第36話 機械仕掛けの魔女
───場所をアネゴの店に変え、会話を再開する。
なお子ども達は家に帰し、他の村人達は後片付けや負傷者の手当てに追われている。参加しているのはアネゴ、リンナ、兵士2名と常連客のキドだ。キドがいつから話を聞いていたのか、なぜ同席を望むのかは不明だが、アネゴの許可が降りたので問題ないのだろう。
まずはモンドなる謎の男の話から。
ヤツは10年位前に異界から現れた勇者だ。信じられないだろうが、その身元は王宮に保証されているから確かだよ。あの通りの暴れ者でね、ヤツこそが『大いなる災い』なんじゃないか、とも言われてるよ。『退屈だ』が口癖でね、四六時中暴れてないと落ち着かないらしくて、最前線で部隊を率いて魔物狩りに精を出していたんだが……5年前に部隊が全滅してね。以降は除隊して傭兵になったらしいよ。しょっちゅう『死んだ』って噂が絶えないヤツだったんだが、まだ生きていたんだねえ。
「お詳しいですね」
「ヤツとは縁があるみたいでね……」
次いで本題、リンナについて。
で。あんたの体はどうなってんだい? 『機械仕掛けの魔女』って一体なんなんだい? アタシも村暮らしが長くなってからは、世間の噂話にすら疎くてねえ。
わからない。あたしは一体、何者なのだろう?
では私から、現在判明していることについて、順を追って説明します。
まず我々は、王宮から来た『機械仕掛けの魔女捜索隊』の先陣部隊、すなわち斥候です。辞めちゃいましたがモンドさんもそうでした。「魔女の生け捕りだぁ? 面白そうだな。俺も混ぜろ」とか言って無理矢理加わった癖に……「あの辺、黒い森があるだろ。魔物臭いからちょっと行ってくるわ」とか言って隊を離れて……多分恐らく間違いなく、魔物達が村を襲ったのはモンドさんから逃げてきてたんです。あの人は魔物より怖いから……本当に申し訳ありませんでした。
そう言って深々と頭を下げる。初対面時の無表情はどこへやら、かなり多弁な男だった。
───そしてそれは2年も前の話。
そこは王都から遥か東、常に魔王軍とせめぎ合う通称『最前線』でのこと。ある日突然、ふらりと最前線に現れ『なんとも説明しがたい、よくわからない戦い方』で押し寄せる魔物どもを皆殺しにし、危機的状況の人間達を助けたあと、東の果ての『禁忌の地』へと姿を消した者がいる。
その話を聞いた王宮は当初「あっそう」と無視していたのに、それから1年ほど経ってから突然『褒賞を与えたいからその者を探し出せ。見つけた者にも褒美をとらす』と言い出した。王宮直属の兵士を最前線に何度も聞き取り調査に行かせ、その人物像と噂の内容を克明に記録し、広く世間に知らしめた。
「そりゃどう聞いてもお尋ね者だね」
いわく。短めの黒髪に眼鏡。色白の肌。小柄。全身を包むボロ布のようなマント。幼さの残る美貌の女性型ゴーレム。超人的な速度で地を駆け、口から火を噴き魔物を焼き殺したかと思えば、剣を振るって数多の肉体を両断した。彼女が通った後に残るのは、助けられた人間か、魔物の屍のどちらかしかない。生き残った彼らは口を揃えてそういう。『彼女は人間ではないが、確かに魔女だった。機械仕掛けの魔女、ゴーレム・ウィッチだった』と。
[口から火なんて噴けるかーーーっ!!]
今まで黙っていたもう1人の兵士が口を開く。
問題は、なぜこの村の住民が今まで誰も気づかなかったか、だ。 時々でも、こんな村にも王都新聞の記者はくるだろうに。
───と、ここでキドが喋り始める。
本業を忘れてすっかり居着いちまってたが、俺がその記者なんだよ。俺の名前はキド。王都新聞の記者にして、未来の一流ジャーナリストだ。まあ、なんだ。リンナは『みんなのリンナ』でね。この村には欠かせない存在なんだよ。ま、そういうことでね。
なるほど。あなたが情報を抑えていましたか。とにかく、悪いことは言いませんから、さっさと逃げてください。この件に関してなぜか王宮は本気です。生け捕りの命令が出ていますが……そのためなら、この村の住人を皆殺しにしかねません。
お前、なに言ってんの!?
あ、忘れてた。すまんな相棒。
そういうと、元無表情兵士はもう1人の兵士を一撃で気絶させる。
ああ、私ですか? あなたは覚えてないでしょうが……2年前、最前線であなたに命を助けられた1人です。恩返しの足しにもなりませんが、あなたを助けたくて色々と策を講じてたんですが……正直、あのモンドさんが抜けてくれてホッとしています。さっ、早く逃げてください。
逃げないよ。あたしが逃げたら、結局みんなが責められるんでしょ? だったらこっちから打って出るよ。村から離れたところで返り討ちにしてやる。
リンナ! 殺すんじゃないよ?
大丈夫。ちゃんと手加減するから。
何にせよ、今日はもう遅い。出立は明日にしな。……あと、そっちの兵士さんを縛り上げるのを手伝っとくれ。




