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第八話 北楼祭前夜祭

 文化祭への準備は慌ただしく進み、気がつくと前夜祭当日を迎えていた。


 余裕を持って計画したつもりだったが、レイアウトはこっちの方が効率がいいだとか、もっと教室の装飾を増やしたいだとか、こだわり出すといくらでも時間は溶けていった。


 結局、これまでに終わっている準備は全体の半分ほどだろうか。幸い、今日の午前中は準備の時間が設けられている。


 午後は前夜祭があって、そのまま解散という流れなので出来れば午前中で終わらせてしまいたいところだ。



「おはよ。圭」


 後ろから恭介が背中を叩いてくる。


 今回の文化祭準備も相楽さんと恭介が中心で進められていった。もちろん、俺も小島さんも仕事をしていなかった訳ではないのだが、二人のサポート役に回る方が多かったかもしれない。まあ、そっちの方がありがたいのだが。


「遂に前夜祭か」


「それより前に準備だろ。結局半分近く残ってるし」


「まあ、何とかなるだろ。ていうか、何とかするし」


 恭介なら本当に何とかしてくれそうな気がする。



 教室に入ると、早速準備が始まった。女子は装飾、男子は机や椅子を配置するなど力仕事を中心に、それぞれの仕事に取り組んだ。


 今回ドリンクはペットボトルのコーヒーやお茶で妥協したのでそこはそこまで手はかからない。


 メイド4人とサポート役2人で一時間耐えれば良いシフトなので、そこまで一人当たりの負担はないはずだが、みんながしっかり仕事を覚えているかは不安があった。



 やはり、集中していると時間はすぐに過ぎていく。午前中で完全に準備を終えることはできなかったが、これなら泊まり込みまでは必要なさそうだ。



 前夜祭は体育館で開かれる。14時スタートなのでそれまでは休憩時間である。といっても一時間ほどしかないのだが。


 俺と恭介は残っている準備を少し進めてから、学食へ向かった。


「うわ、何だこの人の量」


 今日は準備の進み具合によっては朝早く出てきた人も多かったのだろう。学食はいつもの倍以上の人でごった返していた。


「なぁ、圭……」


 悲しそうな目で見つめてくる恭介。まあ、言いたいことは分かるが。


「ああ、諦めるか」



 俺たちは昼食を諦めて皆より一足早く体育館に向かう。体育館に入ると見慣れた背中があった。


「あっ、相楽さん。それに小島さんも」


 俺の呼びかけに二人が振り返る。


「何? あんたたちも食いっぱぐれたの」


「まあ、そんなところ……」


「あの人の量じゃしょうがないよね〜」


 文化祭の準備が始まってから、この4人で動くことが増え、段々と仲は深まっていた。


「それより、準備、今日中に終わりそうで良かったね」


 相楽さんが安堵の表情を見せる。計画からはだいぶ遅れていたので相楽さんも不安だったのだろう。相楽さんは責任感が強いので、実行委員として気を張っていたところもあったのかもしれない。


「ほんとにね。明日明後日の本番もうまくいくと良いけど」


 恭介の言うとおりである。まあ、相楽さんと恭介の学年ルックスツートップが居れば集客は大丈夫だろうが、ハプニングはどんな時でも起こるものである。無事に終わると良いが。



 4人で話していると、いつのまにか時計の針は14時を指していた。


 三年の先輩の司会で、まずは開祭式が始まる。


「まずは開祭宣言です。三年A組 長谷川さん。お願いします。」


 生徒会長の長谷川さんが壇上に上がる。いかにも真面目そうな好青年である。相当勉強が出来るらしく、関東の一流大学を志望しているという噂を聞いたことがある。


「ここに、第52回北楼祭の開祭を宣言します!」


 会長のハキハキとした宣言に呼応して野太い歓声が上がる。


 高校生活初の文化祭が幕を開けた。



 その後は校長先生の話、祭中の諸注意と続いた。気のせいかもしれないが、先生たちのテンションもいつもよりも高いように見える。


 開祭式が終わると軽音部の発表が続いた。音楽をやっている身からすると、少し物足りないものがあったが、楽しく時間を過ごすことができた。少し上から目線過ぎたかな。だったらごめんなさい。



 17時までは強制参加、それ以降はそれぞれ帰宅しても良いし、準備に戻っても良いという取り決めだったので、俺と恭介は17時半までの軽音のライブを見切って、教室に戻ってきた。


 教室に戻ってくると、まだ他には誰もいなかった。みんな高校初の文化祭をまだ楽しんでいるのだろう。


 俺の恭介は二人で残っている準備を終わらせようとそれぞれ動き出した。


 入学した頃は自分がここまで学校行事に関わることになるとは思っていなかった。動機は不純だったかもしれないが、やってみて良かったと思う。


 もちろん、相良さんと仲良くなれたのは大きいが、今までの学生生活では味わえなかった充実感を毎日味わうことができていた。



 準備もひと段落した頃、何人かの生徒が教室に戻ってきた。ちょうど、森田先生も様子を見にきた。


「おお、準備は順調そうだな」


「はい、みんな頑張ってくれたので」


 恭介が元気いっぱいに答える。一番頑張ってたのはお前な気もするけどな。


「これなら泊まり込みは無しか」


「そうですね、細かいところは明日の朝で十分だと思うので」


「よし、じゃあもう遅いから明日に備えて早く帰るんだぞ」


 森田先生はそう言い残して教室を後にした。



 俺たち実行委員は明日の打ち合わせをして解散ということにした。何回もシミュレーションした計画。明日、この通りに進んでくれれば何の問題もないだろう。



「よし、じゃあ明日も頑張ろうね」


 校門の前で相楽さんと小島さんに手を振り、学校を後にする。


「腹減ったなー。なあ、圭、明日楽しみだな」


「ああ、上手くいくと良いけど」


「きっと上手くいくよ。きっと」


 恭介の言葉は力強かった。


 ここまで何もかもがうまくいっている。同時に俺は何か嫌な予感がしていた。明日はこの予感が当たらないと良いが。


 俺はそう願って帰路についた。

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