ」


「リサのそういうところ見ると、私もほっこりするよ」


「からかわないで下さい! もうもうもう!」



 あらら。

 ほっぺを膨らませてプンプン怒ってしまった。

 いや、今の段階なら拗ねてるだけかな?


 ここでさらにふざけて膨らんだほっぺに人差し指でブスーってやると、大抵の人は多分怒るからな。

 この辺でからかうのは止しておこう。



「悪かったよリサ。ほら、もう少ししたら休憩しよう」


「お、それは私も賛成かなぁ。そろそろ小休止ならぬ中休止が必要な頃合いだと思ったんだよ」


「なら決まりだな。もう少し頑張ろう」


「はーい」



 今歩いている街道は、基本的に大人の足だと3日掛けて踏破できる長さらしい。

 ところが野営ポイントというのは、法で定められたような基準に基づいて設置されたわけではない。

 そのため昨日は少しハイペースで進んだが、今日は普段歩くペースで進むことになっている。

 つまり、お茶を淹れて落ち着くくらいの長い休憩も挟めるのは単純に、そうした無秩序なやり方の配置のせいで1日目と2日目の野営ポイントの距離が短いからという理由がある。

 つまり、序盤と最後は本腰入れて早く歩かなければならないが、中盤はすこしペースを落として余裕を持って歩けるコースといえば分かりやすいだろうか。


 すこし歩いたところで、俺はバッグから昨日と同じようにコップを3つ取り、昨日沸かすついでに煮沸消毒をした水を3人分に分けて入れる。

 本当は紅茶やらコーヒーを飲みたい所ではあるが、前者は使い終わった茶葉をその場に捨てるのが躊躇われたことでボツ。後者はそもそもコーヒー豆が手元に無いので実現不能。


 本来はこれが冒険者の普通の休憩なんだよと、ほっと息を吐きながらミシュリアも言っている。

 もしこの先行商人の護衛依頼などで他の冒険者と組むことになれば、俺の取ってる行動は彼らには非常識なものとして映るだろう。

 一般の常識である生活の仕方というか旅の仕方にも、慣れておくべきということだな。

 ミシュリアは恐らく、言外にその感覚になれるのは危険だと警告してくれているのだから。



「ところでタカヒト」


「うん?」


「この間私と初めて会った時に」


「ああ」


「今まであった女性の中で一際綺麗だったから思わず見惚れてしまいましたって言ってたよね」


「ああ、言ったな」


「タカヒトさん???」


「なんでそんなことを私に言ったの? 本気にするとかって思わなかったの?」



 いきなり何を聞いてくるかと思えば。

 確かに、あれは街に入ろうとして一騒ぎ会った際のことだ。

 ミシュリアが自分の顔に何か付いてるか?と聞いてきたので、俺は当たり障りのないようにそう答えたのだ。


 瞬間的にチラ見スキルを発動させていた以上、見とれていたというのはあながち嘘でもなかったしな。

 そのあとに軽く受け流すかと思ったら、意外にも両手で口を押さえて顔を赤らめるという反応を見せてくれたんだよな。

 それがまたかわいいというか綺麗というか、男が見ていて嬉しくない訳がないものだった。


 あれ、なんかこれ行動の選択肢を間違えた気がしなくもないぞ。



「あの時点において、俺はあくまで本心を言っただけのこと。その後口説くように聞こえたかもしれないと思って訂正も入れただろ? そもそも、俺みたいに容姿の平凡な男にあんなセリフ吐かれたら、普通生理的な気持ち悪さの方が上回るだろう」


「「はい??」」


「はい?」



 おい、なぜそこで二人ハモって疑問を返してくるのだ。

 言っとくが、俺の顔は本当にどこにでもいる東洋人フェイスだぞ。

(多分)ブスではないがイケメンでもない。

 そして36になったオッさん突入間近な男に嫁ぎたいと思う人間は……何人か告白してきた女性社員はいたな。

 けどそれは俺の内面をしっかり見てくれたから告白してきた訳で、俺の外見については以前も述べた通り、営業部にいる人間全員が『普通』という判断を下している。


 つまり、この世界の価値観が地球と違わない限り。

 今二人が俺の言葉に疑問を投げかける意味がわからないのだ。



「タカヒト、鍋の水面に映る自分のお顔をさ。よく見てみると良いよ」


「私もそうした方が良いと思います。タカヒトさんはその、イケメンですから、他の女の一を引っ提げてこないか心配です……あぅ」



 いよいよ何を言ってるんだ。

 地球とは美醜の価値観が相対してるのか?


 そう適当に結論付けて、俺はとりあえず言われた通りに鍋の水面に映り込む顔を見てみた。



「………………………………………………………………ダレコレ」



 思いっきり不審そうな顔を浮かべためっちゃイケメンが写っていた。


 はっ!?

 ちょっと待て待て!

 俺の顔が俺の顔じゃなくなってる!?


 訳が分からなくなってもう一回水面を覗き込む。

 やはり映り込むのはイケメンの顔。



「………………………………………………………………本当にダレよコレ」


「ど、どうしたの? そんなに冷や汗流して」


「どこか体調でも悪いんですかっ?」



 なにがどうしてこうなったのか、誰か説明を要求する。

 なんて言ったところで答えてくれる奴がいる訳もない。


 とりあえず心を落ち着かせよう。

 慌てたところでなんにも良いことはない。



「あ、ああ。悪い、少し取り乱した」



 とはいえだ。

 なんで俺の顔がこんなイケメンに作り替えられちゃってるわけよ。

 うん、いや? ちょっと待てよ?


(これって、俺の前の顔のパーツ配置や構造を思いっきり美化した結果じゃねえのか?)


 ふとそんなことに思いつく。

 というのも、どうも目元や鼻の作り、口の形とか眉の太さ、そうした要素の一部一部に俺の素の顔の面影が感じ取れる。

 俺の顔写真を編集して思いっきり美化してやると、多分こういう形に収まるんだろうなぁと。

 そんなイケメン化整形予想図的なものの結果がそのまま俺の今の顔になってる気がした。


 ってことはだよ。

 ミシュリアを本音で褒めたあの時も、俺はこの顔でクッサイ台詞を吐いてたことになる。

 他の人と話す時も、この顔でいろんな表情をして話していたわけだ。


 試しに顔の表情をいろいろ動かして遊んでみる。


 真顔、歯をチラ見せしてクールな笑顔、手を顎に当て考え込むポーズ、怒った感じの顔、困った感じの顔、悲しそうな顔、口を開いて大笑いの顔、女に擦り寄るイケメン野郎のイケメンフェイス……



「ぐはっ」


「「タカヒト(さん)!?」」



 最後に浮かべたイケメンフェイスをこの目で見た瞬間に死にたくなった。

 あれは女性には絶大な破壊力があるかもしれないが、男の俺が見た途端気持ち悪くなった。

 っていうか、ツバ吐きかけてやりたくなるくらい生理的にムカつく顔だった。


 ダメだ。

 俺はこの顔に慣れていないから、これから先ことあるごとに自分の顔を見るたび死にたくなるかもしれない。

 俺はイケメンになりたいなどと思ったことはない。

 あの顔でも生きていくのに不自由しなかったわけで。


 ちくしょう。

 誰だ俺の顔を勝手に整形しやがったのは。

 俺をここに無理やり連れてきたことといい、会った時には必ず文句言ってはっ倒してやる。

 つうか絶対見つけ出してやる。



「さて! もう俺の顔のことはいいだろう。二人とも、まだ休憩は必要かな?」


「わ、私はもう出発しても構わないけど……」


「私も良いですよ?」


「じゃあそろそろ出発しよう。さあさあ」



 余計なことを考えそうになった俺は、気を入れ替えるべく出発を提案した。

 一応ミシュリアから受けた疑問には答えたし、これで良いだろう。



 てくてく歩くこと3時間くらい経ち、本日の野営スポットに到着した。

 昨日遭遇した一団が結構大規模だったのだろう。

 今日の今のところは俺たち以外にここを使うものはいないようだ。

 あたりはまだ明るいので、火おこしをはじめとする作業も昨日よりも早く確実に進められた。



「それじゃあ、私たちはそこの木陰に隠れてちょろーっと野暮用に出かけるから、火と荷物の番を頼んでも良いかな?」


「くれぐれも周囲には気を付けてな。万一何かあった時は、俺の名前を呼んでくれればすぐに助ける」


「そうは言っても、私たちの居場所はわかるの?」


「今……スキルでリサとミシュリアを『マーク』した。何をやっているのかまでは知ることはできないが、俺が情報を呼び出せばどこにいるのかはすぐに分かる。大声を出してくれれば、このスキルですぐに場所を特定して助けに行くよ」


「……そんな使い方によっちゃ危ないスキル、タカヒトみたいな良い人に渡って良かったねぇ。リサ」


「はい。そう思います。アイツがもしこのスキルを持っていたら……」


「ストーカーに持たせちゃいけないスキルの筆頭だな。んじゃ、気を付けてな」


「行ってくるね」


「行ってきます」



 二人はタオルと着替えと護身用の武器を持って、木陰の奥に消えていった。

 言い忘れていたが、この野営ポイントにも水辺はある。

 俺がいるところからもすぐ目の前にあるわけだが、なんで木陰をわざわざ通ったのかと。



「察しろ!」



 俺は誰に対して今叫んだのか。

 無論、覗きなんて真似をするほど俺は昂ぶっていない。

 むしろ、火にかけた鍋の中でなるだけ美味しい紅茶を作るべく、頑張っていた。


 やがて木陰から濡れた髪で帰ってきたミシュリアとリサは、それぞれ俺の隣に腰掛ける。

 ちょうど完成した紅茶をコップに入れて二人に手渡したところで、二人の表情に気づく。

 なぜかリサは不満げに、ミシュリアはなぜかニマニマとした顔を浮かべてる。

 あんなおしとやかな伯爵家のお嬢様なのに、こんな顔も出来るんだなぁ。


 と思ってると、左横に座るリサからこんなことを言われた。



「なんで、覗きに来ないんですか……?」


「ぶふっ」



 中身をふき出す手前でなんとか飲み込んだが、突然の奇襲攻撃に思わずむせる。

 あと、紅茶が結構な量気管に入って余計に苦しい。


「ゲホッゲホッゲホッ!」


「だだだ、大丈夫ですか!?」



 背中をさすって落ち着かせようとしてくるリサだが、思ったよりも紅茶が多く気管に入り込んだようで、吐き出すのに苦労して顔をまともに見れない。

 しばらくしてようやく呼吸が落ち着いたところで、俺はリサの発言の意図を訪ねた。



「いきなり何を言い出すかと思えば!! 二人が水浴びする前のやり取りは『ダメよやるなよ』じゃなくて、『来てねやってね』のフリだったのかい!」


「だ、だって……、男は女の身体を見ればイチコロだって、街を出る前にルーナが……」


「だから昨日も言ったけど、もうすこし段階を踏んでいこうって。いきなりそんな事をされてもこっちは戸惑うだけだからさ」


「もしかしてタカヒトはコッチなの?」


「しばくぞコラ」


「ごめんなさい」


「話を戻すけど、今は旅をする事に集中しよう。あんまりその、俺を困らせないでくれると助かる」


「あっ……。ごめんなさい」



 リサがシュンとしてしまったが、すまないがこちらの気持ちも組んでくれると嬉しい。

 俺自身はもともと彼女に何か想っていた訳ではない。

 なんだか知らないが状況が色々と狂った結果、片思いの女性が相手の男性とともに旅をしている。

 現状はそういう状況なのだ。


 俺があと10年若ければ、覗きを『覗かないのはむしろ女性に失礼にあたる』とかなんとか言って実行してたかもしれないが、俺はもうそこまで性欲が昂るほどぶっちゃけ若くないのだ。

 ある程度人生での経験を積んで、落ち着きが出たというか。


 リサの気持ちも出来る限り尊重したい意思はあるが、こと恋については理性でどうこうできる問題ではない。

 本能的=気持ちの問題である以上、俺も中途半端な態度で向き合いたくないという思いがある。

 そして今の対応が中途半端じゃないのかと聞かれたら、俺は違うと断言する。


 今の時点では彼女には申し訳ないが、俺は彼女には知人以上の感情を抱いていないのだから。

 だからこそ、知人としての関係から少しずつ距離を近付けていこうと提案しているのだ。

 それに出会ってたった一月では、相手の本質の深いところまで見極めるのに時間が足りなさすぎる。



 食事の時もそのあとも、昨日に続いてまた気まずい空気が漂った。

 しかし今回はリサが最初の火の番をしてくれるというので、言葉に甘えて俺は先に仮眠を取ることにした。


 寝てる時に聞こえたリサの呟きは、聞こえなかったことにした。

 まだまだ出会ったばかりなのだから、焦る必要はないんだと。

 何度も彼女に伝えていけば良いと思うから。

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