第三十二話 恭介の好みは難しい
「ところで、誕プレは何あげようとしてたの?」
利奈さんが俺の質問に顔をしかめる。
「それが、恭介君の好みが分かんなくて……。恭介君って何が好きなの?」
「うーん、俺も分からない……」
「分からないって、親友なんでしょ?」
利奈さんの言う通り、俺と恭介は親友だ。彼のことは誰よりも分かってる自信がある。
でも、彼の好みは本当に変わりやすい。急にロックバンドにハマったと思ったら、クラシックの良さに気づいたと言って、ピアノを習いに来たこともある。
他にも、プラモデル、手芸、日曜大工、料理、推理小説、美術館巡りなど。多趣味といえばよく聞こえるが、悪くいえば三日坊主である。
ただ一つ、分かることといえば――
「とりあえず、普通じゃないものが好きだよ」
「普通じゃないもの……?」
ヒントになっているのかも分からない情報だが、俺が確実に言えるのはこれだけだ。
「確かに、恭介君、変わったもの好きかも」
澪が納得したように口を開いた。
「よく、あまり評判良くない漫画のキーホルダーとかつけてるし、カラオケの選曲もマイナーな曲多かったよね」
澪は他の人のことを本当によく観察している。俺も見られていると思うと、これから気をつけなくちゃ。
……何を? まぁ、いいや。
とりあえず何か面白そうなものを探そうと、俺たち三人は近くの雑貨屋に入った。
このショッピングホールの中でも奥の方にあるこの店は、結構マニアックなものがたくさん置かれていた。
「これとかどう?」
利奈さんが手に持っていたのはよく分からないキャラクターのぬいぐるみだった。
「さすがに変すぎるか……」
「いや、良いと思うよ」
「えっ、ホントに?」
利奈さんが驚いた表情を見せる。当たり前だ。好きな人の誕プレに気味の悪いぬいぐるみをあげる奴なんて、世界中どこを探してもいない。
ただ、彼、北原恭介はこれくらいがちょうど良い。
何かは分からないが、不思議な魅力があるもの。大衆に受け入れられなくて、自分だけの特別になるもの。それが、彼が好きなものだ。
「利奈、ここは圭を信じるしかないよ。私も……ちょっと不安だけど」
「うん……」
「もちろん、絶対これじゃなきゃいけないって訳ではないよ。アイツならプレゼントくれるだけでめちゃくちゃ喜ぶと思うし。でも、ちょっと印象付けたいなら、これくらいが良いかなとは思う」
見れば見るほど何なのか分からないこの品物。うさぎなのか熊なのか、とりあえず何かの生き物ではあるんだろうけど。
「まぁ、どうするかは利奈さん次第だよ」
無責任かもしれないが、最後に決めるのは利奈さん自身だ。
「分かった。ちょっと考えさせて」
利奈さんが更に集中した顔を見せる。
澪の側にずっといるからあまり目立たないが、利奈さんも綺麗な顔立ちをしている。ウチのクラスでは澪一強だが、こうして学校外では、彼女にも男子たちの視線が集まる。
恭介には勿体無いくらい。でも、恭介は絶対顔では選ばない。絶対に。
だからこそ、ある程度意識させる必要がある。あの鈍感男の心を震わせるには結構な努力が必要だ。
利奈さんはその覚悟があると言った。それなら全力で応援するし、協力するだけだ。
俺と澪は店の外に出て、利奈さんに一人で選んでもらおうということになった。
「利奈、上手くいくと良いな……」
「これまでの利奈さんの恋愛遍歴はどんな感じなの?」
「ちゃんとしたのは無いね。昔から告られて、振って。の繰り返し。」
やはりモテてはいたようだ。まあ、あの性格じゃ中学生男子なんて子供としか見れなかっただろう。
そんな利奈さんが惹かれた恭介。確かに良いところはたくさんあるけど、どこを好きになったんだろう……
「お待たせ〜」
澪と話していると、買い物を済ませた利奈さんが戻ってきた。
「何買ったの?」
「ふふん、それは今度のお楽しみ。今日はありがとね、澪、それから富樫」
「うん、応援してるから」
「ありがと。あと、もう一個だけお願いして良い?」
「いいけど」
「恭介君にプレゼント渡せる機会作ってくれない?」
さぁ、なかなか難しいお願いだ。
「本当は私が勝手にやるべきなんだけど、まだそこまで仲良くなれてなくて……」
小島さんが再び頭を下げる。
まぁ、やってみるか。
「分かった。何とかしてみるよ。詳しいこと決まったら伝えるね」
「おっけ、よろしく。一応連絡先教えとくね」
利奈さんから連絡先をもらい、準備は整った。あとは俺が頑張るだけだ。
利奈さんと別れた俺たちは、春樹さん、さくらさんと合流した。
「どう、楽しかった?」
「はい、十分楽しませてもらいました」
二人きりとはいかなかったが、なかなか濃密な時間だった。やることは増えたけどね。
「よし、じゃあお昼にしようか」
時間はちょうど正午過ぎだった。
「買ったものは車に置いてこよう」
澪と春樹さんが荷物を置きに行ったので、俺とさくらさんが二人残された。なかなか気まずい。
「圭君、好きな食べ物って何なの?」
「うーん、餃子とか、中華はよく食べますね」
「中華かぁ、練習しなきゃ」
もしかして作ろうとしてます……?
「でも、さくらさんの作ってくれた料理なら、何でも口に合うと思います。実際、この前も昨日も全部美味しかったですし」
「あら〜、嬉しいこと言ってくれるのね。二人とも全然褒めてくれないから、なんか新鮮」
さくらさんが嬉しそうに笑っている。お世辞抜きで、彼女の料理は一級品だと思う。春樹さんも澪も家族だから気づいてないだけなんだろう。
「二人とも〜、行くぞー」
荷物を置いて戻ってきた二人が手を振っている。
「行きましょうか」
「そうね。圭君、遠慮しなくていいからね」
「……はい、ありがとうございます」
相楽家とは上手くやっていけそうだ。




