第三十三話 食欲モンスター・相楽澪
俺と相楽家三人はモール内のファミレスに向かった。
さすがにお昼時ということもあり、20分ほど待ってから、中に案内された。
「よし、圭君、何でも好きなもの頼んでいいぞ」
男子高校生相手にそんなこと言ったら後悔しますよ、春樹さん。
「あー、ずるい! 私も好きなもの頼も!」
「おい、澪。あんまり調子乗るなよ」
春樹さんがグッと睨みを効かせる。
この感じだと、いつもの澪は相当食べるんだろうな。
「じゃあ、これを……」
「私はこれとこれ!」
控えめな俺とは対照的に、澪はハンバーグとパスタを頼んだ。
「圭君も、もっと食べていいのよ?」
俺が頼んだのは、メニューの中ではちょっとお高めのステーキだった。
普段の外食だったら、絶対に頼まないだろう。俺なりに遠慮しないで頼んだつもりなんですけど……
「ねぇー、後でデザートも頼んでいい?」
澪はまだまだ食べるみたいだ。俺なんかより全然胃袋が広いんだろう。
頼んだ料理が来て、テーブルの上は美味しそうな料理が所狭しと並んだ。
「いただきまーす!」
澪がフォークとナイフを上手く使ってハンバーグを切り分ける。ていうか、一口大きくない……?
「う〜ん、おいひい〜」
澪がこの世の至福と言わんばかりの表情を浮かべている。
「さぁ、圭君も食べて、食べて」
さくらさんに言われ、ステーキを口に運ぶ。
「どう? 美味しい」
「はい、とっても。なかなかこういうの食べれないので、めちゃくちゃ美味しいです」
脂もくどくなく、本当に美味しかった。ファミレスという雰囲気に慣れてないのもあるが、どこか別世界にいるような感覚になる。
「よし、次はデザート!」
早々にハンバーグとパスタを平らげた澪は、甘いものは別腹と、またメニューを捲り始めた。
本当に大変ですね、春樹さん。
俺がステーキを食べ終わると同時に、澪が頼んだパフェが運ばれてきた。
「うわぁー、美味しそう」
この人は底なしなんだろうか。次々とスプーンが口の中に運ばれていく。
まさに圧巻だった。
「圭君もその反応になるよね。この子昔から食欲モンスターで……」
さくらさんの言い方を見ると、相当食費はかさんでいるのだろう。まあ、これだけ美味しそうに食べるなら、許してしまうのも分からなくはない。
「圭も食べる?」
「あっ、じゃあ一口」
「はい、あーん」
口の中に苺の甘い香りが広がる。
「私も圭にあーんってして欲しい!」
よくそんな恥ずかしいことをデカデカと言えますね。まあ、やりますけど。
俺がスプーンを待つと、澪が口を開けて待っている。エサをもらう金魚みたいだと思ったなんて、口が裂けても言えない。
「うへへ、なんか恥ずかしい……」
こっちのセリフですよ……
「もう、二人とも見せつけないでよ。私たちもする? 春樹さん?」
「さくら、何言ってるんだ。俺たちがやっても見苦しいだけだぞ」
「えぇー、私はやって欲しいのにな」
「……じゃあ、家でな」
春樹さんとさくらさんにもイチャイチャを見せつけられてから、俺たちはファミレスを後にした。
「よし、買いたい物も買えたし、後は家に戻るぞ」
春樹さんがウチまで送ってくれるそうだ。ありがたい。
お昼も過ぎ、気温もぐんぐん上がってきたが、車内はエアコンが効いていて、とても快適だった。
話が絶えない中、30分弱のドライブを終え、俺の家に到着した。
「圭君、良かったら今日も泊まっていってもいいけど、どうする?」
「あー、今日は遠慮しときます。あんまりお世話になりすぎると、母に怒られそうなので」
さくらさんの提案もありがたかったが、あんまり相楽家に入り浸るのも良くないだろう。もちろん、澪とは一緒に居たいが。
「そう、じゃあまた泊まりに来たね。いつでも大歓迎よ」
「ありがとうございます」
俺が車から降りると、ちょうど家から母さんが家の中から出てきた。
「あー、さくらちゃん。昨日は圭がお世話になりました」
「真紀ちゃん、今日は早かったのね」
「そうなの〜、ていうか、圭、なんかやらかさなかった?」
「やらかすも何も、とてもいい子だったわよ。澪と違ってちゃんと早く起きて、朝ごはんの準備まで手伝ってくれたんだから」
「あらー、ほんと。まあ、それくらいならお安い御用よね」
まあ、いつもあんたにやらされてるからな。
「またいつでも泊まりに来ていいからね。そろそろ夏休みだし」
さくらさんの言う通り、夏休みに入れば、何回もお世話になるかもしれない。
「澪ちゃんもいつでも泊まりに来ていいからね」
「あっ、ありがとうございます」
そんなこと言って大丈夫か、母さん。あんた料理できないじゃん。ていうか、家に居るかすら不確かなのに……
母親二人(本人たちから見れば同級生だが)の話も一通り終わり、やっとお別れとなった。
「またねー、圭ー!」
「澪、また学校で」
走り去っていく車に大きく手を振る。
「圭、今日は何食べたい?」
「何って……、何でもいいけど、母さんが作るの?」
「当たり前じゃない。澪ちゃんが来た時に向けて準備しなきゃ」
悪いが、母さんの料理を食べて良い思いをしたことはない。
やっぱり今日も相楽家にお世話になれば良かったかな……




