第六十六話 バッセン再訪
ついに明後日、金曜日は球技大会だ。
連日のバスケの練習で俺の体は悲鳴をあげていたが、よく晴れた水曜日の放課後に、俺たち四人はバッティングセンターに来ていた。
夏休みの最後、澪と二人きりで来た駅前のバッティングセンター。まさかこんなに早く再び足を運ぶことになるとは思っていなかったが……
四人のうち、澪、恭介、そして俺は球技大会でソフトボールをプレーすることになっていた。今日はその練習だ。
「ねぇー、私は別にいらなくない?」
利奈さんが口をとんがらせている。確かに利奈さんはソフトボールを選んでないので、完全に俺たちに付き合ってくれてる形だ。
「まあまあ、利奈も恭介くんと遊びたかったでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
澪に早々にジョーカーを使われ、何も言い返せなくなってしまった。『病み上がりだから行けないかもー』と言っていた恭介も体が鈍るのはやっぱり良くないとわざわざ来てくれた。
経験者の澪、スポーツ万能の恭介という豪華講師陣に囲まれて、早速指導が始まる。
「じゃあ、まずは私が打ってみるからよく見ててね」
澪がソフトボールと書かれたブースに入り、お金を入れる。ピッチングマシーンのランプが光り、ガタンと音を立てて一球目が向かってくる。
パコーン!
鋭い打球が真っ直ぐと伸びていく。この前もそうだったが、澪の打撃センスは初心者の俺から見ても相当なものだった。
「なぁ、澪さんってこんなに打てんの……?」
隣の恭介も驚きの表情で打席を見つめている。
その後もヒット性の鋭い当たりを連発した澪は満足げに打席から出てきた。
「まぁ、見てて分かったと思うけど、しっかり手元までボールまで見てしっかりとコンタクトするのが大切かな」
と言われましても、という俺の雰囲気を感じたのか、とりあえずやってみよっかと、さっきまで澪が打っていたブースにぶち込まれる。
ピッチングマシーンから投げられたボールは、少し浮き上がるように近づいて来る。
ブーン。
悲しい空振りの音が響く。その後も頑張ってバッドを振るも、かする気配すらない。
「もっとコンパクトに。当てるだけでいいから!」
澪が一生懸命アドバイスをくれる。
よし、当てるだけ。そう思うと少しだけ力が抜ける。
一定のテンポで放たれるボールをしっかりと見つめる。
――カッ。
初めてバットをボールが掠める。ていうか、重くね?
野球のボールよりも一回り大きいボールが少し浮き上がりながら迫ってくる。野球とは違う怖さがある気がする。
当たったとしても、前に飛ばせなきゃ意味がない。もっとボールを芯で捉えなくちゃ。
次のボールも同じような軌道を描いて向かってきた。
ポンッ。
さっきよりも手に衝撃が伝わってくる。それと同時にボールは真正面に飛んでいった。
「圭、ナイス!」
澪の打球とは比べ物にならないほど弱々しい打球だったが、俺からしたら前に飛ばせたことが奇跡みたいなもんだ。
「次はもっとバット振り切る感じで」
澪から次々と飛んでくるアドバイスを何とか体に叩き込んでいく。
カーン!
気持ちの良い金属バットの音が響いて、初めてボールがノーバンでマシンを越える。
その分、手に伝わる衝撃は大きいが……
ちょうど腕が限界に近づいたところで、マシンのランプが消えた。
「圭、ナイバッチ!」
恭介と軽いハイタッチを交わす。そこそこ打てたんじゃないか?
「じゃ、次は俺ね」
恭介がスタスタとブースの中に入って構える。まるで経験者のようなどっしりとした構えだ。
一球目。さっきまで俺が手こずっていたボールに恭介がバットを合わせていく。
キーン!
シャープなスイングに押し出されたボールは、澪の打球よりも高い軌道を描いてグングンと伸びていく。高い金属音が響いた打席に目線を戻すと、恭介は既に次の球を待ち構えていた。
その後も、さっきと同じような軌道を描くものもあれば、鈍い音と共にものすごいスピードで飛んでいく打球もあった。もうボールが可哀想だよ……
隣では澪が真剣な表情で恭介を見つめている。利奈さんは……彼氏のかっこいい姿にメロメロっていうか、もう溶けてる?
「恭介! もっと大きく踏み込んで!」
「「え?」」
俺も利奈さんが同時に声を上げる。キッパリとしたアドバイスの声の主は澪だった。え、呼び捨て?
恭介が軽く手を挙げてそれに応える。それと同時にマシンから少しだけ浮いた球が迫ってきた。
カッキーーン!
まるで漫画で見るような効果音と共に、恭介の放った打球はホームランの的ギリギリを掠めてった。
その次も、またその次も同じような打球が続いたところで恭介のターンが終わった。
「澪さん、アドバイスありがとね」
「ううん、恭介くんがあまりにも上手かったから、つい本気になっちゃって」
二人のそんなやりとりを俺と利奈さんは驚きの表情で見つめていた。何だこの身体能力お化けたちは。
その後も代わる代わる打席に立ち、バッティングセンターを出る頃には、もう暗くなっていた。
「じゃ、明日はゆっくり休んで、明後日頑張ろうね」
「うん、じゃまた学校で。利奈もありがとね」
「う、うん。恭介も、そのー、かっこよかった……」
「よし、圭! いちゃついてる二人は置いてこっか!」
「そうだねー」
顔に赤くしている恭介と利奈さんを二人で揶揄いながら、男子と女子でそれぞれの方向に別れる。
「なぁ、恭介、俺ちゃんとできるかな」
「できるよ、こんなに一生懸命練習したんだから」
「……そうだよな」
「それに何より、俺がいるだろ?」
得意げな顔をしている恭介。でも実際、恭介がいるという安心感は半端ない。
「確かに、そうだな」
「お、おい。ツッコミ待ちだったんですけど〜」
少し不服そうな顔をしながらも、すぐにいつもの笑顔に戻る。
恭介がいる。そうだな、俺にとって一番の安心材料だ。明後日、練習の成果を出せるといいな。




