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もふもふ侍vsキングカピバラ~姉魔法少女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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21.キングカピバラ

 しばらく馬を見つめてから、正治はどうなっただろうかと戻ってみる。犬はいたけど彼の姿はなく、そして澁谷と陽向が楽しげに話していた。


「正治さんはどこに行きました? 犬さんには慣れました?」

「指先で撫でられるまでには前進しました。もふもふ侍の衣装で接した方が役作りできる分触れられるかもって言ったら、大急ぎで着替えに行きました」


 それは犬から離れられる口実を見つけたからだな。まあ、本当にうまくいく可能性もあるから駄目とは言えない。

 今頃着替えながら、犬のことを思い出して震えていることだろう。


「その間、澁谷さんにフワリーさんのことを訊いてみたんです。模布市のテレビ局の人なら詳しいかなって」

「わからなかったんですけどね」


 そりゃそうだ。澁谷は東京で生まれ育って、ここに来たのはテレビ局に入社してから。


 東京進出して一瞬で消えた占い師のことなんか知らないだろう。陽向が少し手のひらを向ければわかることだけど、それをする前に尋ねたか。


「スタッフには、当時のことを知ってるのもいて、話を聞いたりして。なのでお力にはなれたかなと。それにしてもすごいですね。自力で魔法が使える女の子が出てくるなんて」

「フワリーさんの真似をしただけですよ」

「それでもすごいことですよ」

「澁谷。この子のこと、絶対にテレビで扱うなよ。混乱の元になる」

「ええ。わかってます。けど個人的な興味から、色々教えてもらっています。ハムスターと話す魔法陣とか」

「あれは正直、使えそうもないけど」

「使えないなら、試してみてもいいんじゃないでしょうか」

「じゃあ、ちょっと描いてみますね」


 どういう理屈なんだろう。


 とにかく正治が戻ってくるまでの暇つぶしに、澁谷と陽向は魔法陣で遊ぶことにした。遊ぶだけならいいんだけどね。

 正治もなかなか帰ってこないし。本人のやる気以外に、メイクや髪のセットとかに時間がかかるのだから仕方がない。


 持参したノートに魔法陣を描いていく陽向。さすがに地面には描けないらしい。牧草地だし描きにくいよな。


 何も見ていないのにスラスラとペンを走らせている。暗記しているのか。

 確かに使えそうだけど細かな所が違ってたり、余計な紋様が描かれていたりして、完成には程遠い。特に効果は発揮できなさそうな魔法陣。描いて遊ぶくらいなら咎めることはないか。


「あ。なんかモフモフの気配がする。こっちに近づいてるような」


 魔法陣はモフモフじゃないから興味ながなさそうなハンターが、何かを察知して周囲を見始めた。いつも思うけど気配ってなんなんだろう。


 しかしハンターは正しかった。向こうの方から、なにか茶色い動物を連れた飼育員が来た。

 四本足で歩くが、四肢がそれぞれ短いから全体のシルエットとしては流線型に見える。寝そべったら弾丸にも見えそうだ。毛は長く、触り心地が良さそう。


 あれはつまり。


「カピバラさんだー!」


 ハンターが興奮気味に叫んだ。落ち着け。モフらせないからな。


 映画に登場する予定の、南蛮から来たという設定の珍獣だ。つまり設定的には僕と似たようなものだ。

 そういえば来るって言ってたな。


 一方で、陽向は魔法陣を完成させたらしい。


 ノートのページいっぱいに描いたそれを牧草地の上に置いて。


「この真ん中にマロンを置けば、喋ってくれるようになる、かも?」


 未完成の魔法陣ではありえないことは理解しつつ、ちょっと高揚した口調で言ってから、ハムスターをケージから出して中央に置こうとした。


 その瞬間、不意に強い風が吹いた。陽向は慌ててハムスターを軽く握って庇うように胸に押し付ける。一方でノートの方は少し飛ばされて、進んでいるカピバラの前に落ちた。


 相変わらず魔法陣が描かれたページを上にして、だ。そして風に煽られて、牧草が揺れる。ノートの縁のあたりに生えていた背の高い草が揺れて、魔法陣の一部を隠した。そして同時にカピバラがその上に乗った。



 たぶん、すごい偶然なんだと思う。

 草の先端とか、地面を歩いているカピバラの足についた泥なんかがノートの上に覆いかぶさり、魔法陣の一部を欠けた状態にした。正確には、余計で邪魔な部分を省いた。


 結果として、不安定で未完成ながらも、なんらかの効果を発揮する魔法陣ができてしまった。


 カピバラの体が強く光りだす。まるで少女が魔法少女へと変身するみたいに。


「え。えっ!? ラフィオ! これ何が起こるの!?」

「わからない」

「まさかカピバラさんが魔法少女になるの!?」

「どうかな……」


 動物は魔法少女にはなれない。適性がないからね。普段自分がやってるようなのと同じような光に包まれるカピバラを前に、慌てるハンターを落ち着かせる。


 フワリーが残したメモには、動物と話せるって書いてあったんだっけ。いや違う。動物との関わりが変わるとか、そんな曖昧な内容だった。


 僕たちが見ている前で、カピバラの体が膨らんでいく。というか、巨大化していく。


 光が晴れた時、そこにいたのは。


「キングカピバラさんだー!」


 そう。巨大カピバラだ。


 キングカピバラというのは、つむぎが好きな海外の低予算映画シリーズ。予算がないから安っぽいCGで作られたカピバラが、他の巨大生物と戦う作品だ。出てくる役者も無名で演技力も低いが、それが独特の味だとかで愛好家も多い作品。


 去年のクリスマスに映画のDVDBOXを貰って嬉しそうにしてた。


 そんな、C級映画の怪物が目の前に現れた。あの魔法陣は動物を巨大化させるものだったんだ。

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