『面向不背』は敵に背を向けない
アスカ、ヒロミ、オビトの3人が、石扉を開けた玄室の中に入ろうとしても、木棺からあふれる霊気に威圧され、中に入れずにいたところ、アスカの異母兄のボーゼン=ウィスタプランが現れた。3人を、助けに来たという。
ボーゼンが助けに来たというのは、どういう経緯か。
時は半日ほどさかのぼる。
フヒト=ウィスタプラン邸にて。
フヒトの愛人、ミチヨ=マンダリナが駆け込んできた。
ミチヨ
「あなた! いるの? 大変よ!」
フヒト
「どうした? 何が大変なのだ?」
ミチヨ
「それよりも、この家に、オビトはいないかしら?」
フヒト
「オビトだって? そう言えば、今日は見ていないな」
ミチヨ
「やっぱり! 私の家では、アスカがいないのよ。 モロコシ兄さんの家では、ヒロミの姿が見えないと。 きっと、3人一緒だわ!」
フヒト
「3人一緒ならば、心配することはあるまい。 3人は、もう12歳だ。 遊びに行って帰ってこないということもあり得よう。 まぁ、帰ってきたら、親を心配させるなと、説教をしなければならないが」
ミチヨ
「何を呑気なことを! 3人がどこへ行ったか、聞いてないのですか? あの、メスリの丘に行ったらしいのよ」
フヒト
「メスリの丘? 確かに、それは危ないな。 あそこは、最近、古墳だったことが確かめられた丘だが、調査が終わっていない。 どこに、どういう妖怪が潜んでいるか。 分かった! すぐに助けを行かせて、連れ戻すことにしよう!」
そこでフヒトが呼び出したのが、二男のボーゼンだった。
フヒト
「やってくれるか?」
ボーゼン
「問題なく」
フヒト
「メスリの丘だぞ? どのような妖怪が現れるか分からない」
ボーゼン
「お父様、お忘れですか? 私は守護霊使いです。 深海の龍女『面向不背』に守られております」
それだけ言い残して、ボーゼンはメスリの丘に向かった。
ボーゼンがその墳丘に到着した時には、ヒロミが開けた古墳の入口から、いくつか小妖怪が逃げ出していた。
ボーゼン
「それほど強い妖怪ではなさそうだが、数が多いな。 ならば、出よ! 深海の龍女『面向不背』! 電撃!」
電撃は、ボーゼンの『面向不背』の基本能力である。『面向不背』が片手を上げると、その掌から雷が発し、周囲の小妖怪を次々と撃破していく。
浮遊霊や小鬼などの小妖怪をあらかた掃討すると、おそらくアスカら3人が向かったのはこの先と、古墳の奥へと入っていった。
坑道の奥から大きな咆哮が聞こえて来た。度重なる侵入者に、怒り、猛っているかのような咆哮だ。
咆哮の主は、アスカらが敵わないと逃げ出した、亡霊兵だった。
その霊気は、地上で掃討した小妖怪とは桁が違うようだ。
ボーゼンは身構える。
亡霊兵が、その腰に佩いた大剣を抜いて、ボーゼンに投げつけて来た。
ボーゼン
「『面向不背』!」
守護霊『面向不背』がボーゼンを庇い、片手、手刀で大剣を弾き飛ばす。
そして、もう片方の手を上げる。
ボーゼン
「『面向不背』は敵に背を向けない。 今度は、こちらの番だ。雷撃! 強出力!」
亡霊兵、消失。
ボーゼン
「殉死霊ですらこの霊力。 この奥に眠っている霊も相当の霊力かな。 うまく回収して、わがウィスタプラン家の守護霊の1つとできれば良いのだが」