20.吟遊詩人の紡ぐ歌【最終話】
***前回のあらすじ***
婚約破棄を言い渡されたフェリは、もう投げやりになってしまった。全てがどうでも良い事に思えた。が、静まり返って会場に、不意に声が響き渡る。隣国の王、エドゥアルド=カーフェルトだった。だがそれは、幼い頃に別れた筈の孤児の少年、リクだった。リクはフェリの手を取り、迎えに来たと告げる。会場から庭へと場所を移したリクは、フェリに今まであった事を話して聞かせた。
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※文字数2786字です(空白・改行含みません)
あの後は、慌ただしかった。婚約の解消が国王陛下によって正式に受理され、私は後宮から王都にあるタウンハウスへ移された。王子とのいざこざで怒り狂っていると思ったお父様は、大変機嫌が良かった。何時攻め込まれるかと戦々恐々だった隣国のカーフェルト王家との婚姻になれば国にとっても僥倖だし、アメリアの一件で王子の評判がガタ落ちになった今、お父様にとって王子との婚姻には魅力が無いのだろう。
そりゃね、あれだけ貴族が集まる中で貴族というものを散々扱き下ろしたのだから、不興はもう致し方が無いだろう。
あのデビュタントの翌日には、リクから正式に結婚の申し入れがあった。婚約もすっ飛ばすつもりらしい。お父様はまた私の確認も取らずに即返事を出していた。今度の話は私も当然二つ返事でお受けするつもりだったから問題は無い。
侍女のクレアは泣いて喜んでくれた。何故との問いに、私はカーフェルト王があの時の少年だったことを話すと、クレアはとても驚いていた。
「私はずっと後悔をしていたんです。あの日森にお嬢様をお連れした事を。間違いでは無かったのですね……!」
クレアはそう、とても嬉しそうに笑った。
***
──数日後、私は馬車の中に居た。
あの日絶望的な気持ちで、眺めた景色を、今は幸福感に包まれて眺めて居る。
私はリクと向かい合って座っていた。これから私はリクに嫁ぐため、カーフェルト王国へと向かっていた。
リクと私は、離れていた時間を取り戻す様に、今まであった事を沢山話をした。
私が日々、お妃教育に明け暮れていた頃、リクもまた、王として凄く頑張っていたらしい。
即位してからは国の方針を変え、前国王がため込んでいた国庫を開放して国の整備に力を入れ、貴族の不正を正し、まだまだ途中だとは言え、高速で改革を進めたのだそうだ。有能な部下のお陰だとリクは笑った。
「フェリを迎える国だから、少しでも良い国にしておきたかったんだ」
目を細めて馬車の窓から外を見るリクは、未来を見据える真っすぐな目をしていた。
***
──長かった──。
僕は窓の外を見ながら、今までの事を思い返していた。
じいちゃんが死んで、一人になって。森で迷子のフェリに出会って、恋をして。
フェリが王都に旅立って、僕はフェリを追って王都に向かい、アンデルベリー一座と出会った。
リュートさんの言葉で一度は諦めようと思ったけれど、カーフェルトへ連れていかれて、王の子だと知らされて。
必死で勉強をして、剣を覚えて、国の情勢を知って。
信頼できる有能な家臣も手に入れた。力を貸してくれる者も出来た。国を動かすだけの知識も手に入れた。部下に頭を下げて協力を仰ぎ、国を改変していった。国は豊かになっていった。姿を見せず、いつか来るその時を待って。
すべては、フェリとの約束を守るために。
僕の想いは色あせることなく、時を重ねるごとに強くなった。
フェリを見ると、目が合った。はにかむ様に、頬を染めて嬉しそうに笑うフェリは、あの頃の面影を残したまま、とても愛らしかった。
お人形みたいな、妖精の様だった少女は、美しい女性に成長していた。愛しくて、気持ちが溢れだして抑えきれない。
「フェリ」
僕が手を差し出すと、フェリは一瞬きょとんと首を傾げ、直ぐにかぁっと赤くなって、そっと僕の手に小さな柔らかい白い手を重ねる。堪らず僕はフェリを強く抱きしめた。
「──やっと──。 やっと、取り戻せた。僕の大事なお姫様……」
フェリは恥ずかしそうに、リク、と僕の名を呼ぶと、僕の胸に小さく頬を摺り寄せた。
***
王宮の広間の前は、ずっと謎とされて来た国王とその王妃を一目見ようと人がごった返していた。
いつ暴動が起きても可笑しくなかったカーフェルトは、僅か数年で激変した。市政に目を配る新国王の評判は平民の間でもうなぎ上りだ。
税の分だけ民への見返りも大きい。医療費や教育費を無償とし、市街地を整え、孤児院などの施設も充実した。
過去の悪政は姿を消し、民の信頼も厚い。
「フェリ、準備は出来た?」
「リク」
部屋に入ると、フェリが頬を染めて、幸せそうに笑った。純白のドレスに身を包み、長い蜂蜜色の髪を綺麗に結い上げ、ティアラを付けたフェリは眩いばかりに美しかった。思わず見惚れて息を飲む。
「綺麗だ──」
ため息交じりに呟くと、フェリは恥ずかしそうに睫毛を伏せる。そんなに可愛いと、折角綺麗に整えたのに抱きしめたくなるじゃないか。
「それじゃ、行こうか。民が待っている」
「はい、エドゥアルド陛下──」
僕は思わず笑って、フェリの手に口づけた。フェリをエスコートし、バルコニーへと進み出た。歓声が雨の様に降り注ぐ。大勢の人が、祝福をしてくれた。僕はその歓声に手を上げて応える。隣を見ると、フェリも小さく手を振っていた。僕の視線に気づくと、花が綻ぶように笑う。
僕は、フェリの頬を両手で包んだ。フェリの頬が、薔薇色に染まる。
大観衆に祝福をされながら、僕とフェリは、唇を重ねた。
祝福の鐘が、いつまでも鳴り響いていた。
***
カーフェルト王国の城下町の広場には、大勢の人が集まっていた。 楽師の紡ぐ歌声が響き渡り、人々は目を輝かせ、その話に耳を傾ける。この国では知らない者は居ないお伽噺だったが、それでも民衆はその歌に聞き入っている。
「──そうして、ひとりぼっちの貧しかった少年は、りっぱな王様になりました。 森で拾った愛しいお姫様を取り戻した王様は、愛するお姫様と結ばれて、2人は今も幸せの国で、幸せに暮らしているのです ──」
まるで絵本の読み聞かせをするかのような、そんな歌だった。歓声が巻き起こる。次々にコインが投げられた。一座の座長、アンデルベリーが自らコインを拾い集め、観客におどける様に礼を言う。旅の楽師、リュートは恭しく観客へと頭を下げた。集まっていた人々が散っていく。
「ああ、急がないと、王宮に間に合わなくなっちゃうわ!」
慌ただしく荷物を馬車に積み込むのは歌姫のヴィエラだ。文句を言いながらも、その顔は楽しそうに綻んでいる。
リュートは以前少年に言った言葉を思い返していた。不可能の筈だった。どうにも出来ない筈だった。けれど少年は、その不可能を可能にした。小さく自嘲の笑みが浮かぶ。
ほんの数週間前、アルゼール国内を旅していた一座に、一人の男が王宮からの使いだとやって来た時は驚いた。それがあの僅かの時間共に過ごした少年からの使いだと分かった時は、腰を抜かすほどに驚いた。彼はカーフェルトの若き王となり、自分たちを招いてくれたのだ。
「私の負けだな、リク。 君は大した男だよ」
小さく呟いたリュートに、御者台に乗り込んだアンデルベリーが声を掛ける。
「リュート、早く乗れ、出発するぞ! 折角リクが偉くなって呼んでくれたんだ。今やリクは国王陛下だからな。 もたもたしてると話す時間が無くなっちまう!」
「今行く」
リュートは馬車に乗り込んだ。
───Fin.
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お待たせしました、これにて【ひとりぼっちの少年はお姫様を拾う】、完結です。
ご要望があれば後日談や裏話なども投稿していこうと思います。
お付き合い頂きありがとうございました!
そんなわけで、前回同様此方が完結したので、新しい小説、執筆開始しました!
新しいお話は異世界転移物。THE☆モブの少年が異世界に転移しちゃうお話です。
こちらも毎日更新予定です。気が向いたらご閲覧頂けると泣いて喜びます。
【モブな俺の異世界転移譚】
https://ncode.syosetu.com/n7924fn/
2019/06/01 13:06現在
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──Special Thanks──
全20話
初回投稿日 2019年 05月26日 01時27分
最終投稿日 2019年 06月01日 13時03分
文字数 47,544文字
総合評価 753pt
評価者数:23人
ブックマーク登録:277件
総合PV:29,530アクセス
ご感想:6件
2019/06/01 13:06現在




