記憶にある場所
顔に当たる光が眩しくて、寝返りをうとうとするが体が動かない。
渋々目を開けると、妙な物が見えた。
やけに固くて肌色で温かくて、ちょうど肘を曲げた腕みたいな形の……腕!?
恐る恐る首を捻って背後を見やれば、秀麗な寝顔が間近にあった。
だいぶ高くなった日射しに煌めく黄金の髪に、貴婦人も羨む白磁の肌。
誰もが見惚れる晴れた日の空のような瞳は、美しいカーブを描く睫毛に縁取られた瞼に今は隠されていた。
美しすぎる顔があまりにも自分の顔の近くにあるこの状況は、さすがに恥ずかしい。
急に早鐘を打ち出した心臓を落ち着かせる為にも、とりあえず離れなければ。
錆び付いた全身鎧のようにぎこちない動きで顔を正面に戻すと、体に巻き付いた腕をそっと外し、逆の手から髪の毛を取り返し、枕元の剣を掴んでもそもそとベッドから降りる。
隣にはもう一つベッドがあり、使われた様子のないそれにはエリクと私の外套が置いてあった。
隅に置かれた衝立の向こうで身支度を済ませても、まだ起きる気配がない。
どれだけ飲んだんだろう。
朝食を貰おうと廊下に出た所で気がついた。
ここ……あの時の部屋だ。