4-2.不穏
「逆にあの根性には本当に感服するわ……。」
「一度、自分が声をかけてやめさせようと思ったんだけどね、ガルクス公爵令嬢に止められたんだ。火に油を注ぐことになるからやめろって。」
「「そうですね……。」」
ミファ様さすがです……!と、セリーナとルイーザは心の中でガルクス公爵令嬢に手を合わせた。ゼファル公爵令息が止めようものなら、「どんな手を使って籠絡したの!」とまたひどい剣幕で捲し立てられるのは目に見えている。クラス(というより学年全体)の手助けはあったものの、セリーナとルイーザは彼女から逃げ続けた今日まで、比喩でもなく地獄のような日々を過ごしていた。
「まあとにかく良かったよ。飛び火させて申し訳ない、もし年末祭の間に絡まれたらそれは今度こそ僕がフォローするから安心して。せっかくの表彰式だからいい時間を過ごそう。」
「ありがとうございます……。」
「そういえば、レイオール侯爵令息も止めてくれていたんだってルイーザから聞いたな。」
「ああ、そうらしいの。私もクラスが違うから見たわけではないんだけど……。」
ナイクル侯爵令嬢とレイオール侯爵令息は、セリーナたちと隣のクラスであり、一日で顔を合わせる機会はほぼない。それでも隣のクラスに婚約者や友人がいるクラスメイトからの話によると、セリーナのクラスに向かおうとするナイクル侯爵令嬢を止めたり、わざと話題を振って引き止めたりしてどうにか少しでもセリーナの元へ向かうのを阻止しようとしていたらしい。
同学年の中でも家格が同位である彼が止めてくれていたことは、セリーナたちにとってはありがたいことであった。
「登校しだしてから私はまだ顔を合わせてないんだけど、なんだか壁になってくれていたみたいで。」
「僕のところには別で謝罪に来たよ。君は同学年だし、ナイクル侯爵令嬢のこともあってなかなか話しかけにくかったんじゃないかな。」
「別に謝罪はいらないんだけどね。」
「まあ彼のおかげで本当に突撃の回数はうんと減ったみたいだし、ありがたかったわよね。私とセリーナは昼休みはちゃんとゆっくりすることができたし。」
女性二人の疲れ切った顔を見ると、今日まで相当大変だったろうと容易く想像ができ、ウィリアムもつい苦笑いを浮かべる。これだけ周りから迷惑がられても、当の本人は気付くどころか気にしてすらいない。そしてナイクル侯爵家でも彼女を注意することもないため、正直学院も手を焼いているようだ。
ゼファル公爵家が彼女を迎え入れることはないとはっきり明言しているのだから、これ以上の醜態を晒す前に婚約者を決めるべきではないかと思う。
「まあ、とにかく。無事に今日を迎えられてよかったよ、セリーナの右腕もだいぶいいもんな。」
「ええ、ダンスとかは大丈夫だと思うわ。ただ魔法はイマイチうまく使えないのよね。」
「まあ電流の魔法直撃したからな……。」
「でもよかったわ、ゼファル公爵令息様がセリーナについていてくださるなら私たちも安心です!
せっかくだから目一杯楽しみましょうね、セリーナ!」
「……私は二人が楽しんでいるのを見れれば十分だわ。」
「じゃあ支度もあることだし帰ろ……」
「……ご歓談中失礼します。よろしいでしょうか。」
いざ全員で帰ろうとしたところで、教室のドアを開けて声をかけてきた人物がいた。その声に全員が視線をやると、そこには先ほど話題に上がったレイオール侯爵令息が立っていた。
「ああ、レイオール侯爵令息、どうしたんだ?」
この中で一番家格が高いウィリアムが返事をする。その言葉にチラッとセリーナを見ると、気まずそうにまた話しだした。
「……申し訳ありません、本来ならばもっと早く声をかけるべきだったんですが、……ゴルドー伯爵令嬢と話をしたくて。」
「え、私?」
「はい、競技大会の時の謝罪をさせていただきたく……」
「私は謝罪していただくようなことはされていないですし、それにルーク兄様にはもう謝罪をして許しをもらっているのでしょう?
それなら、私は構いません。」
「いえ、それでは私の気がすみません。」
「ええ………」
セリーナが面倒そうに顔を顰めると、レイオール侯爵令息も更に申し訳なさそうに背中を丸めている。
「……僕から一ついいかな。」
「はい、なんでもお答えします。ルーク様。」
「「ルーク様?」」
まさかの呼び方にセリーナとルイーザは驚いて声をあげる。以前から知っていたウィリアムは面白そうにルークを見つめていた。
「いや、止めたんだけど、なんかそう呼ばれるようになっちゃって……んん。ジョージ…レイオール侯爵令息は今日までセリーナに声をかけられなかったのはナイクル侯爵令嬢の件があったからだろ?」
「ええ、そうです。何よりも一番に謝罪をするべきだと思いましたが、登校初日から彼女が暴走していたので。自分までゴルドー伯爵令嬢に良い態度を取ると、彼女がまあ……どうなるかわからなかったので。」
「君のおかげで助かったと丁度話していたところだったんだ。セリーナ、彼の話を聞いてあげてほしい、競技大会までの彼とは違うからね。彼にとってもこれがけじめなんだろう。悪いことにはならない。」
最後はレイオール侯爵令息には聞こえないように小声でセリーナに伝える。ルークとしても、将来有望である彼がこんなところで挫折してしまうのは避けたかった。それくらい、ルークとセリーナに対して後悔の念を持っていることは先日話した時に感じ取っていた。




