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猫と少女の師弟関係  作者: 猫野 甚五郎
第一章 師弟
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9話 水の街に向けて

 宴会を楽しんだ次の日、朝起きて朝食を食べた二人はすぐここを出発する準備をして外に出た。外にはもう馬車の準備を終え、二人を待っているゼル達がいる。


「おはよう、待たせたか?」

「おはようございます、こちらも今終わったところでしたから大丈夫ですよ」


 その言葉にほっとしながら二人は馬車へと乗り込む。


「あ、おねーちゃんおはよう!」

「おはよう、サラサちゃん」


 馬車の中に入るとサラサが勢いよくユーフィに抱きついてくる。そんな姿を先に乗っていたリーナとリオが微笑ましそうに眺めている。そうやってじゃれ合っていると村長が見送りに馬車の元へとやって来た。


「このたびは本当にありがとうございました。ベアチャイルドいる所にブラッドベア有り、という話もありますし道中お気をつけ下さい」

「さすがにブラッドベアに会う事はないと思いますよ」


 村長の言葉に笑いながらそう答えるぜルはそのまま馬を走らせ村を出発する。ことわざみたいなものだろうか、と思う要だったがそれでも何故かいやな予感がしてしまう。





「そういえば二人は街に着いたらどうするのですか?」


 ゆらゆらと馬車の中で揺られながら外の景色を眺めている二人へリオが話しかける。リーナはサラサと楽しそうにお話をしている。


「一先ず腰を落ち着けられるように宿屋探しだな。その後はギルドに行って登録かな。生活費も稼がないといけないからな」


 それを聞いたリオは困ったような顔をして暫く黙った後、言いづらそうに口を開く。


「残念ですが、ギルドの登録は十五歳からですよ…………」

「「……………………え?」」


 その言葉を聞いた二人は同じように頬けた顔をした後、がっくりしてしまう。まさかそんな事で出鼻をくじかれるとは思っていなかった要は、予定が大分くるってしまうと頭を抱える。


「えっと、一応特例みたいな制度があるみたいなので、もしかしたら登録できるかもしれないですが…………」

「でも、あまり特例の話って聞かないわよね」


 リオの言葉に少し希望を持つも、寝てしまったサラサの頭を撫でながら要たちの話を聞いていたリーナがばっさりと切り捨ててしまい、またうなだれてしまう。


「どうしよう?」

「そうだな……一先ずその特例とやらに望みをかけてみるか。っとそういえば倒した買取とかはどうなるんだ?」

「えっと、たしか買い取りだと登録の有無は関係なかったはずです。ただ、依頼としては受けられないので、依頼料はもらえませんが。でも今回のベアチャイルドクラスなら、一体で二金貨ぐらいは行くと思いますよ」

「それなら生活の方は何とかなりそうだな」


 買取はしてもらえる、そして今回の買取金額を聞いた要は一安心する。実際ベアチャイルドのような大物を狩れば、買取金額だけでも十分生活はしていけるだろう。


 そんな話をしていたら、リーナが寝ているサラサを起こさないようリオに預けた後、二人へこっちに来るようにと手招きをする。なんだろう? と思いつつもリーナに近づいた二人は不意に抱きしめられる。いきなりの事に反応できなかった二人は、成すすべなくその大きな胸へと吸い込まれていった。


「あぁ、やっぱり可愛いわね。私、こんな娘が欲しかったのよね~」

「か、母さん。息子の前でその発言はどうなの…………?」


 どうやら息子しかいないリーナは娘が欲しかったようで、その代わりにユーフィを可愛がろうと呼んだのだ。しかし、いきなりの娘が欲しい発言を聞いた息子のリオは複雑な心境になってしまう。


「もちろんリオのことも大好きよ。でも息子を産んだ後は娘も欲しくなるものなのよ」

「そういうものなんだ……」


 一先ず納得し安心したリオはそれ以上追及せず、その光景を眺めていた。

 その頃抱きしめられていた二人はというと、要が胸にうずめられつい嬉しそうに尻尾を振っていた。だがそれを見たユーフィが咎める様に尻尾を引っ張り、要が涙目になっていた。


「あの……そろそろ……」

「あぁ、ごめんね。つい嬉しくて。それにしてもやっぱりその髪は綺麗ね、触り心地もさらっさらだったし」


 ようやく開放されたユーフィは、髪の事をほめられて少し照れくさそうにしながらも、少し笑みを浮かべた。それに巻き込まれた要はというと、引っ張られた尻尾が大丈夫かと色々な体勢をしながら一生懸命確認していた。本人は必死なのだろうが、傍から見ていると自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回るような形になっていてとても面白い。


「それにしても、こうやって移動しているときって暇なのよね。という事で二人のことを教えてくれない? まだちゃんと聞いたことがなかったから」

「私たちのこと?」

「そうえいば、簡単な自己紹介だけで終わってたな」


 特に突っ込まれなかったので気が付かなかった要だが、普通に見ればユーフィのような子供と要のような猫が二人だけで旅をしていたら疑問に思うだろう。要はユーフィの出会いから師弟を結んだ事を簡単に説明し始めた。もちろんユーフィや要の過去などは特に言う必要も無いだろうと割愛する。二人の話に興味があるのか前で馬の手綱を握っているゼルやテオルも耳を傾けていた。


「へぇ、カナメちゃんが師匠でユーフィちゃんが弟子なんだ。じゃあカナメちゃんって強いの?」

「ああ、それなりにはな!」


 いつの間にかちゃん付けになった事には触れずに、珍しく二本足で立ち手を腰に当て威張る要。誰がどう見てもその姿は強そうには見えず、むしろ可愛らしくてほんわかとした空気が流れる。要としてはおぉ! と驚かれる場面だと思っていたので、温かい視線を受けてなにを間違ったのかと自問自答し始めた。


「ユーフィちゃんはその二本の剣で戦ってるのかしら?」

「うん、ただ力が無くて決め手にかけるのに困ってる」

「決めてねぇ……。テオルみたいな体力馬鹿ならいざ知らず、ユーフィちゃんなら力押しって言うわけにはいかないわよね」


 さらっと毒舌を吐かれたテオルは「なにか怒らせるような事をしただろうか……」と少し焦っている。


「それなら魔法で補えないかしら?」

「魔法で……?」


 ユーフィの中で魔法といえば薪に火をつけるぐらいにしか使っていなかったので、リーナの話にピンとこず、首をかしげる。


「その様子だとあまり知らないみたいね。ということはカナメちゃんもかしら?」


 リーナの問いに、自問自答していた要は我に返る。


「ん? あぁ、俺もあまり詳しくはないな」

「ならせっかくだし、ここで魔法講座と行きましょうか。まだ街までは時間があるから丁度良いわね」


 ということで、唐突にリーナの魔法講座が始まるのだった。





「二人は魔法がどうやって使えるのか知ってるかしら?」


 リーナの問いに二人そろって首をかしげる。その可愛らしい光景にリーナは楽しそうに説明をし始める。


 そもそもこの世界の人は常に魔素という魔法の元を出している。その魔素は属性ごとに異なり、全部で八種類ある。魔法はその各属性の魔素を使って発動する事が出来るのだ。


「という事は俺たちも今魔素を出しているっていう事か?」

「そうね。呼吸するのと同じように、自然と体から放出されているわ。そして重要なのが個人によって属性ごとの魔素の量が異なる事よ」


 この世界では人が出している魔素の量の合計を、属性の数と同じ八としている。そして人によって属性ごとの魔素の量が異なっている。たとえば、リーナであれば雷が五、水が二、火が一となっている。


「じゃあリーナは風と水と火以外の魔法は使えないのか?」

「そうよ。魔素自体は他の属性も出しているのだけど、魔法を使えるほど多くないの。だから私は風の魔法使いとなるのよ」


 リーナの言うとおり魔素の量で魔法が使えるかどうか、さらに使えたとしてもその威力と規模が変わってくるのだ。日の魔法で例えるのならば、一~三はぞれぞれ人の頭サイズの人火の玉が一個~三個とさほど変化は無い。が四になると火の壁、五になると火の柱、六は火の渦を作り出せ、七になると目の前を吹き飛ばせる大爆発を引き起こせる。八にいたっては無限とも言われている。


「無限って…………さすがにそこまでは…………」

「言い過ぎって言うわけでもないのよ。聞いた話では何も無いところで津波を起こしたり、巨大な竜巻を作ったりね。そもそも八の魔素を持つ人が珍しすぎて調べようが無いっていうのもあるわ。取り敢えずどれかの属性の魔素が四以上ある人は、私のように魔法使いとして活動しているの」


 一通りの原理を理解した二人はそろそろ本題に入る。


「それで、魔法はどうやって使うんだ?」

「そうねぇ、一言で言うならイメージよ」


 よう、イメージだ。よくある詠唱や魔法陣などは使わなくても使用は出来る。しかし、その魔法を発動するためのイメージが難しく、人によってさまざまなのだ。なので、誰でも使える基本的なイメージの仕方というのがある。

 まず、八種類の属性にはそれぞれ魔法名があり――――

 火:ファグナ

 水:ウォレ

 土:ソーア

 風:ウィール

 氷:アルア

 雷:サンリ

 光:ラル

 闇:ダイン

 ――――となっている。

 その魔法名と先ほど説明にあった魔素数、そしてイメージのキーとなる言葉を頭の中でも、声を出してでも良いので繋げる。


「それじゃあ一つ見本を見せるわね」


 ――――ファグナ――Ⅰ――指先にともる火――――


 リーナが人差し指を立てながらそう唱えると、その指先に小さなライターサイズの火が出現した。


「この中で一番大事なのが最後のキーとなる言葉なのよ。ある程度手本となる言葉はあるのだけれど、最後は自分で考えて一番かちっとはまる言葉を見つけるのが重要よ。ここを適当にしてしまうと発動しなかったり、最悪の場合暴発して大変な事になるわ」

「なるほど、難しそうだが…………逆に言えばイメージさえ出来ればかなり応用が利くんだな」

「そうね、だから私たち魔法使いは日々色々な使い方を考えたりしているの。魔法についてはこれぐらいね。人に説明したりするのはこれが始めてだったりするんだけど、分かりやすかったかしら?」

「うん、とても分かりやすかった」


 会話の端々で質問をしていた要はもちろんのこと、黙って聞いていたユーフィも理解できたようだ。なれないことをしたリーナはそれを聞いてよかったと胸をなでおろした。





 魔法の話以外でも盛り上がり順調に街に向けて進んでいたが、要は一つ気になっていた事があった。サラン村を出るときに行っていた村長の言葉だ。それはいわゆるフラグというやつで、何故か要はそれをよく回収してしまう。勇者時代も~に気をつけてといわれれば出会い、~が起こる時期だと聞けば要が来たとたんに起こるなどいい思い出が無い。それゆえに今のところ特に問題なく進んでいる事に安堵していた要。もちろん、そうやって安堵する事もフラグの一つだろう。

 急に要にいやな予感が走り、毛が逆立ち尻尾も倍以上に膨れ上がる。その様子を見た馬車の面々は何事かと驚き要を注視する。


「馬車を止めろ!」


 テオルもゼルもその要の剣幕に何事かと思うが、言われたとおり馬車を止める。そしてゼルはサラサの元へと馬車の中へ、リーナ、リオ、ユーフィは先に下りて武器を構えるテオルの所へと移動した。

 その間に要はようやくその嫌な予感の原因を突き止め、茂みの中に隠れているそれ(・・)に向けて猫気にゃきを発動させる。そしてその茂みの中からゆっくりと、しかし堂々と獲物を狙うようにそれ(・・)が現れた。


「なっ!」

「まさか…………」


 そうそれは目の色が赤く、大人の二倍以上の大きさがある、ブラッドベアだった。


 そして見事にフラグを回収した要は罪悪感で一杯になった。

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