第一話 赤髪蛇目のモン娘と、至高の締め付け
前世の俺――佐藤タケルは筋金入りの「モンスター娘オタク」だった。
昼間は冴えないサラリーマンとして死んだ魚の目で働き、夜はモン娘関連の作品に触れ、集めたフィギュアを眺める日々。
部屋の壁はモン娘のポスターで埋まり、ベッドの周りにはラミアやハーピーの抱き枕が鎮座していた。 俺にとってモン娘とは、過酷な現実を生き抜くための唯一の癒やしであり、魂の救いだったのだ。
そんな俺がトラックに跳ねられ、命を落としたとき――目の前に現れた神々しい女神は言った。
『哀れな魂よ。特別に異世界へ転生させてあげましょう。どのようなチート能力を望みますか?』
『本物のモン娘がいる世界に行かせてくれ!!』
『えっ、能力は……?』
『あ、じゃあ【不死身】で!』
『まあ、魔王討伐には無難な選択ですね』
『違う! モン娘の全力の絞め殺しや猛毒は人間の体じゃ耐えられないだろ!? 会いに行ったときに骨を折られても、毒に冒されても、丸呑みされても死なずに永遠に彼女たちを愛で続けたいからこその【不死身】だ!!』
『……はい?』
女神のドン引きを置き去りにし、俺は無事に望みの異世界へと生まれ変わることになる――。
◇
「よし……今日の『モン娘目撃マップ』の更新はこんなもんか」
転生というか転移というか、とにかく異世界に来て半年。
俺は『タケル』として、この異世界の街にある小さな安宿の一室で暮らしていた。
壁に貼り付けた大きな地図には、赤インクの羽ペンでメモ書きがぎっしりと書き込まれている。
『北の山脈:羽並みが美しいハーピー(※高所注意)』
『東の湿地:服を溶かしてくるスライム娘(※着替えの予備必須)』
『南の深い森:凶暴だが超絶美人のラミア(※清流での水浴び目撃情報多数!)』
俺の日常はシンプルだ。
朝起きて、ギルドで最低限の薬草採取依頼をこなして日銭と宿代を稼ぐ。そして夜は酒場で呑んだくれの冒険者たちに酒を奢り、「どこそこでメスの魔族を見た」という噂話を買い集めて地図にまとめる。
勇者になって魔王を倒す?
世界を救う?
冗談じゃない。
俺の目的はただひとつ――ひたすらモン娘たちを探し出し、愛でることなのだから!
「そして今日……ついに決行の時が来た!」
俺は壁の地図、南の森に書かれた『ラミア』の文字を指で力強く叩いた。
色々情報を集めたが、眉唾じゃないと確信出来る情報は今のところココだけだ。
遠征用の馬もこないだようやく買えたし、時は来たってもんだ。
◇
「おいおいタケル! 1人で南の森に向かうなんて正気かよ!? あそこに出るラミアは危険だ、人間を丸呑みにするって噂だぞ!」
日頃世話になってるベテラン冒険者のオッサン・モーグルにギルドの前で南の森に行く件を伝えると、モーグルは俺の肩を掴んで止めてきた。
でも俺はむしろ高揚する。
「丸呑み……!? まさか体内に包み込まれるプレイが出来るのか……!?」
「何ワクワクした顔してんだよ頭湧いてんのか!? 呑み込まれた時点でお前は恐らく全身の骨をボキボキに砕かれてる状態なんだぞ!?」
「大丈夫だ、俺は不死身だから骨が折れてもすぐ治る!」
「そういう問題じゃねえよ!! なんで『痛そうだからやめよう』にならないんだよ!?」
「うるせえ! 俺の邪魔すんな! たとえ何度殺されかけたとしても、俺はモン娘を愛でるのをやめる気はないんだよ!」
「お前なあ……」
ドン引きするモーグルをよそに、俺は馬に跨がって「はいよー!」と南の森を目指した。
◇
南の森には、翌朝到着した。
馬を降りて、木漏れ日が差し込む森の奥を進んでいくと、やがてさらさらと涼しげな川の音が聞こえてきた。
清らかな川辺へと辿り着いた俺は、物陰からそそっと覗き込み――思わず息を呑んだ。
(居た!!!)
川の浅瀬に、一人の『少女』が居た。
濡れて肌に張り付いた鮮やかな赤髪に、夕焼けのように美しい赤い瞳。縦に細く裂けた蛇目が、恐ろしくも怪しい色気を放っている。水滴を弾いて滑らかに光る上半身は、華奢でありながら実に魅力的な曲線を描いていた。
そして何より――彼女の腰から下は、川底でしなやかにうねる立派な大蛇の胴体だった。
間違いない。
本物のラミアだ……!
「あら……人間?」
そのとき、ラミアがこっちに気付いた。
「ふふ、ちょうどお腹が空いていたのよね」
彼女は獲物を前にした捕食者らしい嗜虐的な笑みを浮かべた。
次の瞬間、彼女の姿が視界から消える。
頭上の太い枝へと瞬時に跳び移っていた彼女は、しなやかな動作で一直線に俺へと飛びかかってきた!
「いただくわ!」
「ぐおっ」
俺は押し倒されていた。
ずっしりとした柔らかい重みに圧迫される。
そして間髪入れずに、水で濡れたしなやかな赤い蛇腹が、俺の全身をグルグルと勢いよく巻き上げていった。
「ふふっ、捕まえたわ! このまま骨ごと砕いて食べてあげる――って、ちょっとなにその顔!?」
ラミアが急にギョッとしたように目を見開いていた。
そりゃそうだろう。
生殺与奪の権を奪われている俺は今、恐怖など微塵もなく、うっとりと恍惚の表情を浮かべているのだから。
「――素晴らしい……っ!」
「は……?」
「この締め付けの威力……そして水浴び直後ならではのひんやり感と、肌から伝わる確かな体温のハイブリッド! 水滴が弾ける赤い鱗の美しさも満点だ……こんなの、至高のご褒美以外の何物でもないじゃないかああああああああああああああ……っ!!」
「な、なになになに!? 気持ち悪いこと言わないでよ! わたし今、あんたを殺そうとしてるのよ!?」
ラミアは引きつった顔でパニックになりながら、さらにギュギュッと体に力を込めてくる。
メリメリッと肋骨が折れる嫌な音が響いた。
だが、チート能力【不死身】が即座に働いて完治する。
痛覚を超越したその先にある、圧倒的な密着圧。
それがいい。
それが最高にイイ!!
「その容赦ない締め上げがたまらん……! 頼む、あと数分……いや、いっそこのままずっと巻き付いていてくれえええええええ……っ!」
「何コイツノーダメ!? ひっ……!? なんなのこのバケモノ……!!」
あまりの変態性と異常事態に恐怖したのか、ラミアは「こんなの食べたくないわっ!」と言って慌てて俺の拘束を解除して距離を取った。
「おい! なんでだ! なんで巻き付くのをやめたんだ!?」
俺は詰める。
「こ、来ないで! 締め殺すわよ!!」
「やってくれよ!! 君のような美しいラミアに締め殺されるなら本望だ! そして俺は不死身だから君の締め付けを何度でも味わってやれるぞ! ちなみに名前を聞いてもいいかな!?」
「教えるわけないでしょ!! キモ! 死ね!」
顔も首筋も鱗のように真っ赤にしたラミアは、そう捨て台詞を残すとものすごい速度で草むらを掻き分けて逃げ去っていった。
静かになった川辺で、俺は不満だった。
「……物足りない。もっと、もっとあのラミアと接触したい!!!」
俺は彼女が逃げていった草むらの痕跡を見つめ、迷わずその跡を追い始めた。
逃がさないぞ、ようやく見つけたマイスイートエンジェル……!!!




