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もふもふ侍vsキングカピバラ~姉魔法少女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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20/24

20.牧場

 澁谷の後ろにはドッグトレーナーと思わしき男がいた。そしてリードに繋がった犬も。

 綺麗な犬ではないな。こういう場に使われるタレント犬って、なんか格好良くて小綺麗に毛並みが揃ってるイメージだけど。


 でも、映画に出ている犬だとそういうのばかりではないか。スラム街を彷徨う犬なんかも出す必要がある業界だし。そのために、こういうみすぼらしい犬も用意しているのか。


 そして実際、僕が伝えた通りの風貌の犬だった。


「犬さーん! モフモフさせてぐえっ!?」


 ハンターの後ろ襟を掴んで引き止めながら、僕は澁谷に顔を向ける。


「急にお願いして悪かったね」

「いえ。映画のためですから。それに、魔法少女のためですから」


 澁谷は、僕に引っ張られながらも犬へ向かおうとするハンターを見て、ふふっと笑った。


 魔法少女の力になりたいって気持ちはわかるけどね。甘やかしすぎるのもどうかと思うんだよ。ほら、犬を見てくれ。野生の本能でハンターのモフり魔としての恐ろしさに気づいて怯えてるじゃないか。人懐っこいはずの犬が、恐ろしい敵に対峙するように牙を剥いて唸り声を上げている。


「ほらハンター。向こう行くぞ。澁谷もいるし、魔法少女が撮影に同行しているという映像も撮らせた方がいいだろ」

「うん! そうだね! 澁谷さーん」


 僕がそう言えば、ハンターは素直にそちらに向かった。その間に正治たちを犬に対面させるように仕向ける。


「えへへー。改めて、なんか新鮮だね! こういう牧場で変身するの初めてかも。なんか新鮮だね。空気もおいしいし、気持ちいい!」


 市外だからな。模布市内にも大きな緑地はあるけど、街に囲まれてるもんな。山あいの牧場はまた、空気が違うんだろう。

 そういう感慨に浸ってるつむぎの相手をしながら、僕の意識は正治に向いていた。


「すごい。正治さんの記憶の中で見たのとそっくり。正治さん、逃げちゃ駄目ですよ。あの犬と友達になるんです」

「む、むむむむ、無理かもしれない」

「頑張ってください」


 陽向が正治の背中をグイグイ押している。正直、彼女がついてきて助かった。こっちの目的にも協力的だし。

 澁谷も正治の手を引いて犬の方に近づけていく。


「大丈夫ですよ。おとなしい子ですから。噛んだりしません」

「それはわかってるんだけど! 怖くて! 怖い! ひえー!」


 大変そうだなあ。アクションシーンのために鍛えてるらしい正治は、女ふたりに押されてもびくともしない。


 モフり魔が遠ざかって落ち着きを取り戻した犬の方から、正治に近づいてきた。もちろん急に飛びかかったりしないよう、トレーナーがリードをしっかり持っている。そして、その気配も一切ない。


「正治さん。まずは逃げない所から始めませんか?」

「にげ、逃げない……」

「そうです。前に立って、しっかりと見つめてください」

「わ、わかりました……逃げない……逃げない……」

「そうです。このワンちゃんは敵ではありませんから」

「そうねだ。逃げない……」


 澁谷に寄り添われて、正治は怯えながらも犬の前に立っていた。

 一歩前進なのかな。


「正治さん。犬にさえ慣れれば、他の動物も触れるはずですから」


 陽向も横に寄り添って励ましている。羨ましい光景、なのかな。正治は目の前の犬でそれどころじゃないけれど。


「馬にも、大きくなったラフィオさんにも触れるようになりますから。頑張って」

「それに、カピバラにも触れますよ」

「カピバラ?」

「撮影に使うカピバラを、今日ここにつれてきているんです」

「カピバラさんいるの!? どこどこ!? モフりたい!」

「こら。落ち着けハンター」


 新しいモフモフの登場にテンションが上がったのを、なんとか落ち着かせようとする。

 とはいえ魔法少女であるハンターが本気でモフろうとすれば、僕に止めることはできない。


 仕方ないから、僕は大きめの獣になった。


「ほら。乗れ。ちょっと牧場内を散歩しよう」

「うん! お馬さん見たい!」

「見るだけだぞ」


 僕に乗り、背中の毛を掴む。こっちでモフモフできれば、他の動物への興味は多少分散される。


「はー。お馬さん綺麗だなー」

「そういうの、わかるのかい?」

「モフモフはみんな綺麗なんだよー」

「そうか。訊いた僕が馬鹿だった」

「テレビでやってる競馬中継のお馬さんは、特に格好いいって思うけどね」

「血統から鍛え方から、他の馬と違うエリートだからね」


 競走馬とは、競争に命をかけてる馬たちだ。優秀な親同士を掛け合わせて、さらに優秀な馬を作り上げるという歴史の積み重ねの最先端。そりゃ美しいだろう。

 それを速く走れるように鍛えているのだから、アスリートの肉体の美しさみたいなのを感じても不思議ではないな。


「こういう牧場で、のんびり過ごしているお馬さんも、毛並みが落ち着いていて綺麗なんだけどねー。違ったモフさがあるんだよ」


 柵の向こう側にいる馬に手を振るハンター。僕には違いがわからない。モフモフソムリエの道は複雑だな。


 ハンターは僕をモフっているから、他のモフモフに見せる殺気は薄い。だから馬たちも警戒はあまりせず、ハンターから逃げるでもなく見つめていた。

 いつもこうなら、いいんだけどな。

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