第六十四話 二人きりの公園で
球技大会まで残り1週間!
こないだの土曜日に教えてもらったことを、一人で放課後の時間を使ってコツコツと練習して、段々と動きが染み付いてきた。
まだまだ付け焼き刃だが、最初に比べたらちょっとは戦力になれそうだ。
「富樫、こっちこっち」
そして今日は、利奈さん直々に教えてくれるそうで。
「よりによって富樫しか空いてないなんて……」
金曜の学校終わり、どこか開放感の溢れている放課後。本当はまた四人で練習しようとしていたのだが、澪は家族と予定があって、そして恭介は――
「まさかあの恭介が風邪引くなんてな」
今週半ばから体調を崩し、学校も休んでいた。昨日家に行ったら『球技大会までには治す!』と言っていたが、本当に大丈夫なんだろうか。
「それで、本当に今日は良かったの?」
「良かったって?」
「だって、彼氏が風邪ひいたらお見舞いとか行きたいんじゃない?」
「まぁ……行きたいけど」
「だったら恭介のとこ行った方が……」
「でもでも、やっぱりアンタにはもっと強くなってもらわないといけないし、それに……」
利奈さんが分かりやすく言葉に詰まる。なんかモジモジしてる……?
「まだ恭介の家一人で行ったことないっていうか……」
「えっ、そうなの?」
頬を赤らめながら、利奈さんがこちらをギロッと睨んでくる。怖い……
「ほっ、ほら、とりあえずやろっか、ね。いっぱい教えて貰わないといけないし」
「……まぁ、そうね」
利奈さんがまだ少し眉間に皺を寄せながら、軽くボールをつく。軽やかなリズムが俺の体にも響く。
なかなかに年季の入ったバスケットゴールは、ネットもついていない錆びついたリングが、塗装が剥げてただの白い板と化したボードに申し訳なさそうについている。
そんなゴールに向かって、利奈さんが今日の一発目のシュートを放つ。
ゆったりとしたフォームから放たれたボールは綺麗な放物線を描いて、一瞬入ったのかも分からないくらい、寸分違わずにリングの真ん中を通過した。
「じゃ、まずはレイアップから」
利奈さんからボールを受け取り、俺も不恰好なドリブルを開始する。これでも前よりは大分良くなった。
「いち、にぃ、さん!」
ボードで跳ね返ったボールはリングの内側で跳ねてそのままゴールを通過した。
「うん、なかなかいいじゃん」
「まぁ、練習したからね」
「じゃあ、次はフリースローラインから……って、大体ここら辺かな?」
足元のラインも消えかかっているが、かろうじて残っている線の前に立つ。
こないだの体育館での練習では、簡単なドリブルとレイアップシュートだけでほとんど終わってしまったので、遠目からの練習はあまりしていない。
それでも、一人でコツコツとフォームを研究してきた。その通りに打てば……
俺は淡い期待を抱いてボールに回転を加える。ボールはまっすぐ飛んでリングの先端の方に当たった。
カンッ! ……ドム。
そのまま地面に落下したボールが俺の足元に転がってきた。
スリーポイントラインならまだしも、フリースローライン付近からで届かないなんて、情けない気持ちが俺の心を包んだ。
「ほら、もう一本! 下半身の力を伝えるように意識して」
利奈さんに声をかけられ、足元のボールを拾い上げる。
よし、もう一本。
落ち着いて、今度は膝を少し深く曲げて指先へ力を伝える。
さっきよりも高い放物線を描き、俺が放ったボールはリングへと一直線に向かっていく。
今度はリングの奥の方で跳ねたボールは、リングの真上に上がってそのままリングに入った。
「うん、今の感じ」
一回決めると少し気持ちが落ち着いた。その後も半分くらいの確率で決まり、結構な手応えをつかんだ……気がする。
「じゃ、次はスリーね」
利奈さんがお手本と、軽くリングに向かってシュートを放つ。もはや外れない自信があると言わんばかりに、ボールの行方から目を逸らし、ゴールへと歩き始めた。
ボールは期待を裏切ることなく、リングに全く当たらずに入り、そのまま利奈さんの手に収まった。
「はい、打ってみて!」
利奈さんからのパスを受け取り、見様見真似でシュートを放つ。
うん、届かない。
俺が放ったシュートはリングに触れることもなく、完全なエアボールとなった。
「もっと肩の力抜いて!」
「もうちょっと肘閉じて!」
「目線少し上げて!」
シュートを放つ度に的確なアドバイスが飛んでくる。
リングに嫌われる惜しいシュートも増えてきた。よし、もうちょっと。
力を抜きつつ、下半身からの力を的確に腕へと伝える。しっかりと距離を測って、ちょっどこの角度で。
やっと全てが揃った。完璧なタイミングで手を離れたボールがゴールへと宙を舞っていく。
……ッ。
利奈さんほど綺麗にはいかなかったが、やっとシュートがリングを通過した。
「よっしゃー!」
「富樫すごいよ、この調子で行けば本番も活躍できそうだね」
利奈さんに褒められて、俺のテンションも上がる。わざわざ俺に教えるために時間を買い取ってくれたんだ。利奈さんには感謝しかない。
「利奈さん、今日はありがとうね」
「ううん、全然、どうせ暇だったし」
ちょうどいい時間だったので、そろそろ解散、なのだが。
「利奈さん、ちょっと時間ある?」
「ん? 何?」
不思議そうな顔をしている利奈さん。少しでもお礼になればいいな。
俺と利奈さんはウチの方向へ歩き出した。




