第五十二話 最高の彼女
「ねぇ、本当にこっちであってる?」
澪が不安になるのも無理はない。俺たちは繁華街の方から離れ、少し郊外の方まで歩いて来ていた。
と言っても10分ほどしか歩いていないのだが……
「そろそろ着くから」
俺が目指している場所まではあと少し。澪の体力ならきっと大丈夫だろう。
「よし、後はここを登るだけだよ」
「ここって……神社……?」
「うん。まぁ、目的は神社じゃないんだけどね」
小さな山のように緑が茂っている石段を登る。一段一段が少し急なので、なかなか足に響く。
「ねぇ、体力とかは大丈夫そう?」
「うん、これくらいならへっちゃらだよ。ていうか、こんな近くにこんなとこがあるなんて知らなかったなぁ」
俺たちが石段を登り終えると、目の前には古ぼけた神社が見えてきた。
一応お参りをしてから、俺たちはさらに石段を上がっていく。
「ここ、いいね。涼しいし」
澪の言う通り、日差しは茂った木の葉に遮られ、柔らかな木漏れ日が注いでいた。
「もうちょっとだよ」
俺が澪に声をかけてすぐ、目の前が開けてきた。
「うわぁーー! すごーーい!」
俺たちの目の前には、陽の光に照らされた街並みが映っていた。
小高い丘のようになっているこの場所からは、俺たちの街を全て見下ろすことができた。
「目的はこの景色ってこと?」
「うん、俺が小さい時によく来てたんだよね」
俺が小さい頃から、両親は仕事が忙しく、なかなか一緒に遊ぶ機会はなかったが、ここにはよく連れてきてくれた。
「本当はもうちょっと夕方に来れたらもうちょっと綺麗なんだけどね」
「ううん。十分綺麗だよ」
そう言った澪の顔は、陽の光に照らされて、いつもより更に輝いて見えた。
「喜んでくれたなら良かった」
正直、澪が喜んでくれるかは微妙だったが、一番最初に見せたかった景色はここだった。
「ねぇ、圭」
「うん、どうした?」
「今日、すっごく楽しかった」
「俺も。今日だけじゃなくて、この夏休み、澪と一緒にたくさん時間過ごせてさ」
「私もいっぱい遊んで、一緒にお泊まりして。圭と過ごせて良かった」
二人とも、心からの言葉だった。
高校に入ってすぐ、こんなに充実した夏休みを送れるなんて思っても見なかった。恭介という親友がいればそれで十分だと思っていた。
でも、澪と隣になって、文化祭も一緒に盛り上げて、そして、恋人になれて。
利奈さんと恭介も一緒に遊んでくれたり、相楽家ご両親と仲良くなったり。
少し前までは考えられないほど、たくさんの人と関われた。もちろん、澪という最高の彼女が居てくれたのが一番だ。
景色をぼんやりと眺めていると、澪が改まってこちらの方を向く。
「圭、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
どちらともなく近づいてハグをする。本当に世界で一番かわいい彼女だ。
「ねぇ、圭――」
「うん」
俺たちは優しい木漏れ日の下で唇を重ねる。
優しく、柔らかく、長く。互いの気持ちを確かめるように。
どれほど経っただろうか。俺たちはようやく顔を離す。
「……んぅ、圭、好き!」
澪が満足したように、それでも照れながら、かわいい笑顔を見せてくれる。
「俺も。ずっと好きだよ」
「うへへ……」
澪がだんだんと甘々モードになってきたので、そろそろ家に帰った方がいいだろう。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん。今日はありがとうね」
俺たちはさらに熱を増したような日差しに祝福されながら、帰路に着く。
澪の家までしっかりと送り届ける。まぁ、本当はギリギリまで一緒にいたいからなのだが。
二人で他愛もない話をしながら歩みを進めていると、段々と見慣れた景色が目に入ってきた。
「もう夏休みも終わりだねー」
澪の言う通り、来週からはまた学校が始まる。
夏休みが明けると、体育祭などのイベントも待っている。澪だけじゃなく、もっとたくさんの人と仲良くなれるだろうか。
「ねぇ、圭、学校でも呼び捨てにしていいよね」
「あぁ、まぁ、いいんじゃない?」
この夏休み、いろんなところに出かけたが、奇跡的に、一人も同級生に遭遇することがなかった。
もちろん、クラス中にひけらかすつもりはない。クラスのアイドルと1番の陰キャのカップルなんて、みんなが一番好きな話題だろう。
でも、わざわざ隠す必要もないだろう。というか、隠していても、きっとどこかでボロが出てしまうだろう。
だったら、もう自然体が一番だ。
「やったぁ!」
澪が小さくガッツポーズを決める。
「そういえば、恭介たちはどうするんだろう?」
夏休み中に誕生した、もう一つのビックカップル。
利奈さんの、恭介の前での態度は学校とのギャップがありすぎる。いきなりあれを見せられたら、誰でも困惑してしまうだろう。
「まぁ、あの二人なら上手くやるでしょ」
「確かにそうか」
「あっ、もう着いちゃったね」
俺たちは相楽家の前で足を止める。
「じゃあ、今日はありがとね。わがままに付き合ってもらって」
「ううん、俺も楽しかった。じゃ、また学校で」
「うん。じゃ! バイバイ!」
澪が家の中に入っていく。
一人になると、急に寂寥感を覚える。
もうすぐ学校か――
今までだったら憂鬱でしかないこんな思いも、今はとてもワクワクした気持ちで上書きされる。
だって、こんなにもかわいい彼女がいて、頼れる友達がいるのだから。
一人でこんなこと考えてるのもちょっと恥ずかしいかも……
そんなことを考えながら、俺は家へと歩みを進める。さっきよりも更に柔らかい陽の光が、そんな俺を優しく包み込んでくれた。
いつも、本作をお読みくださり、ありがとうございます。
ここまでで第一章を終了とさせていただきます。
次回、第二章は五月初め頃からの更新を予定しております。もし良かったら、楽しみにお待ちいただけると、嬉しく思います。
皆様のPV、ブックマーク、評価が本当に励みになっております。この場をお借りしてお礼申し上げます。
これからも『クラスで一番かわいい同級生が俺の曲をおすすめしてきた』を、どうぞよろしくお願い致します。




