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第七話 俺の決意

文化祭まで残り1週間となった土曜日。


俺たちの高校の文化祭『北楼祭』は金曜に前夜祭があって土日に文化祭本番といった日程で行われる。その後振替休日があるわけでもないので、ゴロゴロできる休みは、今日明日だけだ。


という訳で、家で一人休日を楽しんでいた。皆さんがイメージする通りの陰キャの休みである。家でただひたすらゲームしたり、好きなコミックを読んだり、動画を見漁ったり。それに加えて俺は、歌ってみたを上げたり、新しいオリ曲の構想を練ったりする訳だが。


オリ曲の作成といっても、特にしっかりとしたスタジオで音を録ったりする訳でもない。そんな金も技術もないので、自分で何とかするしかない。音質が悪い?そんなのは知らん。高校生には限界があるんだよ。



午後になり、1階のキッチンに立つ。父さんは相変わらず仕事らしい。母さんも、ピアノ教室の生徒が全国大会に進んだらしく、レッスンの量が半端ないらしい。

両親がいない週末。富樫家では別に珍しくはないのだが、どうしても生活リズムは崩れてしまう。


適当にカップ麺を作り、インスタントのコーヒーを淹れて自分の部屋に戻る。


スマホを見ると、恭介からメッセージが来ている。


恭介

「小島さんが文化祭の買い出しに行くからお前も来いって」


買い出し。確かにメイド服は集まったものの、カフェで出す飲み物とかは買わなきゃいけない。いつもなら断るところだが、相楽さんがいるなら。


「分かった、今から準備するわ」

恭介

「おっけ、相楽さん家集合だって」

「了解」

恭介

「一回お前ん家行くわ」


休日に家の外に出るなんていつぶりだろうか。両親はいつも忙しくてなかなか休みが合わないし、合ったとしてもせっかくの休日は家でゴロゴロしたいという気持ちが勝ってしまう。


一通り準備が終わったところで、恭介がピンポンを押した。あまり待たせるのも悪いということで、自転車で行こうということになった。


自転車を10分ほど漕ぐと相良さんの家に着いた。もうすでに相良さんと小島さんは準備を終えて待っていた。


「ごめんね、急に呼び出しちゃって」


相楽さんが申し訳なさそうに謝る。


「全然、ただゴロゴロしてただけだから」



4人で近くのスーパーに向かう。メイド服で予算はほとんど残っていない。一年生が提供できるのはドリンクだけらしいので、適当にコーヒーやお茶類を買っていく。


「こんくらいで足りるかな?」


「ちょっと足りないかもだけど、1日目のお客さんの入り次第かな」


正直、メイド喫茶に来る人の目的はドリンクではない気がするので問題はないだろう。男子はもちろん相楽さん目的の人が多いだろう。女子は、恭介目的となるのだろうか。もう既に学年全体に彼の名前は轟いていた。彼自身は意識してないだろうが、彼には人を惹きつける力がある。相楽さんが持っているものと似たような。



会計を済まし、4人で相楽さんの家に戻る。


「ちょっと上がってってよ」


さっさと帰ろうかと思っていたが、相楽さんのすすめとあらば断る訳にはいけない。


「ただいま〜」


相楽さんが大きな声で帰宅を伝えると、奥の方から綺麗な女性が駆け足で出てきた。


「おかえりなさい。あら、友達も是非上がっていって」


「「お邪魔します」」


相楽さんがキョトンとしている俺たちに説明してくれる。


「二人は初めてだよね、私のお母さんです」


「はじめまして、澪の母のさくらです」


とても上品な方だ。でも笑顔はとてもかわいらしく見える。何も言われなければ姉妹ではないかと思うほどパーツが似ている。トンビが鷹を産むという諺があるが、やはり現実は鷹が鷹を産むということなのだろう。


さくらさんの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、他愛もない話に花を咲かせる。


1ヶ月ほど前には考えられないような毎日を送っている。ただただ目立たないことを大切にしていた自分が友達とまではまだ言えないかもしれないけど、他の人と積極的に関わろうとしている。


「圭、じゃあ俺らはそろそろお暇しようか」


「そうだな」


気がつくと17時を周り、段々と陽の色がオレンジへと変わっていた。


小島さんも同じタイミングで帰るということで、相楽さんとさくらさんが玄関まで見送ってくれた。


「じゃあ、今日はありがとうね」


「こちらこそごちそうさまでした。また学校で」


俺と恭介は自転車を漕ぎ出す。


「正直、今日圭は来ないと思ってたんだけどな」


恭介が不意に言葉を漏らす。まあ、前までの俺だったらそうだろう。


「俺も前までだったら行かないと思う。けど、」


「けど?」


「俺も人と関わらないとなって。もちろん、相楽さんと仲良くなりたいって気持ちが強いけど。」


「やっぱり実行委員、やって良かっただろ?」


「ああ、ありがとな、恭介」


「何だよ恥ずかしい」


彼なりに気を遣ってくれたんだろう。そもそも恭介があの場で引かれていなければ、俺が実行委員をすることはなかっただろうから、彼の豪運にも感謝しなければならない。


「で? 相良さんとはどうだったんだよ?」


「え?」


「こないだ。二人きりだっただろ、俺が途中で帰った日」


「ああ、別に特に何もなかったけど」


「ホントに?」


「まあ、強いて言えば『ケイ』について長々と魅力を語られたくらいかな」


「それは大変だったな(笑)」


確かにリアクションには困ったが、悪い気はしなかった。自分の音楽を聴いてくれている、自分の音楽を好きでいてくれている。しかも自分が好きな人が。


「恭介、俺、もっといい男になるよ」


「急にどうした?」


「俺、やっぱり相楽さんが好きだからさ」


まだまだ時間がかかるかもしれないが、相楽さんに釣り合える男になれるように。相楽さんに好きだと伝えられるように。まずは文化祭。何としても成功させなくては。

本日1本目です。

次回も本日中に更新予定です。

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