第61話 世界の矯正力
意外となんとかなるものである。
王宮の本拠地である、王城の門番に『聖女とゴーレムとその仲間達が来た』と言うと中に入れてくれた。
……もっとも、一行を取り囲んできた衛兵を全員倒してからの話だが。
会議室のような部屋に通され、しばらく待っていると黒髪の中年男が現れる。
「これはこれは、絶賛出禁中の聖女様。そして久しぶりだね、勇者様」
「テメェ……」
うなるカオルの拳の上にはそっと重ねられたリクの手がある。
「僕は『この件』の代表で召喚士のハジマだ。それで、何から聞きたいんだい?」
「何もかもですが、まずはリンナの指名手配の件から聞かせてください」
「ふむ。そちらの彼女 が異界から来た人形なのは知っている。つまり勇者の可能性がある。となるとこちらとしても放って置けないから捜していた……のだが、捜索隊が返り討ちにあっちゃったからね。今は遠巻きに監視している、ってトコかな」
「ずっと監視してたのかよ。ってことは、もう狙われることはないのか?」
「多少の誤解があるようだが、彼女とは会って話をしたかっただけだ。あとは戦力として取り込みたかったかな。今となってはどうでもよくなったが」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。常時監視もしているし、わざわざ捕らえる必要がなくなった」
カイの問いに悪びれず答えるハジマ。
「ところで、君達が森に隠した飛行機は接収させてもらったよ」
「……なぜ?」
「空を飛んで王都に高速接近する不審な物体を捕獲しないと思っているのかい?」
「返しては……くれねーよな」
「今頃、王宮お抱えの魔導技師達のおもちゃになってるだろうね。取り上げようとしたら泣き叫ぶだろうから、まあ無理だね」
「カイ、大丈夫です。あれはまだ完全ではありませんから。また作りますよ」
「大丈夫、じゃねーよっ!! お前アレ未完成なのに人乗せて飛ばしてたの!?」
カイのツッコミで脱線しかけた流れを、カオルが修正する。
「……前にも聞いたけど。アタシ『達』は元の世界に帰れるのよね?」
「もちろん。大いなる災いを誰かがどうにかしてくれたらね。そういう風に設定したから」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。時空の狭間を繋げて、異界人というこの世界における異分子を取り込む際に『大いなる災いを退けるまでの間』という限定条件を付けたんだ。そうしないと、時空の矯正力によって勇者様がいつ元の世界に引き戻されるかわからないからね。期間限定とすることで、勝手に矯正力が働かないようにする必要があった。
ちなみに勇者様はランダムで選ばれる。こちらの限定条件は『日本国内在住で、世界から魂が離れかけている者』だ。要するに、明日死ぬとしても未練が少ない日本人だね。そういう人の方が異世界転移しやすいから」
「ニホンってなんだ?」
「彼らが元住んでいた世界にある国の名前だよ」
「ところで、ボクからも質問があるのですが」
「なんだ?」
「海を見たことはありますか?」
「いや……ないぜ。海みたいにでっかい風呂なら入ったことあるけどな」
「ふむ。ではもうひとつ。あなた方はこの国の『外』を知っていますか?」
「外ってなんだ? この国はこの国だろ。オレ達は生まれてこのかた出たことねーぜ」
「ふむ。やはりか。……一応聞きますが、ゴーレムのお嬢さんは?」
[? あたしは禁忌の地なら行ったことあるみたいだけど……この世界でも前の世界でも、海はまだ見たことないし外国も行ったことないな〜]
「なるほど。大変参考になります。ありがとうございました」
「……あなたは一体、何者なんですか?」
「ボクの名前はハジマ。王宮で働く、ただのしがない召喚士さ」
「ところで。前も聞いたけど、結局その大いなる災いってなんなのよ? それがわからなきゃどうしようもないじゃない」
「それがどうにかなるんですよ。それも含めての予言なのですから」
クククと笑うハジマに不快感を隠さないカオル。しかし飛びかかる気配はない。
「……まあ、今はアンタのことよりリンナちゃんの願いを叶えることが優先だからね。そうだ、アンタ何か知らない? 死んだ人間を生き返らせる方法」
カオルの質問にハジマは目を点にする。
「アハハハハハッ! ……いや失礼、あなたには似合わない質問だったので、つい。しかし、ボクの知る限りではそんなものありませんね。死んだのが勇者様でもない限り」
「どういうこと?」
「既に10人以上の勇者様がこの世界で死んでいるのを確認していますが、彼らにはもれなく敗者復活のチャンスがあります。……大いなる災いが退けられて世界の矯正力が発動すれば、全ての勇者様は元の世界に戻されるはずです。それは死んだ者の魂も同様に。その際、元の世界において再び肉体を得られるのか、魂として成仏するのか、召喚時点の状態に戻されるのかはわかりませんが、まあ生き返る可能性はゼロではないでしょう」
[ホ、ホントにっ!? ホントにノダさんは生き返るの!?]
「ノダ……? そんな勇者はいないはず……いや、まさかあの時のエラーの? ……そうか。そういうことか。ゴーレムのお嬢さん。もしかすると『ノダ』さんに関しては特例かもしれませんよ。彼は正規の召喚をされていない。だとすると、予言に関わらず魂が強制的に帰還させられる可能性は高いです」
「その条件は?」
「さあ? 何がキッカケになるかは、ボクにも読めませんね。他の勇者達とどう違うのかも、本人に会っていないからこれ以上は」
(みんなには秘密にしているが、リンナの魔術核にはノダの骨を使っている……となると『その時』はリンナも引っ張られる可能性があるのか?)
「他の勇者達か……もしかして仲間になってくれる可能性も? 会わせてもらえますか?」
「う〜ん。個々人の自由と権利を保障するという建前があるから、ボクの口からは居場所は言えないね」
「勝手に召喚しといて、権利の保障ねぇ……?」
「カオル」
場に沈黙が訪れる。と、ゆっくり口を開いた者がいる。
「あ〜……アテにできないヤツばっかだけど、一応何人か心当たりがあるぜ」
全員の視線が、リクに注がれた。
次回からは4年振り投稿の新規エピソードになります。申し訳ありませんが、ストックがあまりないので不定期投稿になると思います。また、投稿後に内容の加筆修正、時には変更もあるかもしれませんので、誠に勝手ながら事前にご了承お願いします。




