第63話/幕間 『ポンコツ』
「おらぁっ!ちゃんとバッテリー残量は確認しろって言っただろうが!!」
「すんませんっした!! 店長!!」
……ったく。ウチみたいな人形売春宿はバッテリー残量が命だってあれほど言ってるのに、使えねえヤツだな。
覗き窓から店内を見渡す。待合室がぎゅうぎゅう詰め。本日も満員御礼っと。
「世の中金だ。それが唯一絶対の真理だ。……それをちゃんとわかってるのか?ウチのヤツらは」
行為中にバッテリー ──正式には充填式魔力発生魔導機── が止まったら、苦情ってレベルじゃねーんだぞ? 客への見舞金も出さなきゃならんし、大損だ。それを──
[ボス]
反射的に振り返ると、いつもの顔がそこにいた。
「なんだ。また来たのか『ポンコツ』」
[ただいま帰りました。ボス]
「だ〜か〜ら〜! 帰ったのは客で! お前は店から一歩も出てない! 何度言えばわかるんだ? どうなってんだよお前の認知機能は!?」
ウチの『商品』は安く買い集めた中古ゴーレムの寄せ集めだから、こういったポンコツも混じっている。それなのにこいつは、部下によれば万年トップ人気を誇っているらしい。客ども、こんなポンコツの何がいいんだ? 俺にはわからん。
「ほれ、こんなところで油を売ってないでとっとと行け。バッテリーの無駄遣いだろうが!」
[ボス、今日もうるさい。でも、目的は果たした。行く]
ホントにいつもいつも俺のところにきやがって……なんなんだあいつは? そんな暇があるなら一人でも多くの客に股を開けってんだ。その方が金になる。
──数日後
「ええ? こんな大金で!? ……いえ、お断りする理由なんてありませんよ!! 是非ウチのゴーレムたちを可愛がってあげてください!!」
大口の注文が入った。店に来た使者によると、さる大金持ちの別荘で宴を開くため、丸三日間ウチの全ゴーレムを貸し出して欲しいと。謝礼は新品のゴーレムに買い替えてもお釣りが出るくらいの額だ。断る理由なんてねえ! 出発まであまり日がない。ゴーレムどもにはギリギリまで客を取らせるとして、三日間の休業か……ちと痛いが、リターンの方が遥かに大きい。さて、急いで待ち合わせ場所まで連れて行く馬車の手配をしなくちゃな。
………
「おらぁっ! チンタラしてんじゃねーぞ! 相手は大金持ち様だ! ちょっとでも見栄えがするように細かいところまで手を抜くんじゃねえっ!!」
ったく、ウチのヤツらときたらどいつもこいつも……出発当日はバタバタすることくらい、予想できるだろーが。段取りが悪すぎるんだよ。
[ボス]
……ゆっくりと振り返る。俺も暇じゃねえんだぞ?
[ただいま帰りました。ボス]
「あーはいはい、客が帰ったのな。ごくろーさん。お前もすぐ出発の準備しろ」
[……ごくろーさん]
「なんだ? 髪がバッサバサじゃねえか。どんなプレイしてたんだよ……。おい! 誰か手の空いてるヤツいないか!?」
……返事がない。そういや全員、出発の準備で忙しいのか。
「しゃーねーなー。ほら、あっち向いてここ座れ。櫛持ってるか? ……よし。俺が梳いてやる」
[……ボス]
「なんだ。俺がやっちゃおかしいか? 人手が足りないんだから我慢しろ」
……大金をポンと支払う大金持ちだからな、ちょっとでも粗相があっちゃならねえ。『次』に繋げるためにもな。
それにしても……こいつの髪、サラサラで柔らかいな。人工毛髪だよな? こんなにクオリティ高いものなのか……。
………
「ま、こんなもんだろ。俺にしては上出来だな」
[……ボス、髪を梳いてくれて、ありがとう]
「別にお前のためじゃねーよ」
[……ありがとう]
「そうそう。今回は店のヤツらがついていけないからな、バッテリー交換はちゃんとやれよ? 必ず二人一組でな。自分で交換しようとするんじゃねえぞ?」
………
「よーし全員整列したな!? あとは打ち合わせ通り、使者様が来たら丁重にお辞儀してお迎えだ! おい、お前らゴーレムどももだぞ!!」
「っと、使者様のご到着だ!! すげー豪華な馬車だな……おいゴーレムども! 次はあっちの馬車に乗り換えだ! しっかりご奉仕してこいよ!!」
[ボス]
「なんだポンコツ? こんな時に」
[ボス……いってきます]
「……おう。可愛がってもらってこい」
ウチで手配した馬車とは比較にならないほど豪華な馬車が向かう先は、どうやら山奥のようだった。そこに別荘でもあるのかね。
──三日後
さて、見送りはスタッフ全員で豪華にしたが、迎えは節約のために俺一人だ。
使者の馬車は……来たな、時間通りだ。
………
「……おい。なんだ、これ?」
「お借りしていた貴店の商品でございます」
「おいおい使者さんよぉ!? 俺が貸したのはゴーレムであって、こんなガラクタの山じゃねーぞ!?」
「主から伝言を預かっております。『大変満足した。また頼む』とのことです」
「満足したって……お前ら一体……」
「……貴方様には既に相応の対価をお支払いしているはずですが?」
「対価……そういう、ことか……」
「ご理解いただけたようで何よりです。それでは私はこれで」
このガラクタの山、一人で馬車に載せられるわけねーだろ。御者どもにも手伝わせるか。あー、大儲けしたと思ったんだがな。全部買い替えるとなると、どれだけの出費になるか……それに数が揃うまでは営業再開できねえな。とはいえ、次があるのか。これで大金持ちとのパイプができたってわけだ。なら──
[……ボス]
……ゆっくりと振り返る。考えないようにしていた、のに。
「お前……まさか。ポンコツ、なのか?」
[ただいま、帰りました……ボス]
それはもう、人形とは呼べない姿で。
「なんでだよなんでだよなんでだよっ!?」
[かミ、すいてクれて、ありが……]
「おい! 黙るなポンコツ! まだバッテリー残量あるじゃねえか!! 目を開けろよ!! 何やってんだよ!!」
[……]
「お前の代わりなんていねーんだよ!! 戻ってこい!! ポンコツっ!!」
俺は一体、何を言ってるんだ?
[……]
「全部……俺のせいなのか? こうなったのは、全部俺のせいなのか? なあ、答えてくれよポンコツ。俺のせいなのか?」
[……]
「ポンコツううううううッッッ!!!!!」
俺は声が枯れるまで叫び続け……やがて気を失った。
──それから
俺は店を畳み、あてのない旅に出た。
頭の中にいくつもの「なぜ?」が浮かんでは消えていくものの、答えは出せないままだ。
やがて、かつて魔女が住んでいたとされる辺境の村に辿り着き、そのまま居着くことになる。
村での生活はすぐに気に入った。都会の忙しなさとは違う、ゆったりとした時間が流れ続ける。
「俺は一体、何がしたかったんだろうな……」
遊ぶ子供達をぼんやり眺めながら、ひとりごちる。
あんなにも執着していた金は、そのほとんどを部下たちに分け与えた。残りはここまでの旅費で消えた。だが俺はこうして今日も生きている。きっと明日も。
………
それから何年経ったのか。村での暮らしは時間の感覚を鈍らせる。それも悪くないと思いつつ、いまだ未練があるのか、王都新聞を取ることで世の中の動きにはかろうじて付いていっていた。
「今日も何事もなく、一日が終わるか……」
たいまつに火を灯していると、村の入り口にそいつらは現れた。
全裸だ。全裸の男が、女の死体……いや、ゴーレムか。それを抱きかかえながら歩いてくる。
「ん? 見ない顔だな? ……ナニしてる時にゴブリンにでも襲われたのか?」
無言で近づいてくる男。警戒しているのを悟られないよう、話しかける。
「ほう、黒い髪とは珍しいな」
黒い髪……明らかに訳アリだが、もしや。
「……まさかとは思うが、あんた、異界から来たのか?」
──これが、のちに勇者と呼ばれることになる異界人のノダと。
動き、喋るようになることで俺を悩ませることになる、人形のリンナとの出会いだった。
お久しぶりです。とりあえず短編一本だけ書き上げました。
続きはまた後日でお願いします。
next episode マイナ村編




