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猫と少女の師弟関係  作者: 猫野 甚五郎
第二章 水の街ウォーレイン
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18話 急変

 食事も終わり暫く一服した後、テオルとリオが出かける準備を始める。


「どこかに行くのか?」

「ああ、結局まだブラッドベアの話をゼルとしてなかったからな。その話を今からしに行く。そっちはこの後どうするんだ?」

「そうだな、今日は一日のんびりする予定だったから特にこれといった予定はなかったが、せっかくだしこっちもゼルの所へ顔を出すか」

「家、買う?」

「それ掘り返すのか! というかさすがに家は扱ってないだろ」

「扱っているぞ」

「手広過ぎだろ!」


 まさか家まで扱っているとは思わなかった要は、その手広さに思わず突っ込んでしまった。


「まあ、いいか。それじゃあ俺たちも付いていっていいか?」

「ああ、かまわん。それじゃあリーナ、行ってくる」

「いってらっしゃーい」


 後片付けをしているリーナを残し、四人はゼルがいるノーブル商会へと足を運ぶ。だが四人が店に入るとどうも様子が変だった。いつもの活気はなく、むしろ何か重々しい雰囲気に包まれている。


「なんだ……?」


 さすがにテオルもおかしいと思ったのか、その重い雰囲気に合わせたかのように低い声でつぶやいた。


「どうも様子がおかしいな」

「確かに……だがこうしていても仕方が無い。取り敢えず受付で聞いてみるか」


 お互い嫌な予感がしつつも何があったのかを聞きに受付へと足を運ぶ。


「ゼルに会いにきたんだが……何かあったのか?」

「あ、テオルさんですか。お久しぶりです。実は……ゼルさんの娘さんが倒れてしまって…………」

「なんだと……!」

「サラサちゃんが……」


 受付嬢の言葉を聞き、事の重大性を認識した四人。サラサが倒れ、しかも周りが重苦しいとなれば重症なのだろう。


「それで、その症状が特殊で治せる薬を作るのに、希少な素材がいるんです。ただそれが今どこにも流通しておらず、皆で探し回っている所なんですよ……」

「それでこの空気か……」


 詳しい話を聞いてようやくこの空気の理由が分かった。この手広くやっている商会ですら見つけられないとなるとかなり希少なものなのだろう。


「もしよろしければ一度会ってあげて下さい。今は隣の家で看病をしているはずです」

「分かった。何か力になれる事もあるかもしれないからな」

「どうかよろしくお願いします」


 深々と頭を下げる受付嬢に見送られ、この店を後にする。


「それにしてもゼルの慕われようはすごいな。皆が自分のことのように、ここまで真剣になるなんてな」

「そうだな、見て分かる通りあいつは結構甘い所がある。だがそれがこれだけの信頼を造りあげたんだ」


 初めて会った得体の知れない要たちにも、親切にしてくれた。そんなゼルの人望の厚さをあらためて目の当たりにした。

 そんな話をしつつ四人はゼルの家の前へとやってくる。そしてノックをして暫くするとメイドのコーネが扉を開ける。


「どちらさま……ってテオルさんにカナメちゃん?」

「久しぶりだな。さっきノーブル商会の方で話は聞いた。何か力になれる事はないかと思いここへ来たんだが……」

「そうだったんですか。わざわざありがとうございます。ゼルさんは今二階で看病をしておられますのでどうぞ」


 コーネに中へと案内されて、ゼルとサラサがいる二階へと向かう。そして部屋に入るとベッドで寝ている苦しそうなサラサと、親身に付き添うゼルの姿が会った。


「誰でした……ってあなた達でしたか」

「ああ、話を聞いて居ても立ってもいられなくてな」

「わざわざありがとうございます」


 立ち上がりお礼をいうゼル。その姿はどこかやつれているように見えるが、大切な娘が倒れたのだからしょうがないだろう。


「で、いったい何の病気なんだ? ノーブル商会でも薬の素材が見つけられないなんて……」

「水魔病です」

「水魔病……だと……!」

「なんだ、それは?」


 水魔病、という聞いた事のない病名。だが、二人の様子でヤバそうという事だけは分かった。


「水魔病とは、体内で水の魔素が過剰に生成され、放出しきれなくなる病気だ。普段は部外な魔素だが、過剰に体内に残るとその性質からどんどん体の熱が奪われていくんだ。外からの熱も防ぎ温める事すら出来なくなる。だから熱が奪われ切るまでに治さなければならないんだが……」

「その薬が作れない……と」

「そうなんです……。いくつかは見つかったのですが、最後の一つがどうしても見つからず……」

「なにが足りないんだ?」


 もしかしたら取って来れるかもしれない。そう思った要は足りない物を聞いてみる。


「水魔の森に生息しているウォーレイーターの体液です」

「なんだ、場所が分かっているなら取りにいけばいいんじゃないか?」


 場所もモンスターも分かっているなら簡単じゃないかと思う要。しかしテオルの表情を見て、そんな甘い考えは吹き飛んだ。ウォーレイーターと聞いたテオルは絶望的な顔をしていたのだ。そんな表情を見ればどれほどのものかは聞かずとも分かってしまう。


「遠いのか……?」

「いや場所もそう遠くはない。だが…………水魔の森は禁足区域なんだ」

「禁足…………区域?」


 また聞き慣れない単語に首を傾げ、もっと勉強しておけばよかったと後悔する要。


「禁足区域って言うのは、危険な地域の事をいってな。冒険者の被害が多くなりそうな所が指定される。で、そこへ行こうと思ったらギルドに申請して、問題ないと判断されたパーティだけが入れるようになる」

「勝手に入ったら駄目なのか?」

「ああ、昔それでかなりの被害がギルドに出たらしくてな。それを防ぐ為に作られ、それを破ったものは厳しいペナルティが科せられる」

「なるほどな……じゃあすぐにでも申請して行けば……」

「それも無理なんだ。普段なら数日、今はその判断をするギルドマスターが不在だからもっとかかるだろう」

「だからそんな表情をしていたのか……」

「一応ギルドには連絡してあるのですが、やはりすぐには無理だと言われました。今の状況だと、ギリギリ間に合うかどうか…………」


 なんでそんな決まりが、とは思うがそんな決まりが必要なほど危険な場所なのだろう。それが分かる要は何も言えなくなる。


「……父さん、僕は行きたい」

「リオ、だがそうすれば……」

「このまま何もしない事の方が辛い……」

「だめです! それをすればあなた達がペナルティを食らうのですよ!」


 暫く考え決心したリオがテオルへと思いをぶつける。後悔したくない、と。しかしそれを慌てて止めるゼル。


「ペナルティはそこまで厳しいのか……?」

「ああ、ランクを下げられ半年間冒険者として活動出来なくなる」

「冒険者として活動的ないって、テオル達には割と死活問題じゃないか?」

「ああ、だが目の前の命が消えようとしているんだ。そんな事は些細な事だ」

「しかし……! そこまで迷惑はかけられません」


 テオルたちの気持ちはゼルにとっては取れも嬉しい事だっただろう。娘のためにそこまで身を犠牲にしてくれるというのだから。だがペナルティがあまりにも重過ぎる。半年分の生活費ならゼルであれば用意できるだろう。だが下げられたランクはそうもいかない。それに要は知らないが、一度下げられたランクを元に戻すのはかなり大変なのだ。


 娘は助けたい。だがあまりにも迷惑がかかりすぎる。そんな二つの思いの中で葛藤するゼル。

 テオルとゼルの堂々巡りになる話を聞きつつ、頭の中に浮かんだ事をまとめるかのように尻尾をパタパタとせわしなく動かす要。冒険者が禁足地域に入るとペナルティを食らう。だが俺たちなら……? と。そしてひらめいたと言わんばかりに、尻尾をピーンと立てる。


「そういうことなら良い解決方法があるぞ」

「なんだ……?」


 そんな方法があるのかとテオルからは訝しげに、ゼルからは僅かな希望を求めるように視線を移す。


「冒険者が駄目なら、俺たちが行けば良い。それならペナルティも食らわないしな」


 そう、ちょっと悪そうな笑顔で提案する要。テオルは空いた口が塞がらないといった様子だ。


「いや、俺たちでって言っているが、禁足区域に指定される危険な場所なんだぞ! たしかにお前達は冒険者じゃないが、二人だけで行くなんて無謀すぎる!」

「そうですよ、そう言ってもらえるのはありがたいですが、お二人の命が危ないです!」


 要の無謀とも言える提案に必死で止める二人。だが、要はそれだけ言われても笑みを崩さない。ユーフィも要なら大丈夫と思っているので、サラサの為にとやる気満々だ。


「問題ない、ちょっとやそっとじゃあやられないしな。それともそこにはブラッドベアより遥かに強い魔物がいたりするのか?」

「いや、さすがにそこまでは言わないが……」

「なら大丈夫だな。ブラッドベアなら俺一人でも倒せたし」

「なっ!」

「いくらなんでもそれは…………」


 思いも寄らない発言に、絶句する三人。あの時は五人掛りで倒していた。それを要一人で倒せたというのだから。ユーフィだけがやっぱり? という顔をしていた。


「それはさすがに言いすぎだ…………っ!」


 テオルが全て言い終わる前に、猫気にゃきをぶつける要。今まで受けた事のない、死を覚悟してしまうような圧力をかけられ、反射的に武器へとのばし冷や汗をかくテオル。


「これでもまだ駄目と言うか? 言いたい事も分かるが、正直今はそんなことを言っている暇はなさそうだからな。手っ取り早くやった」


 さっきまでの笑みは無く、真面目な顔をして言い放つ要。これ以上の問答は時間の無駄だと思ったのだろう。そんな要にこれ以上止める理由がないテオルは観念したように肩をすくめた。


「…………分かった。これ以上は止めない」

「テオルさん!?」


 さっきの猫気にゃきを受けていないゼルはいきなり意見を変えたテオルに驚く。


「大丈夫だ、少なくとも要は俺より強いだろう。だが、危なくなった時は迷わずにげろ。それが条件だ」

「ああ、分かっているよ」


 こうしてトントン拍子に要達が取りに行く事になった。というよりも要たちなら止められたとしても勝手に行くだろう。


「はぁ、正直心配ですが……テオルさんの言葉を信じましょう。それに、このままだとサラサが危ないのも事実です。どうか、どうかお願いします」

「ああ、任せろ」

「絶対に助ける」


 こうして要は水魔の森の場所とウォーレイータの特徴を聞いてさっそく出発する事にした。もうすでにお昼過ぎ。出きれば夜までには帰ってきたいと思うが、正直厳しいだろう。


「しかし、ユーフィはここに残ってても良かったんだぞ? 聞けばかなり危険な場所らしいし」

「行く。私もサラサちゃんを助けたい。それに……カナメがいるなら大丈夫」

「そう言われると悪い気はしないが……まぁ、一緒に来るなら何が会っても俺が守る」

「ん、頼りにしてる。でもカナメが危ない時は私が助ける」

「そうだな、その時はよろしく頼む」

「頼まれた」


 なかなか頼もしい事をいってくれるユーフィに成長を感じながら、サラサを救うべく禁足区域、水魔の森へと二人は向かう。

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