3-2.すれ違い
「ルタ! おかえり、どうだった?」
『預かってきた、返事だ。』
ルタの予想通り自室をウロウロと忙しなく動き回っていたウィリアムは、戻ってきた守護精霊に藁をもすがる思いで近付いた。差し出された手紙は、一ヶ月ぶりに見る薄い桃色の綺麗な便箋で、これからまた文通ができるようになるという喜びで先程までの不安は見事に吹き飛んだ。
はやる気持ちで封を開けるが、手紙を読み進めていくうちに表情が抜け落ちていくウィリアムを見て、ルタも薄々内容を察した。
『……大丈夫かい?』
「……ああ。怒ってはいないみたいだから、いい、のかな……。」
『全く怒っていなかったぞ。』
「……他に何か言っていたかい?」
『……。』
ルタはセリーナが手紙を受け取った時の反応を話した。今日の手紙を受け取るまで、手紙の内容に苦慮していたというのは省いて。
話を聞いたウィリアムは、彼女の守護精霊であるレンの方が、正直期待していた反応だったといえる。嫌がられたとしても立場上、更に状況的にこの件を断るわけにはいかなかった。
よく言えば不干渉、悪く言えば無関心。
なんとも言えない気持ちになったウィリアムだが、彼女の手紙についでのように書かれた内容の方が気になって仕方なかった。
「……彼女も、舞踏会に出るのか。」
年末祭であれば、学院生でも出席する者は多い。各家の方針で、学院に在籍していれば顔つなぎの為に出席させる貴族達も一定数存在する。ただそういった者たちは、各家で参加するために誰かにエスコートを頼む必要性はあまりないといえる。そんな中、手紙の彼女も初めて参加するという。第一学年なのだろうか、自分は気付けるだろうか、と考えていると衝撃の事実に倒れそうになる。
「……【私も他の男性にエスコートされることになるかもしれないから】……だって?」
婚約者もいない、と言っていた彼女の初めてのエスコートは、晴れて自分たちの婚約が成立した後に二人で新年祭で出る時に、と密かに期待していた。まだ正体すら知らず、知られていないのに、そんなことを考えてもと思いつつも、期待に胸を躍らせるように想像を膨らませていたのである。
それを、誰かもわからない男に彼女の初めてのエスコートを取られてしまうとは。これならば無理にでも彼女の正体を探ればよかったと嫉妬と共に後悔が押し寄せる。
『……彼女、エスコートの相手はなんとも思っていないみたいだったぞ。舞踏会に出ること自体、気が進まないようだった。』
「そうなのか?」
『ああ。自分でそう言っていたぞ。』
「……ならば招待を受けて参加するのか……?」
いくつもの疑問が浮かんでは消え、を繰り返しているうちに、手紙の最後に書かれた一文を読み漏れていたことに気付く。その言葉を見た瞬間、それまでの嫌な気持ちなど吹き飛び、温かい気持ちに包まれる。
表情が変わったウィリアムを見たルタも、一先ずは安心だと息を吐いた。
【当日はお互い気付けるかしら?
密かに貴方を探すのを楽しみに、頑張って参加するわ。】
恋する自分は単純だな、と自分自身に呆れるが、彼女の正体を探るいい機会だと捉えることにする。
彼女と、また会えるかもしれない。
その事実だけでも沈んだ心が息を吹き返すようだった。
『ウィルは単純だね。さっきと表情が全然違うよ。』
「……自分でも呆れるほどだけど、仕方ないだろ。」
『まあ、応援しているよ。』
「……適当だな。」
役目を終えたとばかりにルタはソファに丸まって寝る態勢に入った。ウィリアムはそのまま机に向かい、課題に取り組むが、数十分に一度は想い人からの手紙を眺めて全く捗っていなかった。そんな様子をソファからこっそり目を開けて見ていたルタは、自分の主人の女々しさに呆れながらも寝たフリを続けていた。
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競技大会での準優勝者の表彰式が、年末祭で行われると正式に決定されると、それはすぐさま公表されることとなった。同時に、準優勝者のルークは婚約者と、セリーナはエスコート役がウィリアムに決まったことも発表された。
発表時に、【死闘を繰り広げた相手を讃えるため】と言葉をつけ加えたこと、そして、
「こんな機会だからこそ対戦相手同士で入場すれば、わだかまりがないと周囲に分かってもらえるじゃない。お互い婚約前なのだし、セリーナを一人で入場させるなんてガルクス家としては考えられないわ。」
とガルクス公爵令嬢による援護射撃(クラスでウィリアムに話していたこと)で、ガルクス公爵家がとりなした結果だと捉えられ、ウィリアムとセリーナが婚約したと思う者はいなかった。
それでも、ウィリアムの信奉者である彼女、ナイクル侯爵令嬢だけは、ウィリアムが女性をエスコートする、という事実を受け入れられずにいた。発表を聞いた彼女は自室で発狂しかけたほどである。
そしてその怒りの矛先は、解消できない競技大会での鬱憤と共にセリーナへと向けられたのである。




