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猫と少女の師弟関係  作者: 猫野 甚五郎
第一章 師弟
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4話 少女の過去と生きる意味

 ユーフィに案内されしばらく歩くと、話にあった小屋が見えてきた。それはかなりぼろぼろで正直、人が住むような所かと聞かれると首を傾げてしまう。

 小屋の中に入るとそこには薪が少し積んであるぐらいで他には何もなく、特徴といえば真ん中にある囲炉裏ぐらいだろうか。


 小屋に着き、腰を落ち着けた二人早速。要は早速話を始めようと思った矢先、くぅっという小さな音が聞こえてきた。ユーフィのほうを見てみると表情には出ていないが少し顔が赤くなり恥ずかしそうにしていた。どうやらユーフィのお腹が鳴ったようだ。


「よし、俺も動き回ってお腹がすいているし、先に食事にしようか」

「…………うん」


 空腹には勝てなかったユーフィは、少し恥ずかしそうにしながらも要の提案にのる。要はそれを気にしないようにして、何を食べようかと考える。


(ここには何もなさそうだし、外でさくっと何か狩ってくるか?)


 そう考えていると、ユーフィがどこからともなく狼の肉を取り出した。どこから出した! という突っ込みをぐっとこらえた要はてきぱきと準備するユーフィをじっと見つめる。


 ユーフィは細かく切って保存していた狼の肉を串に刺していく。そして囲炉裏に薪を丁寧に並べて火をつけた。――――魔法を使って。


 それを見た要は驚きとともに、喜びもしていた。この世界にも魔法はある、と。すぐに話を聞きたい衝動に駆られながらも、今は食事が先だからその辺りも含めて後でじっくり聞こうと決意する。


 そんな要をよそにユーフィは着々と食事の準備を進めていた。火のついた薪の周りに狼の肉を刺した串を並べてじっくり焼いていく。辺りには食欲をそそるお肉の焼ける音と匂いが立ち込めていた。


 お肉が焼けるとそれを取り、要の前に置くユーフィ。その後に自分の分を取り二人で食べ始める。

 その時要は初めて焼いたお肉を食べたのだが、生とは違うその美味しさに感動し一心不乱に食べる。そして一本食べ終わり、少し物足りないと思っていたらユーフィがそっともう一本かな目の前に差し出してきた。どうして分かったのだろうかと思う要だが、食べ終わった後に耳を畳み悲しそうな顔をすれば誰でもわかるだろう。そんな二本目もおいしそうに食べる要を見ているユーフィは、どことなくうれしそうだった。完全な餌付けである。


 結局三本目までいった要は満足して顔の周りをきれいにし始める。その間ユーフィはというと、黙々と狼の肉を食べていた。が、そのユーフィも自分では気付かぬうちに、久しぶりに誰かと食べるこの食事を楽しんでいた。


 こうして二人の食事はお互い満足して終わったのだった。





「さて、それじゃあそろそろ話をしようか」


 食事を終えた二人は暫く局後の休憩をした後、話をし始めた。


 要はまずどこまで話そうかと悩む。正直信じられないような話ばかりになるので、適当に誤魔化して分かりやすいようにしようかとも思ったが、要はそれをしなかった。ユーフィにはあまり嘘はつきたくない、この娘から信用してもらうには真正面からぶつかるしかない、と思ったからだ。だがさすがに勇者だったというのは言わないことにした。


(さすがに俺は勇者だ! っていうのはなんか恥ずかしい……)


 こうして要はユーフィに語りだす。

 元々病弱で余命1年だといわれ、生きることを放棄していた事。

 そこで異世界へと召喚され、その時に力とともに健康な体になった事。

 そのお礼に、その世界で暴れていた魔物を退治していた事。

 その中で強敵と相打ちになったが、守りたかったものは守れたので満足して死んだ事。

 そして気がついたら猫になっていた、と。


「…………だから心は人間だって言ったんだ」


 要の話を聞き終えたユーフィは、あの時の意味をようやく理解しそう言った。

 信じてもらえた要はほっと一安心するとともに、少し罪悪感があった。やっぱり勇者の事も言ったほうがいいか? と未だに悩んでいるのだ。


「じゃあ次は私の番」


 要の内心など知らないユーフィは、ぽつりぽつりと自分のことを語り始めた。


 ユーフィは商人の娘だった。両親にも恵まれ普段から父親の趣味であった本を読み、いつかは両親のような商人になると意気込んでいた。

 しかしある日、町に魔物が襲って来た。それは右目に大きな傷のある巨大な熊だった。その熊は強く、町にいた警備兵もやられしまい、そしてユーフィの両親もユーフィを庇い亡くなってしまった。そのショックでユーフィは気を失ってしまい、次目を覚ましたときは町は全滅していた。


「…………その後町で途方にくれていたら黒いフードを被った男が話しかけてきたの」


 その男はユーフィに、こんな事をした魔物に復讐したくはないか、と尋ねた。そしてもし復讐したいなら、戦い方を教えてやろう、と。


「その時の私は両親や町の皆を殺した魔物が許せなかった。そして、何も出来なかった無力な自分が許せなかった。だからその男の提案に乗る事にしたの」


 こうして男の下で修行し始めたユーフィは、毎日毎日ひたすら力を求めて、復讐の事だけを考えて修行したのだった。


「そして一週間前、ようやく町を襲った魔物を倒す事が出来たの」


 話を聞いていた要はその壮絶な過去に驚くとともに、話をしながらどんどん光を失っていくユーフィの目を見てまずいな、と感じる。そしてさっきまでは驚いたり、恥ずかしがったりしたというのに、急に感情がなくなっていくユーフィに違和感を覚える。あまりにも落差が激しいからだ。


「でも倒し終わった後私には何も残らなかったの。両親も居ない、復讐相手も居ない、戦い方を教えてくれた男もいつの間にか居なくなっていて。復讐を果たしたら何かが変わるのかと思ったけど…………なにもなかった………………空っぽだった………………」

「だからあの時死のうと思ったのか?」

「…………死ぬつもりはなかった。でもあの一瞬……もういいか、と思ったの」


 話を終えたユーフィは最後まで淡々と話していたが、要には心の悲鳴に聞こえていた。


(生きる意味を見失ってしまっていたからあんな目をしていたのか)


 要はユーフィのあの目の理由に納得するとともに、死ぬつもりはなかったという言葉を聞いて安心もしていた。


(ユーフィは死にたい訳じゃない。ただ生きる意味が無くなってしまっただけだ。それなら……)


 そして要は決意する。この娘を助けようと。

 本来はここまでする必要はないのかもしれない。しかし、この世界で始めてであった人間で、しかも過去の自分と似ているという事もあって、どうしても放っておけなかった。


(かつては自分が救われた。なら今度は俺が助ける番だ)


 そう思いながら、ユーフィに今後の提案をし始めた。


「ユーフィはこれからどうするつもりだ?」

「これから…………分からない」

「なら俺と一緒に旅をしないか?」

「旅?」

「そうだ。今まで大変な目にあってきたんだ、今度は幸せにならないと」

「幸せに……でも……」


 要の提案に渋るユーフィ。自分だけが生き残った事を今でも引きずり、どこかで自分だけが幸せになるなんて、と思ってしまっている。


(少し発破をかけるか)


 そんなユーフィの考えを何となく察した要は、一つ行動に出る。このまま言っても無駄、ならば荒療治が必要だろう。


「ユーフィの両親達はお前の幸せを願わないようなやつなのか?」


 今までの雰囲気を変え、そう煽るように言い放つ。そして狙い通り要の言葉を聞いたユーフィは激怒して急に立ち上がり、要に言い返した。


「そんなことない! みんないい人だった。お父さんとお母さんも私が幸せになる事が私達の喜びだって言ってくれてた。だからみんなを侮辱しないで!」

「なんだ、分かっているじゃないか」


 ユーフィの言葉を聞き安心した要はさっきとは打って変わって優しい声で言う。


「え……? あ……」


 パキン

 その時ユーフィから何かが砕けたような音が聞こえた気がした。そしてユーフィは要の変化に戸惑うも自分が先言った言葉を思い出し理解する。


「そう……だよね。なんでこんな事忘れていたんだろう。私がここで死んだらきっとみんな悲しむ……」

「そうだ。だからユーフィはこれから亡くなったみんなの分まで目一杯幸せにならないとな!」


 ユーフィが大切な事に気がついて安心した要は、笑いながらそう言い放った。


 それを聞いたユーフィは力が抜けたように座り込み、ぼろぼろと泣き出す。みんなの死を悲しむ事なく復讐に身を費やしたユーフィはここでやっと皆のために、そして自分のために泣くことが出来たのだ。


 そうとは知らず、いきなり泣き出したユーフィを見て要は頭を抱えながらおろおろし出す。


(ど、どうしたらいいんだ!? やっぱりきつく言い過ぎたのか? あぁもう、慣れない事はするもんじゃない!)


 要が混乱している間もユーフィは今まで溜め込んでいた分の涙を流している。そして考えに考え抜いて要が導き出したこの場の対処法が………………自分の手を差し出す事だった。

 その突飛押しのない要の行動に、ユーフィは鼻をすすり首を傾げながら見つめる。


「ね、猫の肉球は触り心地がいいらしいから、好きなだけ触っていいぞ。だから泣き止んでくれ!」


 そう、自分の肉球を触って元気を出せ、という事だったらしい。考えに考え抜いた行動がこれとはどうなんだろうか。


 要の言葉を聞いたユーフィは一瞬ぽかんとした後、かすかに微笑む。


「カナメ、それ、おかしい」

「な、なんだと!」


 その言葉にショックを受ける要。本気でナイスアイデアだと思っていたらしい。でもある意味成功はしていた。もうユーフィの目からは涙は出ていなかったのだ。


「でも………………ありがとう」

「あ、あぁ、どういたしまして」


 そこには生きる希望を見失っていた少女はもう居らず、生きる意味を見つけて微笑む少女が居た。





 ちなみにその後、思う存分要の肉球を堪能するユーフィであった。

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