case.021「派遣コーリング」
「そういえば聞きたかったんですけど」
「なにー?」
「あれ、何ですか?」
傷も痕も随分と良くなり、万全と言っていい今日この頃。
僕は常々気になっていたことをついに聞いてみることにした。
「なにって、見たまんま。電話だよー?」
事務所にある謎の黒電話。
書類棚に囲まれてぽつりとひとつ。置いている木製の台すら趣のあるアンティーク調。
「あ、いえ、それは流石に…」
「あっは、流石にわかるよねえ!ヒナタくんの時代にはもう現役じゃなくってもさあ」
ケラケラ笑うサカヅキさんをひと睨みして、何もなかったように僕に話しかけるミチカケ先輩。
「…あれはねー、簡単に言うとー、すっごく切羽詰まったときに繋がる不思議電話だよー。怪異ホットライン」
「怪異、ホットライン」
「そーだよー」
なるほど。
外部からの受注依頼や定期調査だけじゃなくて、突発的に怪異に遭遇した人間を助けるためのセーフティーネットもあるわけか。大事だ。
納得にうんうん頷く。
「あれ、無視?」
「あ、それってあの電話ボックスの…?あれ?でも、勝手につながったような…」
「ああ、それはねー」
「うーん、早くもミチカケちゃんそっくりになっちゃって…」
華麗にシカトされているサカヅキさんが懲りずにちょこちょこ口を挟むけれど、ややこしいのでミチカケ先輩と同じくスル―。あとで構ってあげるんで待っててください。
「怪異ホットラインは、そのまんま対怪異のホットラインでもあるけどー」
きゅきゅ、と取り出したホワイトボードに何やら描いていく。
「怪異の力で動いてるホットラインって意味でもあるんだよねー。こういう意味の重ね付けっていうのが怪異系にはよくあるんだけど、そこはまあ今度詳しくやるとしてー」
A4サイズのホワイトボード。真ん中の上に黒電話、下に電話ボックスのイラストを描いて円でつなぐように矢印。空いた左右のスペースにはも同じようにイラストが描かれていく。
…子ども?いや、人形か?
「電話に関する怪異って色々あるんだけど―、一番有名で、かつ、勝手にかかってくるっていえばなんだと思うー?」
一番有名。勝手につながる。人形。
とくれば答えは一つ。
「メリーさん、ですよね」
「だいせーかい!」
人間らしき簡単な人型のイラストがデフォルメされたお化けに襲われている。そこへ矢印、この状態を感知して電話を繋ぐ。ということらしい。
「怪異に襲われて危険!っていうのをまず感知してー」
「はい」
「それをメリーさんが近場の電話に干渉して、怪異ホットラインにつなぐ」
「はい」
「怪異ホットラインが機能していれば、襲われている人が電話に気づくんだー」
「!僕も急に電話ボックスがあるって気づきました…!」
「うんうん。そしたらー、つながりを辿って対応部隊がそこに行くってわけ。それも怪異を利用して、いわゆる瞬間移動する感じ」
「なるほど!」
タイミングよく電話ボックスに気づいたのも、どこにもかけていないのに電話がつながっていたのも、ミチカケ先輩が来たのも。全部繋がっていたのか…!
え、それってつまり。
「いろんな怪異の能力や特性を掛け合わせて構築してるシステムなんだよねー。いろいろ手間も時間も部品もかかってるから量産できないんだけどねー」
「部品っていうか、怪異がねー。必要な怪異を揃えるの、大変なんだよ。都度メンテナンスというか縛り直しがいるし。ま、俺が作ってるわけじゃないけどね」
なんでもないように言うけど、すごい内容なんだよなあ。
っていうか、やっぱ怪異謹製なんだ。あれ。いろんな意味で。
「…そうなんですね!」
「そうそう」
詳しい仕組みなんかは聞いても分からないし、深く聞くのはやめておこう。
「じゃあこの形であることは何か意味があるんですか?小型化は無理でも、もっとこうデザイン的な…」
事務所に置くにはちょっとテイストが違う気がするというか。いや、案外しっくり来ているような気もするけれど。
「それも一応縛りのうちではあるんだよー。メリーさんに付随するイメージっていうか、電話関係のホラーのイメージ?集団認知は強い力だからねー」
「ああ…」
「やっぱホラーってレトロなところあるしな。見慣れない、古い、怖い。この3つは連鎖だから」
口々にそういうサカヅキさんとミチカケ先輩。
素人知識でも、たしかにホラーものってそういう要素が多いかも。
「新品ピカピカ、っていうのもシチュエーションによっては逆に怖いかもだけどねー」
「たしかに。あからさまな廃屋に最新のスマホって、いかにも事件性ありますよね」
「物だけじゃなく、汚い外観で中ピカピカでも怪しいしな」
「血濡れの部屋に真新しいお人形とかー?」
ひと笑い。
「で」
「良く気付いたねー。もうちょっとかかるかと思ってた」
「怪異遭遇率のせいか?」
「?」
いや。初日からあったと思うけど…。
そう言おうと口を開く前に、突如として空間を裂く音。ジリジリと耳をつくその音に思わずびくっと体を揺らしてしまう。
「おっと」
「いいタイミング」
「だな」
顔を見合わせた2人が同時にこちらを見る。
「ヒナタくん」
「のどかちゃん」
ああ、絶対にこういう流れになると思った。
あきらめに似た心持ちで姿勢を正す。
「派遣体験」
「しよっか」
「…はい」
治ったと思ったらコレだよ。
机に置いていたウエストバックを手に立ち上がった。




