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猫と少女の師弟関係  作者: 猫野 甚五郎
第三章 水の精霊
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30話 かにかにかに

「この先か?」

「もしあるのならこの先なのです」


 そもそもこの神殿は部屋数が少なく、必然的にありそうな場所はしぼられてくる。この扉の先に原因がある。そう考えて警戒しながらそっと扉を開くユーフィ。


「…………」


 そしてそっと閉じた。


「どうした、ユーフィ?」

「あれは、ない」


 何を見たのか、そっと扉を閉じたユーフィはそう言ってしゃがみ込んでしまった。その姿を見て何事かと思いつつ、要は体で扉を押して中を覗いてみる。クーちゃんとスーちゃんも要と一緒に扉の隙間から中を覗いてみた。


 そこにはハサミをカチカチとならし、泡を吹きながら居座る巨大なカニ。そしてその足元には小さなかにがわんさかと居た。とても気持ちが悪い。

 その光景を見た要はユーフィと同じようにそっと扉を閉じた。


「なぁ、あれも……精霊なのか?」

「あんな精霊見た事無いのです。あんなにいたら気持ちが悪いのです……」

 ぷるるん……


 あの光景を見た四人とも顔色が悪い。それほど強烈だったのだ。


「カナメ、どうする?」


 どうにか自力で復活したユーフィはあの惨状をどうするか聞いてみる。要は目をつぶり、暫く無言で考え始めた。そして――――


「よし、帰るか」


 ――――そういってユーフィと一緒にその場を後にする。


「って、だめなのですよ〜! あれを私達だけでどうにかするなんで無理なのです、というか本音は気持ちが悪くて関わりたくないのです!」

「ぶっちゃけたなおい。まあ帰るってのは冗談だ、冗談」


 泣きながら帰ろうとする二人を止めるクーちゃん。あまりの必死さに色々本音をぶちまけていたが。

 冗談はさておき、真面目にどうしようか考える要。巨大ガニだけなら何とかなるものの、あの周りに居る小ガニがかなり厄介だ。


「というわけで俺が巨大ガニを倒すから、三人は小ガニの方を頼む。さすがにあの数は厄介だ」

「だめ、私も巨大ガ二の方に行く」

「ユーフィ?」


 いつもなら要の作戦には一つ返事で了承していたユーフィ。しかし今回は頑に首を縦に振らなかった。


「カナメ、まだ本調子じゃない。だから一人だと危険」

「気付いていたのか……」


 まさが気付かれているとは思っていなかった要は、驚愕する。いくら歩けるようになったとはいえ、スーちゃんとの戦いの反動は大きくユーフィが言う通りまだ本調子ではなかった。要はうまく誤摩化したつもりだったが、一緒に居るユーフィはちょっとした仕草と要の性格からその事を見抜いたのだ。


「だがやはり危険だ。それにクーちゃんとスーちゃんだけであの数の対処は難しいだろう」


 ついさっき危険な目に遭わせてしまった手前、要はなるべくユーフィには前に出てほしくなかった。なのでなんとか説得を試みる。


「そうでもないですよ? あのぐらいならクーとスーちゃんだけで問題なく処理出来るのです。こう見えて強いのです!」

 ぷるるん!


 クーちゃんが胸を張る時は大抵何かあるのだが、今回はスーちゃんも任せろと言った風に震えている。


「ということで小ガニの方は問題ない。あきらめて」

「はぁ、分かった。だが本当に危なくなったらすぐ逃げてくれよ」


 これ以上説得する材料も無く、こうなったユーフィは意地でも意志を曲げないので渋々折れることになった。


 こうして作戦も決まった事で覚悟を決める四人。


「それじゃあいくぞ!」

「うん」

「はいなのです!」

 ぷるるん!


 要の合図でばんっと扉を開け中に入っていく。するとその音に反応してカニ達が一斉に要達の方向を振り向く。そして侵入者だと認識したかに立ちは一斉にハサミをならし始めた。


「ひぃ! なのです!」

「これはうるさい!」

「やっぱり、帰る」

 ぷるるん……


 さっきまでの勢いはどこへやら。大量の目玉に見られ、ハサミで威嚇されるこの状況。一瞬でSAN値を削られてしまった一向だった。





「とりあえず道を作る!『にゃいんど』」


 さすがに敵の前という事ですぐ気を取り直し、作戦を実行する。まずは要がかにの大群目がけて風魔法を放ち、吹き飛ばす。小ガニ達はその風圧に耐えられず次々と吹き飛ばされていった。さすがに巨大ガ二はびくともしなかったが、予定通り巨大ガニまでの道は作る事に成功する。


「あとは頼んだぞ!」

「まかされたのです!」


 クーちゃんとスーちゃんを信じて要とユーフィはその道を翔ていく。それを確認した小ガニ達はもちろん黙っては居らず、巨大ガ二を守る為に二人の行く手を阻もうと左右から襲いかかる。


「させないのですよ!」

 ぷるるん!!


 もちろんこちらも黙っては居ない。二人を守るためクーちゃんとスーちゃんは左右に分かれ小ガニ達を撃退していく。


『あわあわなのですよ〜』


 その言葉とともに大量の泡が出現し、小ガニ達を包み込んでいく。包まれた小ガニ達はそこから脱出しようと泡を攻撃するがびくともしない。見た目に寄らずとても頑丈なのだ。


『ぱちん、なのです』


 この言葉をトリガーに、泡に包まれた小ガニ達は泡の中で水圧に襲われる。そして泡とともに弾け飛んだのだ。

 仲間のその死に様を見た他の小ガニは、相手の圧倒的な強さにたじろいでしまう。


「まだまだいくのですよ〜」


 そういってクーちゃんは先ほどの泡を大量に出現させる。そしてもう震えて待つ事しか出来ない小ガニ達を次々と撃退していく。こうして本人が言った通り、圧倒的な強さを見せつけて勝利したのだった。


 一方スーちゃんの方も負けてはいなかった。

 さっきまでのサイズとは打って変わり、何倍もの大きさになって小ガニ達を迎え撃つ。


 ぷるるるん!


 要とユーフィを襲おうとする小ガニは伸ばした体で次々と弾き飛ばしていく。このままでは埒が明かないと、小ガニ達は攻撃対象をスーちゃんに変更し一斉に襲いかかる。しかしどれだけ鋭いハサミで攻撃しようとも、弾力性の高いスーちゃんの体には傷一つ付かない。むしろ攻撃してきた小ガニを体内に取り込み、中で押しつぶしていた。

 離れれば伸ばした体に吹き飛ばされ、近づけば体内に取り込まれ押しつぶされる。


 ぷるるるるん!


 こうして気合いの入ったスーちゃんになす術無く破れていく小ガニ達だった。





「でかい、な」

「うん。威圧感、すごい」


 二人はガチガチとハサミをならす巨大ガ二の前までやってきていた。見上げなければ行けないほどの巨大さ。そして要のにゃいんどが当たっていたのにも関わらず、傷一つ付いていない分厚い殻。

 そんな圧倒される二人に考える暇を与えないかのように、ハサミを振り下ろし襲いかかってくる巨大ガ二。

 慌てて避けるも、その威力は凄まじく地面に当たった余波も凄い。攻撃を受け流して戦うユーフィに取ってはやりにくい相手だろう。


「俺が先行する!」

「援護は、まかせて」


 ――――ファグナ――Ⅰ――降り注ぐ炎弾――――


 ユーフィは要を援護するように小さな炎弾を巨大ガ二に打つける。それが目くらましとなり、視界が悪くなった巨大ガ二は手当り次第にハサミを振り下ろし始めた。

 この隙を逃さないよう、振り下ろされたハサミに素早く飛び乗り体の方へと駆け上がっていく要。そして一番柔らかいであろう頭目がけて鋭く尖らせた爪を振り下ろした。


 ガキンッ!


 しかしそんな音とともに爪を弾き返された要。思いっきり振り下ろしたのでかなり痺れている。

 一旦巨大ガ二から飛び降り距離を取る事にした要。そして物理がだめなら魔法だ。そう考え準備する。先ほどの風魔法のように物理的な魔法ではなく内部に作用する、そして水の魔物が弱いだろうと思われる雷魔法を使う事にした。幸いこの大広間の足元には水が無く、感電する心配はない。


『にゃんだー』


 雄叫びをあげるように言葉を放った要。巨大ガ二の周囲に雷球が出現しその体を包み込むように雷を放つ。雷を受けた巨大ガ二はじっと耐えるようにその場で動きを止めた。もうその体が見えなくなるほどの稲妻に包まれ、その余波でユーフィの髪がばさばさと揺れていた。


「やったか……?」


 稲妻が消え、そこには全く動かなくなった巨大ガ二。しかし暫くするとまたハサミをガチガチとならし二人に襲いかかってきた。


「くそっ! これでも駄目なのか!」

「頑丈、すぎ!」


 どうやら巨大ガ二を覆っている殻は隙間が全く無い様で、例え雷でも内部まで到達しないのだ。


「せめてどこかに隙間があれば……」


 巨大ガ二の猛攻を避けながらそう呟く要。それを聞いたユーフィは持っていた剣をぐっと握りしめ、巨大ガ二に向かって走り出す。


「ユーフィ!? 戻れ!」


 慌てて止める要だが、その制止を振り切り巨大ガ二へと向かっていくユーフィ。振り下ろされたハサミをギリギリでかわした後、ハサミの上に飛び乗る。そして要と同じようにそこから巨大ガ二の上へ駆け上がっていった。

 巨大ガ二は、上ってきたユーフィを振り下ろそうと体を揺らしていく。ユーフィの突発的な行動に反応が遅れた要は、少しでも援護すべく魔法を駆使して自分の方へと注意をそらす。


 巨大ガ二の上に乗ったユーフィはもっていた剣を両手で逆さに持ち、集中する。


(カナメに教えてもらった魔剣。まだ使いこなす事は出来ないけど、一部だけなら……っ!)


 ――――風の魔剣フラガラッハ――――


 すると逆さに構えた剣の先に風を集めそれを圧縮させる。


(鋭く、鋭く……もっと鋭く!)


 ユーフィが出来る限界まで剣の先に風を集中させ鋭さを増す。そして――――


「貫いて!!」


 ――――叫び声とともにその鋭さを増した剣を巨大ガ二へと突き刺す。

 こうしてまだ未完成だが魔剣を作り上げたユーフィは、その分厚い殻を貫く事に成功した。

 突き刺さった事を確認したユーフィはその剣をその場に残し、すぐ離脱。そして下で待っている要に目で訴えた。





「まさかここで魔剣を成功させるとはな」


 練習ではたとえ一部でもまだ成功した事が無かった魔剣。それを土壇場で成功させたユーフィの成長を喜ぶ。そして弟子がここまでしたのだからと、ユーフィの期待に応える要。


『にゃんだー!』


 要にはユーフィの目が訴える事にすぐ気が付いていた。以前のブラッドベアの時と同じだ。要は突き刺さったユーフィの剣から内部に雷を落とす。そして分厚いからに覆われた巨大が二を内側から破壊していった。だが元々しぶといのかまだ倒れない。しかしどうやら殻は内部からの攻撃には弱いらしく、表面にもヒビが入り始めていた。


『にゃいんど』


 それを確認した要は止めを刺すため、もう一度風魔法を発動。その風はヒビの入った殻を全て破壊し巨大ガ二を圧し潰した。

 こうして鉄壁だった巨大ガ二はユーフィの一突きによって崩されたのだった。

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