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case.016「ウラ世界ファーストコンタクト」


「なるほど、そりゃ新鮮な体験でしょうよ…」

「あはは。良い表情~」

「あのですねえ…」

 僕はホラー的な展開に特別苦手意識はなくても、好き好んで飛び込んでるわけじゃないんですよ…!

 なんて本音は押しとどめ、かわりに目で訴える。そんな視線も気にせずサカヅキさんはケラケラ笑う。

「ウラ世界デビューおめでとう!」

「どうもありがとうございます…」

「あっははは!」



 翌日。宣言通りにサカヅキさんに連れられて外へ。例によって例のごとく、ウラ道を通っていればなんだかシャンシャンと鈴のような音が聞こえる。音は進む方向から聞こえているようで、どんどん大きくなっていく。

 足元がコンクリートから土、そして砂利に変わる頃。パッと明るくなる視界。見上げれば、何もない空中にいくつも浮かぶ提灯。祭囃子。

「ここは…?」

「祭り道中だよ。比較的害のない怪異とか、それを使役してる連中とか。あとは単純に現世が合わない奴らが独自のルールで好き勝手暮らしてる場所。用があるのはもっと奥」

「え、怪異もいるんですか?それに使役って…」

「あれ?ヒナタくん知らなかったっけ」

「何がですか?」

「うち、怪異討伐・派遣サービス」

「知ってますけど…?」

 それがどうかしたんだろうか。だって調査も討伐も、ミチカケ先輩と一緒に行ったことある。というかサカヅキさんがふった仕事だし。…いや、待てよ。

「怪異討伐・派遣サービスって、怪異討伐部隊の派遣ってことですよね?」

「討伐と派遣、だけど?怪異を討伐、アンド、怪異を派遣」

「…き」

「き?」

「聞いてないですよそれはさすがに…!」

 おもわず顔をくしゃくしゃにしながら小声で叫ぶ。

 流石に道のど真ん中で大声を出さない程度のモラルはある。

 じゃなくて。

「さすがに言っててくださいよ…!普通気づきませんって!」

「あー、ごめんごめん」

 軽い調子で片手を立てて謝る。その爽やかな面に一瞬怒りが沸き上がるのをぐっとこらえて、深く息を吐く。

「はあー。…これ以上、爆弾ないですよね?実は事務所にも怪異がいます、とか!」

 そう言って念のために問いかければ、わかりやすく目を泳がした後にっこりと笑う。

「…」

「い、いるんですか?!どこに?!」

 嘘だろ…?え、どこに?まさか、ドールちゃん先輩が本物のお人形っていうオチじゃない、よな?

 疑心暗鬼に駆られて頭を抱える僕にサカヅキさんがサムズアップで答える。

「や、普通に受付のとこのやつ。流石に気付いてると思ってた。だって明らかにおかしいじゃん?」

 受付のとこのやつ。

「あ」

 ああ~、なるほど。なるほどね?確かにアレは普通じゃないな。最初にツッコむ機会をなくして以降、なんかもうアレはああいうものなんだって納得してしまっていた。

 実際にあのサカヅキさんの部屋がどこにあるのかは知らないけれど、明らかにワープゲート的な現象だった。頻繁に使いすぎて麻痺してたな。

「はは、まあそのくらい怪異なんてありふれてるってこと。うちみたいな会社も他にいっぱいあるしね」

「…納得はしてませんが理解しました」

「でもまあ、怪異なんてそもそもの成り立ちがよくないから、そういう意味じゃ害のない便利で安全な怪異なんて存在しないんだけど」

「あのぬいぐるみも?」

「そ。アレはアレで厄介だよ。いろいろ縛って封じ名をつけて、たまに餌を与えておとなしくさせてる。もどきだろうが怪異を完全に飼いならすなんて無理だから」

 ふうん。

 縛るとか、名をつけるとか、僕には正直よくわからない話だけれどサカヅキさんがそうやってリスクを知ったうえで使っているんだったらいいか。ただの出向社員がどうこう言うべきでもないだろうし。

「そういうものですか」

「うん。あ、ちなみに初日にミチカケちゃんと採ってきたくねくね。あれはこないだ餌にしたかな」

「えっ」

 怪異って、怪異食べるんだ。…共食い?

「人間的な咀嚼とは色々違うけど、まあそんなものだよ」

「なるほど」

 深くは考えないでおこう。

 再度心に決めて歩く。祭り道中の騒がしさはさらに増して、比例するように人影も増える。…人、ではないか。

「あそこが目的地」

 スッと指をさす方を見れば、人混みの先、一際ド派手な建物。

 ギラつく黄金色の外壁。ビカビカ光る看板、いや、等身大パネル。翼の映えた美形…、なんかのキャラクター?

「…一応聞くんですけど…。どういう場所ですか、あそこ」

「アイテム屋さん、かな」

「…へえ」

 まったくはそうは見えないけどな。

 激烈に目立ちたがり屋の店主がやってるんだろうか。

「まあまあ。入ってみたらわかるって。行こう」

「はい」


 店内は外観を裏切るドシンプルで清潔。なんとなく研究室とかそういう場所っぽい。いや、研究室なんて入ったことないけど。

 通りの騒がしさもドアが閉まれば嘘のように靜か。思わずキョロキョロと見回してしまう。

「ああ、来たよ」

「!」

「誰やねん、こんなとこくる物好きは…って、ヅキさんか。なんや、もうそんな時間か」

「よ」

「おーっす。んで、そっちのは?」

「うちに出向中の新人くん」

 そう言ってサカヅキさんが紹介するように手で示すのに合わせて軽くお辞儀。

「日向のどかです。はじめまして」

「おー。オレはここのオーナーの…まあ、オーナーでええよ。そない呼ぶこともあらへんやろうし」

 ごく普通の、というと語弊がありそうだけれど、いたって普通に人間に見える。発音のイントネーションといい関西圏の人なんだろうか。

「そうそう。ああ、さっきいってた現世が合わなくてこっち暮らしてる変な奴の一人ね」

「んはは。そうっスね、ヅキさんのいう通りやわ。やし、そんな気負わんでええよ。オレもてきとーにヒナっちて呼ぶし」

「は、はい…。えと、僕はオーナーさんって呼びますね」

「んん、なんやくすぐったいけど…。まあええわ」

 急に近いな。

「で。アレ、出来てる?」

「もちろんっスわ。今持ってきますんで待っててください」

「うん」

 なにやらすでに話が通っているようで、また引っ込んでいくオーナーさんを見送って一息。

 サカヅキさんは当たり前みたいにカウンターの椅子に腰かけてリラックスモード。同じように隣に腰かける。

 さて。アイテム屋さんとは言っていたけれど、いったいどんな特殊アイテムが出てくるのだろう。

 わくわくしながらオーナーさんを待った。



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