第7章 ライブラ王国と天秤の上の少年少女 28話
ライブラ王国での一日を終えて、コブラたち一行はライブラ王国を旅立った。
キヨたちは後数日滞在したいと言ったのだが、珍しくコブラが急かしたのだ。
リブラはそんなコブラと別れを言う際、なんだかおかしな様子でニコニコと笑っていた。その顏もコブラは何とも目を合わせづらく、視線を反らす。
その意味を知るリコリスだけがニヤニヤとコブラを見ていた。
ライブラ王国も見えなくなるほど、森の中を歩いた。
日が橙に染まる頃、いい野営地を見つけ、そこにテントを張る。
思えば始まりの頃はコブラとヤマト、キヨの三人であった故、寝袋だけでよかった。
けれど今は違う。コブラ、ヤマト、キヨ、アステリオス、ロロン、リコリスに猫のリザベラまでいるのだ。十分な小隊レベルの人数がいる。
コブラとキヨは森へ果物や植物を採取に、ロロンとリコリスは炊事洗濯などを行い、ヤマトはテントの設置をしている。
アステリオスは一人で黙々と何かをやっている。普段ならばヤマトと二人でテントの設営をするのだが、今日ばかりは優先して作りたいものがあると言ってヤマトに仕事を押し付けた。
リザベラはそんなアステリオスの傍に座って彼が縫っているものをじっと見ている。
「縫物ならロロンの方が得意なんじゃないかい?」
「ちょっと特殊な繊維とか普段の編み物と違う作り方するから、ロロンさんに一から説明して作らせるより、僕が自分でやった方が良いかなって。僕も出来ないわけじゃないし、もうすぐ出来るよ」
「……眼帯かい?」
リザベラが首を傾げながら答えた。アステリオスはコクリと頷く。
「おーい! 見ろよ! いい兎が手に入ったぞー」
コブラとキヨがニコニコと笑いながらステップで戻ってきた
そんなコブラの声を聞いて、アステリオスの何かを縫うスピードがさらに上がる。
リコリスとロロンがコブラの方に駆け寄っている。完成まで後一歩のところまで進めたアステリオスは完成させて嬉しそうにその者を天に掲げた。
「できたー! コブラ!」
アステリオスの叫び声にビクリと驚いたコブラが持っていた兎を落とした。
地面につけば逃げられると判断したキヨは慌ててよっと掴んだ。
「なんだよアステリオス」
「ちょっとこっち来てみて」
コブラはアステリオスに言われて彼の元へ行く。リザベラはコブラの左肩にひょひょいと登った。
「これ、つけてみて」
アステリオスに渡されたものを見て、コブラは意図を汲み取れずに首を傾げる。
「左目を隠すやつなんだ。目にその布を当てて、紐を耳裏辺りで括ってみて、長さは調整してみるから」
コブラはアステリオスに言われるがままに装着する。調整すると言っていたが、既に付け心地はよく、アステリオスの細やかな仕事が伺える。
「あれ? これ前見えるな」
「すごいでしょう?」
アステリオスは誇らしげに胸を張った。
その様子に全員がコブラの元へ駆け寄った。
「眼帯か?」
ヤマトが興味深そうに言葉を漏らす。
「うん。コブラの銀河の眼、目立っちゃうでしょう?」
アステリオスの言葉に全員コブラの左目を見た。ライブラ王国に入る直前に突然変化したコブラの左目は神子の証明とされる銀河となっていた。
リブラは幼い頃から両目ともになっていたという。ライブラ王国での試練を終えたら元に戻ると思われていたが、依然コブラの目は銀河のままである。
「ライブラ王国は神子の知識があったからあれほどで済んだけれど、何も知らない人が多い国なら、確実に恐れられる。隠しておいた方が良いと思ってね」
眼帯をつけたコブラはその付け心地と、不思議な感覚に感動していた。
「これ、布なのに、ちゃんと左目でも見えるわ」
「へぇ、ちょっと私にもつけさせて、うわっ! ほんとだほんとだ」
リコリスがコブラから眼帯を奪ってつける。コブラ用に作られたものなので、紐が少し余っている。布を手で直接目に当てている。
「本当だ! 見える見えるー!」
「あたしも付けてみたい」
リコリスに強請ってキヨも眼帯を目に押さえる。「見える見える」と彼女も興奮している。
その様子に、コブラは妙なむず痒さを感じて、二人から眼帯を奪い返して付け直した。
「これは俺のだからな。おめえら」
「ハハッ、眼帯姿が似合うなコブラ」
「えぇ、そうですね。悪人っぷりが上がりました」
眼帯を付け直したコブラを見てヤマトとロロンがクスクスと笑った。
「うるせえぞ。それより腹減ったから早く飯にしてくれよアステリオス」
「うん。気に入ってくれたならよかったよ。じゃあ、ご飯にしようかな」
そういってアステリオスはよいしょっと立ち上がり、キヨから兎二匹を受け取って調理を始める。
残りのみんなはロロンたちの家事の手伝いや、近くで呆然と遊びながらアステリオスのご飯が出来上がるのを待っていた。
コブラは何げなく見つけた岩に座って空を眺めていた。
「どうしたの?」
そんなコブラに気づいてキヨが声をかける。
「いや、なんかあっという間だったなぁって」
「やっぱりリブラさんと一緒にいたかったの?」
「……どうだろうな?」
「あの国だったら、あんたの居場所はあったかもしれないね」
「そうかもな」
コブラはキヨの言葉に答えながらも、ずっと空を眺めつづけている。
キヨはそんなコブラの横顔をじっと見ている。
「けど、あたしはこうして一緒に旅出来て嬉しいよ。こうして、みんなで出会ったのもあんたのおかげ。難しいかもしれないけど、オフィックスに戻れたらさ。ちゃんと、あんたの場所を用意してあげるから。それが私を旅に誘ってくれたあんたに出来る最大のお返しだと思うし」
そう言いながらキヨはコブラの元から去っていった。
キヨの言葉を聞いた後、なんとなく呆然と空を眺めている。
もう空は暗くなっており、星々が煌めいている。この光景と、自身の目が同じと言う事実もなんとも受け入れるには時間がかかることであった。
昔馴染みであるリブラに出会ったからか。昔からのことが脳裏に過ぎっていく。
教会で過ごした日々、オフィックス城が襲撃され、リブラとはぐれた日。それからしばらくの一人の日々、優しくしてくれる人はいたが、孤独と違いはあまりなかった。
「コブラ―! ご飯できたよー!」
リコリスの叫び声がコブラの意識を正気に戻す。ビクリと震え、慌てて振り返ると、焚き火に照らされて、笑顔でこちらを見てくる仲間たちの姿があった。
「早くしないとー! キヨに兎肉全部取られちゃうよー!」
リコリスが叫んでいる。見てみると、キヨとリザベラが他の者が引くほど肉に食らい付いていた。
思わずぷふっと笑ってしまったコブラは座っていた椅子から飛び降りてみんなの元へ駆けていく。少なくとも、今までの人生の中でこれほど充実した日々はなかった。
コブラは、誰かから奪ったわけでもなく、自らの手でこの場を手に入れることが出来ていることになんとも充足感に満たされた。
「おいおい、俺の分残ってんだろうな!」
コブラが悪態をつきながら食卓に着く。皆が笑顔に包まれながら、楽しい食事をする。
きっと、コブラにとって、これが一番欲しかったものなのだ。
なんとなく、自分がしたいこと、欲しいものが見えた気がした、そんな一夜であった。
これにて7章は終了致しました。ノベルアップ+でも、同じところまで合わせていきたいので、八章への更新はしばらく後になります。なろう版からリテイクや誤字脱字などを修正し、サブタイトルも付けたモノをノベルアップ+に乗せていく予定ですので、良ければノベルアップ+でもチェックをお願い致します。今まで読んでいただき、ありがとうございました。




