第13話 それでも、あなたを信じる【リゼル視点】
それは、思いがけず耳に入ってしまった話だった。
ゼルドという男が町で噂話を広げたせいだ。
『昔、剣鬼と呼ばれた男がいた』『味方を殺した』『ライナの兄を死なせた』――そんな言葉が、まことしやかに広まり始めた。
子どもたちの耳にも、当然入った。
「……ねえ、リゼル……あの話、ほんとなの?」
ティノが、沈んだ目で訊いてきた。
「……カイおじちゃん、ほんとは悪いこと、したの?」
「……」
どう答えればいいのか、わからなかった。
私は知っていた。おじちゃんが誰よりも無口で、でも誰よりも優しいってこと。
そして、その奥に『過去』があることも、もう気づいていた。
でも、あらためてこう聞かれると、言葉に詰まる。
「……昔のことは、ほんとにあったかもしれない。でも、だからって、今のおじちゃんが『悪い人』ってわけじゃないよ」
「でもさ、『人を死なせた』って……そんなの、やっぱり……」
「……怖い?」
ティノがうつむいて、小さくうなずいた。
▽
その夜、私はカイおじちゃんに聞いてみた。
「……おじちゃん、あのときのこと、本当に……?」
「……ああ」
おじちゃんは、それだけで否定しなかった。
むしろ、まっすぐ目を見て、はっきりと答えた。
「俺が、判断を誤った……仲間を死なせた。それは、変わらない」
「……でも、今は――」
「……今は、あのときと違う。……そうありたいと思っている」
その言葉に、胸の奥が、ぎゅっとなった。
逃げてない。ごまかしてもいない。
おじちゃんは、ちゃんと自分の『過去』と向き合ってる。
だから、私も――逃げちゃだめだと思った。
▽
次の日の朝。
私は、ティノとミィナを居間に呼んで、三人で輪になって座った。
「昨日の話だけどね。……私は、おじちゃんを信じようと思う」
「……どうして?」
「だって、私たちのこと、ちゃんと見てくれてるよ。怒鳴ったりもしない。ごはんも作ってくれる。大変なときは、代わりに背負ってくれる」
「うん……おかゆのときも、パン焦がしたときも……」
ミィナがぽつりと呟く。
「悪いことをした人が、そのあともずっと悪いままだなんて、私は思わない」
「……じゃあさ、もし、オレが誰かにすっごい怒られるようなことしたら」
「ちゃんと反省したら、私たちは許してあげるよ」
「……じゃあ、おじちゃんも、きっとそうなんだね」
ティノは、少しだけ考えて――目をそっと閉じた。
そして、ゆっくり開いて、静かに言った。
「……オレも、信じる」
「うん」
「ミィナも、おじちゃん、すき」
▽
その夜。
私はカイおじちゃんの前に立って、少し緊張しながら口を開いた。
「……ねえ、おじちゃん」
「……なんだ」
「私は、おじちゃんの過去を聞いても、やっぱり……“今の”おじちゃんを信じるよ」
「……そうか」
「ティノも、ミィナも、同じ気持ち。だから――これからも、一緒にいて……お願いします」
おじちゃんは、目を見開いて。
ほんの一瞬だけ、言葉を失ったように、口を閉じた。
でも、そのあと――たったの一言を、おじちゃんは言ってきた。
「……ありがとう」
そのたった一言に、いろんな気持ちが詰まっていた気がした。
私はそれ以上、なにも言わずに、静かに笑った。
過去は消えない。けれど、未来は、選べる。
その手助けをすることが家族っていうのかもしれないって――私は思った。
「次にあのへんなおじさんがきたら、追い返してあげるからね!」
「……ほどほどにな」
私はガッツポーズを見せながら、おじちゃんにそのように言ったのだった。
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