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第28章

「ちょ、ちょっと待ってよ!」信じられないといった様子で目を見開いたまま、彩音は声を上げた。「彼が『月見つきみ』だって言うの? 彩花の……お兄さんだってこと!?」


彼女の視線は、どちらかが否定してくれるのを期待するかのように、泉と大吾の間を行き来した。


「だって、十年前の襲撃で、彩花以外の月見一族は全員……全滅したはずじゃ……」彼女はちらりと大吾を見た。「彼は……その……死んでいるはずなんじゃ……?」


「あんな状況から生き延びるなんて……」陸也は目を細め、大吾を見つめながら呟いた。「一体どうやって? 何かの妖術か?」


泉は即座に首を横に振った。


「いいえ」彼女の声はきっぱりとしていた。「月森つきもりは禁術なんて使わないわ」


彼女は彩音と陸也の方に視線を向けた。「私たちの村の剣術や炎の術は、誇りあるものよ。闇の魔術や、人ならざる力になんて頼らない」


彼女の視線は、ゆっくりと大吾へと戻った。


でも……彼が生きていたなんて、知らなかった。


この十年間、彼の名が話題に上ることは一度もなかった。彼が村に戻ってくることもなかった。


背筋に冷たいものが走った。


まさか……彼女の表情が険しくなった。正座の姿勢を正し、射抜くような鋭い眼差しを大吾に向けた。


「どうして生き延びていたの……みんなが死んでしまったのに!」背中で縛られた両手が、ぎゅっと拳を握りしめる。「どうして月森に戻ってこなかったの?」


問いかけるごとに、その声には激しさがこもっていった。


「あなたが姿を消したことで、彩花がどんな思いをしたか分かってるの?」彼女の声が震えた――恐怖ではなく、怒りで。「彼女は、あなたを想って泣いていたのよ」


彼女の視線が鋭くなった。「彼女は家族全員を失ったと信じていたのね。」


部屋は静まり返った。


「では、答えて、ダイゴ。」彼女の視線はダイゴから決して離れなかった。「この10年間、何をしていたの…?」


短い沈黙。


「…そして、なぜ黒月の隣に立っているの?」


「まあまあ。」ダイゴはからかうような笑みを浮かべながら両手を上げた。「一つずつ質問しよう。」


彼の笑みは消えなかった。「どうやって生き延びたかって…ええと…」彼は軽く肩をすくめた。「かなり長い話になる。それに、正直言って、厄介な話だ。」


イズミの視線は揺るがなかった。「じゃあ、そこから始めましょう。」彼女は冷たく言った。「あの夜、どうやって生き延びたのか…そして、なぜ黒月の隣に立っているのか。」


彼女の声は硬くなった。「それだけで、私が知りたいことはすべてわかるはずよ。」


大吾が返事をする前に、演壇に座っていた男がようやく口を開いた。


「大吾。」


黒月雷禅の落ち着いた声が部屋中に響き渡り、たちまち全員を静まり返らせた。


「我々は無駄話や感傷的な再会に興じるためにここにいるのではない。」


彼の鋭い視線が大吾に向けられた。「無駄にできる時間はない。」


大吾は芝居がかったため息をつき、軽く頭を下げた。「かしこまりました、おじい様。」


彼は申し訳なさそうな笑みを浮かべながら泉の方を振り返った。


「申し訳ない、泉よ…」彼の笑みはわずかに冷たくなった。「だが、我々の再会は後回しにしなければならない。」


泉は顎をきつく引き締めた。「絶対に後回しにはできない!」


彼女は手首を縛られた縄に阻まれながらも、無理やり体を起こした。


次の瞬間、視界に何かが閃いた。


ガチャン!


冷たい槍の穂先が彼女の首から数センチのところで止まり、フードを被った黒月一族の戦士が彼女の傍らに現れ、彼女を再び膝まずかせた。


「そこにいろ」男は冷たく言い放ち、深紅の瞳で彼女を見下ろした。「自由以上のものを失いたくないならな」


「イズミ!」陸也は拘束具に抵抗しながら叫んだ。


「彼女から離れろ!」綾音は怒りを瞳に宿し、激しく言い放った。


「もういい、哲也」勇の落ち着いた声が緊張を破った。「少女を生かしておく必要がある」


勇の視線は哲也に向けられた。「だから、下がれ」


哲也は苛立ちを込めて舌打ちをし、槍を引き抜いた。慣れた手つきで武器をくるりと回し、石の床に柄を叩きつけた。


ドスン!


「ただ、彼女に自分の立場を思い出させてやっただけだ」と彼は呟き、他の者たちのところへ戻った。


横からくすくす笑いが漏れた。


「ふーん、面白いな」影尾は腕を組み、フードの下でニヤリと笑った。「そもそも彼女をここに連れてきたのはお前じゃないのか?」


哲也は苛立ちを込めた視線を影尾に向け、「黙れ」と言った。


影尾の笑みはさらに深まった。「つまり、俺の言ってることは間違ってないってことか?」


泉はゆっくりと膝立ちになり、体の痛みに耐えながら小さなうめき声を漏らした。


「泉…」陸也が心配そうに声をかけた。「大丈夫か?」


彼女は目の前の人物から目を離さずに、かすかに頷いた。


静かに床を叩く音が、部屋に響き渡った。


雷禅が席から立ち上がると、部屋はたちまち静まり返った。


彼は何も言わずに演壇から降り、醍醐たちの横を通り過ぎた。一歩一歩に、耐え難いほどの重圧がのしかかっていた。


彼は縛られた三人組の数歩手前で立ち止まった。


アヤネ、イズミ、リクヤの三人は、本能的に身を強張らせた。彼の深紅の瞳が、無関心な様子で彼らを流し見る。


「我らは慈悲などかけぬ」と、ついにライゼンが口を開いた。その低く響く声は、広間全体に難なく行き渡る。「『黒月くろつき』の領域を侵した者で、生きて帰れる者は稀だ」


重苦しい沈黙が部屋を支配した。


「だが……」と彼は続けた。「ダイゴの提案を十分に検討した結果、お前たちの命は助けてやることにした」


彼の目がわずかに細められる。「今のところは、な」


三人の背筋を冷たい戦慄が駆け抜けた。


(……今の、間違いなく脅しだわ)アヤネはそう思い、彼の視線に圧されて身をすくませまいと必死に踏みとどまった。


リクヤはごくりと息を呑んだ。(一体、何者なんだ……この男は)


彼から放たれる殺気は、騒々しいものでも、圧倒的な威圧感を伴うものでもなかった。


それは静かで、抑制されたものだった。まるで、体の脇に静かに下ろされたその手によって、すでに無数の命が奪われてきたかのような――。


彼の近くにいるだけで、呼吸することさえ危険に思えた。


イズミが目を細める。(アヤネの言う通りだわ……この男がツキミ長老であるはずがない。長老は十年前、『黒月』が村を襲撃する数日前に亡くなっている。それに、あまりにも若すぎる……)


(もし彼がツキミ長老でないのなら……なぜ『炎刃流えんじんりゅう』の技を知っているの?)彼女の思考が鋭さを増す。(ダイゴが教えたのかしら……?)


彼女は怯むことなくライゼンの視線を真っ直ぐに見つめ返した。「ダイゴがあなたを祖父と呼ぶなんて、驚きだわ」


その声は冷ややかだった。「あなたはツキミ長老に似ても似つかない」


その時、初めてライゼンの瞳に光が宿った。


「大胆な口を利くものだ」と彼は言った。


「人殺し相手に、好きに言わせてもらうわ!」イズミは言い放った。


彼女の声が広間に響き渡る。


「私の家を侵略し、村を焼き払い、罪のない人々を虐殺した――それも二度も!」


糾弾の言葉は、一つ一つが重く突き刺さるようだった。


「それで……教えて」彼女は縛られた身でありながら、身を乗り出した。「一体何を期待しているの? お茶でも出して歓迎するとでも? それとも、何事もなかったかのように並んで座り、童謡でも歌うとでも思った?」


彼女の瞳が怒りで燃え上がる。「あなたたちは怪物よ」彼女の声は、毒を含んだ囁きへと変わった。 「お前ら全員、くたばっちまえ!」


静寂。


誰も身動き一つしなかった。


アヤネは眼球が飛び出しそうなほど目を見開いていた。


(イズミ……! 本当に言っちゃった……!)


隣にいたリクヤも、信じられないものを見るような目で彼女を見つめていた。


(正気かよ!? この場所で一番危険な男を挑発するなんて!)


「黒月」の面々でさえ、互いに顔を見合わせた。


だが、ライゼンは……ただ彼女を見つめていた。


そして……その口元に、かすかな笑みが浮かぶ。


「いい度胸だ」


彼の手が、刀の柄に添えられた。


「ああ……」深紅の瞳に、静かな興味が宿る。「お前なら役に立ちそうだ」


瞬きする間に、ライゼンの刀が鞘から放たれた。


銀色の弧が空を切り裂く。


アヤネとリクヤは恐怖に目を見開き、息を呑んだ。刃がイズミの周囲をあらゆる角度からかすめていく。


「……っ!」


血の代わりに、断ち切られた数本の縄が石の床に落ちた。


イズミの手首と足首を縛っていた拘束が解け落ちる。


彼女は瞬きをし、自由になった自分の手を見下ろした。


「……何?」


ライゼンは静かに刀を鞘へと戻した。


カチリ。


「その気概は」と、彼は淡々と言った。「縛られていない状態の方が、我々にとって遥かに有益だ」


そこでようやく、アヤネとリクヤは息を吐き出した。(よかった……)


ほんの一瞬、彼女が斬り伏せられたと確信したのだ。


イズミは立ち上がり、痛む手首をゆっくりとさすってから、警戒するような眼差しをライゼンに向けた。


「私に一体、何を望んでいるの?」


「お前の『腕』だ」


イズミは眉をひそめた。「私の……何だって?」


それ以上何も言わず、ライゼンはクレナイに視線を向けた。


意図を即座に理解した彼女は、不敵な笑みを浮かべると、聖剣を無造作に空へと放り投げた。


ダイゴがそれを難なく受け止める。彼はライゼンの隣に歩み寄り、ゆっくりと鞘から刃を抜いた。


その瞬間、部屋全体が深紅の輝きに包まれた。


なかごや刃には濃い真紅の筋が揺らめき、まるで鋼の中を炎そのものが流れているかのようだった。


アヤネやリクヤでさえ、その光景から目を離すことができなかった。 「『火の翼』は……」


「月森での戦いで、あの刃は適切な調整を必要とする状態になってしまった」


雷禅はそう説明し、泉から視線を外さずにいた。


「それを修復してほしい」彼は言葉を止めた。「夜明け前にだ」


部屋は静まり返った。泉は長い間、彼を見つめていた。


そして……


「絶対に嫌です」


彼女は少しもためらうことなく答えた。


雷禅は黙って彼女を見つめた。


「火の翼は普通の刀ではありません」泉はきっぱりと言った。


「その精錬は神聖な責務であり、清定家の当主のみに託されたものです」


彼女の目は鋭くなった。「その責務は私の祖父にあります」


彼女は腕を組んだ。「ですから、あなたが私の村から盗んだ刀の修復を私に手伝わせようとしているのなら……」


かすかに、反抗的な笑みが彼女の唇に浮かんだ。「時間の無駄ですよ」


「伝統は承知している」雷禅は冷静に答えた。


彼の視線は泉から離さなかった。 「火の翼を復元するために必要な知識は、清定一族だけが持つ。その復元は、代々受け継がれてきた責務なのだ。」


しばしの沈黙。


「残念ながら、あなたの祖父は我々の手の届かない存在だった。」


彼の深紅の瞳がわずかに細められた。「だから、次善の策を講じたのだ。」


彼の視線は彼女に釘付けになった。「君だ。」


泉は息を呑んだ。


「君は彼の孫娘だ。清定族長の末孫として」と雷禅は続けた。「君は間違いなく一族の伝統の中で育ったはずだ。祖父の地位をまだ継承していなくても、鍛造方法、浄化の儀式、精錬技術といった基礎を身につけているはずだ。」


「つまり、知識は君に受け継がれているということだ。」雷禅は両手を背中で組んだ。「族長ほどではないかもしれないが……十分なほどだ。」泉のこめかみに一筋の汗が流れ落ちた。


……彼の言う通りだ。清貞家の血筋に生まれた子供は皆、幼い頃から基礎を学んでいた。最終的な仕上げを行うのは当主だけだったとしても、その技法自体は一族に代々受け継がれてきたのだ。


彼女は怪訝そうに眉をひそめた。「でも……どうしてそれを……?」


彼女の拳がゆっくりと握りしめられる。「私があなたに協力するなんて、何をもってそう思ったの?」


彼女の声は鋭かった。「私が里を裏切って……あなたが盗んだ聖剣を修復しろとでも?」


彼女はひるむことなく彼の瞳を見つめ返した。「どうかしてるわ」


ライゼンは一瞬沈黙し、それから、ほとんどそれとは分からないほどの小さなため息をついた。


「期待外れの答えだ」彼の深紅の瞳が妖しく光る。「ならば……」


予兆もなく、鞘から鋼の刃が抜かれる音が響いた。


影そのものから実体化したかのように、アヤネとリクヤの傍らに数人の「黒月くろつき」の戦士たちが現れた。


剣先と槍の穂先が、二人の喉元に突きつけられる。磨き上げられた鋼が、広間に満ちる深紅の光を反射していた。


イズミの目が見開かれる。「アヤネ! リクヤ!」


ライゼンの表情は変わらない。「もし、私の要求を拒むなら……」


その声はあくまで冷静だった。「お前の仲間は死ぬことになる」


その言葉は、恐ろしいほどあっさりと告げられた。


「ここで」


一瞬の沈黙。


「今すぐに」


彼の口元に、薄い笑みが浮かぶ。「もっとも……考え直す気があるなら話は別だが」


リクヤはぐっと奥歯を噛み締めた。……そういうことか。


すべてが合点がいき、彼の目が細められる。俺たちがここに連れてこられたのは、携帯電話の件が理由じゃなかったんだ。俺たちは「取引の材料」だったんだ。


彼の目が細められる。ライゼンは、イズミがツキモリを裏切るなんて最初から期待していなかった。彼女が拒絶することを見越していた。だからこそ、アヤネと俺がここに連れてこられたんだ。捕虜としてではなく……「人質」として。


彼の視線がゆっくりとライゼンに向けられる。最初から……あらゆる動きも、言葉も、足取りも……すべてはこの男の思惑通りに進んでいたのだ。


この野郎……アヤネの鋭い視線がライゼンを射抜く。こいつはすべてを計算していたんだ。イズミに無理強いするつもりなんてなかった。ただ、彼女を追い詰める必要があっただけなんだ。


それ以上考える間もなく、冷たい刃が彼女の首筋にそっと押し当てられた。


彼女は凍りついた。


「アヤネ!」リクヤが叫んだ。その顔には動揺の色が浮かんでいた。


もう一人の戦士が彼の背後に回り、その剣先が同じように彼の喉元に突きつけられた。


二人は身動き一つできなかった。


「やめて……!」イズミの声が広間に響き渡った。


彼女は拳を震わせながら体の脇に垂らし、爪が食い込むほど強く掌を握りしめた。前髪がその瞳を覆い隠している。


長い沈黙が流れた。


やがて……彼女はゆっくりと顔を上げた。


「私がやるわ」


アヤネとリクヤが目を見開いた。


「イズミ……」


彼女はライゼンのほうを向いた。その瞳の奥では激しい葛藤が渦巻いていたが、表情は毅然としていた。


「『火の翼』を精製する」


その言葉の一つひとつが、痛々しいほど無理をして発せられているように響いた。


「でも、一つ条件があるわ」


ライゼンは無言のまま彼女を見つめた。


「私の仲間には手を出さないこと」彼女の声が鋭さを帯びた。「今も、後も。あなたの管理下にある間は絶対に」


彼女の視線はライゼンから外れなかった。「もし彼らのどちらかに、あなたのせいでかすり傷一つでも負わされたら……」彼女は拳をさらに強く握りしめた。「その時点で、私たちの取り決めは白紙に戻すわ」


初めて、ライゼンの顔に薄い笑みが浮かんだ。


「もっともな条件だ」彼はわずかに首を傾げた。「約束しよう」


彼が軽く手を動かすと、戦士たちは剣を引いた。


アヤネとリクヤの喉元から鋼の刃が離れる。二人は、それまで息を止めていたことに気づき、震えるような息を吐き出した。


「イズミ、やめて!」リクヤが懇願した。


「本気でやるつもりなの!?」アヤネは必死に首を振った。「もし彼らに協力したら、『火の翼』はみんなを攻撃するために使われてしまうわ!」


イズミは二人を振り返った。ほんの一瞬……彼女の顔に浮かんでいた激しい決意が消え、穏やかな笑みに変わった。


「大丈夫よ」彼女自身の心は決して大丈夫ではなかったけれど。「何とかするから。だから……私を信じて」


彼女の笑みは、自分自身を納得させることはできなくても、二人を安心させるには十分なものだった。


「来なさい」シグレが前に出た。その声は静かだが、有無を言わせぬ威厳に満ちていた。「こちらへ」


イズミはアヤネとリクヤを名残惜しげに一瞥してから、背を向けた。彼女は何も言わず、シグレの後に続いて部屋を出た。背後で重厚な扉がゆっくりと閉まる。


「イズミ……」アヤネは、かろうじて聞き取れるほどの小さな声で呟いた。


リクヤは奥歯を噛み締め、視線をライゼンへと向けた。


「そういうことか……」彼の眼差しが鋭さを増す。「俺たちをここに呼んだのは、スマホの件が理由じゃなかったんだな。あれはただの口実に過ぎなかった」


低い笑い声が部屋に響いた。


カゲオは外套の下で腕を組んだ。「気づくのに随分と時間がかかったな」


アヤネは頬の内側を噛んだ。……くそっ。


さらに二人の「黒月」の戦士が歩み出た。彼らは手慣れた素早い動作で、アヤネとリクヤの足首を縛っていた縄を切り裂いた。


「立て」と、そのうちの一人が命じた。


二人は渋々立ち上がった。ダイゴは冷めた無関心な眼差しで彼らを見つめていた。


「二人を拘束室へ連れて行け。直ちにだ」


戦士たちは彼らの腕を掴み、広間から連れ出し始めた。


アヤネもリクヤも抵抗はしなかった。彼らの思考は、ただ一人の人物に向けられていたからだ。


イズミ……。


「ああ……最後に一つ」アヤネとリクヤが出口に差し掛かったその時、ダイゴの声が広間に響いた。


二人は肩越しに振り返った。


彼の不敵な笑みは消えていなかった。


「少し考えてみたんだが」彼は腕を組みながら言った。「テツヤがあれほど夢中になっている、あの小さな装置について詳しく聞いてみたいと思ってね」


その深紅の瞳が好奇心に輝く。「後で二人を訪ねるとしよう」


アヤネの背筋に戦慄が走った。リクヤは無言のまま、ぐっと奥歯を噛み締めた。


それ以上言葉を交わすことなく、戦士たちは二人を広間から連れ出した。背後で重厚な扉が軋んだ音を立てて閉まった。


静寂はほんの一瞬だけ続いた。


「些末なことに気を取られるな、ダイゴ」ライゼンの落ち着いた声が静寂を破った。「今夜の我々の目的は、単なる好奇心などより遥かに重要だ」


ダイゴが彼の方を向くと、そのふざけたような笑みは消え、静かな敬意を湛えた表情へと変わった。


「もちろんです、祖父上」彼は軽く頭を垂れた。「何が最優先か、分かっております」


満足した様子で、ライゼンは背を向けた。白い外套をたなびかせながら、彼は一段高くなった玉座へと続く階段を上っていく。


その一歩一歩、落ち着いた足音が広間に響き渡った。


誰も言葉を発しなかった。誰も、あえて口を開こうとはしなかった。


彼は玉座のような椅子に片腕を預けて腰を下ろし、深紅の瞳で眼下に集う者たちを見渡した。


場の空気は目に見えて重くなった。言葉など発さずとも……ライゼンの存在そのものが、絶対的な静寂を支配していた。

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