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第一話:高所綱渡りと怪しいエナジードリンク

ご覧いただきありがとうございます!


名門学園の「完璧な生徒会長」アイラ。

その裏の顔は、生徒会室を隠れ家にする最強の魔法使い集団のリーダー!


優雅に振る舞おうとしては派手に転び、一般生徒の前でやらかしては副会長に怒られる日々。

そんなある日、学園で「怪しいエナジードリンク」による集団操り事件が発生して――!?


ちっとも優雅じゃないポンコツ会長による、痛快スクールアクション開幕です!

この世界には、二種類の人間が存在する。 魔法が見える者と、そうでない者。 そして――魔法を使える者と、使えない者だ。 もちろん私、アイラは前者であり、さらには全校生徒から「完璧な首席」と崇められる生徒会長なのだから、世界というのは実に上手くできていると思う。

「――と、いうわけ!」

「会長、歩きながら独白するのやめてもらえます? あと前見てください」

給湯スペースからマイマグカップに水を注いで戻る途中、デスクで書類をめくっていた副会長、リサの冷ややかな声が飛ぶ。

いいじゃんたまにはカッコつけても。

「いい?私たち選ばれし魔法使いは、常に優雅で、完璧で、誰からも憧れられる存在でなきゃいけな――あいたっ!」

盛大に敷物の端に足を引っ掛けた。 視界が派手に傾く。手からすっぽ抜けたマグカップと、宙に放り出される透明な水。

(うわ、書類が濡れる――!)

反射的に意識を尖らせ、宙に散らばりかけた水へ干渉する。 ピキリ、と空中で音が鳴った。 こぼれ出た水は、飛沫のかたちを保ったままカチコチに凝固し、ガラス細工のようになって床へとポトポト落下した。

……セーフ。書類は無事だ。 代わりに、私自身は床へと見事にダイブして鼻を強打したけれど。

「いったぁ……」

「……はあ」

重いため息とともに、書類の山から顔を上げたリサが、床に転がる私と固まった氷の粒を見下ろす。

「そんなんじゃ、物語の主役は務まりませんよ」

「助かったんだから褒めてよ! 無詠唱でとっさに凝固術式組んだんだよ!?」

「転ばなきゃそもそも組む必要なかった術式です」

冷徹な正論を浴びせられながら、私は痛む鼻を押さえて起き上がった。 完璧な生徒会長の裏の顔。それは、生徒会室という名の『魔法使いの隠れ家』で繰り広げられる、ちっとも優雅じゃない日常だった。


「――きゃああああああっ!?」

「おい見ろ、あそこ!!」

校舎の外から、複数の生徒たちの悲鳴とどよめきが響き渡る。 ただ事じゃない。私と副会長は顔を見合わせ、即座に窓際へ駆け寄って外を見下ろした。

「……は? 何やってんのあれ」

思わず素で声が出た。 中庭の頭上を横切る高圧電線。本来ならカラスくらいしか止まらないような細い線の上を、一般生徒たちが数人、ふらふらと綱渡りしていたのだ。 焦点の合っていない虚ろな目。まるで何かに操られているみたいに、一列になって進んでいる。

「会長、まずいです! あそこの電線、工事中で先端が切断されてます!」

「はあ!? 落ちたら真っ逆さまじゃん!」

先頭を歩く生徒が、途切れた電線の端へ、躊躇なく一歩を踏み出そうとしていた。 考えるより先に身体が動く。 私は窓枠に片足を引っかけ、勢いよく身を乗り出した。

「ちょっ、会長!? 白昼堂々飛び降りる気ですか!?」

「あいつらがミンチになるよりマシ! あとで記憶処理の根回し頼んだ!」

窓枠を強く蹴り、宙へと身を躍らせる。 重力に引かれて落下する刹那、肺いっぱいに空気を吸い込み、体内の魔力を一気に解放した。足元に不可視の足場を編み上げ、大気を蹴り飛ばす。

――ドォンッ!

空気の破裂音とともに、私の身体は重力を無視して空へとカッ飛んだ。

校庭にいる生徒たちの「えっ、人が飛んだ……!?」という驚愕の視線が突き刺さる。

「ああもう! あんまり一般人の前で飛びたくないのに!!」

悪態をつきながら、電線から足を踏み外して落下した生徒めがけて、私は最高速度で急降下した。

風を切り裂きながら、落ちていく生徒の襟首を空中でガシッと掴み取る。 そのまま残りの生徒たちもまとめて魔力のクッションで絡め取り、重力を殺しながら中庭の芝生へド派手に着地した。

ズザザザッ、と土煙が舞う。

「……ふう。全員無事ね」

抱き留めた生徒たちは、まるで夢遊病から覚めたように「え……? ここどこ……?」と目をパチクリさせている。 周囲の一般生徒たちは、空から降ってきた私を見て完全に硬直していた。

(やっば……めちゃくちゃ見られた。リサにあとで死ぬほど小言言われるやつだこれ……)

冷や汗を流しながら「生徒会長としての威厳」を貼り付け、喉をコホンと鳴らす。

「み、皆さん! ただいま生徒会による高所避難訓練の実演を行いました! 危険ですので電線には登らないように! はい解散、教室戻った戻った!」

雑すぎる誤魔化しを叫びながら、操られていた生徒たちを保健室へ誘導しようと背中を押した、その時だった。

「あっは、ウケる。避難訓練で人間が空飛ぶわけなくない?」

人混みの後ろから、ひらひらと手を振りながら近づいてくる女子生徒がいた。 着崩した制服に、ゆるく巻いた明るい髪。耳元で揺れるピアス。隣のクラスにいる、いかにもイマドキで軽そうな女子だ。

彼女はスマホを指先でくるくると回しながら、ニヤニヤと私を見つめてくる。

「生徒会長サマ、すっごいダイナミックなジャンプだったじゃん? ……っていうかさ」

女子は私の耳元へツカツカと歩み寄り、周囲に聞こえないくらいの小声で囁いた。

「きみ、魔法使いだよね? ちょっとした案件があるんだけど……聞いていかない?」

「…誤魔化しは流石に効かないか、いいよ、聞いてあげる」

「さすが生徒会長サマ上から目線〜」

クスクス笑いながらスマホをいじり、一枚の画像を見せてくる。

「ねぇ、このエナドリ知ってる?」

画面に映されていたのは黒地に緑色の怪しい文字が描かれた缶ジュース。一見よく売られてるエナドリと大して差はない。

「私は見たことないけど…これがどうしたっていうの?」

「さっき電線で綱渡りしてた子たちの共通点。このエナドリを毎日のように飲んでたんだよね〜」

「!?」

自分の顔色が変わったのが自分でもわかった。

「「飲むと集中力が爆上がりする」「徹夜でも疲れない」と生徒の間で爆発的人気なんだけどぉ〜…まぁアタシの勘だけど。あれ、ただのカフェインじゃなくて、明らかにヤバい魔法薬の匂いがするよ」

急に真剣な顔になるので若干ビビってしまった。いけないいけない。

「情報提供ありがとう。あんたも魔法使い?」

そう聞くと彼女はちょっとだけイタズラっぽい笑みを浮かべた。

「ん〜魔法使いと一般人、その間って感じ?まぁアタシのことはどーだっていいでしょ、んじゃあね、お仕事お疲れ様〜。あ、これからの記憶処理のが大変か。キャハハ」

ヒラヒラと手を振って彼女は去っていった。

……そうだった、これからリサのお説教が待ってるんだった。


「…会長、聞いてます!?もう何回目ですか!記憶処理を全員に施すのも大変だってわからないのですか!?」

「だってぇ…」

「だっても何もありません、生徒会総動員で記憶処理の施された水を作って手配して目撃者全員に飲ませて、そしてその報告書を魔法省に提出して……この作業がどれだけのコストがかかってるか…って会長!本当に聞いてます!?」

「聞いてる聞いてる〜」

と、とりあえず聞いてる風を装いながら私はPCで例のエナドリを検索してた。

通販サイトでは引っ掛からなかったので口コミサイトをチェック。どうやら転売ヤールート経由で入手してるそうだ。これは大元探しが骨が折れそうだな…

「会長、何見てるんです?」

「ん?ああこれね…」

と、さっきのチャラギャルから聞いた内容をざっとリサに説明した。

「そんなものが生徒の間で……」

リサも初耳だったようだ。本当に裏ルートでしか出回ってないようだ。

まぁ……こんなんほっとけないよね。

「よし、とりあえず生徒会全員招集かけて、緊急会議だよ」

「はい、会長」


「……よし、全員集まったね」

生徒会……と言ってもメンバーは5人しかいないのだが、もちろん全員魔法使い。

「既にブツは押収してあるよ〜」

書記のノアが例のエナドリの缶をフラフラと振る。

「私も現場を見てたけど……あれは自らの意思で電線に登ったのではないわ、確実に何か操作魔法で操られてたわ」

会計のセリアが冷静に状況を分析する。

「んじゃ、そのブツとっとと解析しちゃいましょ、頼みましたよセリア先輩」

庶務の末っ子タクトがやる気満々で言う。

「あぁ……いい子たちに囲まれて私は幸せだよ……およよ……」

「白昼堂々生徒の前で飛空魔法使う会長が1番ダメダメですね」

「ちょっとリサぁ!?」

その様子をクスクス見ながらセリアが手をパンパンと叩く。

「ほら、そこまでそこまで。みんなで理科室借りてきましょ」


放課後の第2理科室。

タクトが認識阻害の魔法をかけ、一般人が立ち入れないようカモフラージュをかけた。

「よっし、こっちは準備OKです!」

試験管やビーカー、その他一般的な理科室で使う道具が揃ってる中、奥の扉を開けると怪しい魔道具が取り揃ってる。

それらを一つ一つ丁寧に取りだし、手際よく並べていくセリア。

「ありがとう、じゃあ始めるわね」

セリアがエナドリをビーカーに注ぎ、錬金術の魔力を通す。

すると液体がバチバチっと蛍光色に発光し、甘ったるい異臭が漂い始める。

「うっ……この匂い……!!すぐに術式分析します!」

リサか術式分析の魔法陣を浮かべ、液体の魔力波形をスキャンする。

「出ました!これは……」

「どうだった?リサ」

浮かび上がった術式を一つ一つ解析しながらリサは結果を伝えていく。

「主成分はカフェインに見せかけた魔力増幅薬と微量の精神誘導薬……これはオベリスク草ですね」

「なっ……そんなものを過剰摂取したら……」

「ええ、間違いなく黒幕の操り人形です」

続けてリサが話す。

「メカニズムとしては、飲んだ直後は集中力が上がり、一般人でも微弱な魔力が一時的に活性化してハイになるようです。しかし魔力が切れた瞬間、特定の波長の魔法に無抵抗で従ってしまう「操り人形状態」になる……という訳です」

衝撃の事実に静まり返る理科室。

その沈黙を破るように私は怒りを顕にした。

「電線渡りさせたのは、薬の効き目を試す実験だったってわけ!?信じられない!」

「でも……こんな配合、魔法学校の生徒レベルじゃ作れないわ、確実に「大人」の魔法使いが関わっているわね」

大人の魔法使い……私たちでなんとかなる相手なのか?不安はよぎるが生徒の安全が1番だ。

「とりあえず生徒会室に戻って今後の方針を決めましょう、会長」

「……ああ、そうしよう」


「まずはこのドリンクの入手ルートの確立からですね」

リサが冷静に場をまとめる。こういう時感情的にならないリサは助かるなぁ……

「少なくとも購買部には売ってないだろうしなぁ……俺見た事ないですし」

タクトもそう続ける。

その時だった、生徒会室のドアがそっとコンコンと鳴らされた。

リサが扉へ向かい

「すみません、ちょっと今日は取り込み中で……」

と言って扉を開けると、小柄な女子生徒が立っていた。

「あ、あの!これ今の生徒会室に持ってけっておばあちゃんが……」

と、1冊の冊子を差し出してきた。

様子が気になった私も見に行くと、それは随分と古い生徒会誌だった。

「これは……?」

「わ、私はわからないですけど……おばあちゃんが……今の生徒会に必要だって……じゃあ私はこれでっ」

そう言うと女子生徒は走り去って行ってしまった。

「あっちょっと!!……行っちゃった……それにしてもこれ何?普通の生徒会誌だよね?」

「そう……ですね……」

とりあえずみんなで見てみることにしたが、表紙には昔の校舎の写真や、当時の行事報告、部活動の記録などが載っているだけの平凡なもの。

「ただのふるーい生徒会誌じゃないの?」

と私が言った瞬間だった。

ノアがハッとなにかに気づいたように術式を展開する。

「待って、これ魔力反応感じる。なにか隠されてるかも」

「はぁ!?」

思わずクソデカボイスが出てしまった、いけない。

「でもなんかこの隠し文字条件式……?僕じゃ何も見えない……」

情報オタクのノアがやって見れないってどんな魔法式よ……と思ったがふと気づいた。もしかして。

「ねぇ、ちょっと貸して」

「あ、はい」

ノアに冊子を借りて、ページに魔力を込めてみる。一層一層、深く潜り込むように魔力を注入していく。その時だった。

「……見えた」

なるほどね、これは会長権限ってこと。

浮かび上がる魔法インクで書かれた隠し文字の数々、私はそれをみんなに見えるように可視化の術式を組み込んでいく。

「そういうことか、ずるいなぁ会長権限」

「そこは褒めるとこでしょノア、さぁ読んでいこうじゃないの」

浮かび上がる文字を読みといていく。そこに書かれていたのは当時の生徒会長が残した違法薬物事件の極秘調査報告書だった。

「これ……当時も操り人形にされてたり、失踪事件があったって書かれてますね」

リサが読みといていく。

「当時の被害者リストもあるわ。それにこれ……当時の事件を裏で操作していたのは文芸部と書かれているわ」

セリアが重要な部分に気づいてくれた。だが……

「文芸部?でも今はなくない?」

「そうね……そこから辿るのは厳しそうね」

「あ、でも文芸部があったのって確か旧校舎じゃないですか?」

と、タクトが気づく。ナイス!

「じゃあ次は旧校舎ってことね!」

「待って、その前に確認させてくれる?」

と言ってセリアが当時の違法薬物の配合リストを、先程の実験結果と照らし合わせる。

「……嫌な予感的中ね、先程の実験結果と一致したわ」

ということは……

「数十年前にお蔵入りになったはずの事件が、今また同じ手口で繰り返されている……ってこと」

私は呟く。

再び静まり返る生徒会室。

その沈黙を破るのはやっぱり私じゃなくっちゃね。

「彼女のおばあちゃんがこの冊子を私に託したってことは今の生徒会にしか学園の闇は止められないからってこと。じゃあ…やってやろうじゃない!」


「ノア、学園名簿をひたすら遡ってくれる?」

「了解。…文芸部は数十年前に部員ゼロで廃部になってる。でもこれ、僕の知ってる魔法使いの名前ばかりだよ」

魔法使いばかりの部活?怪しすぎるでしょそんなの!

「もっと詳細漁れない?ノアだったらできるでしょ」

ウインクを添えてノアにお願いするとやれやれ…といった表情でPCを叩き始める。

「会長は僕のことなんだと思ってるのか……僕の知ってる魔法使いの名前から辿りましたが、この人の周辺、違法薬物に関わって魔法局に逮捕歴があります」

「つまり……?」

「表向きは大人しい読書サークルを装い、裏で違法魔法薬のレシピ研究と配布拠点にしていた可能性が高いですね」

来た、それだ!

「ナイス!ノア!重要情報だよそれ!」

セリアが旧校舎の地図を古い生徒会誌から見つけてくる。

「ええと……文芸部の部室はここね、旧校舎の最奥。使われてないフロアの角部屋よ」

というかそもそも旧校舎って今は立ち入り禁止で、備品置き場や廃墟同然だったような気がする。そんなところに手がかりなんてあるのだろうか……?

いや、微かな手がかりでも今は見逃せない。

「じゃあ……突撃しようか、旧校舎」


夕暮れの旧校舎。埃っぽい匂いが立ち込め、そこらじゅうにネズミが這った跡がある。現代の魔法使いはそんなネズミに馴染みがないため、ちょっとだけ引いたのは秘密。

「じゃあ隠蔽魔法かけますよ、いいですね?」

タクトが確認してくる。隠蔽魔法かけて潜入なんてやってること犯罪じみてきたな……なんて思いながら。

「タクトの得意分野だもんね、お願い」

タクトが詠唱すると、ふと体と外界に境界線のようなものができた気がする。

「完了です、いつでも行けます!」

「ありがとう、みんな覚悟はできた?」

というとリサが

「多分一番緊張してるの会長ですよ」

と突っ込んできた。いらないツッコミ!

「もう!言わないでよそういうのは!」


旧校舎の廊下を懐中電灯で照らしながら進む。

なんで魔法使いが懐中電灯かって?潜入操作の時は魔力を使うと勘付かれるから必要時以外は使わないんだよ。

そう、必要時以外はね……

辺りは静まり返り、物音ひとつしない。響くのは私たち5人の足音だけ。

廊下を突き進んだ先に、文芸部の部室はあった。

ここだ。とドアノブに手をかけようとした瞬間リサが静止してきた。

「待ってください会長。……このノブ、誰かが触った跡があります、しかも古くありません、最近です」

「え……ってことはこの中に誰かいたり……」

「可能性はあります」

ちょっとだけ血の気が引いた。いやいやここまできて引き返すわけにはいかない。

「覚悟して進みましょう、いいですね?」

「……わかった」

ドアノブに手をかけ、回そうとするが、回らない。鍵がかかってる。

「ふん、こんなもん優秀な私の魔法の前じゃ大したことないんだから」

指先をパチンと鳴らし、ドアノブに魔力を流し込む

バチッと軽い音がして、ノブは回った。

「さ、行くよ」


室内は昔の本棚や埃の被った机が並ぶ。

その上に簡易的な調合器具や、例のエナドリの缶が並んでいるのを見つけた。ここだ。

その奥に人の気配を感じた。咄嗟に戦闘魔法の術式準備をする。

「……誰、誰がそこにいるの」

旧文芸部室の奥、試験管やエナドリの空き缶に囲まれ、1人で怪しげな調合をしていたのは、図書委員の女子生徒だった。

私と目が合ったその子は、逃げるでもなく、自虐的に笑う。

「生徒会長……いえ、『本物の魔法使い』さん」

「なっ……」

何を言い出すんだこの子は。

「私、見ちゃったんですよ。あなたが以前、誰もいない教室で魔法を使っていたのを」

こんな時だがリサの視線が痛い。あの時は誰もいないと思ったんだって!

「生徒会長の指先から生み出される奇跡、世界にそんなものがあるなんて知らなかったんです私。もしそんなものがあるとしたら、こんな私でも変われるかもしれないって」

「風の噂で聞いたんです。昔の文芸部は魔法使いの集まりだったって。最初は半信半疑だったんですけどあの生徒会長を見て納得しました。この世界には奇跡があると」

明るい表情で語っていた彼女の顔が、途端に暗くなる。

「でもここにある文献を隅から隅まで読んでも、どれだけ努力しても、私には指先ひとつ光らせることはできなかった」

「選ばれた人間だけが秘密裏に世界を動かして、私たち凡人は何も知らずに生きるだけ……そんなの不公平じゃないですか」

そう言って私のことを睨む。その視線には憎悪、嫉妬、羨望さまざまなものが入り混じったものが込められていた。

「ここの文献にあったレシピから、一般人でも一時的に魔力を得られるエナジードリンクを再現したんです」

「これをみんなに配れば、魔法はあなたたちだけの特権じゃなくなる。誰もが奇跡に届くんです」

そう語る彼女は希望と狂気に満ちた表情をしていた。

……だが私も我慢の限界だ。

「おしゃべりしてくれてありがとう。全部わかったよ、あなたの劣等感も努力も」

「だからって危険な薬で生徒の身体をオモチャにしていい理由にはならない!」

「今日の事件、あなたなら記憶処理を回避して覚えてるんでしょ?操られて電線から落ちかけた生徒たち。あの子達本当に死んじゃうかもしれなかったんだからね!?」

「魔法があるから偉いんじゃない。誰かを危険に晒してまで手に入れる力なんて、ちっとも奇跡なんかじゃない!」

そう一喝すると、彼女は俯き、ぼそっと呟く。

「……そうですか、あなたは奇跡の力を持つ上に正論を振りかざすことまでするんですね」

ギリ……と歯軋りの音が聞こえた。すると彼女は今までとは一変した、血走った目で訴えかけてきた。

「私の努力を、選ばれただけのあなたが否定するな!」

すると机の上にあった完成前の一番濃いエナドリを一気飲みした。

一般人の許容量を超えた擬似魔力が暴走し、部屋中の本やガラスが衝撃波で吹き飛ぶ。

咄嗟にリサが前に出て結界を張る。

原液を飲んだ彼女の体からはドス黒い蛍光紫の魔力が噴出される。そして部屋中の本、机、ガラスの破片が浮遊し、散弾銃のように全方位へ射出される。

「ほら……! 私にも使える! これが、奇跡の力だ!!」

「くっ……かなりの魔力量です!展開式の防護結界を張ります!これで旧校舎全体は覆えるので外への被害と魔力漏れは防げるかと!」

リサの咄嗟の判断に助けられた。

「タクト!念の為認識阻害を重ねがけして!」

「了解っす!」

分析術式を展開していたセリアが声を上げる。

「会長、薬の負荷であの子の心臓が保たないわ! 3分以内に無力化して胃洗浄術式を!」

「オッケー!大丈夫任せといて!」

狭い部屋だと戦闘に不利だ。窓を突き破って旧校舎の中庭に出る。

「どこからでもかかってきな!ぜーんぶ避けてやるから!」

「チッ……どこまでも私を見下して……!!」

彼女は魔力のジェットで不規則に飛行しながら、破壊的な魔力光弾を連射してくる。

それを私は空中に足場を作りながら。縦横無尽に弾幕を避けていく。これくらい楽勝ってもんよ。

「ちょこまかとこざかしい……!」

彼女は振りかぶり、強烈な一撃を与えてこようとする。今だ。

「そこ、ストップ!」

放たれた極大の魔力波そのものを空中で「凝固」し、一気に頭上を取る。

「あなたの努力は認めてあげるよ、でも、やり方を間違えすぎ」

衝撃を殺した魔力掌底を鳩尾に叩き込んだ。

声にならない声をあげて気絶する女子生徒。

魔力回路も強制遮断して、ひとまずこれでよし……

彼女を抱きかかえ、地上へと降り立つ。

セリアとリサが急いで駆け寄り、体内の中和魔法をかけて、薬物の毒素を完全に抜く。

「これでひとまずは安心かと」

「ひぇ〜……ひっさびさにバトったけどヒヤヒヤしたなあ」

「そんなこと言って余裕だったくせに」

リサの小言はスルーしておこう。


図書委員の彼女が目を覚ます。

そこには生徒会メンバーがいた。

「どうして……私を通報しなかったんですか……?」

それを聞いて私は笑いながら告げる。

「ん〜一般人を魔法省に通報してもめんどくさいってのもあるけど……」

リサにどつかれた、痛い。

「そうじゃなくて、生徒を守るのが生徒会の仕事だからね。それにさ、独学であそこまでの薬物作ったあなたの頭脳、普通に化け物級の才能だよ」

「魔法が使えなくたって、あなたにはあなたのすごい力がある……次はヤバい薬じゃなくて、うちの書類仕事を手伝ってくれない?もちろん気が向いた時でいいからさ」

それを聞いた彼女は涙をこぼす。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」

これにて事件は終幕。生徒会の秘密裏のお仕事完了ってわけね。


事件解決から数日後の生徒会室。平和が戻り、私は完全に気が抜けていて、面白いことを思いついたのでやってみることにした。

デスクでペンや消しゴム、お茶のペットボトルを空中に放り投げ、凝固魔法で宙に静止させ……オブジェの完成!

「見てリサ! 空中ペン回し、物理法則の無視バージョン!」

リサが書類の束で私の頭をバシッと叩く。

「いったぁ!!」

「会長、無駄に高度な魔力コントロールでゴミを浮かべるのやめてもらえます? さっさとこの始末書と予算案にサインしてください」

「だーって退屈なんだもん! 今回の事件、私がめちゃくちゃカッコよく解決したんだから少しくらいサボっても……あいたっ!」

自分で固定したペンに頭をぶつけた。情けない……

そんな時にドアがノックされ、おずおずと例の図書委員が入ってきた。

「あの……頼まれていた図書室の蔵書整理と、資料の解読データ、まとめてきました……」

リサがその分厚い資料を受け取り、目を通すなり目を輝かせた。

「素晴らしいです。どこかの誰かさんと違って極めて優秀ですね。もう貴方が生徒会長やってくれませんか?」

「待ってリサ!?私の居場所を簡単に売り渡さないでくれる!?」

図書委員________フィオナが思わずクスッと笑い、生徒会室は温かい笑いに包まれた。

今日も学園は平和で何より!

初 投 稿


私、ファンタジーな夢を見ることが多くて、たびたび起きては忘れないうちにプロットに書き起こしてを繰り返してるんですよね。

今回もそのタイプだったんですけど


>>勢いが違った<<


起床後30秒でMacを開いてメモ帳にひたすら打ち込んでました。

普段は絵描きの人間で、同人誌も書いたりするのでプロットおこしは好きなんですけど、小説はほぼ初挑戦で、お見苦しい点も多々あると思いましたが、お読みいただきありがとうございます。

飽きない限りシリーズ化しようと思うので応援してくれたら嬉しいです。

ありがとうございました!

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