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営業マンはやっと旅に出る

投稿が遅れまして申し訳御座いません。



 彼女を護衛するために遣わされた密偵の女性を治療するため、先ほど置いてけぼりにしたリサさんの元にミシュリアに遅れて到着する。



「お疲れ様です。では早速ですけど、後ろに背負われた方の怪我の具合を……」



 俺は赤髪の女性を静かに地面に横たえる。

 うわぁ、サンドバッグ発言を受けて、本当に気の向くまま手加減なくやった感じだ。

 いくらなんでも、これは流石に酷すぎやしないかい?


 そう非難の意を込めて目をミシュリアに向けると、バッ!と瞬時に顔を逸らされた。

 どうやら、彼女も激情にながされてやり過ぎたという思いはあるようだ。



「大丈夫そうです。このくらいの怪我なら私でも治せます。ただ……」


「「ただ?」」


「ミシュリアにはどういう事情があるのかよくわかりませんけど、これだけ人を痛めつけるのは流石に酷すぎます。ちゃんと事情の説明と、彼女が気付いたら誠意を持って謝りなさい」


「はい……」


「まったくもう、本当に反省してください」


「すみません……」



 この世界には魔法という便利なものがある。

 加えて、野獣だけでなく魔獣もいれば賊もいれば、つまりは人は簡単に死ねてしまう。


 だからか、どうも命に対する考え方価値観に、俺とこの世界の住人とでギャップがある印象がある。

 具体的にはさっきの行き過ぎた配下に対する主人の制裁。


 いくら相手がドM(身近にいた人物がそう言うのだから多分間違いない)とはいえ、泡吹いて白目むいてる瀕死の状態でムーンサルトプレスを決めようものなら、本当に死んでしまう可能性だって孕んでいる。

 なのにそれを実行しかけたというのは、ミシュリアにどのような感情の動きがあってそうさせたのか。

 幸い俺がタックルして止められたから良かったが、もし当たって本当に死んでしまったら、ミシュリアはどう責任を取るつもりだったのだろうか。


 いや、もしかすると道徳に対する考え方があまり根付いていないのか?

 日本じゃ小中学生の授業に週1で必ず道徳の授業が組まれ、人によって考え方の異なるシチュエーションで自分はどう考えるか? どう動くか? 相手はどう思うか? 相手はこうだから自分はどうするべきか? ということを学ぶ機会があった。

 しかしこの世界にはそもそも、学校という概念がさほど根付いていないのは明らかだ。

 金のある貴族や商人は、家庭教師を付けたりして子供の教育を付けたりするだろう。

 だがそれは金を持つ一部の家だけ。

 大多数の庶民に家庭教師を雇うだけの経済的余裕は恐らくない。


 とはいえ、ミシュリアも生まれは伯爵家だ。

 家庭教師やら何やら、少なくとも一般の子供よりかは教育を受ける機会に恵まれていたのではないか?


 ちょっとばかし、説教をした方が良いだろうか?

 流石に今回のことはやり過ぎの域に入っているし。



「ミシュリア」


「ん?」


「なんであそこまで痛めつけたんだ? ある程度お灸をすえる程度で良かったと思うが」


「それは……」


「痛くされるのが好きだからといって、死んでしまうほど痛めつけて良いことにはならないだろう。やり過ぎてはならないという一線は無いのか?」


「うぅ……」


「本人の目が覚めたら、リサさんじゃ無いけどちゃんと謝りな」


「そうします……」



 とりあえず、身内かどうかという点では部外者の俺が出来るのはここまでだろう。

 あとは本人にミシュリアが謝って、何か問題が起こればその時にまた仲裁すれば良い。



 ということで、先にミシュリアから言われたアイデアを実行するべく、荷物袋を買いに行こう!

 と行きたいところだが、けが人と治療する人をほっ放っておいて一人買い物とは流石に薄情すぎる。

 俺も、未だに気を失っている彼女が目覚めるまでそばにいる事にした。


 しばらくすると、小さく呻きながら彼女は目を覚ました。

 が、俺を見た途端敵意むき出しの表情で罵倒し始めた。



「あ! てめえはお嬢様と分不相応に仲良くしてやがったクソ野郎じゃねえですか! おのれ、この身を以て成敗してやるです!」



 ヤベェくらいに口の汚い女の子である。

 いや、こんな仕事してるから多分『子』って年ではないと思うけど。


 確かに身分に明確な差がある世の中で、伯爵様にタメ口をきいたのは悪いと思うけどさ。

 いくら身内とはいえ、そこまでいう事ないんじゃないか?



「シファン!! 仮にも街の大英雄になんて口を!」


「知らねえですお嬢様! 私はお嬢様を守る事こそ最大の役目です! お嬢様に近づこうとする不埒な野郎はしばき倒してやるです!」


「しーふぁーんー!!!!!」



 おいおいおい、話を聞かないシファン?という名の彼女に対してミシュリアがまたキレ始めた。



「おいおい! せっかく意識を戻したんだから、ミシュリアもまずはやる事が「なにお嬢様にタメ口きいてやがるですか!」喧しいわっ!! ゴホン、まずはやる事があるだろう」


「う、うん。その、シファン」


「な、なんでございますかお嬢様」


「さっきはやり過ぎたわ、ごめんなさい」


「そ、そんな! むしろ私は日頃のストレスを快楽とともに発散……オイそこの野郎、今のは忘れやがれdeath」


「初対面の相手の性癖をいちいち覚えてられるか。気にせんでいい」


「と、とにかく。お嬢様が気になさる事はないわけです。ところで、この者らとお嬢様は一体どういう関係なんでございます?」



 シファンはじろじろと俺とリサさんを見る。

 さっきは思いっきり愉悦の色を浮かべていた目だが、今は相手をきっちり値踏みするようなものに変わっている。

 曲がりにも伯爵家に仕える者として、相手の質を見抜く目くらいは持っているという事か。



「彼らは怪しい人じゃないわ。片方はギルド職員のリサ、もう一人はこのあいだのラパーヌ大襲撃を撃退した冒険者のタカヒトよ。ギルドカードを見れば、あなたも分かるはず」


「確かにこの者らの身分も重要な情報なんでごぜえますが、それより私が聞きたいのは関係性なんでございますよ。どういうご関係で? 事と返答次第によっては今すぐこの場で処刑しても良いと、お父上様より言付かってる身なのであります」


「「うぇ!?」」



 俺が考えてる事はどうやらマジで当たったらしい。

 なんてことだ、かわいい娘のためなら怪しい奴はとりあえず殺せだと。

 とんでもない父親がとんでもないことをしでかしてくれたよ。



「おいおいおいおいおい!! それじゃあ、今のやり取りだけでも俺は抹殺対象者に入るってことか!?」


「お嬢様と親しげに話してる時点でもうそりゃ。入れるなっつうほうが無理でごぜえます」


「ミシュリア様助けてください」


「えーっと、シファン。この人たちが死んじゃうのは、私的に凄く困るんだけどなぁー。そりゃもう、この先にどとあなたに会えなくなっちゃう位」


「じゃあ心苦しいところですが、お嬢様の顔に免じてこの者らを許しましょう!」


「「へっ?」」


「その代わり、時々にはお顔を見せに帰ってきてくださいね。それじゃあ! 私は先ほど数カ月分のお嬢様からの『ご寵愛バイオレンス』を頂きましたんで、帰ります!! さいならでごぜえます!!」



 それだけ言ってピューっと、シファンは帰って行った。

 え、なにそれ?

 そんなんでこの話終わりなの??

 いくら何でもチョロすぎないか???


 リサさんも同じことを考えてるようで、俺と目が合うと大きく首を傾げる。

 ていうか、密偵の仕事思いっきりほっ放り出してるが良いのか????


 もういいや。

 あの子がなにやらかして怒られたところで、俺には関係のない話だ。



----------



 ミシュリアから提案された案を改めて実行、俺は今肩から下げるタイプのバッグを購入し掛けている。

 いや、紐で袋口の広さを調節するタイプのやつではあるんだが。

 それでも『影使い』のスキル効果を直接他者に見られるよりかは、格段に安全に道具の出し入れができるはずだ。


 ということで、今度こそ旅に出よう。



「改めて聞きますけど、どちらに向かうおつもりですか?」



 てくてく横を歩きながら尋ねてくるリサさん。

 今までは街娘の格好ばかり見てきたため、冒険者が着てるような動きやすい服装を着た彼女の姿は中々新鮮だ。



「王都まで行こうかと、考えています。この国には鉄道があると聞いたので、ぜひ一度それに乗ってみたいと」


「良いですね! 鉄道でしたら、様々なところに行って見聞を広められますね!」


「ええ。そういうわけで、まずは王都を目指そうと思います」


「分かったわ。途中何泊かすると思うけど、野営が出来る場所と距離の感覚はなんとなく覚えているわ。といっても、この街道を真っ直ぐ進めばいずれは着くのだけれど、でもこのペースだと着いて火を起こす前に真っ暗になっちゃうから、もう少しだけペースを速めましょう」


「分かりました!」


「分かった」



 さすが、ブランクありとはいえ現役の冒険者だ。

 行軍がてらミシュリアに話を聞いたところ、立場上王都に出向く機会も多く、そのついでで街道に出る害なす生物と戦いながら往復していたらしい。

 当然、狩った生物の討伐報酬もちゃっかりギルドでお小遣いに変えて。


 そんなこんなで話をしつつ、所々休憩を入れたりして、なんとか夕方の明るい時間に水辺のほとりにある野営ポイントに着くことができた。

 周りを見ると行商人や護衛の冒険者などが何人かいて、それぞれが火を起こしたり座って束の間の休息を過ごしている。



「さて、それじゃあ火を起こさないとね」


「その前に一つ、少々デリカシーに欠けてることを承知の上で聞きたいんだが」


「うん? どうかしたの?」


「俺自身は男だから催したらその辺で用を足せばいいんだが、みたところこの周囲に女性は見当たらない。夜の冷えた時に催した場合、どうやって用をたすつもりだ? 野獣が出る危険がある中で、一人でこっそりというのは流石に危険じゃないかと思うんだが……」



 一応言っておくが、俺は決してゲスな欲望があってこんなことを言ってるわけじゃない。

 ここが地球であれば、夜中あまり離れたところに行かない限りどこで用を足したって構わないからだ。

 ただそれは、人に危害を加えられる存在が少ないから、というのが理由である。


 この世界には危険な野獣というのが割と多く生息している。

 この野営ポイントに、夜中奇襲をかけてくる可能性だって無くはないだろうし、そもそも周囲にいる人間も必ずしも善人とは限らない。

 ましてや二人とも容姿に優れてる女性であり、なおのことそういうふとした隙を突かれないか。

 言い訳にしか聞こえないだろうが、俺はそこが本気で心配なのだ。



 当然だが、こんなことを突然異性に言われた側の二人は顔を赤くしながら困惑している。

 俺自身にも気心通じたわけでもない異性に言う事じゃないのは百も承知だ。

 だが、俺は下心からこれを言ってるのではなく、本当に心配だからこそ聞いている。

 そこを分かってもらうべく、俺の目は真剣に相手の二人を見据えている。



「その辺は、あんま心配しなくていいかな。こういう時って、片方の女性が催した時にはもう一人を連れ立って、片方は見張りで片方は用を足してって感じでやるのが常識的だからさ。それに、心配してくれるのはありがたいけど、私は一応は下手な冒険者には負けないよ?」


「あ」



 そうだ。

 彼女は相当の実力者であることは間違いないのだ。

 というのに、俺は何を余計な心配をしているのやら。

 事実上単にセクハラしただけの結果となり、とても恥ずかしくなってきた。



「まあまあ。実際の私の強さとかの事情はともかくとして、本当に心から心配して言ってくれたのは目を見て分かったからさ。それじゃ、とりあえず火を起こして野営の準備をしよう!」


「あ、ああ!」


「はい!」



 適当なポイントに薪をくべて火を起こす。

 その上に近くの水辺から汲んだ水を鍋に入れ、沸騰して沸かす。

 その後、街で買って影に入れておいた木のカップを3つバッグから取り出し、お湯が冷めた所で同じく街で買った安い茶葉をざるの上で溶かして紅茶を作る。

 本音を言うなら緑茶がいいのだが、日本由来の茶葉がこの世界にあるわけでもないしな。

 紅茶も好きなお茶の一つなので、同行者の彼女たちに振る舞った所大層喜ばれた。


 湯気に含まれた紅茶の香りに誘われて、他の冒険者たちも来たので、自己紹介がてら自分のコップを持ってきてもらい紅茶を振る舞う。

 やはり旅中で水以外の飲み物を飲めるというのは、何日も街と街の間を旅する冒険者にとっては嬉しいことらしい。

 俺がラパーヌの大襲撃を食い止めたことを”ミシュリア”が周囲に暴露した時には、冒険者たちからそれはそれは深く感謝されることとなり、もの凄く気恥ずかしかった。


 そうしてこんなで寝静まった夜。

 俺自身は能力のおかげなのか自身のステータスのおかげなのか、1日寝なくとも全然問題なく活動できてしまうので、寝ずの番というわけでは無いが火を絶やさない番をしていた。


 すると、ふと目を覚ましたのかリサさんが俺の元に来て、俺のとなりに腰掛けた。



「なんていうか、こうして想いを自覚してからなんですけど」


「?」


「好きな人のとなりに座ってるのって、こんなに幸せな気持ちになるんですね……」


「リサさんにそう言われると、男として冥利に尽きますね」


「……あの」


「はい?」


「良かったら、肩に私の頭を乗せても良いですか……?」


「そこまではさすがに距離が近すぎます。もう少し、お互いのことを理解してからでも遅くはないと思います。……少なくとも俺は、今朝リサさんにああ言われて今でも驚いています。正直心の整理がついていないのが現状です。拒絶するつもりはありません。けど、時間を掛けて少しずつ距離を詰めていくのも、男女の仲の紡ぎ方としては悪くないんじゃないでしょうか?」


「そ、そうですよね! 私ったら何を……あぅぅ」



 自分でも恥ずかしいことを言っている自覚はあったらしい。

 俺がやんわりと拒否を伝えると、あうあうと顔を赤くして悶え出すリサさん。

 その姿が可愛らしいというか、かつて日本で俺の兄の嫁になった幼馴染の女の子の高校生ぐらいの姿を連想させ、ついあの頃の兄嫁にやっていたようにリサさんの頭を撫でていた。



「ふぇぇっ!?!?」


「あっと、これは失礼なことをしてすみません」


「い、いえ……」



 なんというか、空気がものすごく気不味い。

 やってしまったという感じがある。

 いくら俺に好意を抱いてくれている女性とはいえ、過程を踏んでからとさっき言ったばかりでナデナデって。



 結局それ以降、俺とリサさんは会話をすることなく火の番を交代し、そいて夜が明けた。

 翌朝何かあったことを見抜いたミシュリアに問い質されたものの、一応は個人の気持ちに関わることなので伏せておいた。

 野営ポイントを出たあともからかってくるのは止めてほしいんだが……。

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