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糸目の衛士隊長はお人好し  作者: 新巻へもん


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第25話 救難

 バラバラっと降ったと思うと雨足が弱くなり、また強くなるを繰り返す中をブランドたちは進んでいく。

 雨を避けて軒下に固まっている者はいるが通りを行き交う姿はない。

 そんな雨の中でも巡回しているブランドたちの姿は町の人々には頼もしく見えた。

 日中だというのに薄暗い道を第1隊はカンテラを掲げて進んでいく。

 トールハイムの街中を南北に流れる川の近くに差しかかったときだった。

 ブランドが眉を寄せる。


「……て」

 雨足が弱まった瞬間に人の声が聞こえた。

「こっちだ。全員駆け足!」

 川に向かってブランドが走り出す。

 近づくと普段は穏やかな流れが茶色い濁流と化していた。

 轟々と音を立てる川の流れに混じって切れ切れに声が聞こえてくる。

「誰か~、助けてえ」


 声の方に駆けつけてみると川にかかる橋の支柱に捕まっている人影を発見した。

 カンテラを向けると涙声が大きくなる。

「早くっ!」

「もう大丈夫だぞっ」

 ブランドたちはダダダっと音を立てて橋に殺到した。

 欄干から見下ろすとトマスが誰かを庇うように橋脚に必死にしがみついている。

 ブランドは剣を外し乱暴に服や靴を脱ぎ始めた。

 ノートンがそれに倣う。


 この奇行に普通ならあっけに取られるところだが、他の団員たちは団員2人が持参したロープに細工をした。

 1本の片方の端を下着姿になったブランドの足首に舫い結びで結びつけ、頑丈な欄干の間を通す。

 反対側の足首にも同様に結びつけた。

 ノートンにも同じようにする。


 すべてのロープをそれぞれ3人の団員が手に取り胸の回りに巻きつけた。

 こうすることで6人が脚の力でロープを引っ張ることが可能となる。

 腕力に比べて数倍の力が発揮できた。

 ブランドとノートンは準備完了を確認すると欄干を乗り越える。

 2人に結んだロープがピンと張った。

 逆さ吊り状態になったブランドとノートンを慎重に素早く降ろしていく。


 ブランドがまずトマスを捕まえる。

「もうちょっとだけ頑張れ」

 トマスの手首をガッチリと握った。

 ブランドと重なるようになったノートンがトマスの内側の子供に手を伸ばす。

「捕まえましたっ」

「上げろっ!」


 ブランドの声が聞こえると、命綱をつけて欄干の外に身を乗り出していた監視役の2名が12人に怒鳴った。

「引っ張れ!」

 ロープを巻きつけた団員が一斉に後方に体重をかけて下がり始める。

 綱引きの要領と同じだが握力も腕力も不要だった。


 元々は大人を対象としても機能するように考えられた方法である。

 要救助者が体重の軽い子供だったこともあってすぐに引き上げられた。

 ここから先は欄干を越えなくてはならない。

 子供たちを掴んだままでは不可能だった。

 ロープの最後尾にいた者が1人ずつ列から外れる。


 監視役2人がその者たちの補助を受け子供たちに落下防止用のロープをかけた。

 そのロープを欄干に結びつける。

 それから4人がかりで子供たちを順に引き上げた。

 トマスともう一人の少年はショックで青ざめて震えている。

「他に一緒にいた子供は?」

「ううん。俺たち2人だけ」

「隊長! この2人だけだと言っています」

 報告すると2人の団員は1人ずつ子供を抱え上げると病院に向かって走った。


 その間にブランドとノートンは腹筋を使って体を起こすと団員の助けを借りて欄干を越える。

 下着1枚の体は汗と雨に濡れて光っていた。

 なかなかに刺激的な格好である。

 ブランドはそのままの格好で団員の1人を指名した。


「詰め所に戻って応援を要請しろ。我々はここから下流の確認をする」

「了解です」

 ブランドは脱いだ服などを手早くまとめると靴だけを履き川沿いの道を移動し始める。

「カンテラで水面を照らせ。助けを求める声を聞き逃すな」

 カンテラの灯りが交錯した。

 そのうちに段々と雨量が少なくなってくる。


 ブランドたちは川沿いの道の終点に到達した。

 結局その後はトマスたちの他に増水した川で危機的状況に陥っているものは見つからない。

 町を取り囲む城壁に空いたトンネルに轟音を立てながら水が吸い込まれている。

「中も確認した方がいいな」

 ブランドは靴を脱いだ。


「隊長まさかトンネルの中に入るつもりですか?」

「もちろんそのつもりだが。見ろ。保守用の通路は完全に水に浸かっていない。せいぜいひざ下だ。それに金属製の手すりもある」

 指さす先にあるトンネル脇の一団高い通路には確かにそれほど雨水は押し寄せていない。


「いやあ、さすがに危ないでしょう。さらに増水する危険性だってあります」

「その場合は先に道路に溢水する。大丈夫だ。さっと行って外部から侵入を阻む鉄格子に誰か捕まって救助を待っていないか確認して戻ってくるだけだ。命綱をくれ」

 綱を腹に巻き首からカンテラを下げたブランドは階段を下りる。

 3段目から水の中に入った。


「気を付けてください」

「分かった」

 慎重に足を進めると直角に曲がってブランドはトンネルの中へと姿を消す。

 ノートンは神経を尖らせながらロープを少しずつ繰り出していった。

 急に引っ張られるようなことがあれば、隊長が足を取られるか何かがあったということである。

 

 13人がかりでロープを引っ張りブランドを助けなくてはならない。

 先頭に陣取るノートンも足さきは水が濡らしている。

 しばらくするとロープの動きが止まった。

 どうやら鉄格子のところまで到達したらしい。

 くいくいと2回ロープが引っ張られる。


「よーし、隊長が戻ってくる。気合を入れろよ」

 全員でロープを少しずつ手繰り寄せた。

 ブランドの姿がトンネルから出てきてホッとする。

「上の方には誰も居ない。水面から下は残念だが見えなかった」

「潜って見るなんてことをしなくて良かったですよ」

「さすがに俺もそこまで無鉄砲じゃない」


 階段を上って通路に立ったブランドは部下たちを労った。

「よし、雨の中、良くやった」

 第1隊の団員たちは顔をほころばせる。

 やはり子供2人の命を救ったということは誇らしかった。


「ようし、あとひと踏ん張りだ。上流のチームを助けに行くぞ」

「ブランド隊長」

 ノートンが発言を遮る。

 ブランドは小首を傾げた。

「この時間は俺たちの担当時間だからな。応援を出してもらったが、それはあくまで応援だ」


「いやあ、それは分かっているんですけどね。小ぶりになってきて路上の人も増えそうなんで一旦服は着ませんか。変質者が居るって通報されても困りますよね」

 今までは夢中で気づかなかったのかブランドは自分の体を見下ろし、初めて凄い格好であることに気が付く。

 慌てて丸めてあった服を身につけ始めたところにベアトリスが団員を引き連れて駆けつけてきたのだった。

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