第30話 組分け
衛士団の女性たちが獲物を巡ってしのぎを削り始めてはいたが、そんな思惑とは関係なく騎士団との共同作戦の実施が近づく。
通常任務にプラスしての仕事なので休務日に行うことになっていた。
そのため、特別手当を支払うことを約束して志願制で行われることとなっている。
ブランドは当然参加することとしていた。
その上で部下には無理をしなくていいと言っている。
第1隊の参加者名簿を団長室に持っていくとベアトリスも参加しようかという意向を漏らした。
それをブランドはやんわりと否定する。
「お気持ちは嬉しいですが団長はご遠慮ください」
「なぜだ?」
「団長も参加されると団員への圧力となります。志願制といいながら半強制的になってしまうでしょう」
「そんなつもりはない」
「団長はそんなつもりがないのは分かりますが、これは平団員側の受け取り方の問題です。ここは一つゆっくりとお休みください」
「そんなことを言ったらブランド隊長はどうなんだ? 第1隊の団員に対する圧力にはならないのか?」
「ご覧頂ければ分かるように、第1隊の第1回目の参加者は5名です。半数以上は休んでおります。隊長はまだ距離が近いので遠慮せずにすむのでしょうな」
実際のところ、ブランドと団員の距離は近い。
日頃からコミュニケーションを密にしているし、ブランド自身が無駄に威厳があるタイプでもなかった。
好きにしていいぞというときは、本当に自由に決めていいというのが浸透している。
「しかし、それではこの話を決めた私の立場が無いのだが」
「団長は必要なことを必要として判断されただけです。団長が参加しなかったからといって非難される筋合いはありません。まあ、どうしてもというならちょっとしたものを差し入れするというところでどうでしょうか?」
ベアトリスは副団長や他の隊長にも意見を聴いてみた。
ホーソンは当然のことながらベアトリスが現場に出ることに反対する。
フンボルトもイライザもブランドと同じような意見を述べた。
さらにフンボルトは騎士団分隊長オーギュストの立場にも言及する。
騎士団の立場も分かるだけにそういわれるとベアトリスは我を張りづらくなった。
ちなみに、イライザの場合はこれ以上ブランドとベアトリスが一緒に行動してほしくないという気持ちもちょっぴり混じっている。
自分は参加できなくなった上に、ベアトリスはこの臨時任務の班編成に頭を悩ませることになった。
1隊あたりの志願者数が少ないので複数の隊の合同でメンバーを組まなくてはならない。
さらに通常任務のシフトも違うので休務日の調整も必要になる。
ようやく組んだのに全員から歓迎の声を聞くことはできなかった。
「ブランド隊長と一緒の組がいいですう」
第6隊のサリーは堂々とベアトリスに要望しにきたし、他の女性団員もどこまであからさまに言うかは別にして似たようなものだった。
モンスターと不意に遭遇したときにブランドなら安心というのが理由である。
理にかなっているようであるが、戦力強化のために騎士団にも参加要請していた。
そのため、それだけでは理由として弱い。
明らかにこの機会にブランドとお近づきになろうという魂胆が見え透いている。
今まではブランドは女性団員と2人きりになるのを避けていた節があったが、イライザやベアトリスの例からすると絶対にダメというわけではないらしい。
活躍すれば労ってくれるのはいつもの姿を見ていれば容易に想像できる。
ブランドと距離をつめる絶好の機会だった。
ベアトリスはこの処理に悩んでくじ引きで決めると公表しようかと思ったが直前で思いとどまる。
それではベアトリスの能力と権威に疑問がつきかねない。
各隊の隊長からヒアリングを行い、剣技や経験をもとに割り振る。
ブランドと組めなかった者から不満の声が上がっていることは気がついていたが耳に入らないフリをした。
決まりもなく全員が満足する答えもない問題にもリーダーは裁定を下す。
そして、その結果を甘受しなければならないことを学んでいた。
なんとも次元の低い争いではあったが経験は経験である。
そういう機会を提供する原因となったブランドに対して感謝の念を抱いた。
このあたり、ベアトリスも少し感覚がおかしくなってきていたのかもしれない。
なにはともあれ組分けは決定する。
その様子を眺めながらイライザは心穏やかではない。
自分もブランドと組みたいが隊長職にある以上はその望みを口に出すのも憚られた。
なんとかベアトリスが参加するのを正論で封じたのにこれでは気が休まらない。
しかし、イライザはブランドの人となりを信用するほかなかった。
実際に作戦が開始されると別の煩わしさがイライザを悩ませる。
騎士団からの参加者の熱視線が集中したのだった。
日がささない暗い森の中でどこぞの墳墓から迷い出てきた亡霊のリッチーと遭遇し、相手の魔法よりも早く爆炎の魔法で倒してからはさらに注目を集めることになる。
リッチーは魔法を駆使する強敵なのでそれを倒したイライザが凄腕なのは間違いない。
その日の活動が終わって夕刻に解散となったときには、騎士たちからの食事の誘いが殺到する。
「まだ仕事があるので」
そう言い逃れをしてイライザは衛士団の詰め所に入っていった。
一応その日の日報を書くという仕事が無くは無い。
部下たちに先に帰っていいと許可を出して報告書を書き始める。
しかし、溜まり場に向かった部下たちがすぐにもどってきた。
「どうした? 本当に先に帰って構わないぞ。正規業務ではないし、私もさっと書いて帰るつもりだ」
「あのう。向こうに団長からの差し入れが用意してあるんです。さすがに隊長だけ働かせて俺たちが食うわけにはいかなくて」
イライザが出向いてみれば、確かに覆いの被さった料理が用意してある。
中を覗いてみれば、簡単に手でつまめるものだった。
イライザにしてみれば報告書作成は誘いを断るための口実という側面が強い。
何が何でも今すぐ書かなければならないものでもなかった。
部下からの誘いに対し断るということはしづらくなる。
「今日は皆ご苦労だった。折角の団長の心遣い頂くとしよう」
イライザは部下たちと飲み食べをはじめた。
差し入れの揚げ物で唇の滑りが良くなったのか、部下の1人が先ほどのことを話題に出す。
「イライザ隊長、人気でしたね。お誘いで列ができていたじゃないですか」
「1日一緒に仕事をしただけで誘われてもな。私の派手な立ち回りに幻惑されたのだろう。正直なところありがた迷惑だな」
声をかけてきた中には実家が爵位持ちの者もいた。
結婚相手が運良く家を継げばご令室である。
普通なら多少は色目を使うところだがイライザは興味がなさそうだった。
部下たちも馴れたもので別にびっくりすることはない。
ああやっぱりなと思うだけである。
そして、数日後、イライザは団長を通じて正式な釣書が何通も送られてくることに驚き悩まされることとなった。




