28・りーねーも、ぱぱも、いっしょにねるの
「そうです! 思い出しました! よかったらレイラ奥様の遺品などごらんになりませんか? 若い頃のギルバート様の姿があるかも」
「まあっ!ギルバートの!?」
目を輝かせ、アンナアンナが食いついてくる。読みが当たった!
夫ギルバート・アンドヴァリ公爵が好きだからこそ、皆に幸せのお裾分けを振りまくつもりで無邪気にお見合いを押し付けているような気がしたのだ。
「さあぜひどうぞ、どうぞこちらへ」
私は彼女を案内しながら、シュヴァルツとセージに目配せする。
げっそりした二人は感謝の気持ちを親指を立てて示すと、逃げるように研究所へと消えていった。
◇◇◇
今夜は城にアンナアンナが宿泊した。しばらく滞在する予定らしい。
一般的な貴族の居城と同じように、この城も突然の訪問客の一人や二人泊めるのにはまったく問題ない。
シュヴァルツとセージを研究所に送り出した後は、比較的穏やかに一日が終わった。
ユーグカも交えて三人で一緒にギルバート・アンドヴァリ公爵の姿絵を探したり、なれそめを聞いたり、夕食を摂りながら彼女の旅行話や面白い王都の流行話などを聞いたり。
おおむねユーグカもとても楽しそうで、実に賑やかで実りのある一日だった。
夜。
シュヴァルツと私は話をした。
「アンドヴァリ公爵はおそらく数日で迎えに来るだろう。あの方は長く放っておかないはずだ」
「しかしお忙しいはずですよね? どうやっていらっしゃるのですか」
「研究所には王都の宮廷魔術局に通じた魔術局転移装置がある」
「なるほど……」
「リリーベルは知らないと思うが、アンドヴァリ公爵は理屈の人だ。釣書騒動も公爵夫人の独断だ。公爵が本気で再婚させるつもりなら、一方的に通達してくる。……まあ、公爵夫人を納得させるために、今回は好きにやらせているといったことだろう」
「……そ、そうなんですね(棒)」
前世の兄なので詳しく知ってます、とは言えない。
レイラがアンドヴァリ公爵家の破天荒を全て請け負っていた分、兄ギルバートはどこまでも厳格で自他に厳しい、ダイヤモンドのような人だ。
ともあれユーグカの寝かしつけをはじめる。
いつもならベッドでシュヴァルツの腕の中、絵本を読んであげるとすぐに眠る。
けれど今日は寝付きにくいらしく、どこか心細そうで袖をぎゅうっと掴まれた。
「りーねー、いっしょにねて」
「え、ええと……」
今はアンナアンナがいるので、明らかにまずい!
けれどユーグカは、なんだかいつもよりも切実そうだった。
「いっしょにいて。ねえ?」
「……さみしいのですか?」
こくん。頷く。
「あのね、こーしゃふじ、たまにくるの。すきなの。あまいにおいで、かわいいどれすで、でもね」
「はい」
「…………」
「でも、ね…………えっとね……」
ユーグカは一生懸命、気持ちを言葉にしようとしてる。
シュヴァルツが応援するように、ユーグカの手を優しく握る。
大きな父の手にきゅーっとしながら、ユーグカが言葉を続けた。
「こーしゃふじくるとね、ざわざわするの。きもちがわわーってなって、……それでね……」
言葉にうまくできない、といったもどかしそうな様子に、私はたまらず頭を撫でる。
ユーグカはまだ人見知りだ。
だって彼女は、訪問者たちにこれまでちょっと嫌な思いをしてきた子なのだから。
そもそも普段とは違う状況に気持ちが波立つのは、子供なら当たり前のこと。
そしてストレスを言葉にうまくできないのも。
うまくできなくて、もやもやするのも。
彼女が一生懸命悩んで、考えて、成長している証拠だ。
愛おしい気持ちで、私はユーグカを見つめていた。
じーっと、私を青い瞳で見つめてくる。
「……りーねー、こまらせた?」
「いいえ、こまってませんよ。自分の気持ちをよくことばにできましたね」
「ん!」
ユーグカの手を優しく撫でながら、シュヴァルツが提案する。
「私が別の部屋で休もうか。ユーグカに魔力譲渡されずとも体は随分楽になったし」
「だめ! ぱぱは、いっしょにねるの! あたりまえなの!」
「……そうか~」
困った顔をしながらも、ユーグカにぎゅーっとされてシュヴァルツは嬉しそうだ。
私は顎をひねる。
「一緒に寝るわけにはいきませんが、そうですね……」
少し考え、私は名案を思いついた。シュヴァルツは、魔力が多少回復しているのだ。
私はシュヴァルツに近づき、耳打ちする。
「旦那様。ほんの少しだけ、魔力を使っていただくことは可能でしょうか?」
「魔力?」
シュヴァルツは目を瞬かせる。
「ひそひそひそ」
「……なるほど。理解した」
シュヴァルツは頷いた。
『大自在の魔女』の力は、実は万能ではない。
物を動かす、魔力を移動する、そんなことはできても、普通の四大元素にまつわる魔法が使えない。
普通の平民の一般人でもできる人が多い、指先から炎を出す魔術すらできないのだ。
仕組みを動かす事で炎をつけるのは可能なので、キッチンは扱えるのだけど。
作戦を立てた数分後。
私は部屋を出て、寝室にアンナアンナを招いた。ネグリジェではなく、健康的な夜着だ。
「あらやだ~! 失礼するわね~!」
シュヴァルツが詫びを入れる。
「公爵夫人の前で寝姿で申し訳ございません」
「何言ってるの、あなたは膝小僧を出した子供の時から知ってるのよ、おほほほほ」
私は部屋にふかふかのマットを用意していた。
「シュヴァルツ様の体調を良くするためには、今王都で逸っている寝る前のストレッチが有効だと、セージ様に伺ったんです」
「ああ、あの元治癒魔術師の独身の彼ねえ。あっ、さては、私が詳しいのを知っているのね?」
「はい。貴族夫人健康的美容促進協会の会長でいらっしゃるアンナアンナ様ならば、適切なストレッチを教えていただけるかなと」
ぱっとアンナアンナの顔が輝く。
私の手を取り、ユーグカに頬ずりして、大げさに感激した。





