#8 ボクっ娘
どうせなら僕がカッコよく助けに入りたかったなあ、なんて考えながらも白虎に次々と命令を与えていく。
それに伴って、ゴブリンやコボルトを蹂躙していき、やがて戦場に残ったのは同盟の冒険者たりと白虎のみだった。
転んでいた女の子の魔術師が、白虎の術者である僕と従者二人に気がついた。
「主様はお人好しですな」
「目の前で人が死なれでもしたら気分悪いだろ。そうじゃなくても、普通は助けるものだよ」
「私は今まで生きてきて、生き物の死というものを嫌という程見てきましたからもう慣れました」
アリュンはこちらに駆け寄ってくる冒険者達を見ながら淡々と言った。
確かに長い間生きていれば生物の死に多く関わるのかもしれない。その中には、アリュンを襲って返り討ちにされて死んだ者も含まれているだろうが。
でも、だとしても僕は彼女を咎めるつもりはない。
アリュンも、何の意味も無く人を殺したりはしないだろう。
力がある世界では争いが起こる。それが自然の摂理と言うものだと思うから。
「た、助けてくれてありがとう。それより君達、もうブルーレッサーを倒して出てきたのかい!?」
やがて近づいてきた、同盟のリーダーらしき戦士の男が驚いた表情で聞いてきた。
「うーん、達って言うか僕一人で……」
「一人!? 見た感じ魔術師の様だけど……」
男はそう言いながら、僕の両隣に立つリューネとアリュンに視線で問いかけた。
どうやら信じてもらえなかったらしい。
コクコクと頷く二人を見て、何か恐ろしいものを見るような目を向けてくる。
おいやめろ、なんか僕がおかしな人みたいじゃないか。
「見た感じ十五歳くらいの少年に見えるんだけど……?」
「よく分かりましたね。十五歳で今日冒険者になったばかりの新米ですが、よろしくお願いします、先輩」
先ほどの視線のお返しとばかりに、ニッコリ笑顔でそう言う。
それを聞いた男は本格的に恐怖の視線で僕を見てくる。
もういいよ諦めました。
「それじゃあ僕達は先に行かせてもらいますね」
言いながら二人を連れて再び歩き出す。
「あ、あの、さっきはありがとうございます!」
振り向くと、さっき僕が白虎を操って助けた魔術師の女の子がペコリと頭を下げていた。
言っちゃなんだが、結構みすぼらしい格好をしている。白いローブにとんがり帽子、木製の杖を持った少女は、服装は安いもののかなりの美少女だった。
「いいよいいよ、迷宮じゃお互い助け合いも大事だしね。それじゃ、気をつけてね」
「本当にありがとうございます! あの、名前は……?」
「ん。リオンハート=シャオラン。魔法使いやってます」
勢いで魔法使いって言ってみちゃったけど、誰か引いてる人とかいないよね……?
いや、魔法使いっていうのはあっているはずだ。僕が使っているのは魔術……魔法とも呼ばれる技術なのだから。
大丈夫……だよね?
今更になって恥ずかしくなったので、歩く足を速めた。
後ろでは「魔法使い……? 魔術師じゃなくて? って、アレ? シャオラン、って……」なんて呟いているから、より一層歩く足を速める。
「じゃあ後の魔物は全部リューネに任せるね」
「分かりました」
言った側から現れるゴブリンやコボルトを一掃するリューネ。どうやらここの魔物は僕等にとって弱すぎたみたいだ。
今のところ僕等三人はダメージゼロ。攻撃を受けてすらいない。
寧ろ攻撃を受ける前に倒している。
「おい、すげえよあのメイド服の子」
「俺も思った、今の剣捌き見たか? スピードが尋常じゃねえよ」
「て言うか何でメイド服? 迷宮に?」
「きっとあの少年の趣味か何かなんだろうよ。っち、十五歳で従順な彼女持ちで魔術師とか、どんなリア充だよ」
「えっと、じゃああの大きくなった女の子は一体……?」
「さあな。何かの術で大きくなったんじゃねえの?」
「で、でも、キ、キキキキ、キスしてましたよ?」
「少年の方は全然動じてなかったから、それが発動条件とかなんじゃねえの?」
後ろがうるさくて気になります。
て言うか、メイド服に関しては僕がお願いしてるわけじゃないし。リューネが自分から着ているだけで、僕がそう言う趣味を持ってるわけじゃないから。
アリュンに関しては大体あってるから突っ込まなくていいや、面倒くさいし。
*
「やっと出たなあ。やばい、目がチカチカする」
暗い空間から突然明るい場所に出たため、目がチカチカして痛い。
今は午後の三時頃だろうか。
風で揺れる木の葉の音が心地よい。迷宮の中はゴブリンやらコボルトやらのキーキーした鳴き声で耳が嫌がっていた。
しかし、それにしても。
あまりにレベルが低すぎるのではないだろうか?
「なあリューネ。守護神って言うのは、冒険者が同盟を組んで挑むのが定石なんでしょ?」
「はい。基本的に十人以上のメンバーで挑むのが定石です。冒険者ギルドに行けば、同盟メンバー募集の貼り紙があるでしょう。そのほかに、『クラン』と言うものを作成してそのメンバーで挑む、と言う例もあります」
「クラン?」
「クランと言うのは、簡単に言うとギルドを小規模化したものですね。ギルドと言う大きい枠組みではなく、パーティと言う小さな枠組みでもない、その中間に類するグループの事を指します。五人以上で正式なクランとして認められます。五人だと六人パーティよりも人数が少ないことになりますけどね」
分かりやすく説明してくれたリューネ。最後の方は苦笑気味だった。
「クランってのに入ったり作ったりしたら、何かいい事とかがあるの?」
「まず、知名度が高くなればクランに特注の依頼をされる方が現れます。毎年開催される通称『クラン大会』で優勝でもすれば、更に特注依頼は増えたりするでしょう」
いつまでも入口の前で立ち話をしていたら邪魔になるので、脇に移動しながらリューネが続ける。
「他に、態々同盟メンバー募集の貼り紙を用意しなくても、ギルドメンバーで挑むことで面倒な手順をする必要がなくなります。他にもギルドランクという物が存在します。それはギルドメンバーが依頼を完了することで上がるのですが……『ギルドに加入済み』『ギルドランクが○○以上』等の条件を持つ以来も存在します」
「ふーむ、てことはギルドには入ったりしてる方がいいってことだね」
「そうなりますね」
リューネの長い説明で何となく掴めた。
入って損するような内容はないらしいし、僕が昔やっていたゲームのギルドシステムと少しばかり、いやかなり似ている点もあったため、ストンと頭に入ってきた。
「よし。作るか、クラン」
「私はそう言うと思っていましたよ、主様」
「え、えーと、リオンハート様。クラン作成には三万Rが必要になってくるのですが……」
「あーっと、やっぱりお金が掛かったりする?」
何となく想像できてはいたが、今の僕らにとって三万Rは結構大きな出費になる。
先ほど守護神を倒して手に入れた指輪も、第一迷宮で手に入る術装なのだから、今頃相場はかなり落ちていることだろう。
と、なるとだ。
もしクランを作成したら明日以降は頑張って沢山稼がないといけない事になる訳だ。
「んー、僕的には大丈夫かなあなんて思うけど。リューネ、大丈夫そう?」
「三万Rですね……多分大丈夫でしょうが、少し頑張って稼がなければいけないかと」
「なら大丈夫だね。自分で言うのもアレだけど、僕等相当強いみたいだし。明日には第五迷宮くらいまで攻略してるんじゃない?」
「確かにこのペースだとそれぐらいは行くでしょうな。正直、私達の存在意義がかなり薄いですが……」
「ま、確かに僕一人でも全然行けそうだね」
「「うっ!」」
僕の言葉に二人して目をうるうるさせる。
何だよ二人共、そんな表情したらもっといじめたくな……
おっと、新しい道に目覚めてしまうところだった。
「嘘だってば。僕一人じゃ至らない所とかあるかもしれないから、二人共頼りにしてるよ?」
「リ、リオンハート様……」
「さ、下げてから上げるのが得意ですね、主様は……人たらし」
リューネが安心した様子でこぼし、アリュンがボソッと呟く。
下げて上げるのは効果絶大のようだ。
にしても、なんかもしかしたら本当に自分が人たらしなのかもしれないと思う様になってきた……。
*
僕らはあの後、すぐに転移門でユースティアに戻った。
ちなみに今の所僕らの収入になり得るモノと言えば、守護神・ブルーレッサーが落とした指輪と刺のみ。しかも、それはおそらく既に相場がかなり落ちているものだろうと予想できる。
「あれ、コレ、迷宮攻略だけじゃあまり儲からないんじゃないんですか?」
心配になって思わず呟いた。
やはり、普通の依頼もやっていかなければいけないのだろうか……でも、Eランクの僕等が受けられる依頼はどうせ録なものはないだろう。
かと言ってやらなければランクは上がらない。
「どうしましょうか。迷宮に関しても、そこそこ進めばある程度は収入が安定するでしょうが……あ」
リューネがポンと手を打つ。
「ん。何かいい案が思い浮かんだ?」
「いい事思いつきました。リオンハート様、私達は守護神を瞬殺することができます」
「ふむふむ」
「それで、ある程度進んだ所で守護神に何度も挑むのです。倒しては部屋を出て、再び入ってまた倒す。それを繰り返して守護神が落とす術装を集めて売る、と言う手はどうでしょう?」
「「それだっ」」
ホクホク顔でギルドに向かう僕等三人。
明日以降の方針は決まった。
リューネの案を採用し、それを行ってある程度稼いだ後、余裕が出来次第普通の依頼にも手を付けていき、冒険者ランクを上げる。
「か、完璧だ……ッ!」
「流石リューネだな」
「そ、それ程でもないですよ」
流石僕の家のメイドだ。
頭は回るし剣は強いし家事も完璧だしスタイルいいし美少女だし猫耳だし尻尾だし。
非の打ち所が無い。
「よし、それじゃあ今日もギルド作ったら第二迷宮でも行ってくるか」
言いながら着いたギルドの中に入り、カウンターへと向かう。
そこには昼間と同じ受付嬢の女性が立っていた。
「すいません、クラン作りたいんですけど……」
「クラン、ですか。かしこまりました」
再び冒険者登録の時と同じような簡単な手順を済ませた後、僕らはクラン名を考えていた。
あまり受付嬢を待たせるわけにはいかないが……。
「ど、どうする?」
「私はネーミングセンスが無いので……」
「『聖獣アリュンを囲う会』とかはどうでしょう?」
「どこのオタクの巣窟だ」
「?」
どうやらオタクと言う言葉の意味が分からないらしい。
詳しいことを説明しようとするも、この世界自体がオタク的要素の塊であるため説明は不可能と見た。
何せ中二病の権化ではないだろうか、異世界というやつは。
魔術に剣に魔物に猫耳。
僕が住んでいた世界にはまず存在しないような要素ばかりなのだから。
「ま、まあいい。兎も角それは却下だ」
「ぬぅ」
「リオンハート様が考えるのが一番いいかと思います。クランマスターになるのですから」
「うーん、そうは言われてもなあ……」
なんて考えている内に、僕は脳の片隅にあった小さな記憶を呼び起こした。
日本に住んでいた頃、ネットゲームでギルドマスターを勤めていたことがあった。
どこにでもありそうなRPGで、取り柄というのが多種多様な職業だったオンラインゲームだった。
そこでランカーだった僕は、ギルドを作成して沢山の人と共にゲームの世界を駆け巡った。
今となってはいい思い出だ。
「……なら『リメイク』って言うのはどうだ?」
「リメイク……作り直す? どう言う意味でしょう?」
どうやらこの世界にもリメイクと言う言葉が存在したようだ。
僕の世界の英語という言葉の単語だったからもしかしたら知らないかも、と思っていたけれど。
「いや、深い意味は無いんだけどね。どうかな?」
「私はリオンハート様が宜しいのであれば、何でも構いません」
「私も『聖獣アリュンを囲う会』は諦めることにします」
「まだその案引き摺ってたのか。て言うかそれだとお前が聖獣だって事バレるだろ」
とはいえ、これでクラン名は決まった。
「それでは、クラン名を『リメイク』でお願いします」
「分かりました。少々お待ちください」
内心でお待たせしてすいませんと謝りつつ、チラッと食事処の方へと視線を向けた。
そこで、一人の少女と視線があった。
長い耳があるということは妖精種なのだろう。女子にしては短い金髪に、金色の瞳。
うん、全く見たことがない人です。
一体どうしたのだろうか、と思いながら僕もその少女を見返すが、少女は僕達から視線をズラさない。
「お待たせしました。これでクラン『リメイク』の登録は完了致しました」
ニッコリ営業スマイルで礼をする受付嬢に礼を返しながら、踵を返す。
「よし、じゃあとっとと次の迷宮に行くとするか」
「そうですね」
言いながらギルドから出ていこうとする僕に、いつしかの男の声が掛けられた。
「おーおー昼間の小僧達じゃねえか。一体どこに行ってたんだ? どこに行こうとしてんだ?」
「……ちょっくら第一迷宮の守護神を倒してきたところですが、何か? これから第二迷宮なんです、でわ」
「……は? ハハハッ! お前らみたいなガキが三人で守護神を倒したって? 嘘も大概にしとけよ小僧ども。常識を知ってから常識的な嘘をつきやがれ」
「ま、信じるか信じないかは貴方次第なんで。じゃ」
面倒事はゴメンである。
「……いいのですか、主様よ。格下に舐められるのは嫌いではなかったか?」
「それよりも面倒事が嫌いだから今は我慢さ。適当に活動している内にそれなりに名は通るでしょ。同盟も組まずに守護神を倒す者達、的な」
「おそらくリオンハート様が助けた同盟の方々は他の支部の様ですね。第一迷宮の守護神に苦戦しているような人々の言葉等、信じる人は少ないでしょうが……」
「リューネって時々サラッと酷いこと言うよね」
結構酷いことを言ったリューネに僕が指摘すると、今度は後ろから聞いたことのない女の子のモノだろう声が聞こえてきた。
振り向くと、そこにいたのは先ほどの妖精種の少女だった。
「あの、ボクをクランに入れて欲しいんですが」
お気に入り100人超え!
ありがとうございます。




