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第四話 セカンド・ライフ 5/5 刻む

「ハイバケントと姫を⁉︎ どういうことです、艦長!」


 イツキの疑問を受け流し、ジョージは作戦を伝える。ブラッククロスで敵本隊に突撃しろというのだ。


「ガンドールの二人乗りで戦えるとは思えない。二人には悪いけど、ブレイン諸共、囮になってもらう。その間に君は奴らの戦艦を墜としてくれ。脚がなくなれば奴らも追っては来られまい」


 出たよ、冷徹のジョージ。アリスの心の中で、素敵ネーミングが炸裂する。


「出来るよ、お前なら」

「しかし」

 イツキは、ルミナを囮とする事に難色を示した。色めき立つアルカドのガンドール部隊だが、シリウスのカタパルトは防衛しなければならない。


「撃墜チャーンス!」

「やらせるかよ!」

 カタパルトを狙ったジュードの砲撃は、友矢が狙撃で撃ち落とす。「羊毛」を使い切った羊頭のアルムは、次弾のストックに時間が掛かる。


 間隙をつき、シリウスのカタパルトから飛び立ったそれは、漆黒のライトで瞬時にアルムを狙い撃った。


「なんだと⁉︎」

「ブレインセカンド……!」


 セラの目の前に、またも降り立つ怪鳥。


 漆黒を纏ったブレインセカンド二号機は、砂埃を巻き上げて、願導マフラーをたなびかせ、灰色渦巻くコロニーに着地した。


(設地圧調整、照準誤差修正。ノイズは、今のところ許容範囲。状況、右からノエル四、左にアート二つとオーグ。奥には、新型とホワイトホーン、セラか!)


「同型機……? クソッ! やっぱり、レイザーも俺の事を予備としか思ってなかったんだ!」

 ランスルートの思い込みは、またも悪い方へと進んだ。アルカドの全てが、彼を追い込んでいく。


「ボルク、色々とすみません。後でちゃんと話しましょう」


 ルミナ皇女からの通信に、ボルクは何も答えず、あからさまに嫌な顔で返した。彼の対応に心は痛んだが、ルミナはもうひとつの目的の為に、気丈に振る舞おうとした。


「私は、神聖アルカド皇国、第一皇女、ルミナ・アークブライトです。ランスルート・グレイスと話があります!」


 ブレインセカンド二号機のコックピットからオープンチャンネルで呼びかけるルミナに、一号機に乗るランスルートも応えた。


「此方には、話すことは無い!」

「ウィシュア!」

「構いません。撃ってください、セラ」

「了解」


 ランスルートは迷わなかった。しかし、依頼されたセラの狙撃は、あろうことか空を切った。ケントは攻撃を見越して、右の四機のノエルに向かって既に駆け出していた。


「姫様、ここからは」

「はい。任せます」

 揺れるコックピットの中、ルミナは心を鎮めようと努めたが、考えたいことは山程あった。それが、ケントとルミナの体を痛めつける。


「漆黒……健人か」

 やはりこうなった。セラは独り、友人と戦わなければいけない世界を呪った。


 挨拶とばかりに、ケントはファングライフルで牽制すると、回避し損なった一機のノエルに直撃する。ノーロックだったせいか、ノエルのパイロットは反応すら出来ず、死んだ。


(反応が早い……! 思った以上に動いてくれる!)


「健人……⁉︎ やりやがった、あいつ!」


 セラの心が動いた。不思議な高揚感があった。


「何してる⁉︎ クロスイツキは急げ!」

「なに?」

 ケントの叫び声に、イツキは気圧された。


「奴らの本隊を討つんでしょう⁉︎ こんなとこで何やってんです!」


 ケントは、無謀にも他人に指示を出し始めた。こんなことは初めてで、自分らしくない行動だったが、ユイたちの作業中、イツキたちのデータはチェックしていたし、なにより彼らの力は、敵であった自分も理解していたつもりだった。


「左の烏合は手数の多いボルクに任せろ! 倒せずとも脚を止めさえすれば良い! 友矢は適時援護!」


「な、なんだ、テメェ⁉︎」

 友矢は状況についていけない。

「他はどうする」


「僕とブレインセカンドに押しつければいい!」

 冷静なボルクの問いに、ケントは迷いなく言ってのけた。





 またしても敵として立ちはだかったブレインに、ゼーバのノエルたちは血気盛んに接近する。


 両腕のライト発射口に光が灯り、射撃が来ることを予測したケントは、願導マフラーに願力を込め、セカンドの左腕で絞るように放ち、その先端を「マフラーの毛針」として投擲した。


 願力のバリアを纏った毛針が、発射されたノエルのライトと衝突し、拡散した。防御用である合金繊維本来の使い方とはまるで違うアクティブな戦法に動揺したノエルは、続くファングライフルの光弾に、呆気なく撃墜された。


(ノイズが煩い。だけど、こんな痛み。体が砕かれた時より、はるかにマシだ!)


 更に迫る一機には、地面を撃った目眩しに紛れて、ブレードの牙で躊躇いもなくコックピットを貫いてやった。


(そうだ、来い! 僕は人殺しだ! 罪は、僕に押しつければいい!)


「うわ……なんで戦えてんの?」


 ジョージは、信じられないものを見る目でブレインセカンドを見つめた。ケントの戦い様を見て、イツキはゼーバ本隊へ向けて突撃を始める。ボルクもまた、左の三機へガトリングを斉射した。友矢は未だ混乱の中にあった。


「俺とやる気か、ブレイン!」


 獅子獣人ノエルは、その速度と旋回性能の高さを活かして、ライト兵器の爪ですれ違いざまに敵を切り裂く、撹乱と接近戦に適した機体だ。しかし、カイナの向こう見ずな性分により、直線番長になってしまっている。


 ケントはシールドを構え、真正面からカイナにぶつかり、その勢いを殺す。弾かれたセカンドに迫る爪を、友矢の狙撃が破壊した。


「おい、健人!」

 思わず体が動いてしまったが「健人」と呼んでしまったことにさえ、友矢自身は気づいていない。


「学校のシミュレーション通りだな、友矢」

 ケントは弾かれた体勢のまま、ファングライフルのスコープで的確に目標を捉え光弾を放ち、残っていた腕も破壊した。


「クソッ! アッシュか⁉︎」


「両腕が無くなればノエルの武装は無いぞ。特攻でもする気か、それとも囮役に甘んじて目眩しをするつもりか、カイナ!」


「無理をするな、カイナ」


 唇を噛み締めながら、カイナはセラの助言通り後退をはじめた。


 友矢と似た部分がある、真っ直ぐで裏表の無い、仲間想いの青年だった。彼が人間へも優しさを向け、ケントがゼーバに残っていたら、友人になれたかもしれない。


「舐めるな、ブレイン!」

 羊毛を毛皮のように幾重にも着込み直したジュードのアルムは、重結晶の砲撃をところ構わず撃ちまくった。


「なんだ、なんで当たらねぇ⁉︎」

 ケントは尚も直進し、躱しきれないと判断した重結晶の弾丸には先制射撃をして、破裂する前に破裂させ潰していく。


 援護も無く、ただ真っ直ぐに撃つだけの的なら弾道を見切るのは容易い。セカンドはチャージしたライトをアルムの羊毛にぶち当てると、連鎖的に羊毛が破裂して、二門あった大砲の片方を潰した。


「なんだとぉ⁉︎」


「やれる……お前となら! いくぞ、セカンド!」





 なんなのだ、この男は。一人で状況を変えていく。


 ルミナは揺れるセカンドの中で、痛みと昂る心を必死に押し込めながら、ケントの戦いを静観していた。


 一機増えたのだから、好転するのは分かる。しかし、早すぎる。


 状況認識力、空間把握能力、対応力。そういう力がステータスなりパラメータなりで数字として可視化されていたとしたら、こいつの力はどれほどのものか。





「データは取れた。やはり、まともに運用するなら護衛役がいるな」


 セラは新型に乗るジュードを下がらせて、その前面に立った。ガンドールという壁を隔てて、かつて隣にいた二人が向かい合った。


「やるな、健人」


「何故、ジュードの援護をしなかった、セラ」


「なんだよ、ノリ悪いな。友達と話したかった、じゃ駄目なのか?」


「退がれよ。友達だと思ってくれるなら」


「お前こそ。俺の力は分かってんだろ。シミュレーションでも、実機の模擬戦でも、お前は俺には勝てなかったよな、健人!」


「思い出した、その仮面……エイリアスの真似のつもりか? 似合ってないよ、セラ!」


 アルカドとゼーバ、敵味方の壁は、ガンドールを超える厚さで立ち塞がった。少年と、少しだけ歳を重ねた青年は、それを破壊する術を知らない。


 一瞬の沈黙。両者は、同時に動いた。


 質量で勝る大剣を操るセラは、ライトのビームを纏わせ、負けじとケントは、重結晶の牙で応戦した。


「なんで僕に真実を教えなかったんだ! 僕をゼーバのアッシュに仕立て上げようとしたのか⁉︎」


「言ったところで記憶が戻るとは限らん。だが、まあ、大した戦力にはならなかったな」


 セラの大剣型ライフルはその大きさ故に隙が出来やすい。そこを突破口にするしかない。ケントの考えを見透かしたのか、セラは大剣を投げ捨てた。


「お前なんぞ、刀一本で十分だ」

「友達思いな奴!」


 セラはビームと重結晶の遠隔斬撃波を巧みに組み合わせ、ライフルモードの無い刀だけでもケントを圧倒する。


 刀を振るう事で纏ったライトやヘビィを飛び散らせる、テティスも使っていた遠隔攻撃。振るうモーションの分、ライフルモードのあるファングブレードより遠距離での隙は大きいはずだが、その願力制御技術は、コロニーでの数年間で更に磨きをかけていた。


「さっきまでの威勢はどうした、健人」


「ブラッククロスを追わないのか、セラ!」


「その手は食わん。クロスイツキの甘さを勘定に入れ忘れてるよ、お前は」


「どういう意味だ?」


「さあな!」


 鍔迫り合う刃は弾け、頭を冷やせとでも言うように、お互いに距離を取らせた。


「姫様は、目を瞑った方がいい」


 ケントの言葉は、ルミナの心配だけではない。作戦を成功させる為に、要らないノイズは出来るだけ消したかったのが本音だった。


 ホワイトホーンが放つ願力ビームの刃に当たる直前、ケントは予備のエレクトリックバレットを放り投げた。ビームに当たった高性能充電池は爆発を起こし、セラは一瞬セカンドを見失う。


「その手はさっき見た!」


 接近戦だろうとレーダーも抜け目なく確認したセラは、爆風から左上に飛び出るライトを纏った「それ」めがけて、重結晶波を設置するように放った。


(違う、セカンドじゃない――)「俺の大剣⁉︎」


 ケントは、セラが見逃した一瞬で大剣を拾い「転生特典」で自身の願力を流し込み、その制御を高速で書き換え投擲して、セラにセカンドだと誤認させた。


 ガンドールと同等サイズの大剣と、精度の低いレーダー技術、視界の悪いコロニーという地形条件、そしてセラの慢心が、ケントに一条の光明を指し示したのだ。


 その場に止まっていたブレインセカンドは、ファングライフルにもう一つのバレットを装填。ライフルが上下に分割し、展開されたバレルの中で、圧縮された漆黒の光が迸っていく。


「撃ち砕く!」


 低く、高く、複雑に唸る獣のような咆哮が、灰色の空に轟いた。

 電流渦巻き、解き放たれた漆黒のオーバーライトのビームは、地面を抉り、霧を吹き飛ばして、ホワイトホーンの右腕を握った刀ごと噛み砕いていった。


「くっ⁉︎ こいつ!」


 右腕と刀を失ったホワイトホーンは距離を取り、左腕の円形シールドを投擲した。シールドは縁の刃を立てて回転を始め、シールドに繋がれた願導合金のストレングスで、ヨーヨーのように巧みに操ってみせる。ケントも知らない、セラの虎の子の武装。


 ファングライフルからバレットが廃莢され、クールダウンが行われる。飽き足らず、ブレードを地面に突き刺し熱を吸わせる。セカンドは左腕に掴んでいた大剣鞘のワイヤーを手繰り寄せ、投擲前にチャージしておいた誤認用のライトを霧散する前に発射。ヨーヨーのストレングスの中心を焼き切った。


「お前……本当に健人か……?」


 ブレードで地面を砕き強制冷却を行いながら接近したケントは、右の光牙と、左の重結晶の大剣を振り下ろし、かつての相棒との(ストレングス)を自ら斬り裂いた。


 シールドも失ったセラは、願導マントに(くる)まって、かろうじてホワイトホーンを生きながらえさせた。



「退け、純白! ぶっ飛べ、ブレイン‼︎」

 ジュードのアルムに光が宿る。大破寸前の大砲へと重結晶が形成、機体が悲鳴を上げ自壊していく。構わず、最大出力のチャージを続行した。


 セカンドの視線はセラを捉えたまま微動だにせず、レーダーで感知していたジュードに向かって、セカンドの腕だけが動き光弾が放たれた。


 大砲はチャージの自壊と光弾の直撃で爆発。セラは残った左腕でジュードを抱え撤退を始めた。


「許さねぇ……アッシュ! ……アッシュ‼︎」


 血に塗れ、顔に傷を負ったジュードの捨て台詞を聞きながら、セラは最後にブレインセカンドを一目見る。友人は、互いに何も告げてはくれなかった。



「僕はアッシュじゃない、ケントだ。灰庭ケントだ! 康平、母ちゃん、父ちゃん、みんな! 僕は、生きている! 僕は、ここで生きている!」



 願導マフラーが風に揺れ、ブレインセカンドが灰色の大地に立つ。ケントは自身の生存と存在を、醜悪な世界に刻みつけた。

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