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第九話 北楼祭当日の朝

 文化祭当日の朝、スマホのアラームがけたたましく鳴り響く。


 午前6時。普段より一時間ほど早い起床である。昨日の夜も気持ちがふわふわして、なかなか眠りにつくことができなかった。


 今日は恭介と7時に家の前集合と約束している。恭介は学校に行ってから、メイドに着替えたり、メイクをしたりと色々やることがあるそうだ。恭介のメイクは相楽さんが買って出てくれた。俺はその付き添い。



 1階に降りると、すでに母さんが起きていた。


「おはよう、母さん」


「おはよう、昨日はよく寝れた?」


「いやあんまり……」


 顔を洗って着替えてと準備を進めていくと、だんだんと目が覚めてきた。



 リビングへ行くと朝ごはんが用意されていた。最近は簡単に菓子パン1つで済ますことが多かったので、少しボリュームが多いように感じられた。


 俺の両親は基本的に忙しい。子供の頃からあまり遊んでもらった記憶はないが、寂しい思いをした記憶はない。学校行事には休みを取って参加してくれたし、参観日も父が母かどちらかは必ず来てくれた。


「圭、お母さんたちは午後から見に行くから」


 今日も父さんは午前中仕事らしい。母さんもそれに合わせて午後から来るそうだ。


 北楼祭は生徒と保護者だけでなく、地域の住民も招いて大々的に行われる。二日間とも相当な数の人になるだろう。



 気がつくと6時50分を過ぎていた。最近は恭介がウチまで来てくれることが多かったので、今日は久しぶりに出向くことにしよう。といっても1軒隣に行くだけなのだが。


 俺は恭介の家のインターホンを押す。


「はーい、圭君、おはよう」


 徹さんがドアを開けてくれる。恭介が5歳の時に徹さんは奥さん、つまり恭介のお母さんと離婚している。親権を巡って少し揉めたと聞いたことがあるが、詳しくは知らない。


「おはようございます、徹さん。恭介起きてます?」


「ああ、さっき起きたとこだよ」


 恭介は昔から朝が弱い。いつも通りの学校がある時間なら問題はないのだろうが、今日は起きれるか自信がなさそうだった。


 起きてはいるようなのでちょっと外で待たせてもらおうと思ったが、徹さんが中に入って待っててと言ってくれたので、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。



 徹さんがコーヒーを出してくれる。しばらくすると恭介がバタバタと階段を降りてきた。


「おう、圭、おはよう」


「『おう』じゃねえよ。さっさと行くぞ」


 時刻は7時15分。相楽さんとの約束は7時半なので、少し余裕はある。


「じゃあ気をつけてねー」


 徹さんに見送られながらいつもの通学路に歩みを進める。



「遂にこの日が来ちまったな」


「ああ、思ったより早かったな」


 準備の段階から色々なことがあった。初めて相楽さんの家に行ったり、みんなで買い出しに出かけたり。大変だったが、とても充実した3週間だった。あと残すは2日間。全力で楽しもう。



 いつも通り、5分もせず学校に着いた。校門をくぐると、すでに多くの生徒が登校してきている。きっと準備が残っているのだろう。


 教室に入るとすでに相楽さんと小島さんが俺らを待っていた。


「おはよう、圭君、恭介君」


 相楽さんが元気な挨拶をしてくれる。


「早速始めようか」


 相楽さんが一番大きいサイズのメイド服を取り出した。男子でメイド服を着る予定なのは3人。恭介を含め、そこまでガタイが良いわけではないので、順番なサイズだろう。


 恭介は慣れない動作に少し手間取りながら、メイド服に身を包む。


「どう?」


「え? どうって、メイド服だな」


「何だよその反応」


 俺の反応が薄かったのか、恭介は頬を膨らませる。朝から親友のメイド姿を見せられて、なんて反応すれば良かったのだろうか。



 一通り着替えが終わると、次はメイクに移る。相楽さんが慣れた手つきで恭介の顔を改造していく。


 恭介に気を取られていて気づかなかったが、相楽さんもうっすらと化粧をしている。うちの学校は基本的にメイク禁止なのだが、文化祭くらいは多めに見てくれるだろう。


 元々綺麗な顔立ちの相楽さんが化粧しても、対して変化がないんじゃないかと思っていたが、いつもよりちょっと大人っぽく見えてドキッとする。



 俺が相楽さんに見惚れていると、恭介のメイクが終わる。


「よし!良い出来じゃない?」


 相楽さんが小島さんと俺に同意を求める。


「うん、良いんじゃない? 女の子に見える」


 小島さんの言うとおり、元々整っている恭介の顔はメイクによって、妖麗さを増していた。ぱっと見は女子と見間違えるかもしれない。


「圭? どうかな?」


 恭介が俺に感想を求める。


「うん、まあ……、かわいいかも?」


「何だよそれ!」


 見ているこっちが恥ずかしくなるほど、メイド姿の恭介は可愛く見えた。もちろん、相楽さんには勝てないが。



 大体準備も整って、女子のメイド役の人たちも準備万端……のはずだった。


「あれ? 井上さんは?」


 一発目の9時からシフトが入っている井上さんがまだ来ていない。9時まであと一時間ほど、遅刻にしては遅すぎる気がする。


 みんなで連絡をとっていると、森田先生が教室に入ってきた。


「おはよう、北原、似合ってるな」


 開口一番、恭介のメイド姿をイジる森田先生。まあ、イジらない方が難しい気もするが。


「みんな盛り上がっているところ申し訳ないのだが、一つ連絡がある。井上と山田が体調不良でお休みだ」


 森田先生からの連絡に皆が困惑の表情を浮かべる。


 井上さんは女子のメイド、山田君は男子のメイドのシフトに入っていた。初日からメイド2人の欠員である。


「相楽さん、どうしようか」


「う〜ん、とりあえず女子は利奈にやってもらうしかないかな。男子は……」


 女子で唯一裏方の小島さんに白羽の矢が立つ。


「えー。まあ、しゃあないか」


 小島さんは普段はやる気がないように見えるが、こういう時に積極的に助けてくれる人であることは、この3週間で何となくわかった。


「ありがとう、利奈。あとは男子だね」


 男子もやってくれる人はいるだろうが、全員が裏方でシフトがある入ってしまっているので、誰かが変わるとその分、別のところに穴ができてしまう。


 さあ、どうしようか。やはり、一筋縄ではいかないものだ。


 皆が頭を悩ませている中、恭介が何かを思いついたように声を上げた。


「みんな、いるじゃないか、もう一人の()()


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